これが土屋家の日常   作:らじさ

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第18話

翌朝9時半、陽向はDクラスの教壇の上でいつものようにあぐらをかいていた。

「じゃあ、みんな作戦を確認するね。まず全体の3分の1を守備隊として半分に分けて中央階段前からCクラス前、西階段前からEクラス前まで配置する。戦い方は前回と同じだけど教科が選べない分こちらが不利な場合もあるから、その時にはできるだけ逃げ回って。

残りの3分の2は攻撃隊として半分と挟撃隊として半分を、既に3年DクラスとEクラスに配備してあるわ」

「かれらはいつ出るの」

「戦闘開始から10分後、つまり10時10分に挟撃隊は中央階段と西階段から駆け下りて2年生を後ろから襲う。攻撃隊は恐らくFクラス前にいるだろう敵を攻撃するわ」

「霧島先輩が別の教室にいたら?」

「その時は挟撃隊を半分にして敵のいる教室を挟むように両側から攻撃する」

「それで勝てるの?」

「今度の攻撃隊の任務はあたしの通り道をあけることじゃない。できるだけ騒いで教室の注意を廊下に惹きつけることだから問題ないよ。あたしたちの切り札《Ace in the hole》は特攻隊だよ」そういうと陽向は申し訳なさそうに他の二人と談笑していた竜崎に近づいて言った。

 

「マコちん、いまさらだけど嫌なら止めてもいいんだよ」

「俺たちが止めたら勝てねぇだろうが」

「だけどさぁ・・・・・」

「うるせぇな。さっさとブリーフィングしてろ」

「あのね、マコちん。こんなことじゃお詫びにならないと思うけど、マコちん達が退学になったら、あたしも学校辞めるから」

「そんなことさせるために志願したんじゃねぇぞ、これしか勝つ手がないからだ」

「うん、わかっているよ。だからこれはあたしのワガママ。マコちんたち退学にさせてあたしだけのうのうと学校に通えないよ」

「それじゃ、俺たちが志願した意味がねぇ」

「マコちん達は勝つために志願したんだよ。ごめんね、こんな作戦しか浮かばなくて」

陽向はそういうと教壇に戻った。

 

「特攻隊は、はしごを確認して。危険のないように組立はしっかりしてね。じゃタイムスケジュールを発表するよ。10時に戦闘開始と同時に守備隊と攻撃隊は戦闘体制。10時10分に挟撃隊が階段を駆け下りて後ろから2年生を攻撃。10時20分、1回目の位置確認の電話が終わると同時に、特攻隊の10名とマコちん達3人は窓からはしご3つを出して敵総代のいる教室にはしごをかける。マコちんたち3人をそれぞれ先頭にして3人ずつ分かれてはしごを登って。マコちんたちが窓を開けたらそのまま窓から突入して、手近にいる2年生に対決《デュエル》を申しこんで動けなくしてちょうだい。その隙にあたしは霧島先輩を攻撃して破ってみせる」

「おお~」と鬨の声が上がる1年生のクラスであった。

 

「ねえ、雄二作戦を立てないでいいの?」僕は尋ねた。

「ん?作戦ならもう立てたじゃないか」

「作戦とは、あのFクラスをまず派遣して、全滅したらDクラス、Cクラスって奴のことかのう?」

「そうだが何か?」

「というか3年生を破った1年生を相手にFクラスが勝てると思えないんだけど」

「俺もそう思う」

「じゃ、何で?」

「全滅しても少しでも点数稼いでくれればいいさ。どうせ時間稼ぎだ」

さすがは雄二だ。クラスメイトの命など屁とも思っていない。

 

「まあ、どうせ奴らも時間稼ぎのつもりだろう。本命は守備隊に穴を開けて一人突っ切ってくるはずだ」

「本命ってあのムッツリーニの妹のこと?」

「ああ、翔子に勝てるにはあいつしかいねぇ。恐らく一人で飛び込んでくる。3年戦の時には団子で戦っているところを上から飛び越えたって話だ」

「じゃあ、守備隊に意味ないじゃないか」

「一応奴らを真似て階段前からFクラス前まで守備隊をウジャウジャ配置してあるが、まあ突破してくるだろう」

「なんでそんなに余裕なのさ」

「二の手、三の手を準備してあるからな。心配するな」

「ありがとう、その言葉でものすごく不安になったよ。二の手、三の手ってなにさ」

「二の手ってのはあれだ」雄二は顎で教室の隅を差した。教室の入口の隅には物理の斎藤先生が、出口の隅には数学の古谷先生が椅子に座っていた」

「物理と数学が二の手?」

「いや、それとは違うんだが」

「どうもお主が言うことはよくわからんのう。三の手とは何じゃ」

「まあ、それは秘密兵器ってことだ。それよりそろそろ始まるぞ。位置につけ」

なぜか総代の霧島さんを差し置いて雄二が指揮をとっているのだが、霧島さんは憧れの目で雄二を見ていた。あれは恋する少女の目というやつだろう。この戦争が終わったらさっそく軍法会議にかけねばなるまい。

 

「ねえ、雄二。僕が隔離されるのがどうしても意味がわからないんだけど」

「心配するな。お前が死んでも影響はない」

「それはいても役にはたたんということじゃな」

「まあ、そういうわけで久保と姫路は護衛から外しておいた。あいつらがいないと戦力として損失だからな」

「そこまでして僕を隔離しなくてもいいじゃないか」

「ほう、じゃお前、土屋の妹のガンガムに踏み潰されてみるか?お前はダイレクトに痛みを受けたよな」

「よし、僕は一番遠いAクラスに隠れる。で、誰が護衛についてくれるのさ」

「玉野と清水だ」

「はい?」

「玉野と清水が志願した。しっかり守ってもらえ」

「ちょっと待って。守るどころか貞操と命の危険すら覚えるんだけど」

「気のせいだ、行ってこい」

「さあ、アキちゃ-吉井君行きましょう」玉野さんはなぜか大きいバッグを抱えていた。

「ブタ野郎さえ殺ればお姉さまも・・・・ブツブツ」清水さんが不穏な独り言を言っている。

「ねえ、雄二。ガンガムに踏みつぶされてもいいから僕もここに・・・・・」

玉野さんが恐ろしい力で僕の首根っこをつかんでAクラスへと引きずって行った。

 


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