この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い! 作:あまねぎ
うわぁ……なんだかすごいことになっちゃったぞ(複線とかいろいろ)
半年後くらいに後悔する予定
テニヌ大会でアインハルトが優勝した同時刻。第4練武館の大会議室に7人の武芸者……いや、転生者たちが円卓に座っていた。
再誕都市コルベニクでもっとも影響力の高い転生者に与えられる称号。ここにいる武芸者たちは実質転生者たちの頂点。
アインハルトが涙目になりながら観客たちを襲い掛かっている映像を見ながら、八相の一人――コルベニク武芸者を総べる武芸総長ジョゼフ・ジョースターは髭をなでながら呟く。
「ふむ……優勝候補とはいえ、平等院を破り彼女が優勝するとはの……」
いい意味で予想外じゃわい。と語るジョゼフに同調するのはコルベニク最強の武芸者高町なのは。
その間も観客にキン肉ドライバーを決めるアインハルト。
「うん。流石我が弟子! まぁ、流石にブラックホールをやった時は驚いたけど」
にゃはは、と苦笑いを浮かべるなのは。
その間も観客にビックベンエッジを決めるアインハルト。
「わしら科学者も錬金鋼の戦闘データが取れて大満足じゃよ」
大量の研究データを手に入れ、満面の笑みを浮かべるのはコルベニクが誇る3賢人――もとい3バ科学者の一人阿笠博士。
その間も観客にマッスルインフェルノを決めるアインハルト。
「ミクダヨー」
世界的有名な武芸者アイドル初音ミク……は世界ツアーのため欠席しており、代わりに一分の一ミクダヨー人形が置かれていた。
その間も観客に真・マッスルインフェルノを決めるアインハルト。
「しかし、アインハルトがこれ以上暴れられると遊びじゃ済まなくなる。ホシノ、そろそろ止めさせろ」
暴走しているアインハルトを止めに入るのは、八相の良心(比較的)――都市警察、警視総監 夜神月。
とはいえ、アインハルトを煽った観客の約半数がすでに頭が地面に突き刺さる――俗に言う犬神家状態でまだ武芸者の遊びで済むあたり流石コルベニクと言うべきだろうか。
「了解です」
八相最年少の念威総長のホシノ・ルリはすぐさま念威端子越しにアインハルトをたしなめて救急車の手配をする。
そしてこの部屋にいる最後の八相――コルベニクのアミューズメント事業の4割を占める大企業 海馬コーポレーション社長 海馬瀬人が電話で部下に命令する。
「磯野。今すぐマインクラフター達をテニス会場に入れて会場を修理させろ」
『了解しました。海馬様』
数分後には救急車で怪我人が運ばれ、海馬コーポレーション所属のマインクラフター達によってテニス会場が元通りになった。
一通り大会の事後処理が終わったところでジョゼフがゴホン、と軽く息をする。
「そろそろ八相会議を始めたいと思うんじゃが……ルリくん。メルクリウスはまだ見つからんのか?」
水銀の蛇 メルクリウス。
残る最後の八相の一人で、武芸者の実力もさることながら都市戦、汚染獣戦では指揮官を務め、八相内では参謀役を担っている武芸者。
そのメルクリウスだが、現在行方不明でテニス大会が始まるあたりからルリに念威で探させていた。
都市全体から各建造物、果てには機関部内部まで探索した結果、ルリは困惑げに口を開く。
「それなんですが……メルクリウスさんは現在この都市にいないことがわかりました」
「どういうことじゃ?」
「文字通り、この都市にメルクリウスさんはいません」
「というと、放浪バスで別都市にいるってこと?」
なのはの言にコクリと頷くルリ。
「それと……メルクリウスさんとラインハルトさんの自宅から学園都市マイアスの合格通知と入学書類が見つかりました」
学園都市マイアス。
原作、『鋼殻のレギオス』でツェルニが最後の一つとなった都市の動力源、セルニウム鉱山を賭けて最初に戦争する都市。
原作ではツェルニはマイアスに勝利していたが、仮にここでツェルニが負けるとツェルニは保有するセルニウム鉱山を全て失い、都市の動力源を失ったツェルニは動きを止めて滅びることになる。
そしてルリが語ったもう一人の人物。黄金の獣 ラインハルト・ハイドリヒ。
メルクリウスと同作品のDies iraeの
……たった二人で他都市を滅ぼせるほどの武芸者が原作の敵都市に入学する。
「「「「「「…………………………………………………………………………………………」」」」」」
八相全員が事態のまずさに黙り込む。
「予想以上にまずいことになったのぉ」
