ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~ 作:ドラ麦茶
10月18日、日本武闘館。ついに、アイドル・ヴァルキリーズ第4回特別称号争奪戦・アイドル・ヴァルキリーズ・オンライン決戦の日がやって来た。会場はドーム球場と比べると小さいことは否めないが、それでも1万近い客席はほぼ埋まり、アイドル・ヴァルキリーズの衰え知らずの人気を見せつけた。
イベントはお昼の12時より始まった。まずは、1時間のミニライブ。それなりに盛り上がったけれど、観客の関心は、やはりこの後の称号争奪戦だ。アンコールも起こらなかったのでライブは早々に切り上げ、そして、決戦の時間となる。
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「――それでは、第4回特別称号争奪戦・アイドル・ヴァルキリーズ・オンライン決戦を行います!!」
武闘館のステージ上。タキシード姿の司会者が開会を宣言する。会場内に爆音が鳴り響き、ステージ上に設置された花火が火を噴く。その音をかき消すほどの歓声が上がる。いよいよ、始まりだ。
「選手入場!!」
会場内のライトが落ち、同時に、静けさに包まれる。しかし、すぐに、闘争心を掻きたてるBGMが、会場内に鳴り響いた。そして。
「ミィユゥキィィ・カンザアアアアァァァァァァァキイイイイイィィィィィィィィ!!」
総合格闘技大会の選手コールで有名な外国人ナレーターが、独特の巻き舌で、深雪さんの名を叫ぶ。ステージ中央に設置された階段にスポットライトが当たり、ゆっくりと、深雪さんが姿を見せた。アイドル・ヴァルキリーズ正規ランキング4年連続第1位。神撃のブリュンヒルデ・神崎深雪さんの登場に、会場内は大いに沸きあがった。
その後、亜夕美さん、エリ、遠野若葉さん、と、第5回ランキングの順位順に名前が呼ばれ、メンバーが次々とステージ上に出て行った。メンバーが登場する度に会場内のボルテージは上がって行くけれど、それも、15位くらいのメンバーまでだ。さすがに人数が多すぎて、観客のテンションも続かない。25位を超えると、「もうその他でいいじゃん」という空気が流れ始めた。メンバー名のコールも、あの特徴的な巻き舌が無くなっている。こんな所でも、『推され』と『干され』の差は浮き彫りになる。
31人目に、あたしの名前が呼ばれた。ステージ上に出て行く。あまり気持ちのこもってない拍手と歓声に笑顔で応え、ステージの端の方に立った。
ふん。今に見てろ。ゲームが始まったら、すぐにみんな、あたしに注目させてやるからな。
大会の開催が告知された愛知ドームでのコンサート終了後、あたしはすぐにゲーム屋さんへ走り、アイドル・ヴァルキリーズ・オンラインとそのゲームが遊べるゲーム機を購入した。干されメンバーにとっては決して安い買い物ではなかったけれど、そこを惜しむつもりはなかった。本番は、大会の為だけに作られた新シナリオと、VRMMOという未知のシステムで行われるんだけど、それでもゲームに慣れているのと慣れていないのでは全然違うだろう。ゲームをやっておいて損はないはずだ。慣れないゲーム機の設置に苦労しながらも(あたしが子供の頃は、ゲームなんてテレビにつないでカセットやCDをセットしてスイッチを入れればすぐに遊べたけれど、今は、ネットワークの設定やらIDの登録やら料金の支払い方法やら更新のインストールやらで、もう、訳が分からなかった。結局後日、妹系ゲームオタクの美咲を呼んで設定してもらったのだ)、何とかゲームを開始。それから2ヶ月。あたしは、時間を見つけてはプレイし、攻略本やネット上の攻略サイトなども片っ端から見て行った。おかげで、アイドル・ヴァルキリーズ・オンラインに関しては、美咲と話が合うまでに成長した。これは、他のメンバーに対して大きなアドバンテージになるに違いない。
同時にあたしは、他のメンバーの分析も行った。今大会で使われるVRMMOシステムは、コントローラーを持たず、頭で思っただけでプレイすることができる。つまり、ゲームの腕前は関係なく、実際のメンバーの格闘能力は、そのままゲーム上に反映されるはずなのだ。メンバーの格闘能力の分析は、非常に重要だろう。実はあたし、こういうデータ収集や分析は結構得意なのだ。この大会で特に気を付けるべきは以下の13人だ。
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名前:神崎深雪(一期生)
武術:剣道初段
危険度:B
アイドル・ヴァルキリーズのランキング1位。最も栄誉ある称号"ブリュンヒルデ"を4年連続で獲得し、ファンの間では、『神撃のブリュンヒルデ』とか、『マスター・オブ・ブリュンヒルデ』などと呼ばれている。武術は剣道。ヴァルキリーズに入って始めたものだけど、3年で初段を取得するなど、腕前は確かだ。センターポジションに賭ける思いは強いが、「通常のランキングとは違う方法でポジションを決める」という特別称号争奪戦の趣旨を理解しており、このイベントで自分が最後まで勝ち残るのはあまり望ましくない、と考えている可能性が高い。
名前:早海愛子(一期生)
武術:柔道二段
危険度:B
ランキング16位。ランキングのことをかなり気にしており、上位にランキングされている後輩の娘にイヤミを言ったり、先輩風を吹かせてパシリに使ったり、時には些細なことで怒鳴ったりもする。喧嘩っ早い性格で、武術の腕前も柔道二段なので、多くの娘から恐れられている。ただし、あたしみたいな下位メンバーには目もくれないと思われるので、危険度はそれほど高くない。
名前:並木ちはる(一期生)
武術:マーシャル・アーツ
危険度:B
