ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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Day 6 #01

 ステージ上に設置された大型のモニターには、リング上で睨み合う二人のヴァルキリーズメンバーの姿が映されていた。

 

 一人は、橘由香里。言わずと知れた、アイドル・ヴァルキリーズのメンバー全四十八名を束ねるキャプテン。

 

 もう一人は、篠崎遥。三期生ながら、その真面目な性格がファンの心をつかみ、最近注目を集めている若手メンバーの一人だ。

 

 リングが設置されたスタジオには、二人以外の姿は無い。数台の無人カメラが設置されているだけだ。その映像を、別室で見守るあたしたちヴァルキリーズのメンバーと、ファンのみんな。あたしたちの声は、決してあの二人に届かない。そこは、二人だけの対決の場。それはまるで、プロレスラー・アントニオ猪樹VS.マサ斉東の巌流島の戦いを彷彿とさせる、無観客試合だ。

 

 長かったこの二人の対決も、もうすぐ決着がつくことは、誰の目にも明らかだった。勝負は次の一撃で決まる。あとは、どちらの攻撃が先にヒットするか、である。

 

 先に動いたのは――遥だった。

 

 由香里はただ、じっと待つ。

 

 遥の攻撃がヒットすれば、その瞬間、遥の勝利は確定する。しかし、由香里が遥の攻撃をかわせば、次の由香里の攻撃で、遥はリングに沈むだろう。両者ともに、二撃目は無い。

 

 遥の攻撃だ。

 

 遥は、ゆっくりとした口調で言った。「――『緑グモ・桃グモ・青グモ』」

 

 その瞬間。

 

 モニターを見つめるあたしたち全員、同時に息を飲んだ。

 

 遥の攻撃は、ヒットしたのだろうか?

 

 見守るしかない。

 

 モニターに、由香里の顔が映し出される。表情は変わらない。無言で遥の言葉を聞き、遥の言葉をかみしめるように、遥を見つめる。

 

 重苦しい沈黙が続く。遥の攻撃がヒットしたのか、しなかったのか。それは、由香里にしか分からない。由香里は表情を変えない。息が詰まる。そのまま窒息してしまいそうだ。永遠とも思える静寂が続く。そして――。

 

 由香里の表情が緩んだ。

 

 それは、勝利を確信した笑み――ではなかった。

 

 敗北を認めた顔だ。

 

 由香里は、悔しさをにじませながらも、どこか納得したような声で言った。「……3イートよ」

 

 その瞬間。

 

 大型モニターを見つめるあたしたちの沈黙は破られ。

 

 大きな、大きな、拍手と歓声が、スタジオを包み込んだ。

 

 3イート――それは、由香里が敗北を認めた証。実に7ターンにも及んだ長い長い決戦は、後手・篠崎遥の勝利を持って、幕を下ろしたのだった。

 

「ウイイイイィィィナアアアァァァ!! ハアアアルルルルルルルルルルカアアァァァ、シィノザアアアアアアアアアアアァァァァキイイイィィィィ!!」

 

 総合格闘技大会の選手入場コールで有名な外国人ナレーターが、独特の抑揚と巻き舌で勝者の名前をコールする。モニターに映し出された遥の顔に、ようやく笑顔が浮かんだ。由香里が右手を差し出した。遥は両手で握り返すと、深く、深く、頭を下げた。健闘を称え合う二人に、モニタースタジオからは惜しみない拍手が贈られた。

 

 さっきから何をしているのかと言うと。

 

 今日は、年に一度行われるアイドル・ヴァルキリーズ目玉イベントの一つ、『特別称号争奪戦』の日なのだ。

 

 称号争奪戦と言えば、毎年四月に、ファンの投票によって決まるランキングがある。上位九名には称号が与えられ、ヴァルキリーズのステージ上でのポジションを決める意味もある重要なイベントだ。当然1位の娘が最前列中央だし、上位の娘ほど前の方へ配置されるのだ。

 

 これとは別に、そのランキングを完全に無視し、全く別の方法でポジションを決める大会がある。

 

