ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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決着

 深雪さんの放った電撃の槍があたしを貫こうとした瞬間、あたしは、能力を発動した。

 

 ボン!

 

 小さな爆発が起こる。ほぼ同時に、電撃の槍が身体を直撃した。

 

 身体中を、衝撃が駆け抜ける! 生身の身体なら、もはや死は免れなかったであろう、強烈な一撃だ。

 

 ――しかし。

 

 ……あんまり、痛くないな。

 

 衝撃はあったけど、人間状態で受けた時ほどのダメージはない。

 

 岩と化したあたしは、深雪さんの電撃の槍のダメージに耐えたのだ!

 

 さすが岩だ。頑丈にできている。岩状態は防御力もアップするようだ。やっぱりこの能力、意外と使えるぞ?

 

 さて――。

 

 電撃の槍のダメージには耐えたけど、この後どうするかまでは考えていない。

 

 岩状態で深雪さんの方を見る。岩化した時の爆発と電撃の槍で舞い上がった土埃が視線を遮っていたけれど、やがてそれが晴れる。深雪さんはあたしを見て、驚いた表情になった。しばらく岩の姿のあたしを見つめていたけど、やがて、あたりをきょろきょろと見回し始めた。

 

「消えた……? 死んだの? 死んだら青い炎が残るはずだけど……サドンデスでは、負けた方はその時点でゲームから追放される、って、案内人は言ってたわよね。じゃあ、あたしの勝ち?」

 

 深雪さんがつぶやく。いいぞ。深雪さん、あたしが岩に化けたことに気付いていないようだ。

 

「2分経過。残り時間、1分」案内人の声。

 

「戦闘は続いているの……? じゃあ、カスミはまだ、生きている……?」

 

 しばらく辺りを見回しながらあたしの姿を探していたけど、その視線が、正面の岩、つまり、あたしに向けられた。

 

 じっと、こちらを見つめる。

 

「こんなところに、岩があったかしら……?」

 

 ヤバイ。海岸でこの能力を使った時にも思ったけど、やっぱり、何も無かったところに突然岩が現れたら、怪しむよな。深雪さん、あたしの絞め技で意識がもうろうとしていたはずだから、まさかそこまで見てないだろうと思ったけど、甘かったか?

 

 深雪さんは剣を拾い、ゆっくりと、こちらに近づいてくる。バレたか? だったら、早く能力を解除しないと!

 

 ……いや待て。落ち着け、カスミ。大丈夫だ。例えバレたとしても、最強忍者の燈や空手家の美咲ならともかく、深雪さんに、岩を破壊するほどのパワーは無いだろう。多少の攻撃なら跳ね返せるはずだ。電撃攻撃だって、岩状態なら恐れることはない。多少ダメージは喰らうけど、後、2、3発は耐えられるはずだ。

 

 そばに立った深雪さん。じっと、あたしを見下ろす。

 

 そして、剣を振り上げると、あたしに向かって叩きつけた。

 

 がきん! 火花が飛び散る。

 

 ……大丈夫。痛くない。これなら、ダメージ0か、せいぜい1だろう。岩状態ならHPが若干回復するから、十分耐えられる。

 

「能力で岩に化けた……なんてことは、無いか」

 

 それが、あるんだよ。しかも、思ったより役に立つんだよね。このまま岩状態でHPを全快させれば、今の深雪さんなら、十分倒せるだろう。

 

「2分30秒経過。残り時間、30秒」案内人の声。

 

 しまった! 制限時間があった! HPが全快になるのを待っている余裕は無い。時間切れだと、あたしも深雪さんもゲームオーバーだ! くそ! 今の時間でどれだけHPが回復したかは分からないけど、一か八か、能力を解除し、最後の勝負に出るか!?

 

 いや! 待て! まだ早い!

 

 焦るのは、深雪さんも同じ。いや、この戦いに負けることへのプレッシャーは、深雪さんの方がはるかに高いはず!

 

 案の定、深雪さんは。

 

「もう時間が無い……まさかカスミ、時間切れを狙ってるの? どうせ負けるなら、あたしを道連れにしようってこと?」

 

 かなり焦って来たようだ。いいぞ! この戦いは、ガマン比べだ。焦った方が負ける!