ランキング24位。愛子さんの相棒で、後輩メンバーから恐れられ、敬遠されている。アメリカの軍隊で使用されている格闘技・マーシャル・アーツの使い手。愛子さん同様、上位ランクの後輩メンバーには脅威だが、下位メンバーは無視される可能性が高い。
名前:吉岡紗代(一期生)
武術:キックボクシング元アマチュアチャンピオン
危険度:B
ランキング22位。かつては「美少女キックボクサー」というキャッチコピー人気を博し、称号も持っていたが、現在は低迷している。基本的には後輩想いの優しい先輩だが、時々キレて怒鳴ったりすることがあり、後輩から密かに恐れられている。称号獲得への意思は固く、今大会へ賭ける想いは強い。
名前:森野舞(一期生)
武術:剣道無段
危険度:B
ランキング30位。一期生では最下位の干されメンバー。武術は週2回の剣道だが、サボりがちで腕前はイマイチ。しかし、昔はけっこうな不良だったそうで、ケンカ慣れしているとのウワサ。ルールの無用の実戦だと、意外と強いかもしれない。ちょっと危険な思考の持ち主で、常々、「戦って勝ったら称号を奪えるシステムがあればいいのに」と言っている。バレなければ反則ですら平気でやるであろう、要注意人物。
名前:篠崎遥(三期生)
武術:弓道五段
危険度:B
ランキング9位。三期生では桜美咲に次ぐ高ランク。超マジメな性格で、コンサートやテレビ番組の収録、振り付けのレッスンなど、誰よりも早くスタジオに入り、誰よりも真剣に取り組み、誰よりも遅くまで居残って練習を続ける。そんな仕事に対する姿勢は、キャプテンの由香里さんからも認められており、一部のファンからは「次世代キャプテン」と呼ばれている。弓道の全国大会でベスト8に入るなど、武術の腕も侮りがたい。
名前:橘由香里(一期生)
武術:剣道初段
危険度:A
ランキング5位。誰もが認めるヴァルキリーズのキャプテン。武術はヴァルキリーズに所属してから始めたもので、段位は初段と、本格的な武術の使い手のメンバーと比べると劣る。しかし、それを補って有り余る高いリーダーシップは脅威。
名前:遠野若葉(一期生)
武術:剣道二段
危険度:A
ランキング4位。ヴァルキリーズ最年長で、お姉さん的存在。後輩の面倒見がよく、誰からも慕われている。キャプテンの由香里さんからの信頼も厚く、ヴァルキリーズに欠かせないメンバーの1人。あたしもよくお世話になっており、いい意味で、あまり戦いたくない相手。高校時代に全国大会に出場したこともあるという剣道の腕前も要注意。
名前:桜美咲(三期生)
武術:空手二段
危険度:A
ランキング7位。「妹系ゲームオタク」というキャッチコピーで大ブレイクし、三期生では最高順位。その子供っぽい見た目と言動に反し、実は空手の達人。高校時代に全国大会で2位という好成績を残している。その武術の腕前もさることながら、他の追随を許さないゲームの知識も、今大会においてはかなりの脅威となるだろう。
名前:本郷亜夕美(一期生)
武術:薙刀三段
危険度:A
ランキング2位。深雪さんの最大のライバル。センターポジションに賭ける想いは誰よりも強く、深雪さんを倒すことにアイドル人生のすべてを賭けていると言っても過言ではない。高校の薙刀全国大会優勝の実績があり、武術の腕前はヴァルキリーズ内では群を抜いている。アネゴ肌のさばさばした性格で、後輩の面倒見も良く、多くのメンバーから慕われている。
名前:緋山瑞姫(三期生)
武術:なし
危険度:S
ランキング12位。日本の大学ランキングで上位に入るK大学卒業のインテリアイドル。その才色兼備を武器に、クイズ番組や情報番組、政治などの討論番組にも次々と出演し、大人気。昨年の特別称号争奪戦の頭脳ゲーム大会において、圧倒的強さを見せつけて優勝した。ちょっと何を考えているのか分からない所があり、ドラマ撮影でシナリオの矛盾を大声で批判して監督や脚本家を怒らせたり、昨年の大会で、優勝後、センターポジションを辞退したりといった奇行が目立つ。武術は習っていないので格闘面においての脅威は低いが、何をするのか分からない怖さがある要注意人物。
名前:一ノ瀬燈(二期生)
武術:忍術
危険度:S
ランキング6位。ヴァルキリーズ最強とウワサの忍者。第2回特別称号争奪戦・マラソン大会において、42.195kmを、2位以下を大きく引き離す2時間03分35秒というタイムで完走し、優勝した。ちなみにこれは、男子も含めたフルマラソンでの世界最高記録である(ただし、後に運営がコースの距離を測り間違えていたと発表)。体術面において圧倒的に優れており、元オリンピック体操金メダリストの方に、「余裕で金メダルが取れる」と言われたり、握力測定で100キロを超えるなど、数多くの伝説がある。ヴァルキリーズの全メンバーが一斉に戦っても、燈1人に勝てないと言われている。まともな格闘勝負なら圧倒的に要注意人物。
名前:藍沢エリ(二期生)
武術:剣道無段
危険度:SSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSSS……
ランキング3位。武術もできる白衣の天使。清楚なイメージをウリにしているが、それは世を忍ぶ仮の姿。非常に好戦的な性格をしており、売られたケンカは先輩後輩問わず買う。最大の武器は、相手の弱点を的確についた攻撃ならぬ口撃で、その口の悪さに再起不能に追い込まれたメンバーは数知れず。非常に執念深く、狙った相手は死んでも逃がさない。暴走するとキャプテンの由香里さんや最年長の若葉さんでも止めることはできない、大変危険な人物。
☆
…………。
自分で分析しておきながら、ブルーな気分になってきたな。こんなスゴイメンバー相手に、あたしなんかがどうやって戦うんだよ。あたしなんて、危険度で言えば、きっとE以下だぞ?