 それが、毎年秋に行われる『特別称号争奪戦』だ。優勝者には、“ブリュンヒルデ”や“ロスヴァイセ”など、通常の称号とは別の、全く異なる称号が与えられ、そして、この大会の結果を元に、次のシングル曲が作られるのである。普段はあまり注目されないメンバーに突然スポットライトが当たることもあり、正規のランキング同様、ヴァルキリーズの一大イベントとなっている。

 

 二年前から始まったこのイベントは、毎年異なる内容で行われている。最初の年は、完全に運だけで決めようということで、くじ引きによって決められた。去年は体力勝負になり、マラソンが行われた。いずれも通常のランキングとは異なるメンバーが勝ち残り、大いに盛り上がった。

 

 そして今年。

 

“運”、“体力”、とくれば、当然次は“知力”となる。そこで企画されたのが、この、頭脳ゲームによる対決である。相手が配置したクモの色と位置を予想し、先に当てた方が勝利となるゲームだ。もともとは『マスターマインド』という、イギリスの古いボードゲームから来ているらしい。オリジナルでは、色分けされたピンや数字などを使用しているそうだけど、この大会ではクモの模型を使用することから、『スパイダー・マスターマインド』と呼ばれている。

 

 各プレイヤーには、黒・赤・青・緑・茶・紫・黄・桃・灰・白の十色のクモの模型が渡される。それを、A・B・Cの三ヶ所に一体ずつ配置。ジャンケンで先手と後手を決めたらゲームスタート。先手は相手のクモの色と配置を予想し、コールする。後手はコール内容を判定するのだけれど、この時、クモの色と配置場所の両方が合っている場合は「イート(食べる)」、クモの色は合っているけど配置場所が違う場合は「キャッチ(捕まえる)」と答える。例えば、Aに黒、Bに赤、Cに青と配置し、相手が黒・白・赤とコールした場合、Aの黒は色も配置も合っていて、Bの赤は色が合っているけど配置場所が違うので「1イート1キャッチ」という回答になる。これを交互に繰り返し、先に相手のクモの色と配置場所をすべて当てる「3イート」を達成した方の勝利となるのだ。

 

 モニタースタジオのステージ上に、遥と由香里が戻って来た。ステージの下の席で観覧するあたしたちヴァルキリーズのメンバーと、その後ろの、今回のイベントを見るために集まってくれたファンのみんなは、割れんばかりの拍手で二人を迎えた。笑顔で大きく手を振って応える由香里と、恐縮そうに頭を下げる遥。どっちが勝者なのか分からない登場だ。まあ、控えめな遥らしいと言えばらしいけどね。

 

 ステージ中央に、遥と由香里、そして、司会の人が立った。もう一度、大きな拍手が贈られる。

 

「遥さん、おめでとうございます!」司会者がマイクを向ける。遥は、ありがとうございます、と短く言って、そして、みんなに向かって深く頭を下げた。

 

「かなり長い試合になりましたけど、いかがでしたか?」

 

「そうですね……なかなか絞り込めなくて、少し焦りましたけど、最後に当てることができて、良かったです」

 

「キャプテンの由香里さんを倒しました。これで、次のキャプテンは、遥さんということですか?」

 

 司会者のその言葉で、ファンの間から、おお、と、小さなどよめきが生まれた。

 

 アイドル・ヴァルキリーズも、もうすぐ結成五年となる。一期生で最年長でもあるあたしや由香里は、常に卒業が噂されるメンバーになった。しかし、あたしはともかく、ヴァルキリーズのキャプテンである由香里は、後継者がいないことには卒業なんてできるはずもない。現時点で由香里ほどリーダーシップを取れる娘はいない。次のキャプテン候補の登場は、ファンの間では高い関心事となっている。ここで遥が名乗りを上げれば、遥にキャプテンの適性があるかは別として、結構盛り上がるんだけどな。

 

 しかし、遥は。

 

「いえ。これはそういう大会じゃありませんし、あたしなんて、キャプテンの器じゃありません」

 