「まずいなんてレベルじゃないの。ツェルニ滅びない?」
「老性体討伐経験者の二人ですからね。レイフォン一人だけじゃ確実に滅びますね」
「あの二人の事だからむしろ滅ぼそうとしているんじゃないか」
「ラインハルトのカリスマ性からいって一年で有象無象を総べ、原作までに凡骨くらいには鍛え上げるだろうな」
「原作までの五年間。絶対、聖槍十三騎士団とか作るじゃろうしな」
「ミクダヨー」
「「「「「「…………………………………………………………………………………………」」」」」」
再び黙り込む八相たち……そして。
「「「「「ま、いっか」」」」」
ルリ以外の八相は考えるのをやめた。
同じ都市の同胞のせいで近い未来、都市一つ滅ぶかもしれない危機だというのにこの言いぐさである。
「いや、それでいいんですか?」
とルリがつっこむが……。
「だってニートじゃし」
「働かないし」
「働いてもろくな事起こさないし」
「さらにコズミック変態だし」
「三回くらいムショに入れても全然反省しないし」
「ミクダヨー」
八相内では最低評価なメリクリウスであった。
しかし、ニートでコズミック変態とゴミクズな水銀だが、腐っても転生者たちを統べる八相の一人。
ジョゼフ困ったように息を吐く。
「はぁー、とはいえ、八相の一人がいなくなるのはこちらも痛い。この中で新たな八相として推薦したいものはおるか?」
ジョゼフの発言に真っ先に挙手するは海馬社長と高町なのは。
「俺はコンボイ司令官を推薦しよう。あいつの言う事の反対の事をやれば大体うまくいくからな」
「節穴芸を見たいから海野リハク!」
「却下じゃ」
ジョゼフは二人の意見ににべもなく一蹴する。仮にこの二人が推薦したものが八相に入ったら「私にいい考えがある!」と言い作戦失敗して「読めなかったこのリハクの目をもってしても!」とかギャグかまして都市は確実に滅びるだろう。
続いて阿笠博士が意見を出す。
「正田崇作品つながりで甘粕正彦などはどうじゃろうか」
「ミクダヨー…………我がゆるキャラ連盟 盟主ガチャピン様」
「「「「お前喋れたの!?」」」」
この後もワーワーギャーギャーと意見を出しては騒ぎ出す八相の四人と一匹のナマモノ。
残りの二人の八相、ルリと月は頭を抱える。
「だめだこいつら……はやくなんとかしないと……」
「バカばっか」
三十分後。
「だいぶ話が脱線してしまったが今より八相会議を開始する」
ジョゼフの言葉に八相たちの顔が引き締まる。
「先ほども言ったが原作『鋼殻のレギオス』が始まり、我らの計画〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニに送ろう計画〟を開始する」
ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニに送ろう計画。
文字通り、原作時期にともない、再誕都市コルベニクから転生者をツェルニに送り込んで原作介入させるなんともアホな計画である。
「送り込む転生者はツェルニの小隊の人数に合わせて7人。 毎年一人、場合によっては二人、その年で優秀な武芸者をツェルニに向かわせることとする」
ジョゼフの言葉に真っ先に反対意見を出すは夜神月。
「僕は反対です。ただでさえメルクリウス、ラインハルトという優秀な武芸者二人がコルベニクを出て行って戦力低下したというのに、さらに優秀な武芸者を7人も他都市に放出するなんてことは」
「しかしのー、わしらが介入しなかったら確実に原作崩壊するぞ」
「あの二人の介入で原作の都市が滅ぶというなら所詮それまでの都市だったってことですよ。他都市を心配する前にまず、自都市の心配をするべきです」
「それにおそらくわしら以外に原作介入するものもいるぞ」
月の言葉を遮るように語るジョゼフ。
阿笠博士は疑問を口に出す。
「はて、この世界にコルベニク以外に転生者はいないはずじゃろ?」
「都市外転生者じゃよ」
「「「「あー」」」」
ジョセフの言葉にルリ以外の全員が納得の声を上げる。
「そうだった都市外転生者がいたね。あいつらなら原作介入しそう」
なのははいたいたそんな奴、といった感じに顔を手に当てて上を見上げる。
ルリはおずおずと、聞く。
「すみません。都市外転生者ってなんですか? 」
「あれ、ルリは知らないの? 都市外転生者ってのは」
「――この都市を出た転生者の事だ」
なのはの言葉を遮り、月は語る。
「知ってのとおり、この都市で産まれる武芸者はみな、前世の記憶がある転生者だ。数万を超える転生者の中には当然考えが合わないやつもいる――特に
