これが土屋家の日常   作:らじさ

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第2話

「なんだそのマヌケな会議は?」案の定イラついた声で質問が飛んできた。声のした方に目をやると強面の顔をした体格のいい男がいた。

「ハニャ、ごめん。あたし転校してきたばかりでみんなの名前覚えてなんだけど、あなたは誰かな」陽向が空気を全く読まない間延びした声で尋ねた。

「Fクラス代表の竜崎誠だよ」

「マコちんか、あたしAクラス代表の土屋陽向、ヒナちゃんって呼んでくれていいよ」

「いいよって前に、そのマコちんってのは何だ。せめて誠と呼べ」

「え~、だって長ったらしいじゃん」陽向が不服そうに答えた。

「長いもなにもマコちんの方が一文字多いだろうが」

「でも可愛いからマコちんでいいよね。はい、決まり」

その後、強面の竜崎がギャアギャアいうのを一切受け流す度胸は大したものだ。

 

「まあ由香リンのネーミングセンスはどうかと思うけどさ、要するに試召戦争ができるようにしようって会議なの」

「あんたが言ったんでしょうが。それと由香リン禁止」と由香が怒鳴る。

「試召戦争ってもなあ・・・・・」

「お館様がいるんじゃ勝てっこないし」

「負けたら設備が悪くなるくらいなら今のままでもいいよなぁ」

と各代表が口々に叫ぶ。

「うん、みんなのいうことはわかってる。だけど代表代わってって言っても頭の固い由香リンはいやだっていうし、それじゃ状況は変わらないよね」

「「「「「ふむふむ」」」」」

「だけど試召戦争の目的は、より設備のいい環境を目指して勉強することによって上のクラスを倒して手にいれることだと思うんだ」

「なるほど・・・・・」

「確かにそうなんだけど・・・・・」

「だからさ。発想を変えようよ。Aクラスにあたしがいるから試召戦争を諦めるっていうんじゃなくて、もっと視野を広く持とうよ」

「・・・・・ごめん、土屋さん。ちょっと言っていることがよくわからないんだけど」

「へへへ、あたしいい手を思いついたの。試召戦争に勝って、その上で全クラスの設備を良くする方法」

「そんな方法あるのかよ、お館様」

「勝ったらよくなる。負けたら悪くなるってのが試召戦争のルールだぞ」

「・・・・・そんな都合のいい方法なんてあるわけないじゃない」由香が呆れたように言った。

「へへへ、それがあるんだな」陽向が不敵に笑った。

「・・・・・嫌な予感しかしないけど、どんな方法かしら」

「2年生と3年生に試召戦争を仕掛ければいいんだよ」陽向がニカっと笑った。

 

「あのね、土屋さん」由香が諭すように言った。

「試召戦争は同じ学年同士じゃないとできないの。そうでないと点数が同じにならないでしょ」

「学年対抗できるようにすればいいんだよ。それに3年から言い出したのならともかく点数的に一番不利なあたし達1年生から言い出すんだもの断る理由はないでしょ。それに1年生の現状みればお互い現状維持でヘタしたら卒業するまでこのまま試召戦争をやらないままになっちゃうよ。学校としてもそれは困るでしょ」

「それは分かったけど2年や3年相手に勝てるのかよ。いくらお館様が凄いって言ってもそれだけじゃ心もとないぜ」

「そこは作戦だよ。大丈夫、伊賀の諸葛孔明と言われたあたしがついているよ」

「時代どころか国まで違っているわね。せめて竹中半兵衛くらい言えないのかしら」

 

「学校が納得するかしら・・・・・」

「そこはあたしと由香リンで学園長を説得するよ」

「あなたはどうしていちいち私を巻き込みたがるの。あと城ヶ崎と呼べって何回言えば・・・」

「代表と副代表といえば夫婦も同然だよ、由香リン」

「何で言ってる傍から気持ちよく忘れて由香リン呼ばわりできるのかしら」

「すぐに試召戦争を仕掛けても勝ち目はないから、まず情報を集めて欲しいんだ。各クラスの部活をやっている人に3年生の先輩の進路を確認するように言って欲しい。大事な情報で作戦の肝になるところだからね。よろしくお願い。じゃあ、とりあえず今日はこの辺で。あたしは学園長を説得してくる」

陽向は言いたいことを言うと机から飛び降りて教室から出て行った。

各クラス代表は鳩が豆鉄砲くらったような顔で戸惑ったまま席を立てずにいた。

 

「ふむ、お前さんの言いたいことは大体わかったよ」学園長は机に肘をつきながら目の前の二人の女生徒を見つめた。

「学園長なら理解してくれると思ってました」陽向はニコニコと学園長を見つめ返した。

「確かに1年が試召戦争をやらないってのは問題になっていたところさね」

「じゃ、ちょうどいいですね。学年対抗試召戦争をやりましょう」

「そうなると点数が問題になるね」

「今の点数のままでもいいし、1年の問題を解かせてそれを点数にしてもいいし、あたしたちはどっちでもいいですよ」

「勝てるっていう自信があるのかね」

「負ける戦はしない主義です」

「よし、わかった。ただずっととなると問題もあるから一か月限定のテストケースとしよう」

「ありがとうございます。では失礼します」と言って二人の女生徒はドアに向かった。

 

「しかしまあ、バカ兄貴とはエラい違いだね」学園長がボソっと言った。

陽向の足がピタっと止まり学園長の方に振り返った。

「あたしのことはどんなに悪く言って笑って許しちゃいますけどぉ、康兄のことを悪くいうとタダじゃおかねえぞババア」と微笑みながら言った。

「ふふふ、やっぱり、あんたならそういうと思ってたさね」学園長も怯まずに言った。

「あら、最初から計算してたような言い方ですね」

「そういう風に言えば、そう聞こえるだろう」

「本当に年を取ると煮ても焼いても食えませんね」

「食うとこがないチビガキよりはマシさね」

「フフフフフ・・・・・」

「ハハハハハ・・・・・」

 

由香はこのやり取りを震えながら見ていた。


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