 思わず「マジメか!!」とツッコミたくなるような回答だ。まあ、真面目なんだからしょうがないけど。ここは「時は来た……それだけだ」とか言って、世代交代宣言をした方が、お客さんも喜ぶのに。みんなも、遥の面白みのない回答に苦笑いするしかない。

 

 続いて司会者は、由香里にマイクを向ける。「由香里さん、惜しい試合でした」

 

「はい。遥の配置は絞り込めてたんで、最後に遥が外してくれさえすれば、あたしの勝ちだったんです。最後の最後で、運が味方してくれませんでした」

 

「若い力の勢いを感じましたか?」

 

「そうですね。遥は今ノってますし、来年四月の第五回ランキングでの称号獲得が期待されてますけど……マジメなのはいいんですけど、真面目すぎるのが欠点ですよね。今の勝利者インタビューも、全然面白いこと言わなかったでしょ? そういうところが、まだまだだなって思うんですよ。普段はこんなんじゃないんですよ? 同期のメンバーとはすごく気さくに話してますし……たぶん、先輩に遠慮しちゃってるんじゃないのかな? それじゃダメだよ。あたしたちを喰うくらいつもりで来ないと、上には上がれないよ? この前のテレビの収録の時もさ――」

 

 長々と話し始める由香里。視線は客席ではなく、遥の方を向いている。遥も遥で、先輩の、それもキャプテンの言葉を胸に刻みつけるかのように、真剣なまなざしを由香里に向け、話を聞いている。完全にイベントであることを忘れたような雰囲気だ。

 

「すみません、本気のダメ出しは楽屋でやってもらっていいですか?」

 

 司会者の言葉で、スタジオはどっと笑いに包まれた。由香里は、てへぺろという感じで舌を出して笑った。場の空気を操るのがウマイ。遥の真面目すぎる回答で少し盛り下がったスタジオを、再び沸かせ直した。

 

「――それでは、激闘を終えた二人に、もう一度、盛大な拍手をお願いします!!」

 

 司会者の言葉と同時に、スタジオは拍手と歓声に包まれた。手を振ってみんなに応えながら、遥と由香里はステージ裏へと下がった。

 

 二人の姿が消え、やがて、拍手も鳴りやむ。その瞬間、スタジオの照明が落ち、真っ暗となった。

 

 しばらくして、ステージ上の司会者にライトが当てられた。

 

「――さて、アイドル・ヴァルキリーズ・第三回特別称号争奪戦。全四十八名で始まった今大会も、残すところ一試合となりました――」

 

 静かな口調で語る。

 

 そう。大いに盛り上がった遥と由香里の試合だけど、今の一戦は、三位決定戦だ。本当の勝者は、次の試合で決まる。すなわち決勝戦。このゲームを制した娘が、年末に発売されるCDシングル曲の、最前列中央――毎回深雪が立っている、ヴァルキリーズの最高の栄誉である『ブリュンヒルデ』の位置に立つことができるのだ。

 

「それでは、激戦を制し、この決勝戦にコマを進めた選手の入場です!!」

 

 司会者の声と同時に。

 

 ライトが消え、スタジオは、再び漆黒に包まれた。

 

 しばらくの静寂の後、スタジオ内に、闘争心を湧き上がらせる曲が流れる。某総合格闘技大会のテーマ曲だ。同時に、赤や青、黄色など、色とりどりのライトが入り乱れて飛びまわった。まるでクラブのような雰囲気。

 

 ステージの奥にある階段の頂点にスポットライトが当たった。床がゆっくりとせり上がり、決勝戦に残った選手が、ゆっくりと姿を見せた。名前がコールされる。

 

「ミイィズウゥキイィ、ヒイィヤアアアアアアアアアアァァァァァマアアアアアアァァァァァ!!」

 

 爆音とともに、階段の両脇に設置された花火が火を噴いた。瑞姫は、優雅な足取りで階段を下りる。

 

