ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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岩アイドル

 白一色の無の世界は消え、現れたのは、青い空、青い海、白い砂浜。打ち寄せる波の音と、潮の香りを含んだ風、照りつける太陽。

 

 ――ここが、レリック島?

 

 打ち寄せる波に手を浸し、海の水をすくってみた。ひんやりと冷たい。そのまま空に向かって撒く。太陽の光を反射し、キラキラと輝く雫を顔に感じる。ちょっと舐めてみると、しょっぱい。

 

 ……これが、本当にゲームの世界なのだろうか? においや味まで再現されてある。技術の進歩は凄いな。

 

 おっと。感心してる場合じゃないな。

 

 すでにゲームは始まっている。今、この瞬間、誰かに襲われても不思議じゃない。

 

 ぐるり、と、辺りを見回した。正面には水平線が広がっている。振り返ると、少し離れたところに木々が生い茂っているのが見える。あちら側は森のようだ。森を向いて右側は砂浜と海、左側は、1kmほど岩場が続き、その先は岩山になっていた。他のプレイヤーの姿は見えない。

 

 よし、まずは能力の確認だ。

 

 左手を上に向けると、TAが起動し、空中に画面が投影された。パラメーターの項目を選ぶ。

 

 

 

  名前:前園カスミ

  HP:355/355

  状態:良好

 戦闘力:1200

アイテム:細身の剣

     ヴァルキリーズ・アーマー(ノーマル)

  能力:ザ・ロック

 

 

 

 まず目に入ったのは戦闘力だ。1200。判断材料が無いから高いのか低いのか分からないけれど、まあ、あたしに限って高いということはないだろう。しかし、案内人曰く、この数値には能力は含まれていない。仮に1200という数値が低くても、能力が強力なら、ヴァルキリーズ最強忍者の燈にだって勝てるのだ。その能力の名は……ザ・ロック!! なんだろう? このカッコイイ響き。どんな能力か想像もつかないけど、その響きだけで期待感が高まる。これはきっと、とてつもなく強力な能力に違いない。あたしは能力の項目を選び、説明を表示した。

 

 

 

能力名:ザ・ロック

 効果:この能力を使用した者は、イイ感じの岩になる。

 

 

 

 説明文はそれだけだった。

 

 …………。

 

 は? なんだこれ?

 

 見間違いか? そう思い、何度も瞬きしてみるけど、同じ文章が表示されているだけだ。見間違いではない。ああ、そうか。まだ説明が続くんだな。あたしは画面をスクロールさせようとしてみたけれど、画面は上下左右どの方向にも動かなかった。説明はこれだけだ。

 

 つまり、これが能力の全て、ということになる。

 

 ……どういうことだ? 岩になる――岩って、あの、山とかに転がってる大きな石のことだよな。それとも、幽霊になって他のプレイヤーを呪い殺せるのか? 『呪い』なんて状態異常は無かったけどな。じゃあ、一体なんだ?

 

「能力を知るには、実際に使ってみるのが一番です」

 

 案内人の声がした。そういえば、TAに常駐してるって言ってたな。

 

 ……よし。じゃあ、試してみるか。TAをしまい、念じてみる。能力発動!!

 

 ボン!!

 

 小さな爆発が起こり――。

 

 あたしは、直径30センチほどの、球体に近い岩になっていた。

 

 結構小さいんだな。視線がかなり低い。周りを見ようとしたけど、首が動かなかった。まあ、岩なんだから、そもそも首が無いんだけどね。でも、ある程度視線は動いた。波の音も聞こえるし、潮のにおいもする。ふわり、と、カモメが1羽飛んできて、あたしの頭に止まった。鋭い爪で頭を掴まれているのが分かる。痛くはないけど、触れられている感触はある。どうやら、岩になっても五感は働くようだ。

 

 しかし、なんか落ち着くな、コレ。照りつける暖かな太陽。吹き付けるさわやかな潮風。繰り返す波の音。まるでリゾート地でくつろいでいるかのようだ。このままお昼寝したい気分。

 

 …………。

 

 ……だから、何だよ?

 

 ボン!! 能力を解除し、人間の姿に戻る。カモメが驚いて飛び去って行った。

 

 これがあたしの能力!? 本当に、ただ岩になるだけ!? こんな能力で、どうやって強者ぞろいのアイドル・ヴァルキリーズのメンバー相手に戦うんだよ!? おい、案内人! 説明しろ!!

