ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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ルール説明

 気が付くと、そこは、見渡す限り白い空間が続いている世界だった。前も、後ろも、右も、左も、上下さえも、全て、白一色。天地の区別さえない。まさに、無の世界だった。存在するのは、あたし1人。

 

 しばらくきょろきょろしていると。

 

 目の前に、青いノイズのようなものが走った。空間が歪み、ノイズが徐々に人の形を作っていく。やがて、ショートカットの女性の姿になった。全身半透明のブルーで、時々身体にノイズが走っている。ホログラムで投影されたような姿だ。

 

「――アイドル・ヴァルキリーズ・オンラインの世界へようこそ。私は、このゲームの案内人を務めさせていただく、コルタナと申します。どうぞよろしく」

 

 ホログラムの女性は優雅な仕草でゆっくりと頭を下げた。

 

 どうやら、すでにゲームの世界に入っているようだ。まあ、真っ白な無の世界なんて現実に存在するはずはないから、そうじゃないかとは思ったんだけど。

 

 あたしは、自分の身体を見た。現実世界と同じ、見慣れた自分の身体がそこにある。もちろん、自由に動く。顔や体に触れてみる。ちゃんと感触があり、本当にそこに存在しているとしか思えない。でも、これはゲームの世界なのだ。

 

「早速ですが、ゲームのルールを説明させていただきます」

 

 案内人が言ったので、あたしは視線を向けた。

 

「ゲームは、架空の島『レリック』にて行われます。レリックは、面積約30平方キロメートル、外周約20キロメートルの小さな島です。島内に進入禁止の場所はありませんが、条件を満たさないと進入できない場所は何ヶ所か存在します。この島で、メンバー48名によるバトルロイヤルを行っていただきます。制限時間は基本的にありませんが、ゲームの状況に応じて設けられる場合もあります。戦闘はルール無用のデスマッチで行われます。ゲームのプログラム上できる行為はすべて有効。反則はありません。最後まで勝ち残った人が優勝となり、この冬発売されるアイドル・ヴァルキリーズのCDシングルにて、センターポジションに立つことができます」

 

 最後まで勝ち残った者が、センターポジション――その言葉に、心臓が大きく鳴った。当たり前だけど、勝つのは1人だけ。センターポジションに立てるのは1人だけなのだ。特別称号争奪戦は経験も実績も一切関係なく、誰でもセンターポジションに立つ資格があるとは言え、やはり、難しいことに変わりはない。

 

 もちろん、難しいからこそ、やりがいがあるんだけど。

 

 案内人が説明を続ける。「ゲームは、『フェイズ』という単位で区切られます。1フェイズは1時間。フェイズ終了時には、ターミナル・アダプタ、通称TAを通じて、ゲームマスターからゲームの進行状況が連絡されます。左手を上に向けてかざしてください」

 

 言われた通り、左手を上に向けた。すると、プロジェクターの映像のように、空中に5インチくらいの画面が投影された。

 

「これがTAです。ゲームマスターからの連絡があった場合は、バイブレーション機能が働きます。なんらかの障害により映像が表示できない場合は、音声のみの使用も可能です」

 

 スマホが手の中に埋め込まれているような物か。現実世界にあったら便利だろうな。

 

「また、ゲームマスターからの連絡の他に、プレイヤーのパラメーターやゲームのルールなど、様々な情報の確認も、TAにて行えます。それでは、TAの操作方法と同時に、パラメーターの説明もさせていただきます。画面から、『パラメーター』の項目を選んでください。念じるだけで大丈夫です」

 

 とのことなので、言われたと売り念じてみると、画面が切り替わった。プレイヤー名・HP・状態・戦闘力・アイテム・能力、と、表示されている。

 

「では、順に説明していきます。『プレイヤー名』は、文字通り、プレイヤーの名前です。あなたの場合は『前園カスミ』となります。変更はできません」

 

 ……まあ、あえて説明するほどのモノでもないように思うけどな。

 

「次に『HP』。いわゆる生命力で、他のプレイヤーから攻撃されたり、ケガをしたりすると減って行き、0になると死亡します。座って休むと少しずつ回復します。睡眠状態になると、回復スピードは上がります。また、回復用のアイテムや能力もあり、それらを使用すれば、一気に回復することが可能です」

 

 その辺りはゲームではおなじみのシステムだな。分かりやすくて結構。

 

「『状態』は、あなたの現在の状態です。良好、睡眠、毒、麻痺、石化、死亡、の6種類があります。それぞれの状態について説明します」

 

 

 

良好

通常の状態。

 

 

 

睡眠

眠っている状態。気絶など、意識が無い状態もこれに含まれる。HPの回復スピードが上昇するが、一切の行動ができず、無防備で危険な状態。攻撃されると良好の状態に戻る。数分~数十分で自動的に良好状態に戻る。