 緋山瑞姫。日本の大学ランキングで上位に入るK大学を卒業、さらに看護資格も持っており、ヴァルキリーズでただ一人、『ウィザード』のクラスに属している娘だ。世間ではインテリアイドルと呼ばれ、最近はクイズ番組や情報番組、政治などの討論番組に次々と出演し、大人気となっている。文句なく、今回の大会の優勝候補の筆頭だ。と、言うよりも、この頭脳系ゲームでの大会開催が決まった時点で、正直、瑞姫以外の優勝は考えられなかった。あたしだけでなく、メンバーも、ファンのみんなも、ほとんどがそう考えたに違いない。ヴァルキリーズのメンバーの中には、瑞姫同様大学を卒業した娘も少ないながらもいるし、現在大学に通っている娘もいる。三位決定戦の由香里や遥がそうだ。しかし、ほとんどの娘は体育会系の大学で、勉強の方はあまり得意ではない。同じ大学卒業でも、頭の良さという点に関しては、瑞姫はレベルが違いすぎるのだ。事実、瑞姫はここまで、圧倒的な強さを見せつけて勝ち上がってきた。

 

 しかし。

 

 このまま瑞姫がすんなり優勝するのか、と言えば、決してそうではない。

 

 階段上に、再びスポットライトが当たる。もう一人の決勝進出者の入場だ。その瞬間、スタジオ内は瑞姫の入場時以上の盛り上がりを見せる。

 

 大会開催前、優勝候補として大学卒業者や在学中の娘の名前が上がる中、高卒のその娘は、全く注目されていなかった。しかし、並み居る強豪を次々と破り、ついに、決勝までコマを進めた。完全なダークホースだけど、残ってみれば、誰もが、「ああ、なるほど」と納得したのだ。

 

 スタジオ内に、名前が響き渡る。

 

「エエエエエエエェェェェェルルルルルルルルイイイイイイィィィィ、アイザアアアアアアァァァァァワアアアアァァァァァァァ!!」

 

 階段上に、エリがゆっくりと姿を見せる。同時に階段横の花火が火を噴くけれど、その音は大歓声にかき消された。

 

 藍沢エリ。メンバー内で初めて看護資格を取得し、瑞姫同様、ヴァルキリーズでただ一人『シルバーナイト』のクラスに属している。ファンの間では「武術もできる白衣の天使」と言われ、現在ヴァルキリーズで最も注目されている娘だ。決して高学歴ではないエリだけど、勝ち残るのも当然と言えた。高卒で看護資格を取ったくらいだから、高学歴ではないにしても、頭は良いのだろう。そして、機転の早さは天下一品だ。エリと仲が悪い一期生の早海愛子や並木ちはるなんかが、彼女のことをよく「計算高い女」と言っている。悪口だから感心できることではないけれど、正直に言うと、あたしもこれは間違っていないと思う。エリ自身も否定はしていない。そう。瑞姫がヴァルキリーズで最も賢い女なら、エリは、ヴァルキリーズで最もズル賢い女なのだ。

 

 ゆっくりとした足取りで階段を下りるエリ。ステージ上で、瑞姫と見つめ合う。どちらかともなく手を差し出し、握手を交わした。音楽がやみ、スタジオ内は再び明るくなる。ステージ上の二人に、再び盛大な拍手と歓声が贈られた。

 

「――さて、瑞姫さん」司会者が瑞姫にマイクを向ける。「圧倒的な優勝候補ということで、ここまで勝ち上がってきましたが、決勝戦を前にして、どうですか?」

 

「そうですね……相手がエリなのは、正直予想外でしたけど、まあ、誰であろうと、結果は変わりません。頭脳戦なら、あたしは他の誰にも負ける気はありません」

 

 瑞姫の言葉に、観客は、おお、と、どよめいた。反感を買うことも多いけど、あの上から目線の言動こそ瑞姫のキャラで、人気の理由の一つだ。

 

 続いて、司会者はエリにマイクを向ける。「エリさん。まったくノーマークだったにもかかわらず、ここまで勝ち残ってきました。今回はまさしく最強の相手と言えそうですが、どうでしょう?」

 

