この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い! 作:あまねぎ
ゾクリ。
「――!?」
い、今何か悪寒が……。
「聞いているかい? アインハルト君?」
「あ、すみません。ボーっとしてました」
テニス大会が終わり、私は折れた右腕の治療するために病院で診察を受けていた。
この都市で一番大きな病院なのだが……一般医師もいれば転生者医師もいる。一応全員腕はいいのですが、転生者には某蛇博士や車椅子に乗ったアラガミな黒幕博士の成り切りも普通に在籍しているため、病院でありながらこの都市で4番目くらいに危ない所でもある。
幸い、今回の担当医は大当たりでした。
カエル顔の医者――通称冥途返しが折れた右腕に剄脈治療の針を刺しながら嘆息する。
「ただでさえ昨日の汚染獣戦で怪我人が多いのにさらに怪我人を増やさないでほしいね。幸い全員軽い脳震盪だったけど、彼ら下手したら死んでたよ」
「ごめんなさい」
最後に観客に襲い掛かったのは流石にやり過ぎたと思い、素直に謝る。
「謝るんなら、怪我人に言いなさい」
「あ、それは絶対嫌です」
「…………………………………………………………………………………」
カエル顔の医者の言葉に速答で拒否する。
あいつらに謝ったりしたら余計調子に乗りますし。
私の言葉を聞いて深くため息を吐くカエル顔の医者。
「はぁ。……それと折れた右腕を無理やり直すのは感心しないね。おかげで剄路が少しずれているよ」
「ひょっとして完治が長引いたりしますか?」
家事の事もありますから何日も右腕が使えないのはつらい。
不安な顔をしていると、カエル顔の医者が針を抜き、包帯を巻きながら答える。
「それなら大丈夫だよ。君の活剄での治癒速度も考えれば折れた腕を含めて二日くらいで完治するよ」
思ったよりも速く完治することにほっとする。
「相変わらずこの世界の医療技術はすごいですね」
「腕とかも普通に再生治療できるからね……と、はい。ギプス巻き終わったよ」
ありがとうございます。と言って、包帯が巻き終わり、固定された右腕を軽く振る。
「わかっていると思うけど、次に病院に来るまで腕は動かさないように。あと、必要ないかもしれないけど痛み止めの薬を処方――」
「――先生! 急患です!」
カエル顔の医者の言葉を遮るように診察室の奥から看護師がやってきた。
急患と言う言葉にカエル顔の医者が真剣な顔つきに変わる。
「患者の容体は?」
「美樹さやかさんが『オクタヴィア』召喚練習で何度も腹部を剣で突き刺して重傷! 大量失血と一部臓器に剣が刺さり非常に危険な状態です!」
ガン!
バカな理由に思わず、近くにあった机に頭を叩き付けてしまう。かなりの勢いで頭を打ったため机に罅が入る。
ぐおおぉぉ。強く叩き付けたせいであ、頭が……!
しかし、私の思いとは裏腹にカエル顔の医者は真面目な様子で答える。
「すぐに向かうから手術の準備を」
カエル顔の医者の言葉を聞いた看護師さんは手術の準備をするため、急いで走り去っていった。
カエル顔の医者は立ち上がり、頭をさすっている私の方を向く。
「聞いた通り、急患が入ってしまってね。診察は終わったから後は受付から薬を受け取ってくれ」
「はい。……しかし、またバカなことで怪我してますね」
原作再現やりたいがために切腹って……。ドッペルで妥協すれば良いものを。
カエル顔の医者は朗らかに笑う。
「ははは。この都市では珍しいことじゃないよ。君が来る数時間前にも小鳥遊六花君も同じような理由で怪我したしね」
二回戦対戦だった六花さんを思い出す。華奢な見た目とは裏腹に三メルトルを超す巨大錬金鋼を使う武芸者でした。……目から衝剄出し過ぎた結果右目が大量出血して自滅しましたが。
あの後、病院に行ってどうなったのか少し気になったのでカエル顔の医者に訊いてみる。
「六花さん、二回戦の対戦相手で眼から衝剄を放ち過ぎて失明したんですよね。大丈夫だったんですか?」
「ああ、六花君ならは右目を金色の錬金鋼の義眼にして『邪王真眼に『魔具アルケミア・エーデルシュタイン』と融合して真・邪王真眼に進化した……!』って喜んでたよ。と……そろそろ急がないといけないから僕はもう行くね。お大事に」
そう言って診察室の奥の廊下を走り去るカエル顔の医者。
この都市の転生者たちの溢れるどころか、実際に血をドバドバ溢れ出す原作愛に深くため息を吐いて診察室をゆっくりと出る。
今日も変わらずコルベニクは平和です。
焼き立てのアップルパイをフォークに突き刺してパクリと口に入れる。
焼き立て故のサクサクのパイ生地と熱さによって甘みが強くなったリンゴの砂糖煮が口いっぱいに広がる。同時にリンゴの甘い香りとほのかに漂うシナモンの香りが鼻をくすぐる。
あまりの美味しさに頬が緩む。
「ン~~」
ほっぺたが落ちるとはまさにこのことですね。
頬が緩んだまま、アップルパイを一口、二口と口に入れる。
とはいえ、いくら美味しくても焼き立てのアップルパイを食べ続けるのはつらく、同じく頼んだアイスカフェオレをストローで飲む。
ミルクと甘みの強いカフェオレが私の身体を冷やす
前世ではブラックコーヒーを好んで飲んでいましたが、今世は女性なのを加え、私の身体はまだ小学生くらいのため、今ではすっかり甘いコーヒーが好みになってしまいました。
