この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い!   作:あまねぎ

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第1話 再誕都市コルベニクでの汚染獣戦(前編)

 現在、私を含め再誕都市コルベニクにいる多くの武芸者たちが都市の外縁部東西区のエアフィルター近くに集まっている。

 何故エアフィルター近くにいるかというと理由は簡単。それは―――

 

 ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウゥゥゥ……………………………………………。

 

 響く不快な羽音、そして視界を埋め尽くさんばかりの小型自動車くらいある蟲の大群。

 人類の敵、汚染獣が来たのだ。

 

 鬱です。実に憂鬱です。

 近づいてきている汚染獣から視線を変え、周りの武芸者たちを見てみる。

 私の周りにいるのは数百人の大人武芸者たちと12歳~15歳くらいの少年少女の子供武芸者たち数十人。

 子供武芸者たちは汚染獣と初戦闘のためか緊張半分、興奮半分といったところ。大人武芸者たちはなんか……めっちゃ目がキラキラと輝いてる。まるでこれから新しいおもちゃで遊ぶ子供みたいにテンション上がっている。

 もう一度言おう。鬱です。実に憂鬱です。

 

『射撃部隊準備整いました。これよりカウントを開始します』

 

 武芸者をサポートする念威操者の機械的な声が響くと同時に周りの緩まった雰囲気が緊張に変わる。

 

『3』

 

 別に汚染獣との戦闘が嫌なわけではない。私は他人よりも武芸の才能があったのかそれこそ8歳のころから雄性体との戦闘経験がある。今日相手するのはいつも戦っている雄性体や管理局の白い悪魔的な我が師匠ではなく産まれたばかりの幼生体。はっきり言って雑魚どもだ。

 

『2』

 

 ではなぜ鬱かというと、ここにいる武芸者たちとの集団戦闘はいろいろと気疲れしそうだから。

 

『1』

 

 遠くの建物の上に陣取ってる後方の射撃部隊を見る。

 そこには巨大なマスケット銃型の剄羅砲を構える魔法少女型改造戦闘衣を着込む少女を始めとしたコスプレイヤーたちがいた。

 

『0、 射撃部隊攻撃開始!』

「ティロ・フィナーレ!」

 

 外力系衝剄の変化、ティロ・フィナーレ

 

 魔法少女のコスプレをした少女から放たれた剄の砲弾は幼生体の群れに命中し、轟音と共に幼生体達がはじけ飛んで肉塊に変わる。

 そして周りの武芸者たちもはじけた。

 

「ティロ・フィナーレ来たああああああああああああああああ!」

「マミさああああああああああああああん!」

 

 

 周りにいた武芸者―――もとい、コスプレ武芸者たちが叫びだす。

 うわぁ……。

 そんな彼らにドン引きです。

 

「カラドボルグ!」

雷の暴風!(ヨウィス・テンペスタース・フルグリエンス)

「滅びよ・・・」

「行け、フィンファンネル!」

 

 続いて残り射撃部隊の武芸者たちが技名を叫びながら剄矢、剄弾、剄球、雷因性砲撃が幼生体の群れに向かって飛びかってゆく。

 いろいろと突っ込みたいが、繰り出される剄技はどれも一流で次々と幼生体の甲殻を突き破り、バラバラになって周囲に落ちる。

 ちなみに最後の人は超能力的直感で武芸者すら打倒できる化け物念威操者である。汚染獣の相手しないで武芸者のサポートにまわってください。

 余波の爆風によって勢いをなくした幼生体たちはその場で着地する。

 

「よし、今まで夢見たキャラたちの技を奴らにぶつけるんだ!」

 

 大隊長が叫び、武芸者たちが一斉に幼生体に向かって飛び込んだ。

 ロボットみたいな全身装甲(フルスキン)から魔法少女姿の武芸者までいる武芸者(コスプレ)集団は百鬼夜行を思い起こし、それよりもおぞましい何かに見えた。

 私もその集団の一人だと思うと……うん。死にたい。

 何ていうか、他人の中二病とか見てると痛々しくて、一周回ってこっちも恥ずかしい。みたいな感じだ。

 とはいえ、相手は人類の天敵、汚染獣。都市の危機だということは変わりない。

 

「私も都市を守る武芸者。都市のため行きましょう」

 

 拳を握りしめ、私も汚染獣の波に深く高く飛び込んだ。

 

 

 ※

 

 