「? それの何が問題なんですか?」
「問題なのは都市外で
「――ッ!!?」
暁に幻影旅団。某ジャンプ漫画でも有名な犯罪組織の名前にルリは驚愕する。例え成り切りでも、いや、成り切りだからこそ彼らの危険性に理解できた。
都市外にいるんですか? というルリの言葉に月は頷く。
「他にも犯罪組織はいくつかあるけどこの二つは特に過激的でね、暁は廃貴族狩り、幻影旅団は天剣強奪未遂事件と軽く原作介入しているらしい」
なのはが思い出したかのように当時を語る。
「天剣強奪未遂事件の時は幻影旅団とコルベニクが繋がっていると勘違いしたグレンダンが報復として天剣授受者のトロイアットを差し向けて来たんだよねー。まぁ、天剣持ってきてなかったから一対一でフルボッコにして送り返したけど」
原作最強クラスをフルボッコってあんた何者だよ。とルリは叫びたい衝動に駆られたり、その話を詳しく聞きたかったが、一応重要な会議なので我慢した。
ちなみにこれが原因でなのはは同僚にたびたび「もうグレンダン行って天剣もらってこいよ」と言われるようになったのである。
「おそらく、原作開始時に暁と幻影旅団はツェルニに現れる可能性が高い。奴らを捕まえるためにもツェルニにはわしら転生者を送り込む必要があると思う」
ジョゼフの言葉に月は目を閉じて考える。
ジョゼフ武芸総長の言っていることはおそらく正しい。奴らは何せ、都市を出てまで
都市を守るものとして優秀な武芸者を外に出すのは反対だ。しかし、警視総監として同胞の犯罪者を無視しておけない。
十秒ほどしっかりと考えて月は決めた。
「……………………………………………わかりました。ですが、送り込む転生者の中に一人は都市警所属の人物を入れてください」
ジョゼフはにやりと笑う。
「うむ。それではツェルニに送り込む転生者は7人でいいな?」
八相全員が頷く。
「そして、先程のテニス大会――もとい『原作介入させる転生者選定テニス大会』の結果から、優勝者のアインハルト・ストラトスを〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者をツェルニ送ろう計画〟の要、再誕都市コルベニクの武芸全てを一人の転生者に極めさせる〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者育成計画〟に組み込むことが決まったが、誰か異論はあるか?」
ジョゼフの言葉にルリははい、と手を上げる。
「今更なんですが……なんでテニス大会で決めたんですか?」
その疑問になのはが答える。
「それは彼らの能力をしっかりと知るため。原作でもボールを使った特訓があるけど、テニスは走り回るのに活剄、ボールを打つ時に衝剄といった基礎能力に加え、テニスに己の武芸をいかに組み込むかの応用性やとっさの判断力、武芸者のこれからの伸び代、潜在的能力もある程度わかるからね。
仮に純粋な武芸大会にしたら何人か瞬殺されてその人のポテンシャルとかわからなかっただろうし。でもテニスならゲームセットになるまで続くから一人一人のポテンシャルが良くわかるってことだよ」
「なんも考えてないように見えてちゃんと考えていたんですね。……でもKOで瞬殺された選手もいますが」
「ボール越しの衝剄で瞬殺されるような雑魚は論外に決まってる!」
叫ぶ海馬社長にあ、そうですかとルリは呟き、結局こいつら何も考えてないんじゃ……と思った。当然口には出さない。
「この〝ぼくのかんがえたさいきょう転生者育成計画〟は近いうちにアインハルトを呼んで知らせる。それまでに各々は準備しておくように。それでは、今日の所はこれで解散じゃ」
ジョゼフが解散を宣言し、それぞれ立ち上がり退出して行く八相たち。
「さて、アインハルトに実戦経験を増やすために汚染獣と遭遇しやすいルートを走ってくれとコルベニクに交渉するかの」
「私もバーンパレスのみんなにアインハルトと組手させるように交渉しようかな」
「磯野! バトルシティ計画の開始を急がせろ! それと出場者の中にアインハルトを加えておけ」
「わしも急いで束くん、スカリエッティくんと共にアインハルトくんの新型錬金鋼の製作するとしよう」
「ミクダヨー」
「……………………………とりあえずアインハルトのために今から胃薬買いに行こう」
「やっぱりこの都市の武芸者はバカばっか」
……おかしい。話を重ねるごとにこの都市がどんどん魔境に変わっていくんだけど。