 

「『ザ・ロック』は、岩になるための能力です。この能力を使用した者は、イイ感じの岩になることができます」淡々とした案内人の声がした。

 

 いや、岩になるのは分かったから、こんな役に立たない能力で、どうやって戦えばいいんだよ!?

 

「使い方はカスミさん次第です。役に立つかどうかもカスミさん次第です。私はただの案内人ですので、文句を言われても困ります。ゲームを作り、プレイヤーに能力を設定したのはゲームマスターです。不満があるなら、ゲームマスターに言ってください」

 

 ……なんか急に冷たくなったな、コイツ。捨てるぞ。

 

「TAは左手に埋め込まれていますので、捨てる場合は左手を斬り落とす必要があります。当然ダメージを受けますし、TAを失うと、様々な情報が得られなくなり、ゲームが圧倒的に不利になります。また、手足等の部位を失うと、例えその後HPを回復させても、欠損した部位は元に戻りません。それでもよろしければ、お試しください」

 

 もういい。お前は喋るな。

 

「では、何か質問があれば、いつでも呼び出してください」

 

 もう2度と呼ぶか。

 

 ……しかし。

 

 恐らく平均よりも低いであろう戦闘力。何の役にも立ちそうにない能力。こんなんでどうやって戦えというのだろう? 能力を設定したのはゲームマスターだって言ってたな。つまり、プロデューサーやマネージャーたち、いわゆる運営だろう。きっと『推され』には、強力な能力が与えられていることだろう。くそう。運営って、ホント、あたしたち『干され』に冷たいよな。年に1度の大チャンスである特別称号争奪戦ですらこの扱いだ。完全に勝たせる気が無い。そりゃあ、あたしみたいな『干され』より、『推され』が勝ち残った方が盛り上がるのかもしれないけど、それじゃあ、特別称号争奪戦なんてやる意味ないだろ。

 

 ……ここで1人文句を言ってもしょうがないな。しかし、どうする? 戦闘力も低い、能力も役に立たない。完全に詰んでる状態だけど、何とかしないと。なんせ、あたしはこの一戦に、ヴァルキリーズの卒業を賭けているのだ。このまま終わるわけにはいかない。考える。確か案内人は、他のプレイヤーを倒せば、能力をカード化して入手することができる、と言ってたな。1回しか使えない、効果時間が短い、などの制限があるらしいけど、岩になる能力なんかよりは、はるかに役に立つだろう。よし。とりあえず、あたしでも勝てそうな、弱いメンバーを探そう。泣き虫の四期生・朝比奈真理なら、あたしでも勝てるだろう。ちょっと気が引けるけど、特別称号争奪戦は真剣勝負。遠慮はいらない。手加減する方が相手に失礼だ。よし。待ってろよ、真理。すぐに血祭りにしてくれる。ひっひっひ。

 

 ……が。

 

「あら? カスミじゃない」

 

 突然背後から声をかけられ、ビクッとなる。

 

 今の声は、まさか……?

 

 恐る恐る振り返る。

 

 そこには、肩まで伸びたストレートの髪、おすまし顔、お嬢様のような華奢な姿に似合わぬ大きな剣。

 

 ランキング第3位。武術もできる白衣の天使、そして、ヴァルキリーズで最も危険な人物・藍沢エリが立っていた――。

 

 

 

 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

TIPS 04:前園カスミ、小学2年生時の日記

 

 

 10月18日 土よう日 はれ

 

 今日は、秋のえんげきはっぴょうの日でした。

 

 2ねん3くみは、シンデレラのえんげきをはっぴょうしました。

 

 げきのやくをきめるとき、あたしはシンデレラをやりたかったけど、ほかの子もやりたいっていって、やりたい子がたくさんいたので、くじびきできめました。

 

 それで、シンデレラはみゆきちゃんにきまりました。

 

 あたしは、おうちのにわにある石のやくになりました。

 

 うごかずにじっとしてるだけだったけど、いっしょうけんめいやりました。

 

 先生が「よくがんばったね」とほめてくれて、うれしかったです。

 

 お父さんお母さんもほめてくれました。

 

 またらいねんえんげきはっぴょうかいでシンデレラをやりたいな。

 

 つぎはシンデレラをやりたいけど、だめだったら石のやくをがんばります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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