この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い!   作:あまねぎ

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第2話 再誕都市コルベニクでの汚染獣戦(中編)

 あの場から、逃げるために全力で駆け抜け、指定された防衛地区が見え始める。防衛地区には私よりも少し年上の少年、少女武芸者たちが幼生体相手に奮闘していた。

 

「トンファーキック!」

 

 八頭身のトンファーを持った武芸者はなぜか手に持ったトンファーを使わず、脚で一体の幼生体を蹴り飛ばす。しかし、威力が足りないのか甲殻を貫けず、罅が入るだけで幼生体は後ろに吹き飛ぶ。

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だー!」

 

 すかさず、モヒカン髪の男が飛んだ幼生体の甲殻が最も薄い部分の腹に火炎放射機型錬金鋼から放射される化練剄の炎で燃やす。その威力は幼生体を燃やし尽くすには十分なもので、甲殻が赤く変化し、溶け出す。

 

「RX師匠直伝! 宇宙CQC ニャル子クラッシュ!」

 

 モヒカンの炎によって柔らかくなった甲殻に名状しがたきバールのような錬金鋼が突き刺さる。さらに幼生体を貫いた名状しがたきバールのような錬金鋼から衝剄が注ぎ込まれる。

 アホ毛が特徴的な銀髪の少女は名状しがたきバールのような錬金鋼を引き抜いた後、幼生体の後ろを向き、名状しがたきバールのような錬金鋼を「N」の字を描く。

 直後、少女の背後にいた幼生体が注がれた衝剄によって爆発した。

 ……うん。あんたら、なんでそのキャラをチョイスしたんですか!?

 と心の中でツッコムが状況はあまりよろしくない。

 最初の三人はともかく、他の新人武芸者たちはすでに息が切れ、剄息も乱れている。いつ誰かが負傷してもおかしくない状態だ。

 走りながら私は周りの新人武芸者の位置を確認。新人武芸者の中心に向かって高く跳躍。

 そのまま、背後に衝剄を放つことで急降下。落下と衝剄の勢いを乗せて地面に拳を振り下ろす。

 

「覇王流 破城槌!」

 

 叩き付けた拳から放たれた化練剄が地面に浸透し、私を中心に剄で鋼よりも固く硬質化した地面が隆起する。新人武芸者を避け、幼生体のみに凶器と化した地面と地面を伝わった衝剄による衝撃破が襲い掛かる。

 

 ベルカ式古武術覇王流(カイザーアーツ) 破城槌

 

 幼生体たちは真下からの攻撃に対応できずに隆起に挟まれて、潰され、突き刺さり、衝撃破によってバラバラになる。

 そして、またしても癖で技名を言ってしまったことに気づくが、時すでに遅く、助けられた武芸者たちが煽りだす。

 

「ありがとー! ハルにゃん! 世界一かわいいよー!」

「うおおおおお、ありがとー! アインハルトさん!」

「その頭のフレンチクルーラー食べていいですか!?」

「アインハルトって男の名前ですけどその辺どう思っているんですかアインハルトさん――」

 

 ――グシャンッ!!!

 

「「「「…………………」」」」

 

 恥ずかしさから顔が赤くなりながらも、無言で足元に転がっていた幼生体の甲殻ごと思いっきり、踏みつぶす。踏みつぶした脚は幼生体の体液を散らしながら地面を砕き、震脚の振動でこの地区全体が揺れる。

 煽ってた武芸者たちが一斉に黙りだす。

 

「こほん、前線から救援に来ましたアインハルト・ストラトスです。この部隊の指揮官はどなたですか?」

「いやー、助かりましたアインハルトちゃん。あ、今現在、私がこの地区の指揮官やってます」

 

 答えたのは先ほど幼生体を駆除した銀髪の少女。

 

「ネリーさん」

「違いますよ。ニャル子という戦名(いくさな)があるんですから私の事はネリーではなくニャル子とおよびください」

 

 戦名(いくさな)

 再誕都市コルベニクに伝わる風習で、一人前と認められた武芸者には過去、汚染物質が存在しなかった頃の世界の英雄と呼ばれた人物の名が授けられるというものだ。……実際は一人前の武芸者になったらコスプレの元ネタの名前を堂々と名乗ることができるようにするため、過去の転生者が作った慣わしである。

 私も6歳のころから魔法少女リリカルなのはVividのキャラクター『アインハルト・ストラトス』を名乗っていて、本名は別である。

 そういえば、戦名を貰って以来、本名呼ばれていませんね。

 

「それでネ……ニャル子さん、状況はどうですか?」

「護衛である志々雄さんとディオさんたちがやられてから重症者4名、軽傷者多数、幸い死者0名ってところですね。あと、モヒカン、八頭身モナー以外の武芸者たちはもう限界で正直、アインハルトちゃんが来なかったら撤退してましたね」

「なるほど……」

 

 実質戦えるのは私含めて四人だけ……。なら。

 

「ニャル子さんたちは負傷者たちを連れて撤退してください。この戦線は私一人で支えます」

 

 その言葉を聞きニャル子さんの目をむく。

 

「はい? ……いや、いくらアインハルトちゃんでもこの地区全部をカバーするのは無茶ですよ!? さっきのMAP攻撃、範囲もこの地区を全体というわけありませんし」

「はい。確かにこの地区全てを大量にいる幼生体相手に防衛するのは難しいです。破城槌の範囲もそこまで広くありません」

 

 破城槌の有効範囲は半径10メルトル。とてもじゃないがこの地区全てをカバーできません。

 

「なら……!」

「ですから、防衛範囲を阻めます」

 