……いや、大丈夫だ。今大会は、単純な格闘勝負ではない。ゲームでは、各プレイヤーにそれぞれ異なる
ようやくステージ上に全48人のメンバーが揃い、会場は盛り上がりを取り戻した。司会者がメンバーに対して意気込みを訊く(もちろん、ランキング上位のメンバー数人だけで、あたしに話が振られることはなかったが)。
「それでは、メンバーの皆さんは準備をお願いします!」
司会者の言葉とともに、あたしたちは、ステージの奥へ進んだ。
ステージの奥にはメンバーの人数分のイスが並べられている。椅子の上にはヘッドギアのようなものが置かれていた。ボクシングなどのスパーリングで使われるものに似ているけど、機械類がたくさんつけられてあり、長いコードが伸びている。コードの先は、ゲーム機に繋がっているのだろう。
メンバーはヘッドギアを取ると、他のメンバーの顔色を窺いながら、みんな、恐る恐る頭にかぶり、そして、椅子に座った。
「間もなくVRMMOシステムを起動させます。システム起動後、約10分間、ルールの説明があり、それが終われば、ゲームスタートとなります。ゲームの様子は、ステージ中央のライブモニターにて随時流されます。それではみなさん! 良いゲームになることを祈っています! スタート!!」
司会者の言葉と同時に。
ヘッドギアが、低いモーター音を鳴らす。
その瞬間。
ステージ上のメンバーが消え、司会者が消え、観客が消え、ステージが消え、武闘館が消え。
そして、世界が消えた――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
TIPS 03:前園カスミの危険度分析表(簡易版)
01 神崎深雪 B ランキング4年連続1位。神撃のブリュンヒルデ。
02 本郷亜夕美 A ランキング4年連続2位。薙刀の達人。
03 藍沢エリ S×∞ 武術もできる白衣の天使。ヴァルキリーズで最も危険な人物。
04 遠野若葉 A ヴァルキリーズ最年長。
05 橘由香里 A ヴァルキリーズの頼れるキャプテン。
06 一ノ瀬燈 S チーム最強忍者。
07 桜美咲 A 妹系ゲームオタク。空手の達人。
08 水野七海 C 亜夕美さんの幼馴染。
09 篠崎遥 B 超マジメ人間。次世代キャプテン候補。
10 白川睦美 C
11 宮本理香 C
12 緋山瑞姫 S K大卒のインテリアイドル。VRMMOシステム製作者。
13 高杉夏樹 C
14 小橋真穂 C 怪我から復帰。努力家で苦労人。
15 夏川千恵 C
16 早海愛子 B ヴァルキリーズの問題児。柔道の有段者。
17 滝沢絵美 C
18 林田亜紀 C
19 栗原麻紀 C
20 藤沢菜央 D
21 白石さゆり C
22 吉岡紗代 B 美少女キックボクサー。キックボクシング元アマチュアチャンピオン。
23 沢田美樹 C
24 並木ちはる B ヴァルキリーズの問題児。マーシャル・アーツの使い手。
25 上原恵利子 C
26 沢井祭 D
27 倉田優樹 D
28 朝比奈真理 D 泣き虫。
29 本田由紀江 C メールマニア。
30 森野舞 B
99 前園カスミ -
99 宮野奈津美 C
99 大町ゆき C
99 秋庭薫 C
99 高倉直子 C
99 佐々本美優 D
99 鈴原玲子 D
99 山岸香美 D
99 根岸香奈 D
99 桜井ちひろ D
99 降矢可南子 D
99 浅倉綾 D
99 神野環 D
99 村山千穂 D
99 西門葵 D ピアニスト。
99 藤村椿 D
99 雨宮朱実 D
99 黒川麻央 D