ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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■ はじめに ■

 アイドル・ヴァルキリーズ・シリーズをお読みいただきありがとうございます。

 本来前書きとか後書きとかはあまり書かない主義なのですが、今作だけはどうしても書いておきたいことがあるので、失礼をさせていただきました。

 本作『VMO48~少女たちは、仮想現実世界の能力バトルでセンターポジションを目指す~』は、アイドル・ヴァルキリーズ・シリーズの第2章として執筆したモノです。登場人物は共通していますが、ストーリー的なつながりはほとんどなく、ジャンルも全く異なります。主人公も異なり、ゾンビやホラー要素は全くありません。もともとは単独で読める作品として執筆・連載していたのですが、登場人物があまりにも多く、「ZMB48」を読んでいないと理解することは難しいと判断し、統合することにしました。

 アイドル・ヴァルキリーズ・シリーズは、登場人物が48人以上と、非常に多い作品です。第1章では、各話に登場する主要人物を数人に絞ることにより混乱を回避する、という工夫をしていましたが、第2章にはそれがありません。さらには、48人のメンバー全員異なる特殊能力を持っており、書いてる作者自身でさえ、多すぎて訳が分からないという状況で執筆していました。恐らく、途中挿入される人物表や能力表を随時確認しながら読み進めていくという、非常に面倒なことをしなければならないと思います。この辺が今作最大の失敗で、反省すべき点だと思っています。今後執筆する作品では、なるべくこのようなことはしないように注意します(なるべく?)。

 もう1点。

 本作の途中には「TIPS」という、本編を補足する内容の設定資料のようなものを挿入しています。前述の登場人物表や能力表などですね。こういう設定資料などは、他の作者様の作品でもたまに見かけますが、作者の自己満足であることが多く、読み手にとっては地雷要素でしかないのは大いに理解しています。

 それでも、今作ではこのTIPSをあえて挿入しています。

 今作のTIPSは、作者の自己満足であることは否定できませんが(そもそも作品自体が自己満足の結晶でしかないのですが……)、TIPS内には伏線をたっぷりと仕込んでおり、作者の自己満足と思って適当に読み飛ばすと、途中からストーリーがよく分からなくなってくる可能性があります。

 さらに、多少のネタバレ覚悟で言ってしまうと、TIPSには、ひとつ、大きな仕掛けをしてあります。

 などと言うと、読み終わってガッカリさせてしまうと思うので、あまり期待しないでほしいのですが、私がこの作品で一番やりたかったことは、TIPSの方にあります。

 なので、なるべくTIPSは読み飛ばさないでください。また、TIPSには表やイラストなどが多くありますので、小説閲覧設定の挿絵表示を『有』にすることをオススメします。

 本来こういうことは書くべきではないと思うのですが、すでに連載を終えた『小説家になろう』の方では、83話更新、約38万文字投稿して、感想1件という、歴史的大惨敗となってしまいました(笑)。同じように投稿しても同じ失敗を繰り返すだけなので、失礼ながらもこのようなことを書かせていただいた次第です。

 では、できれば最後までお付き合いいただけるよう、祈っています。

(2014.08.11 Idol Valkyries Episode 2)



第2章・VMO48~少女たちは、仮想現実世界の能力バトルでセンターポジションを目指す~
夢のセンターポジション


『運も実力のうち』という言葉がある。

 

 この世界には、運に恵まれている人と、恵まれていない人がいる。運に恵まれている人とは、運を呼び込んでいる人であり、それも、本人の才能の1つ、という考え方である。

 

 だったらあたしには、実力があるというのだろうか?

 

 とてもそうは思えない。

 

 あたしは今、運だけでここにいる。それがあたしの実力だというのなら、今、こんなにプレッシャーを感じるはずがないように思う。

 

 ――あたしに、このステージに立つ資格があるの?

 

 アイドルとしてデビューして、まだ1年にも満たない。あたしよりも実力がある人は、経験のある人は、人気のある人は、他にたくさんいる。あたしなんてまだまだひよっこだ。それなのに、このステージに立つ資格があるのだろうか? 運がいい――ただそれだけの理由で。

 

 心臓が、まるでフルマラソンを終えた後のように、激しい鼓動を繰り返している。手のひらにはじっとりと汗をかき、喉はからからに乾いていた。こんな状態で、本当にステージに立てるのだろうか? こんな状態で、本当に踊れるのだろうか? こんな状態で、本当に歌えるのだろうか?

 

 時計を見ると、1時55分。開演5分前だ。目の前には、木の板を組み合わせただけの飾りっ気のない階段十数段のその階段を登った先には、この舞台裏とは別世界の、豪華に飾り付けがされたステージがあり、さらにその先には、あたしたちのパフォーマンスを見るために集まってくれた、何百人という人たちが、開演を待ちわびている。彼らの息づかいが、ざわめきが、期待感が、ここまで聞こえてくる。

 

 だからこそ。

 

 ――あたしに、このステージに立つ資格があるの?

 

 さっきから何度も繰り返し胸の内に浮かぶ疑問。

 

 答えてくれる人を探し、周囲を見回す。

 

 薄暗い舞台裏には、あたし以外のメンバー47人が、開演の準備を進めている。準備運動をする人、発声練習をする人、お喋りをする人、ただじっとして集中力を高めている人。全員が、開演前の緊張を感じている。しかしそれは、恐らく、あたしより小さいだろう。この中で一番緊張しているのは、間違いなくあたしだ。

 

 ――あたしに、このステージに立つ資格があるの?