 

 痺れを切らした深雪さんは。

 

「カスミ! 卑怯よ! 隠れてないで、正々堂々と戦いなさい!!」

 

 あたしに背を向け、森の方に向かって叫んだ。

 

 ――今だ!!

 

 ボン! あたしは能力を解除し。

 

 剣を、腰のあたりに構え。

 

 深雪さんの背中に、突進し。

 

 あたしは、身体ごとぶつかって行った!!

 

「――っ!!」

 

 深雪さんが、短い悲鳴を上げる。

 

 背中から刺さった剣は、深雪さんの胸から出ている。

 

 あたしの剣は、深雪さんの鎧を、身体を、貫いていた。

 

 ごぼっ。と、深雪さんは、口から血を吐き。

 

 そして――。

 

 ボン!

 

 小さな爆発が起こる。

 

 そして、そこには青い炎。

 

 深雪さんの魂だ。

 

 それは、深雪さんが死んだことに他ならない。

 

 深雪さんを……倒した。

 

 戦闘力1200のあたしが。

 

 戦闘力24000の深雪さんを。

 

 倒したんだ。

 

 つまり――。

 

「深雪さん、死亡。カスミさんの勝利です」

 

 案内人の声。

 

 そう――このサドンデスは、あたしの勝ちだ!!

 

 4年連続ランキング1位、神撃のブリュンヒルデ・神崎深雪さんに、3年連続ランク外、神撃の干され・前園カスミが、勝利したんだ!!

 

 信じられない。夢でも見てるようだ。でも、現実だ。手にはまだ、深雪さんを倒した時の感触が残っている。目の前には深雪さんの魂もある。何より、案内人があたしの勝利を宣言したんだ。

 

 あたしは、勝ったんだ――。

 

「――サドンデス、終了。特殊ミッション参加者を、中央エリアに転送します」

 

 案内人の声がし、広場に、エリたちが転送された。

 

「おめでとう! カスミ!」

 

 エリが駆け寄って来て、右手を上げた。あたしも右手を上げ、ハイタッチを交わす。途端に、激痛が走った。思わず悲鳴を上げる。忘れてた。深雪さんの剣を掴んで、血まみれ状態だった。岩状態でHPを回復するとは言え、30秒ほどだ。まだ傷は塞がっていない。と言うか、今のはエリの攻撃であたしがダメージを受けたことになるんじゃないのか? あたしのHP、かなり少ないはずだぞ? ほんのちょっとのことでも死にかねない。

 

「現在、このエリア内での戦闘行為はすべて無効です。ご安心ください」

 

 広場の中央に案内人が現れた。良かった。せっかく深雪さんに勝ったのに、ハイタッチで殺されたんじゃ、シャレにならない。あたしはエリと顔を合わせ、お互い苦笑い。

 

「それでは、特殊ミッション・スレイヤーの、最終結果を発表します」案内人が言い、目の前に、戦績表が現れた。

 

 

 

1.一ノ瀬燈  38-03

 

2.本郷亜夕美 28-06

 

3.藍沢エリ  06-11

 

4.前園カスミ 03-49

 

5.神崎深雪  03-09

 

 

 

「――以上の結果に基づき、最下位となった神崎深雪さんは、このゲームから追放されます」

 

 案内人がそう言うと同時に、深雪さんの魂が消えた。現実世界に戻ったのだろう。ゲーム開始から1時間少々。第2フェイズにて、神撃のブリュンヒルデ・神崎深雪さんが早くも脱落か。大波乱の展開だな。しかもその大波乱を起こしたのがこのあたしとか、誰が想像しただろう。

 

「以上を持ちまして、センターポジション経験者のみの特殊ミッション・スレイヤーを終了します。皆さん、お疲れ様でした」

 

 ……無理矢理転送させて戦わせ、勝ち残ってもご褒美無しと来たか。何のメリットもない特殊ミッションだったな。むしろ、ミッション開始前よりさらにHP減ったから、危険度が増しただけだ。

 