 

 

 

徐々にHPが減少し、0になると死亡する。行動に制限はない。数分~数十分で自動的に良好状態に戻る。

 

 

 

麻痺

身体が動かない状態。行動はできないが、意識があるので能力は使える(ただし、一部の動作を必要とする能力は使用できない)。数分~数十分で自動的に良好状態に戻る。

 

 

 

石化

石になった状態。一切の行動ができず、自動的に良好状態に戻ることもない。

 

 

 

死亡

HPが0になった状態。一切の行動ができず、自動的に良好状態に戻ることも無い。死亡の状態でフェイズ終了となった場合、ゲームから追放される。

 

 

 

「――以上です」

 

「ゲームから追放って?」あたしは案内人に訊いてみた。

 

「文字通り、ゲームの世界から追放され、現実世界に戻ります。要するに、ゲームオーバーです」

 

「つまり、死亡状態ではまだ負けではないってこと?」

 

「その通りです。負けが確定するのは、死亡状態でフェイズを終了した場合です。死亡しても、復活する方法はあります。その方法は、今は説明できません。ゲーム中、ご自身で探してみてください」

 

 死亡から復活する方法か……単純に考えると、教会とか、復活用のアイテムとか、能力とかだろうな。

 

「――パラメーターの説明を続けます」案内人が言った。「『戦闘力』は、あなたの肉弾戦での戦闘能力を、数値で表したものです。基本的には、戦闘力が高い方が強い、ということになります。ただし、戦闘力は、あくまでも肉弾戦のみの数値です。後述する『能力』は含みません。相手の戦闘力が低くても、強力な能力を持っている可能性もありますので、注意してください」

 

 ちなみに、今はこの『戦闘力』の項目を含め、全ての項目が空白の状態だ。おそらく、ゲームが始まってから表示されるのだろう。

 

「続いて『アイテム』です。ここには、あなたの所持しているアイテムが表示されます。最大所持数は5つです。それ以上は基本的に持てませんので、注意してください」

 

 5つか。かなり少ないな。昨今のゲームじゃアイテムは無限に持てるのが普通みたいだけど。

 

 でも、今案内人は、それ以上は“基本的に”持てない、と言った。つまり、それ以上持つ方法もあるということだろう。

 

「では、『能力』の説明をします。『能力』は、このゲームで最も重要な要素ですので、しっかりと理解しておいてください」

 

 いよいよ能力の説明だ。このゲームのシナリオタイトルにもなってるくらいだから、これがメインと言っていい。あたしみたいに戦闘力が低いメンバーは特に重要だろう。さて、どんな能力があるのか……。

 

「能力は、『クラス能力』、『限定能力』、『個人能力』の、3種類あります。順番に説明していきます。まず、『クラス能力』。これは、ナイト、シスター、ソーサラーなど、プレイヤーの各クラスに与えられる能力です。同じクラスなら、同じ能力を持っています。クラス能力は、以下の5つです」

 

 

 

ウェポン

アイテム所持数+1のボーナスを得る。装備している武器アイテムは、全ての能力の対象にならない。

 

 

 

ヒール

対象プレイヤーの傷を治療する。効果は使用者の精神力によって大きく異なる。

 

 

 

キュアー

対象プレイヤーの、毒、麻痺、石化の状態異常を治療する。

 

 

 

エナジーボール

エネルギーの弾で攻撃する。威力は使用者の精神力によって大きく異なる。

 

 

 

ポイズン

使用武器に毒の効果が与えられる。攻撃がヒットすると、相手は50%の確率で毒の状態になる。

 

 

 

「それぞれのクラスに与えられる能力は、以下の通りです」

 

 

 

ナイト:ウェポン・ウェポン

 

シスター:ヒール・キュアー

 

ソーサラー:エナジーボール・ポイズン

 

シルバーナイト:ウェポン・ヒール

 

ダークナイト:ウェポン・エナジーボール

 

ウィザード:ヒール・エナジーボール

 

 

 

「カスミさんのクラスはナイトなので、『ウェポン』の能力が2つ与えられます。つまり、アイテムを2つ多く持てることになります。そして、装備している武器アイテムは、いかなる能力の影響も受けません」

 

 ……つまり、他のプレイヤーのアイテムを盗んだり破壊したりする能力があるということだな。

 

「続いて『限定能力』。これは、条件を満たすと一時的に与えられる特別な能力です。詳細は、ゲームプレイ中に確認してください。最後に、『個人能力』。これは、各プレイヤーに1つずつ与えられるオリジナルの能力です。プレイヤー1人1人異なる能力を持っています。全部で48種類。この能力を駆使して闘うのが、アイドル・ヴァルキリーズ・オンライン・アビリティーズの最大の目玉と言えます。与えられる個人能力の詳細は、プレイ開始後にTAで確認してください」