 殴り、蹴り、掴み、投げ、砕く。

 目に入った汚染獣を次々と殺してゆく。

 すでに汚染獣を三桁は殺しているが私は傷一つ、戦闘衣にすら、汚染獣の体液の一滴すらついてないない。

 当然だ。汚染獣の体液は汚染物質のかたまり。浴びるだけで皮膚を焼き、怪我を負う。

 例え、戦闘衣を着込んで汚染物質を防いだとしても体液を浴びるようでは武芸者として三流だ。

 

「それにしても本当に数が多い」

 幼生体を鋭い蹴りで真っ二つにする。

 すでに他の武芸者含めて千体以上倒しているというのに勢いが減る様子は一向に見えない。

 こうも減らないとうっとうしい。

 目の前の幼生体の角を掴み、他の幼生体に向けて投げ飛ばすして、一息ついて周りを見る。

 

「北斗百裂拳!」

「ペガサス流星拳!」

 

 北斗神拳奥義 北斗百裂拳

 外力系衝剄の変化 ペガサス流星拳

 

 天馬星座の13の星を描く拳と、正確に秘孔を突く百裂の拳によって、幼生体が高く空を舞う。

 幼生体たちは錐揉み回転しながら背後へと流星のごとくきらめいたり、幼生体の関節があらぬ方向へと折れ曲がった後爆散したり、とやられてゆく。

 ペガサス流星拳は正面から殴り、背後へ錐揉み回転させながら飛ばすには埃の一かけらでも感じるような正確な剄のコントロールが必要だ。

 北斗百裂拳は相手の経絡秘孔(剄脈および神経回路)を正確に突き、そこに衝剄を潜り込ませることで肉体を変化させたり、爆裂させる奥義だが、汚染獣にやるには精密な剄の操作はもちろん、汚染獣の経絡秘孔(神経回路)を完全に把握する必要がある。

 ぶっちゃけ、そんな難易度の高い技をやるより普通に剄を浸透させた拳で殴った方が楽だ。

 まさしく無駄に洗礼された無駄のない無駄な動きの集大成な技である。

 …………。

 北斗神拳伝承者と青銅聖闘士の反対側を向く。

 そこには左手を天に掲げ、右手を地に構えた男が幼生体に囲まれていた。

 

「天よ叫べ!」

 

 男が叫ぶ。

 

「地よ! 唸れ!」

 

 幼生体たちが男を喰らうために群がる。

 

「今ここに! 魔の時代、来たる!」

 

 男の闘志の表れなのか、彼の剄がきらめく。

 

「さあッ! 括目せよ!」

 

 そして、汚染獣に告げる。

 

「天 地 魔 闘」

 

 瞬間、汚染獣たちは手刀に砕かれ、掌底から放たれた衝撃破で吹き飛び、不死鳥の炎で焼かれた。

 

 外力系衝剄の化練変化 カイザーフェニックス

 活剄衝剄混合の化練変化 フェニックスウィング

 外力系衝剄の変化 カラミティエンド

 

「これぞ、天地魔闘の構え」

 

 …………。

大魔王別方向をむく。

 そこには太陽の子、もしくは光の王子がいた。

 

「おのれ、汚染獣め、ゆ゛る゛さ゛ん゛! キングストーンフラッシュ!」

 

 外力系衝剄の変化 キングストーンフラッシュ

 

 その時不思議な事が起こった!

 なぜか幼生体たちがやられていた。

 いや本当に。なんか一瞬光ったかと思ったら幼生体たちが消滅してました。……もう全部あいつひとりでいいんじゃないかな? 

 と、相変わらず、この都市の熟練武芸者のいろんな意味で化け物っぷりにSAN値がガリガリ削られていると、赤い球体型の念威端子がこちらに来た。

 

『少し、良いだろうか?』

 

 端子から聞こえるのはこの部隊の指揮官の声。

 

「はい。なんでしょうか?」

 

 幼生体を殴り飛ばしながら答える。

 

『汚染獣の数が予想以上に多く、取りこぼしが多いためか後方の新人たちが苦戦している。そちらの援護に回ってくれないか?』

「あれ、でも新人たちの護衛にディオさんと志々雄さんがいましたよね?」

 

 ディオと志々雄。名前でわかるとおり二人とも某ジャンプ漫画を元にしたコスプレ武芸者である。

 ちなみにディオさんは気化冷凍法の氷、志々雄さんは秘剣の炎を剄技で完全再現させた程の実力者として知らされてる。

 

『あの二人は現在病院に運ばれている』

「え? あの二人、幼生体にやられたんですか?」

 

 あの二人の実力は周りにいる武芸者たちと同格くらいだ。そんな二人が負傷した?