 案内人が言葉を継ぐ。「5分後、このエリアの封鎖を解きます。その間、エリア内では一切の戦闘行為は行えません。ダメージを受けている方は、ゆっくり休んで、HPを回復してください。戦闘行為は行えませんが、能力は使用できますので、HP回復の能力を持っている方は、お使いください」

 

 お? このまま放り出すのかと思ったけど、意外と気が利いてるな。5分間岩状態で休めば、かなりHPを回復できるだろう。

 

「別に休憩なんて必要ないよ。すぐに本戦に戻りたいんだけど、もう、行っていい?」亜夕美さんが言った。今、激闘を終えたばかりなのに、まだ戦い足りないとでも言うのだろうか? さすがはヴァルキリーズで1、2を争う体力自慢である。

 

「エリアは封鎖されているので、歩いてエリア外に出ることはできません。島内のどこかにランダムで転送することは可能です」

 

「それでいいわ」

 

「では、亜夕美さんを転送します」案内人がそう言うと、亜夕美さんが消えた。「他の方はどうされますか?」

 

「あたしも、戻してもらって構わない」燈が言った。

 

「では、燈さんも転送します」

 

 燈も消え、広場にはエリとあたしだけになった。

 

「カスミはどうするの?」エリが訊く。

 

「あたしは深雪さんとの戦闘でかなりHPが減ってるから、封鎖が解けるまで、ここで休んでいくよ。転送先でいきなり誰かと遭遇したら、ヤバイし」

 

「そっか。それがいいね」エリはにっこりと笑った。「あたしは、先に行くよ」

 

「へ? エリも? せっかくの安全地帯なんだから、ゆっくりすればいいのに」

 

「うん。でも、少しでもゲームを進めておきたいし」エリはウインクをし、そして、右手を差し出した。「応援してるよ、カスミ。お互い、頑張ろうね」

 

「ありがとう。エリも、頑張ってね」あたしはエリと握手を交わした。

 

 …………。

 

 …………。

 

 …………。

 

 10秒くらい経ったけど、エリは手を放さない。ぎゅっと、あたしの手を握り、ニコニコと笑っている。何だよ? 放せよ。ファンとの握手会じゃないんだから、握手なんて数秒でいいだろ。それに、心なしか握る強さが増してきているような。こっちは右手をケガしてるんだから、そんなに強く握られると痛いんだけど。HPも低いから、些細なダメージでも死にかねない。

 

「……エリ」

 

「……何?」

 

「ひょっとして、あたしのこと、殺そうとしてる?」

 

「……分かる?」

 

 バシッ。あたしはエリの手を振りほどいた。まったく、油断もスキもないヤツだ。

 

「あはは。冗談だよ。今は一切の戦闘行為が無効だって、案内人さんが言ってたじゃない」

 

「そうかもしれないけど、痛いのは痛いんだよね」

 

「ゴメンゴメン」エリは悪びれた風もなく言い、そして、案内人の方を見た。「案内人さん。あたしも転送してください」

 

「かしこまりました」

 

 エリも消え、広場にはあたしだけとなった。

 

「それでは、ごゆっくりとお休みください」案内人の姿も消える。

 

 よし。じゃあ、5分間、岩になって休んでおこう。

 

 ボン! 能力を使い、岩になる。右手の激痛も、頭の鋭い痛みも、全身の鈍い痛みも、岩状態だとすぐに消える。ああ。ホント、癒し効果抜群だな、コレ。さわやかな風の吹きわたる森の中でお昼寝をしているようなものだ。ずっとこのままでいたいくらいだ。

 

 ――で、5分後。

 

「――それでは、ただ今の時間を持ちまして、このエリアの封鎖を解きます。戦闘行為が可能となりますので、ご注意ください」

 

 案内人が言った。もうゲーム再開か。まあ、気持ちがいいから、もう少しこのままでいよう。たぶん、まだHP全快じゃないだろうし。

 

 なんてことを思い、それからさらに5分ほど、その場で岩になってくつろいでいると。

 

「――あ、いましたよ」

 

 声がした。うん? 誰か来た? 声の方を見ると、広場に、3人の人影が。

 

「睦美さん。たぶん、あの岩です」1人が、あたしの方を指さして言う。二期生でランキング18位の、林田亜紀だった。その隣に、亜紀と仲のいい、同じく二期生でランキング25位の上原恵利子。そしてもう1人は、一期生でランキング10位の白川睦美さんだった。

 

 ……何だろう? たまたまこの広場にやって来たんじゃ無さそうだな。あたしを指さしたということは、あたしに会いに来たんだろうか? でも、なんであたしがここで岩になってることを知ってるんだ?