 地面に拳を叩きつける。と言ってもやるのは先ほどの破城槌じゃない。

 化練剄によって再び、ボコボコに隆起した地形が大きく変わる。

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。

 姿を現したのは地区全体に広がるのはVの字をした巨大な壁。汚染獣を阻む強固な盾。それはまさしく城壁だった。

 

 外力系衝剄の化練変化 創造城

 

「汚染獣の思考は基本、人間を食らうために前を進むだけです。その過程で通れない邪魔な建造物を壊すだけなので、汚染獣が進める範囲で壁を作り出せば、それだけで汚染獣の移動範囲は制限されます」

 

 Vの字型した城壁の中央には15メルトルくらいの入口を作ってあります。こちらに来る知能の低い幼生体はこの広さの城壁を登って進まずに、真っ直ぐこちらに来るでしょう。

 

「ではみなさん、撤退を」と声をかけるが、誰も反応しない。口を開きながら城壁を眺めている。

 ニャル子さんが驚きながらも答える。

 

「前から出鱈目だとは思いましたが……アインハルトちゃんも大分化け物になってきましたね」

「コルベニクの上位者に比べればまだまだですよ。化錬剄が得意な武芸者達を参考にしただけですから」

 

 ちなみに創造城を創るに当たって参考にしたのはマシュ・キリエライトさん。さすがに彼女みたいに城に伏剄を張り巡らせて反射能力持たせるみたいなことは出来ませんが。

 とニャル子さんと話していると、再び幼生体たちがギチギチと不快な噛み音を鳴らしながらやってきた。その音を聞いて新人武芸者たちはすぐさま撤退を始める。……ニャル子さんを除いて。

 

「……撤退しないんですか?」

 

 苦笑いするニャル子さん。

 

「まだ私は余裕がありますし一応、この地区の指揮官ですからね。部下を残していけませんよ」

「私の所属は前線部隊なんですが……」

「じゃあ、今すぐ我が軍門――もとい我が部隊に下れ! と言いましょう」

 

 そう言ってニャル子さんは城壁の上に飛び上り、城壁から私に向かって指を指す。

 

「ま、いくら幼生体が正面に向かっても数体は城壁を登って来るでしょうし。実力不足の私でも城壁を上がろうとしてる幼生体を衝剄で撃ち落とすことぐらいできますよ。それに年下の女の子一人を置いて行くようなことしたくありませんしね」

 

 って、よく見るとこの城壁ねずみ返しついてますよ!? うわー、徹底してますねー。と楽しそうに笑うニャル子さん。そんな風に無邪気に笑うニャル子さんに思わず、私も笑ってしまう。

 

「ふふ。……はい。では城壁を登る幼生体はお願いします。部隊長」

「まかされました!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 と、言ったのが30分前。

 現在ニャル子さんは……。

 

「おお、鋼糸でストーン・フリー再現するとかマジぱねぇ。ああ、ハリケーンミキサーで幼生体の体がバラバラに~~!?」

 

 念威端子送られてくる前線部隊の戦いを実況していた。その間、私は黙々と幼生体を殺す作業をしています。

 ……30分前の私の言葉と気持ちを返してほしい。

 

「……ニャル子さん。幼生体が登ってこないのは分かりますが、せめて前を見てくれませんか。それと誰ですか、前線部隊の映像を勝手に映してる念威操者は?」

『私です』

「うわッ!?」

 

 突如、念威端子越しの映像から現れたのは腰まで届く程長く、根本から毛先までほのかな燐光の光を纏う蒼銀髪をツインテールにした、金色の瞳を持つ美しい念威操者の少女。

 

「なにしてるんですか? 念威操長」

 

 彼女こそ、齢12歳でコルベニクの念威操者の頂点に立った念威操長。電子の妖精の異名を持つホシノ・ルリさんだ。

 

『私と同じく暇そうにしてる武芸者と前線の汚染獣戦闘の観戦を少々』

「仕事してください。今人類の天敵である汚染獣が襲って来ているんですから」

『仕事してますよ。今回の私の仕事は汚染獣戦闘の記録撮影ですから……それに―――』

 

 ―――私が本気を出したら他の念威操者の仕事はなくりますよ。

 画面越しだというのに彼女の言葉と笑顔に私はゾクリと震える。

 今回の汚染獣戦では念威操長や師匠を始めとするコルベニクの最強クラスと呼ばれる武芸者は前線に出ていない。

 理由は簡単。幼生体相手での汚染獣戦は新人、中堅武芸者の育成を主にしている。この都市最強クラスの武芸者が前線に出ると彼らだけで汚染獣を殲滅してしまうため、他の武芸者の成長にならないからだ。

 これがコルベニク最強の念威操者……!

 念威操者だというのにまるで師匠と相対しているような絶対に勝てないという威圧感をを感じる。

 互いに無言になる。

 

「………………………」

『………………………』

「ルリルリ見てくださいよー! ついに戸愚呂さんが内力系活剄で100%になりましたよ!」

『え!? 本当ですか戸愚呂100%超見たい』

 

 まぁ、ニャル子さんのせいでなんかいろいろと台無しになりましたが。

 私はせめてもの抵抗で、念威操長――ホシノ・ルリに聞く。

 

「……原作からして、そこはバカばっか。とつぶやくところじゃないんですか?」

『私は劇場版仕様ですので。それに……私も結構バカですから』

 

 そうつぶやいて微笑むルリさん。

 そして「この瞬間を待っていたんだー!」とか「教えてやる。これがモノを殺すっていうことだ」と叫んだり、中二全開のセリフで幼生体を屠る武芸者たちの映像を仲良く見る二人。

 そんな二人を呆れながら見る私はため息を吐き、幼生体を蹴り飛ばすのだった。

 

 

 

 

 

 


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