「はい。瑞姫さんは間違いなく、ヴァルキリーズでは最も頭のいい人です。でも、これが学校のテストとかだったら、圧倒的に瑞姫さんの勝利でしょうけど、『スパイダー・マスターマインド』は、単純に頭の良さを競うゲームではないと思ってます。あたしにも十分勝機があると思いますよ?」

 

 エリの言葉に、会場は再びどよめく。試合前の舌戦は、五分五分と言ったところだろうか。観客の期待感が、徐々に上がって行くのが分かった。

 

「――それでは、お二人は、別室の特設リングの方へ移動してください」

 

 瑞姫とエリは、ファンの歓声に手を振って応えながら、ステージ奥へと下がった。

 

 ゲームは、さっき由香里と遥が戦った、別室の特設リング上で行われ、その模様は、ステージ上の大型モニターで中継される。リングがある部屋には対戦者以外はいない。スタジオの声も届かない。完全に、一対一の勝負だ。

 

 モニターに瑞姫とエリの姿が映った。順番にリングインする。リングの中央にはテーブルが一台とイスが二脚。テーブルは真ん中についたてが立っていて、左側が瑞姫、右側がエリの陣地だ。それぞれ、A・B・Cと書かれてあり、その横には、色の違う十匹のクモの模型が置かれてある。

 

 二人がテーブルに着いた。

 

 モニターには、大きく、エリのテーブルの様子が映し出された。A・B・Cと書かれた場所に、エリはクモの模型を配置していく。Aに紫グモ、Bに赤グモ、そして、迷った挙句――あるいはそれも、相手を惑わす戦略の一つか――最後に緑グモを配置した。

 

 対する瑞姫のテーブルは映らない。見ている人もゲームに参加できるようにするためだ。

 

「お? 今から始まるところだね。良かった。間に合ったよ」

 

 あたしの隣の席に、さっきゲームを終えたばかりの由香里が座った。

 

「おつかれ、由香里。残念だったね」

 

「そうだね。ま、しょうがないよ。最後は運任せだったし。でもまあ、あたしみたいな古参メンバーが残るより、遥みたいな若い娘が残った方が、イベントとしては盛り上がるでしょ」

 

 確かにそうだな。ここで一期生が中心に勝ち残ったら、普段のランキングとあまり変わりない。幸いと言うかなんと言うか、あたしたち一期生は、ほぼ全員、一回戦で姿を消した。かろうじて由香里と七海がベスト8に残っただけだ。まあ、一期生は体育会系の娘が殆んどだから、当然と言えば当然だ。

 

 モニターを見る。クモの配置を終えたエリは、続いて、アイテムカードを配置する。

 

 アイテムカードとは、プレイヤーがコールする前に使用することで、特別な効果が得られるカードだ。全六種類ある中から二枚を選び、これは、相手に公開しなければいけない。エリが選んだカードは、『配置変更』と『あぶり出し』だった。

 

『配置変更』とは、文字通り、クモの配置を変更するためのアイテムである。相手がクモの配置を絞り込んだときに使う防御系アイテムである。

 

『あぶり出し』は、2ターン目から使用可能になる攻撃系カードで、前のターンでイートやキャッチしたクモの色を聞くことができるアイテムである。しかし、その代償として、自分の配置したクモの場所と色を一つ明かさなければならない。強力だけど使いどころが難しいアイテムだ。

 

 続いて、瑞姫がアイテムカードを公開する。瑞姫が選んだカードは、クモの属性を特定する攻撃カード『属性特定』と、連続で二回コールできる『連続』だ。

 

 準備が整い、いよいよ、ゲーム開始だ。事前にジャンケンが行われており、先手は瑞姫だ。

 

「『属性特定』を使用します」

 

 おっと。瑞姫、いきなり『属性特定』を使用か。

 

『属性特定』とは、使用しているクモの属性を特定することができる攻撃カードである。クモは、『黒・赤・青・緑・茶』を黒グモ属、『紫・黄・桃・灰・白』を白グモ属として、二種類の属性に分けられている。『属性特定』を使用すると、それぞれの場所に配置してあるクモの属性を知ることができるのだ。