ストローから口を離して一息つく。
「……………………はぁ、癒されます」
汚染獣戦からテニス大会と気疲れしていた心がようやく休まります。
午後二時半。
痛み止めの薬を貰って病院を出た後、自身の腹の虫が鳴ったことでまだ昼食をすましていないことに気が付いた私は近くの喫茶店テラスで昼食兼、おやつを食べていた。
初めて来たところでしたが、味はもちろんの事、テラスから吹く軽い風と日当たり、アンティーク調の店と雰囲気がとてもいいです。
「何よりも周りに転生者がいないのがいいです……」
以前、友達と言ったガンダム喫茶は酷かった。
店員の全員が転生者でモビルスーツ型の全身装甲鎧を着ていて稼働音がめちゃくちゃうるさかったり、突然、念威操者たちがガンプラ型重晶錬金鋼を使ってガンプラバトル始めたりと全然落ち着かなかった。さらに言えば、見た目が子供のせいか店員の目がすごく気持ち悪かった。キャスバルとか! エドワウとか! クワトロとかっ! シャアとかっっ!!
ブルリッ。
思い出しただけでも鳥肌が立ったのでアップルパイを食べて体を温める。
「あ、お姉ちゃんだー!」
声がした方を振り向くと、そこにはランドセルを背負った妹のケイトが走ってきた。
そういえばここはケイトの通う学校の通学路でしたね。時間的にもちょうど下校時刻ですし。
ケイトはそのままランドセルを脱ぎながら私の席の対面側に勢いよく座る。
「ケイト。学校お疲れ様です」
「はい。今日も学校で楽しく勉強してきました! ……って、お姉ちゃん怪我してる!? 大丈夫?」
私の右腕のギプスに気がついて驚くケイト。
「大した怪我じゃないですよ。二日くらいで治るってお医者さんも言っていましたから。それよりもケイトも何か頼んだらどうですか?」
「じゃあ、このフルーツグラタン!」
「もう少し小さいのにしなさい。じゃないと夕飯食べられませんよ」
「でもお姉ちゃんそんな大きなアップルパイ食べてるじゃん」
確かに8センチ型のワンホールのアップルパイですから健啖家な武芸者とはいえ一人で食べるには食べごたえのある量です。
「私はまだ昼食を食べてなかったのでいいんです」
「何それずるい! 屁理屈だー!」
ずるい! ずるい! ずーるーいー! と連呼するケイトの言葉を右から左と耳に流しながらしれっと言う。
「ちなみに今夜は高級焼肉です」
テニス大会で優勝副賞だった桐箱入りの霜降り和牛をケイトに見せる。赤身に刻まれたきめ細やかな白の繊維から素人でもこれが最高級の肉とわかる。
ちなみに前世よりも優れた遺伝子技術と畜産技術に、限られた都市の資源を贅沢に使った霜降り和牛は前世の数倍の値段がする。その美味しさから他都市の人間が牛の遺伝子情報を盗もうとしたという話もあるくらいだ。
それに焼肉なら片手でも楽に調理できますし。
「あ、店員さんこのカスタードクッキーシューとオレンジジュースください」
すぐさまケイトは店員に比較的量の少ないお菓子を注文する。その切り替えの早さから互いに前世の記憶があっても血の繋がった姉妹なんだと思ってしまう。
ほどなくして、注文したシュークリームを食べるケイト。食べる仕草も私そっくりです。
「ケイト。学校はどうでしたか?」
「今日は学校の先生に褒められました!」
ケイトは誇らしく、うれしげに言う
「へぇ、何をして褒められたんですか?」
ケイトはオレンジジュースを飲んでから語る。
「アトラちゃんたちと作った『硫酸のたまった落とし穴』で不審者を捕まえました」
「何作ってるんですか……。しかも、硫酸って……不審者無事なんですか?」
「『蟲惑魔たちが作った硫酸のたまった落とし穴か……汗や髪の毛も溶け合ってそうだな』ってむしろ硫酸を全身で浴びて飲んでたよ」
何その超上級者な変態は。本気で気持ち悪いです。
私が不審者を想像して嫌悪な顔をしているのを尻目にケイトはシュークリームを食べながら他に学校であったこと語る。
「あと武芸の授業でみゅーずのお姉ちゃんたちが来てくれて『いくさごえ』と『ほーけーさつ』を教えてもらいました!」
「あいつら妹に何物騒な技教えてるんですか!?」
ケイトの言葉に頭を抱える。
『戦声』はまだいい。あれは剄の籠った大声を放つ威嚇技ですからケイトくらいの未熟な武芸者には丁度いい技です。
ですが『咆剄殺』はダメです。『咆剄殺』は他都市では秘奥ともされる奥義で口から放った震動波により分子の結合を破壊する技。一歩間違えば自身の肉体をも分子破壊してしまいかねない危険な技です。
「というかなんでアイドルがそんな物騒な技使えるんですか……」
「『アイドルたるもの、時として都市戦争中ライブ行うミンメイアタック、会いにいけるアイドルでなく、会いに行くアイドルとして芸能禁止の都市でゲリラライブしたり、iDOLや無尽合体キサラギ等の巨大ロボットに乗ったりすることもあるから、アイドルだからと言って武芸を疎かにしてはいけないのよ!』ってにこにーが言ってたよ」
それアイドルじゃないIDORUです。
「それアイドルじゃないIDORUです」
思わず思ったことを口に出してしまう。
ケイトはよくわからないみたいで頭に?を浮かべて首をかしげる。
小学校の魔境さに妹一人を置いて飛び級卒業したのを後悔する。今からでも小学校再入学できませんかね?
