一同は床を踏み抜かんばかりの勢いでズンズンと進む木下優子を先頭に小体育館に向かって進んで行った。
「・・・・・愛子、あのな」
「うん?どうしたの康太」
「・・・・・木下優子を抑えていてくれ。この勢いじゃいきなり秀吉に飛びかかりかねん」
「わかったよ。ボクにまかせて」
「・・・・・その言葉が返って俺を不安にするのだが」
木下優子が小体育館のドアを開けるなり叫んだ。
「秀吉、あんたねぇ・・・・・キャア、あっ愛子何するのよ」いつの間にか優子の背後に忍び寄っていた少女が後ろから優子の胸をワシづかみにしていた。
「いや、最近優子の胸が大きくなってきたなぁと思ってさ」
「そりゃ最近ブラがキツくなってって、そんな話は今はどうでもいいのよ」
次の瞬間、
「明久君には早いです(ゴキュ)」
「雄二見ちゃだめ(シュパッ)」
という声と音がして、そちらに目をやると明久が首を雄二が目を押さえて床をのたうっていた。この一瞬の間になにがあったというのか。
舞台上の演劇部員たちはこの様子をあっけにとられて見ていた。無理はあるまい。ドアが開けられるなりセクハラ騒ぎが始まり、男2人が苦しみながら床を転げ回っているのだから。
「お主たちは一体何をしておるのじゃ」秀吉が呆れたように聞いてきた。
「・・・・・いや、ただ稽古の見学に来ただけなのだが」
「とてもそうとは思えん惨状になっとるぞい。なぜに稽古の見学に来ただけで明久と雄二が床をのたうち回っておるのじゃ?」
「・・・・・それは、こちらにもいろいろと事情というものが・・・」
「ちっちょっと愛子、いい加減にしなさいよ・・・」
「フフフ、良いではないか、良いではないか」
「・・・・・いい加減に止めんかバカ者。どこの悪代官だ、お前は」
「イタッ、何すんのさ康太。優子を抑えろっていうから言われた通りにやっているだけなのに」
「・・・・・抑えろとは言ったが、セクハラし倒せとは言ってない」
「それならそうと最初から言ってよね」と少女はブツブツ言った。
「・・・・・最初にそういう手段を考え付く奴はお前くらいしかいない」
「えっ、そっそうかなあ。へへへ、テレちゃうよ」
「・・・・・念のために言っておくが、1ミクロンも誉めていないぞ」
「いや、本当に何しに来たのじゃお主らは?」秀吉がシビレを切らして尋ねた。
「・・・・・ああ、すまん。稽古を見学させてくれ」
「それは構わんが、静かに頼むぞい」秀吉はそういうと稽古に戻って行った。
「すまんかった、続きからやろうかのう」とロングの黒髪の女生徒に声をかけた。
「踊って下さいますか」
「喜んで」
ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「よかった、また会えて」
「なに?」
ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「知らないでしょう、橋の上でお会いした」
「知ってるわ。3日前に川を見詰めていた」
ジ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「・・・・・お主ら、見学するなら床にでも座って見てくれんかのう。全員が舞台に顎をのせて頭だけ出されると、こちらからは打ち首が並んでいるように見えて気が散るんじゃが」
「なによ秀吉。観客が気になるなんて、そんなんでよく演劇なんかやってるわね」優子が叫んだ。
「いや、そんな観方をする観客なぞ今までおったことがないんじゃが・・・」
「あの、木下さん。こちらの皆様は・・・?」黒髪の少女が言った。
「ああ、この際じゃ皆に紹介しておくかのう。こちらは今度一緒に劇をすることになった櫻ヶ丘学園の結城茜さんじゃ。見ての通り容姿端麗で身長も高くスタイルもいいので、櫻園の君と呼ばれているそうじゃ」
「わあ、そんなライトノベルに出てきそうな設定の人が現実にいるんだね・・・どうしたの康太?」
「・・・・・いや、なんだか自己存在を否定されたような気がしてな」
「なに訳わからないこと言ってるのさ」
「・・・・・いや、分からなければいい」
「それで木下君。さっきのセリフからすると演題は「ロミオとジュリエット」だね」
「ほう、工藤はさすがにAクラスじゃのう。まさに「ロミオとジュリエット」じゃ」
「結城さんのジュリエットって綺麗だろうなぁ」と少女はうっとりと言った。茜はさすがにYukiの妹だけあって、高校1年生にして美少女というよりも美女と言った方が似合う少女だった。
「あっあ、いや結城さんはロミオじゃ」秀吉がバツが悪そうに答えた。
「はぁ?じゃジュリエットは誰が・・・?」
「・・・・・ワシじゃ」
「なんでまたそんな配役に?コメディにしたの?」少女は首をひねって尋ねた。
「つっつまり、あれじゃ。肉体的問題というか・・・結城さんの方がワシより5cmほど高くてのぉ」
なるほど、よく見ると茜の方が見た目にもハッキりと背が高い。これで性別通りに秀吉がロミオをやれば、まさにコメディになってしまう。
「・・・・・苦肉の策じゃ」秀吉が唇を噛みしめて悔しそうにつぶやいた。