 

 問いかけようとしたけど、声が出なかった。それほどのプレッシャーが、今、あたしにのしかかっている。

 

 開演3分前。

 

「ようし! みんな、集まって!」

 

 キャプテンがパンパンと手を叩く。皆、それぞれしていたことを中断し、集まった。

 

 でも。

 

 あたしは、動けない。

 

 声も出ない。

 

 まるで、全身が石になってしまったような、そんな感覚。

 

 キャプテンが、立ち尽くすあたしに気づいた。

 

 ふふ、と、小さく笑い。

 

 こちらへ歩いてくる。

 

 そして、両手で、むにゅ、と、あたしの顔を挟んだ。

 

「どうしたの? もしかして、プレッシャーを感じてる?」

 

 笑顔で言う。

 

 あたしは、わずかに首を縦に動かした。それしかできなかった。

 

「そう――それは、いいことね」わしゃわしゃと頭をなでられる。

 

 プレッシャーを感じているのがいいこと? どうしてだろう?

 

 キャプテンは答える。「プレッシャーを感じるということは、それだけ、このステージの重みを理解しているということよ。ステージを軽く見ている人に、歌う資格は無いわ。あなたは、このステージに立つ資格がある」

 

 ――あたしに、ステージに立つ資格が、ある。

 

 その言葉は、石の身体を癒す魔法の言葉だった。

 

 キャプテンは言葉を継ぐ。「あなたにとって、これは初めての経験でしょう。プレッシャーを感じるのも当然だわ。でも、あまり深く考えすぎないことね。あなたはいつも通りやりなさい。あなたの後ろには、あたしが――あたしたちみんながいる。もし何か失敗しても、みんながあなたをフォローする。仲間を信じて、全力でやりなさい。できるわよね?」

 

 キャプテンの、優しい笑顔。

 

 そして、そのキャプテンの後ろには。

 

 メンバー全員が、同じく、優しい笑顔で、あたしを見ていた。

 

 そうだ。あたしは、1人じゃない。みんながいる。

 

 あたしの身体は、動き始める。

 

「――はい!!」

 

 声も出る。

 

「よし。いい()ね」

 

 キャプテンはもう一度あたしの頭をなでると、振り返り、メンバー1人1人の顔を確認するように、ぐるっと見回した。「――もうすぐ開演です。今言った通り、これは、あたしたちヴァルキリーズにとって、経験したことのないステージとなります。でも、どんなステージであろうとも、あたしたちのやることは変わりません。最高の歌を歌い、最高のダンスをし、最高の演技をし、最高のパフォーマンスで、お客様に楽しんでもらう! そのために! まずあたしたちがこの舞台を楽しみましょう!!」

 

 キャプテンの言葉に、全員で、「はい!!」と応える。

 

 開演時間になった。

 

 メンバーが、順番に階段を駆け上がり、舞台上へ出て行く。

 

 普通ならば、あたしは真っ先に舞台上に駆け出し、中央からかなりはずれた、目立たない後列の端の方に立つのだけど。

 

 今日は――今日だけは、違う。

 

 みんなが階段を駆け上がって行くのを、あたしは見送る。

 

 ドクン、と、また、心臓が大きく鳴った。ダメだ。また動けなくなる――そう思った時。

 

 ぽん、と、あたしの肩に、手が置かれた。キャプテンだった。

 

「じゃあ、舞台を楽しみなさい!」

 

 力強い言葉。

 

 ――舞台を楽しむ。

 

 それは、開演前にキャプテンが必ず言っている言葉だ。

 

 固まりかけていた身体が、また動き出す。

 

 あたしは、大きく、「はい!!」と、応えた。

 

 キャプテンはもう1度ほほ笑み、階段を駆け上がった。

 

 そして、メンバー全員が舞台に上がり、一番最後に。

 

 ――よし。

 

 あたしも、階段を上がる。

 

 薄暗い舞台裏とは正反対の、眩しいライトが照らす舞台上に、立つ。

 

 その瞬間、会場の歓声が、ひときわ大きくなった。

 

 その、あまりの大きさに、思わず怯んでしまいそうになる。

 

 でも、メンバー全員があたしの方を向き。

 

 ――さあ、みんなの前に立って。

 

 優しい目で、笑顔で、あたしを促した。

 

 あたしは、ゆっくりと前に進む。

 

 今日、あたしが立つ位置は、踊る所は、歌う場所は。

 

 いつもの、後列ではない。

 

 あたしは、舞台の中央、最前列に立った。

 

 ここが、あたしの今日のポジション。

 

 あたしの前には、誰もいない。

 

 あたしの後ろに、メンバー47人がいる。

 

 観客の視線が、拍手が、歓声が。

 

 全て、あたしに注がれているのだ。

 

 ステージ上に、音楽が鳴り響く。

 

 この日のために書き下ろされた新曲、「きまぐれ女神のほほ笑み」だ。今日のコンサートは、これを披露する場でもある。

 

 

 

    気まぐれな女神が君に微笑んだ

 

        チャンスは今だ さあ 走り出そう

 

 

 

 あたしは、観客の声に応えるように。

 

 歌い、そして、踊った。

 

 この曲の主役は、今日の主役は。

 

 

 

 あたしなのだ――。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ――――。

 

 ――ミ。

 

 ――カスミ。

 

 

 

「――カスミ!!」

 

 

 

 キャプテンの、怒鳴り声で。

 

 

 

 あたしは、まどろみの世界から引き戻された――。

 

 

 

 

 

 


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