そんな私の悩みを知らずか、ケイトが笑顔で聞いてくる
「確かお姉ちゃんも『ほーけーさつ』使えたよね?」
「正確に言えば『アパッチの雄叫び』ですが、まぁ使えますね」
残り少なくなったアップルパイを突きながら答える。
『アパッチの雄叫び』ですが、名前が違うだけでやってることは『砲剄殺』と同じです。
「授業では『いくさごえ』までしか覚えられなかったからお姉ちゃん、『ほーけーさつ』教えて!」
「危ないのでダメです」
「いいじゃん教えてよー」
「ダメです」
「おーしーえーてー」
「ケイト」
ケイトの名前を呼んで私が怒ってますと言わんばかりに軽く怒気を放つ。
私の怒気にケイトは委縮してすぐさま謝る。
「ご、ごめんなさい」
シュン、と落ち込むケイトに私はため息を吐き、アップルパイの最後の一口をフォークに刺してケイトに向ける。
「はい、アーン」
「ふぇ? アーン」
差し出したアップルパイの一口をケイトが食べて、私はフォークを皿に置いてケイトの頭をなでる。
「『戦名』もらえるようになったら教えますから、それまで基礎をしっかりと磨きなさい」
自身の剄をうまく扱えないケイトに一流剄技を教えるのは早すぎる。せめて最低限の基礎を覚えて戦名を貰えるくらいにならないとダメです。
私の言葉にケイトは満面の笑みを浮かべる。
「うん!」
残ったカフェオレを飲み干して立ち上がる。同じくケイトも残ったオレンジジュースを飲み干す。
「さて、それじゃあ、一緒に夕飯の買い物に行きましょう。私の片手塞がっていますから荷物持ちお願いしますね」
多分、夕飯時に師匠やニャル子さん、ルリさんも来るでしょうから、副賞の和牛以外にもお肉や野菜を多めに買わないといけませんからね。
そうして、私たちは喫茶店の会計を済ませてケイトと手を握りながらスーパーまでの道を歩いていると、警視総監の夜神さんが来て、声を掛けられた。
「アインハルト君」
「あ、夜神さんどうも」
挨拶をすると夜神さんから袋が差し出された。袋を受け取ってみると中には胃薬が入っていた。
「あの夜神さん……これは一体? って、ひゃう!」
疑問を抱いていると夜神さんがいきなり私の両肩に手を置かれた。
「アインハルト君……! 自分を、心を強く持つんだ……!」
そう言って夜神さんは立ち去った。その間、私は何がなんだかわからず、口を開けてぽかーんとしていた。
「……はっ! え、なにどう言う事ですか!? 夜神さん! 夜神さーん!」
必死に叫ぶが、すでに夜神さんの姿なかった。
…………え、本当にどう言う事!? これから私に何が起こるんですか!?
そうして、私は夜神さんの言葉に不安に苛まれながらも、その後にあった【死闘! 第一次焼肉戦争】で記憶の片隅に置いてしまい、数日後、夜神さんの言っていた意味を理解するのでした。
ルッケンス流を全力でdisっていくコルベニク。作者はルッケンスが嫌いなわけじゃありません。ゴルネオもサヴァリスも好きなキャラです。
感想で阿笠博士や夜神くんが弱いんじゃないかと言われてますが、基本戦名持ちは最低幼生体の甲殻を砕く程度の強さはあります。簡単に言えば、戦名持ちは全員原作一巻のニーナより強いと思ってください。