 

 …………。

 

 ……って、そりゃ知ってるだろ! さっきの特殊ミッションとサドンデスの様子は、全プレイヤーがTAを通じて見ることができたんだった! ミッションが終わってもずっとそこで休んでたんだから、誰だって分かるよ!

 

 睦美さんはこっちにやって来て、岩状態のあたしを見下ろす。「おい! カスミ! あんただってことは分かってるんだ! さっさと元の姿に戻りなさい!!」

 

 どう見ても、サドンデスを勝ち残ったあたしを祝福しに来たんじゃ無さそうだな。まあ、そりゃそうだろう。睦美さんは、さっきサドンデスであたしが倒した深雪さんと同期で、仲が良いのだ。たぶん、深雪さんの仇を取りに来たのだろう。しまったな。さっさとこの場を離れておくべきだった。後悔しても遅い。どうする? 「元の姿に戻れ」と言われて、素直に戻ったんじゃ、3人で袋叩きにされるだけだろうな。じゃあ、このまま岩でいるか? うん。そうしよう。すでにあたしだとバレてるけど、別に問題ないだろう。睦美さんも他の2人も、武術の腕前イマイチだ。ヴァルキリーズで義務付けられた週2回の剣道の稽古をやってるだけで、それも、あまりマジメに取り組んでるとは言えず、腕前は深雪さんに大きく劣る。岩状態のあたしに、何かできるとは思えない。このままやり過ごすのが一番だ。

 

「……戻らないつもり? だったら――」睦美さんは、後ろの恵利子を見た。恵利子は無言で大きく頷き、広場に転がっている別の岩に、手のひらを向けた。

 

 次の瞬間。

 

 パーン!! と、まるで内部にダイナマイトでもしかけられていたかのように爆発し、岩は木端微塵に吹き飛んだ! なんだ!? 何が起こったんだ!?

 

「驚いた?」睦美さんが、不敵に笑う。「恵利子の能力だよ。岩を吹っ飛ばすんだ。あんたもああなりたくなけりゃ、さっさと元の姿に戻りなさい!」

 

 岩を吹っ飛ばすって、何だよ!? その、完全にあたし対策な能力は!? 運営め、なんて能力を作るんだ! 嫌がらせにもほどがあるだろ!

 

「戻らないんだったら――」

 

 睦美さんが顎をしゃくった。恵利子があたしに手のひらを向ける。わー!! 待った待った!! 戻る! 戻るから!!

 

 ボン! あたしは能力を解除し、人の姿に戻った。全身の痛みはほとんど消えている。HPはかなり回復したようだけど、今はそんなことはどうでもいい。

 

 元の姿に戻った瞬間、睦美さんが腰に携えていた剣を抜いた。深雪さんやエリが持っていたものと同じ、大きめの剣だ。あの剣、結構人気があるんだな。あたしもあれにすればよかったかな。なんて、どうでもいいことを考える。

 

「よくも深雪をやってくれたわね!」吼える睦美さん。「しかも、深雪の顔を殴るとか、そんなことが許されると思ってるの!?」

 

 いや、許されるでしょ。顔面を殴っちゃいけないというルールはないし、これはゲームなんだから、現実世界でキズが残ることも無い。深雪さんだって、さんざんあたしに剣を振るったんだぞ?