 

 能力についてはまだ明かされず。何と言う焦らしプレイ。まあいい。それはそれで楽しみだ。きっと、あたしみたいに戦闘力が低いプレイヤーには、強力な能力が与えられるんだろう。そうじゃないと、ゲームのバランスが取れない。クソゲー確定である。はたして、あたしに与えられる能力は何だろう? 時間を止める能力? 壊れたものを元に戻す能力? ゴム人間になる能力? 髪が金髪になって逆立ち戦闘力が格段に上昇する能力とか、ノートに名前を書くと死ぬ能力とかでもいいぞ。とにかく、強力な能力さえあれば、薙刀使いの亜夕美さんや、最強忍者の燈にだって勝てるはずだ。今からワクワクである。

 

「最後に、『能力のカード化』について説明します」

 

 うん? 『能力のカード化』? なんだろう?

 

「各プレイヤーは、自分の個人能力を、カード化し、アイテムとして持ち歩くことができます。カード化した能力は、1度だけしか使えない、効果時間が短い、などの制限はありますが、基本的に、その能力と同じ効果を発揮します。もちろん、もともと持っている能力なので、自分の能力カードを使っても、あまり意味はありません。カードは他のプレイヤーに渡したり、他のプレイヤーからもらったりすることができます。つまり、カードを使えば他のプレイヤーの能力を使うことができるわけです。ただし、能力をカード化できるのは、同時に1枚までです。2枚以上同時にカード化することはできません。例えば、カスミさんが能力をカード化し、他のプレイヤーに渡したとします。渡したプレイヤーがそのカードを使うか捨てるかしない限り、カスミさんは再び能力をカード化できません。また、死亡した場合も能力がカード化されます。つまり、他のプレイヤーを倒せば、その能力をカード化して入手することができるということです。これには枚数制限はありませんので、例え生存時に能力をカード化して他のプレイヤーに渡していても、死亡時は能力がカード化されます。能力カードは誰も所持していない状態だと10分で消滅します。倒したプレイヤーの能力カードは、早めに拾うようにしてください」

 

 ……能力のカード化か。面白いシステムだな。カードを他のプレイヤーに渡すことができるとは言っても、このゲームはバトルロイヤルだから、ただ渡しただけでは自分が不利になる。基本はカード同士の交換・トレードということになるだろう。いかに自分が有利になるようにカードを交換するか……単純な戦闘以外でも駆け引きが必要になりそうだ。

 

「ルールについての説明は以上です。何か質問はありますか?」

 

 うーん。今のところ、特にないかな?

 

「TAには、私が常駐しています。疑問点があれば、いつでも呼び出してください。お答えできる範囲でお答えします」

 

 目の前の案内人の姿が消え、TAの画面に移動した。

 

「それでは、間もなくゲームスタートです。初めに、武器と防具を1つずつ選びます。装備できない物はありませんので、得意な物を選んでください」

 

 案内人がそう言うと、目の前に、たくさんの武器が現れた。剣、刀、槍、斧など、ゲームでは定番の武器から、薙刀、弓矢、手裏剣、格闘用籠手など、特定のメンバー向けと思われるものもある。その中からあたしは、細身で使いやすそうな剣を選んだ。一応剣道を習っているから、一番使いやすいだろう。

 

 続いて、防具が現れた。アイドル・ヴァルキリーズでは定番の中世の騎士風の鎧の他に、剣道の防具や、空手、柔道の胴着などがある。あたしはその中から、ヴァルキリーズの鎧を選んだ。手に取ると、ズシリとした重さがあった。あたしたちヴァルキリーズのメンバーが舞台などで身に着けている鎧はコスプレ用の鎧で、軽い素材で作られている。長時間歌って踊るわけだから当然なんだけど、どうやらこれは、本物の金属のようだ。身に着けてみる。普段のコスプレ鎧と比べると重いけど、作り自体は同じだから、思っていたほど動きの妨げにはならない。胸の辺りをパンパンと叩いてみる。金属製だから、当然頑丈だ。ヘタな攻撃なんか弾き返すだろう。

 

「他のプレイヤー全員が武器を選び終えた時点で、レリック島のどこかにランダムで転送されます。島に到着すれば、ゲームスタートです。がんばってください」

 

 TAから案内人の姿が消えた。手を下ろすと、TAの画面も消える。

 

 しばらくして。

 

 白い、無の世界も、消えた。

 

 

 

 いよいよ、ゲーム開始だ――。

 

 

 


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