翌日のFクラスで3人は相談をしていた。
「どう慰めりゃいいんだ」
「結構、致命的だよね。兄になれってのは彼氏としての望みはないって言われているようなもんだから」
「・・・・・初恋があれでは今後に影響するだろう」
その時、教室のドアが開いて秀吉が入ってきた。
「おい、秀吉。その髪が随分バサバサで、目が真っ赤だぞ」
「雰囲気が全体的にやさぐれているんだけど」
だが秀吉はそんな三人を無視して席につくとちゃぶ台に足を投げだした。
「ふん、もうやっとれん。ワシは今日からグレるのじゃ」といいながらポケットからタバコの箱を取り出すと1本咥えた。
「バカ止めろ。こんなところ鉄人に見られたら停学だぞ・・・・って、これシガレットチョコじゃねえか」
「当たり前じゃろうが、タバコは二十歳になってからに決まっておる」
次にどうやって持ってきたのか徳利を取り出して口をつけた。
「ふん、酒でも飲まんとやってられんのじゃ」
「やめなよ秀吉。そんな飲み方していたらアル中になっちゃうよ・・・・・って、これ甘酒だよね。アル中より糖尿の心配しないと」
「未成年が酒を飲めるわけなかろうに」
「お前のグレるってのはどんなだよ」雄二が叫んだ。
「はぁ、茜ちゃんが言うにはYukiさんがいなくなって寂しかったと」少女が言った。
「まあ、そうなの。あの子ったらそんな健気なことを」ファミレスのテーブルでYukiがハンカチを目に当ててさめざめと泣いていた。
「・・・・・そういうわけで、秀吉をYukiさんの代わりに兄にと」少年が続けた。
「本当に昔から優しい子だったわ」Yukiはなおも泣き続けていた。
「まあ、演劇でキスしたのはちょっと行き過ぎのような気もしますけど」少女が恐る恐る伝えた。
「いいのいいの、劇の上でのことでしょ。私の代わりだと思ったんだから、その秀吉君もきっといい子なはずよ」
「「(言ってることが最初と180度違うじゃないか・・・・・・)」」
「そうだわ、こうしちゃいられない。あの子にお小遣いの一つもあげてこなきゃ。あとシャネルのスーツでも誂えてあげて・・・・・」
「いや、Yukiさん落ち着いて。高校生にシャネルのスーツは似合わないんじゃ」
「じゃ、私は行くわ。愛ちゃんも康太も手間かけたわね。今度何か奢るわ」Yukiはレシートを掴むと入り口に向かっていった。
「恐ろしいほどの兄バカだね」少女が呆れたように言った。
「・・・・・Yukiさんにあんな弱点があったとはな」少年も言った。
「・・・・・ねえ?」学校に戻る道すがら少女が言った。
「・・・・・なんだ?」少年が答えた。
「やっぱり、あのこと言わなくてよかったんだよね」
「・・・・・ああ、あれなぁ」
秀吉の告白が轟沈した時、茜が隠れてみていたメンバーの方に向かってやってきて、康太にこう言ったのだ。
「じゃ、康ちゃん。今のこと、お兄様にそのまま伝えてね」
「・・・・・へっ?」
「だって、康ちゃんと愛子ちゃんって、お兄様から私の様子を調べるようにって依頼されたんでしょ」
「どっどうしてそう思うのさ」
「だって、康ちゃんは昔からの知り合いだし、愛子ちゃんはこの間のタコ&ライスのライブで舞台に出ていたじゃない。あのグループのスタイリストはずっとお兄様がやっていたから愛子ちゃんだって知り合いでしょ。そんな二人が急に周辺をかぎ回っていたら誰だってわかるわ」
「えーっと」
「だから今のことをそのまま伝えてくれれば、お兄様ったら単純でシスコンだから感激してお小遣いくらいハズんでくれると思うの」
「・・・・・みんな芝居だったのか?」
「あら、失礼ね。木下さんのことは好きよ、演技者としては。ただ、お付き合いするとなるとねぇ」
「・・・・・」
「だいたい、お兄様が勘当なんかされるから、結城の跡継ぎが私に回ってきたんですもの、お小遣いくらいハズんでもバチは当たらないと思わない?」
「・・・・・俺たちが報告しなければどうするのだ」
「そうね、その時は・・・・・」茜はニコっと笑って言った。
「本気で木下さんのこと好きになっちゃうかも・・・・・」
「まっまあ、Yukiさんは喜んでいたし、これでいいんじゃないかな」
「・・・・・それはそうだが、問題は」といいながら少年はFクラスのドアを開けた。
「・・・・・あれをどうすればいいのだ?」
「うぃー、ワシのことなぞ放っておいて欲しいのじゃ」と言いながら甘酒の徳利を煽りクダを巻く秀吉の姿があった。