これが土屋家の日常   作:らじさ

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第6話

リビングには陽向を除く全員が集まっていた。

「まったく、全然変わってねぇじゃねぇかあいつは」

「というかパワーアップしているぞ」

「・・・・・迷惑度合いも増加している」

 

「あの~、日向ちゃんって何なんですか?運動はすごいし、頭もそれ以外も凄いんですけど」少女が恐る恐ると尋ねた。

「うーん、それを話すと長い話になるんだが・・・・陽向はどうしている」

「・・・・・部屋片付けて、シャワー入ると言っていた」

「じゃ、時間があるだろう。実はね愛ちゃん、土屋家にはちょっとした秘密があってね」

「・・・・・ヘルシング機関の一員とかですか?」

「いや、そういう洋風じゃなくて、実はうちは伊賀忍者の末裔なんだ」

「にっ忍者ですか、今どき」

「しかも頭領の家柄だ」

「それで裕ちゃんもよく結婚する気になりましたね」

「お袋の家は甲賀の頭領の家系だ」

「敵どうしじゃないですか」

「うむ、それで「このままでは結ばれない定めよそへ逃げましょう」と駆け落ちした」

「うわあ、ロマンチックな話ですね」

「だけど問題があったのだ」

「そりゃ駆け落ちするくらいだから問題はあるでしょう」

「いや、その問題というのが、別に両家の誰も結婚に反対してなかったということなんだ」

「へっ?」

「さっき愛ちゃんも言った通り、今どき忍者でもないだろう。伊賀だ、甲賀だって言っても別に敵対しているわけじゃない」

「じゃ、何のために駆け落ちを・・・・・」

「爺さんから聞いたんだが、お袋が一人で盛り上がって嫌がる親父を説得して無理やり駆け落ちしたんだと」

「・・・・・裕ちゃんらしいけど、それでもご両親は心配ですよね」

「いや、移転先は知ってたからそれほど心配はしてなかったらしい」

「なんで知ってるんですか」

「住民票移したからな」

「・・・・・それ駆け落ちじゃなくて、単なる引越しって言いませんか?」

「まあ、住民票がなかったらアパートも借りられんし、就職もできないからな」

「いや、その駆け落ちのイメージが・・・・・」

 

 

「それでもまあ、抜け忍な訳だから追い忍が出たらしい」

「さすが忍者の里ですね。抜け忍は始末するということですね」

「いや、一応帰郷の説得のために訪問したらしいんだが」

「そんなの来てたのか兄貴」

「・・・・・それは初耳」

「いや、お前らも何回か会ってるだろう。こっちに出張の度に寄ってくれる鈴木さん。あの人が追い忍だ」

「鈴木さんって人の良さそうな、芋洗坂係長みたいなあのオッサンか」

「・・・・・とても追い忍なんて技術を持っているようには思えんのだが」

「ああ、「追い忍」ってのはまあ、土地柄に合わせた名称でな。あの人は役場の人だ。正式な役職は住民課追い忍係」

「何をする係か想像もつかないんですけど・・・」

「いや、伊賀の忍者も過疎化が進んでいてな。このままでは伝統芸能が廃れるということで、都会に出た子孫たちに伊賀に帰りませんかと勧誘する係らしい」

 

「ちょっちょっと待って下さい。頭を整理しますから」というと少女は考え込んだ。

「要するに裕ちゃんは都会に出たかったから駆け落ちという名目で引越しをした。で、時々伊賀から帰っておいでと説得にきたとこういう訳ですか」

「さすがは愛ちゃん要約がうまいね」颯太が感心したように言った。

「それじゃ忍者関係ないじゃないですか?陽向ちゃんの話とどう繋がってくるんですか?」

 

「まあ、忍者ってのはある種の特殊能力の持ち主だったわけだ。それに忍者の里ってのはある意味閉鎖的な特殊能力を持った血族集団だったわけだな。うちが頭領の家ってのは、結局伊賀の本家みたいなもんなんだ」

「ふむふむ・・・・・」

「で、その子孫にはそれぞれ特殊能力を持って生まれてくるのが多い。陽太の頭脳とか康太の盗撮・特撮能力とか、俺の女に弱い体質とかな」

「最後の奴は特殊能力なんですか?」

「で、陽向の場合にはそれが極端な形で出た。運動能力はもちろん、頭脳から芸術に至るまでほぼ天才クラスだ。何しろ幼稚園の時に猪を一撃で倒し、専門書を原語で読んでいたくらいだ」

「それは凄いですねぇ」

「うん・・・・・」ここで3兄弟が暗い顔をした。

 

「俺たちが相手できているうちは良かったんだ。それが俺たちにもついていけなくなるとあいつには友達がいなくなった」

「そういうもんですか?」

「考えてごら愛ちゃん。大学院レベルの知識を持っている奴が小学1年生の席に座ってずっと授業を聞いてなければならないんだよ。運動したらサッカーだとメッシ並みのテクニックを持っている子が小1と一緒に本気でサッカーができると思う?」

「・・・それはツラいでしょうね」

「本当はさっきみたいに明るい奴なのに家でも学校でも喋らなくなっていた。だからと言って俺たちで解決できる問題でもなかったからね。見ているしかできなかったよ」

「それでどうしたんですか?」

「陽向が壊れそうになった時に芋洗坂、じゃない鈴木さんが見かねて言ってくれたんだ。伊賀の中学校だったら生徒が少ないから好きな勉強ができる。何だったら日替わりで大学の先生を講義に呼んでもいいって」

「で、あいつは伊賀の祖父母の家で暮らして中学に通うことにしたわけだよ」

「・・・・・最善とは思わんが壊れるより遥かにマシだ」

 

 


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