 

 ……なんてことを、今の睦美さんに言ってもムダだろう。あたしはあいまいに笑った。

 

「何笑ってんのよ!」がん! 剣を地面に叩きつける睦美さん。「……大体、なんで深雪があんたなんかとサドンデスになるのよ!? キル数は同じでも、デス数はあんたの方が断然多かったでしょうが! それなのに深雪が負け!? こんなの、おかしいわ!!」

 

 ……そういうルールなんだからしょうがないだろう。あたしに言われても困るっつーの。

 

「納得いかないわ。これから、ゲームマスターに抗議しに行くから、あんたも一緒に来なさい! あんたを失格にして、深雪の失格を取り消してもらうんだから!」

 

 ……そんなこと、あの運営が認めるわけないだろ。確かに運営は深雪さん贔屓だと思うけど、さすがに1度ゲームオーバーになった深雪さんを復活させるとかはしないだろう。あたしが反則とか不正とかをしたわけじゃないんだし。大体、抗議しに行くって、どこに行く気だよ? どうせ、どこに行けばいいかも分からずに言ってるんだろうな。はぁ。睦美さんって、根はイイ人だと思うんだけど、時々、こういうめんどくさいことを言い出すんだよな。

 

「睦美さんの言う通りよ。カスミ、これは、どう考えてもおかしいわ」後ろの亜紀が言う。

 

「そうそう」と、隣の恵利子が頷く。「大体、なんであんたが勝ち残るのよ? 誰がどう考えたって、深雪さんが勝ち残った方が盛り上がるでしょう? カスミが勝ち残るなんて、誰も期待してないのに。空気を読めない人は、この世界じゃ生き残っていけないよ?」

 

 そして、2人で笑う。

 

 林田亜紀と上原恵利子。あたしと同期だけど、この2人、あんまり好きじゃないんだよね。簡単に言うとこの2人、弱きを挫き強きにへつらうタイプだ。ここで睦美さんや深雪さんの味方をして、あわよくば仲良くなりたいという魂胆に違いない。あーあ。どうしたものか。

 

 相手は3人。剣道の腕前は深雪さんには劣るけど、3人よれば何とやらで、それなりに手強い存在になるだろう。そもそもあたしは戦闘力1200の最弱候補。戦って勝てるハズがない。じゃあ、逃げるか? それも難しいだろうな。走るのは得意じゃないし、向こうは3人だし、岩に化ける能力は見破られている。くそう。なんでこう、あたしだけに次々と困難が降りかかるのだろう? このゲーム、あたし以外は全員敵なのか? まあ、バトルロイヤルだから敵なんだけど、1人くらい、あたしの味方をしてくれる人はいないものか。

 

 と、その時である。

 

 キーン! と、頭上で、飛行機でも飛んでいるかのような音がした。何だろう? 見上げる。光の玉が、こちらに向かって飛んで来る。なんだ!? 隕石か!? まさか、誰かの能力!? 隕石落下なんて、そんな超強力な能力、ヤバすぎだろ!? 島全体が吹っ飛ぶぞ!?

 

 ――いや。

 

 あれは、隕石じゃない。よく見ると、人の形をしている。

 

 誰かが、空を飛んでるんだ!

 

 そうか。あたしのピンチを知って、空飛ぶ能力で助けに来てくれたんだな!? そうに違いない!! そりゃあこのゲームはバトルロイヤルだけど、1人くらい、あたしの味方をしてくれる人がいてもおかしくない。

 

 ドン! 光の玉が広場に落ちる。衝撃で軽く地面が揺れ、土埃が舞い上がる。

 

 さあ、誰が助けに来てくれたの? 後輩思いの優しいお姉さん、遠野若葉さんかな? それとも、普段は厳しいけど、実は誰よりもメンバーのこと考えている、キャプテンの橘由香里さん? この前仲良くなったピアニストの葵? 誰でもいい。この世界で、あたしの味方をしてくれるんだったら、誰でも!!

 

 やがて、土埃が晴れると――。

 

「――ハーイ、カスミちゃん。久しぶり。ひざの調子はどう?」

 

 …………。

 

 ま、そんなことだろうとは思ったけどね。

 

 土埃が晴れると、そこには、いつものようにニヤニヤ笑いながら手を振る、ヴァルキリーズの問題児コンビ、早海愛子さんと並木ちはるさんの姿があった――。

 

 …………。

 

 ……ホントにめんどくさいな、このゲーム。

 

 

 

 

 

 


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