 

『いや、ディオは空裂眼刺驚(スペースリパー・スティンギ―アイズ)をやろうとして両目を失明し、志々雄は限界まで内力系活剄で体温を上げた結果、人体自然発火現象が起きて燃えた』

 

 ただの自滅でした。

 

『そこに追い打ちで、射撃部隊の十球打ち百八式波動球の流れ球を食らい、二人とも再起不能状態だ』

「あはははは。帰っていいですか?」

『気持ちはわかるが、ダメだ』

 

 ですよねー。

 

「……はぁ、わかりました。すぐ向かいます。それと、汚染獣の母体は見つかりましたか?」

 

 汚染獣の幼生体の群れには必ず母体である雌性体がいる。

 雌性体は一定以上の幼生体を殺すと近くの汚染獣を呼び寄せる性質を持っている。だから、雌性体と幼生体の汚染獣討伐においては幼生体を狩る部隊と雌性体を狩る部隊に分かれる。

 

『現在地下の72%探索が完了した。あと予想では10分以内に母体を発見できるだろう。

 これが今から援護に行ってほしい新人たちのいる地区だ』

 

 念威端子から表示される地区はここから数百メルトル先。武芸者である緑の光点は汚染獣である赤い光点百数体に囲まれていた。

 新人たちの実力は確か幼生体の甲殻を砕ける程度はあるが、この数は厳しいだろう。

 

「了解しました。今から行きます。後ろをぶち抜くので射線上から味方を離すよう誘導してください」

『了解した。10秒ほど待ってくれ』

 

 後ろを振り向き、全身に剄をめぐらせる。そして、右手甲の紅玉錬金銅が自壊する寸前まで集束し、剄の輝きが増す。

 最前線に配置された武芸者だけあって味方武芸者はすでに私の射線から離れている。

 狙うは背後にいる最前線から取りこぼした幼生体数十匹の波。

 私の放つ剄の危険性を感じたのか、近くにいた幼生体が襲ってくるが遅い。

 

 「覇王」

 

 一言つぶやき、一歩を深く踏み込む。活剄で強化された脚力で床が窪む。

 繰り出すのは私が持つ最強の剄技。戦乱の世で覇王が身につけし技。

 紅く輝く右腕を幼生体の群れに振り下ろす。

 

「断 空 拳!!」

 

 ベルカ古流武術覇王流(カイザーアーツ) 覇王 断空拳

 

 振り下ろした拳は籠めた衝剄とともに最後尾にいる幼生体まで届き、砕けた甲殻と肉塊へと変わり果てる。

 私――アインハルトの正面には地面が抉れ、幼生体の姿はなく、幼生体の群れが形成していた波が開いた。

 そして、周りの武芸者が今の一撃でざわめく。

 

「出た! アインハルトさんの覇王 断空拳だ!」

「その技自分で考えたんですか!?」

「アインハルトさん、いつテイルズ作品に出るんですか!?」

「コスプレ戦闘衣の姿に恥ずかしがっても、ノリノリで技名を叫ぶハルにゃんマジ覇王!」

 

 全力で放った一撃で幼生体を屠った爽快感から一転、冷や水を浴びせたように現実に引き戻された。……恥ずかしさから顔震え、頬が紅潮してしまう。

 追撃か周りからアインハルトコールが響く。

 アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト! アインハルト!

 いじめかっ!

 恥ずかしさにわなわなと震え、涙目になってしまう。

 

「ち、違います! 瞳が紫と蒼のオッドアイという理由だけで、師匠に無理やり覚えさせられたんです! 技名も叫ばないと師匠から剄弾が飛んでくるから……。う、うわああああああああああああぁぁぁぁああああん!!」

 

 

 この場を離れるため、念威操者から指定された新人たちがいるエリアに救援、もとい逃げ出す。活剄で肉体を強化して全力でその場を走り去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……アインハルトちゃんってかわいいよな」

「うん。クールを装っているけど、恥ずかしがり屋な所とか特にいいよね」

「コスプレに染まり切ってないから煽るとちゃんと反応が返ってくるから苛めがいあるよな」

 

 この都市の武芸者(おとな)たちは最低だと思います(活剄で聴力が強化されていたため、ばっちり聞こえた)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 再誕都市コルベニク。ここで産まれる武芸者は全てが転生者というある意味、グレンダン以上に狂った都市である。

 


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