 

「えーっと……白グモ属、黒グモ属、黒グモ属です」エリは、落ち着いた口調で答えた。『属性特定』を使用するのは予想済み、と言わんばかりだ。

 

「いろいろ使い方はあるけど、『属性特定』は、1ターン目から使うのが基本だからね」隣の席の由香里が言う。「何もない状態から始めると、推理すべき配置の組み合わせは途方もない数になるけど、属性が分かるだけで、かなり絞り込むことができるからね」

 

 なるほど。さすがはベスト4。よくゲームのことを研究しているな。

 

 続いて、瑞姫のコールである。

 

 瑞姫は、不敵な笑みを浮かべながらエリの表情を窺い、そして言った。「じゃあ……『黄グモ・緑グモ・青グモ』で」

 

 瑞姫のコールを聞いたエリは、表情を崩さずに応える。「えーっと……0イート1キャッチです」

 

 エリの回答と同時に、由香里はノートの上にペンを走らせる。『黄・緑・青  0-1』。観覧している他のメンバーも、ほとんどの娘が同様にメモを取っている。

 

 スパイダー・マスターマインドは、与えられた情報をいかに正確に整理できるかが勝利のカギとなる。そのため、メモを取るのは必須の作業なのだ。

 

 しかし、当の瑞姫は、エリの回答を聞いても、メモを取るそぶりを見せなかった。そもそも彼女は、紙もペンも持っていない。もちろん、うっかり忘れてきたというわけではない。恐ろしいことに、瑞姫はこの大会において、一切メモを取ることなく、ここまで勝ち上がってきたのだ。この程度ならメモなど取らなくても整理できる、ということなのだろう。これこそが、瑞姫が圧倒的な優勝候補と言われる理由だ。

 

 ちなみに、あたしもメモは取っていない。もちろんそれは、メモしなくても分かる、というわけではない。瑞姫とは全くの反対で、メモをしても分からないから取らないのだ。

 

「0イート1キャッチか……瑞姫、出足はよくないわね」由香里がつぶやいた。

 

「そうなの?」と、あたし。

 

「ええ。0イート1キャッチは、コールしたクモの一匹がどこかに配置されているということで、一般的に、最もクモの特定が難しい回答とされているの。『属性特定』で、蜘蛛の属性は分かったから、1ターン目としてはかなりエリの配置を絞れた方だけど……エリにしてみれば、一安心というところだね」

 

 ナルホド。そう言われてみたら、エリの表情は、なんとなく、にやりと笑ってるようにも見える。

 

 続いて、エリのコールだ。

 

「では……『紫グモ・茶グモ・黒グモ』で、お願いします」

 

 そのコールに、瑞姫は表情を変えずに応えた。「……1イート1キャッチね」

 

 おお。一手目から1イート1キャッチって、かなり良くないか? 心なしか、メモを取るエリの手も軽いように見える。

 

「エリ、運がいいわね」と、由香里も言った。

 

 試合前にエリが言った通り、この『スパイダー・マスターマインド』は、単純な頭脳戦ではない。相手の心理を読み取る力と、相手に自分の心理を読ませない力、いわゆる心理戦の要素も極めて高い。そして、運の要素も決して低くは無いのだ。大会前は注目もされなかったエリがここまで勝ち残ったのは、これらの要素が絡んだ結果だ。

 

「これで、エリがコールしたクモのうち、二匹は使われていることが確定して、その内一匹は場所も合っている。しかもエリは『あぶり出し』のカードを持っている。次のターンで使えば、勝利はかなり近づくわね」由香里が言った。

 

『あぶり出し』は、直前のターンでイートやキャッチしたクモの色を聞くことができるカードである。当然イートやキャッチが多いターンの後に使用すれば、その分効果も高い。しかし、使用の代償として、自分の配置したクモの場所と色を一つ明かさなければならない。そのため、使いどころを間違えれば自分の首を絞めることになる。1ターン目の1イート1キャッチなら、まさに使いどころなのだろう。

 

 続いて、瑞姫のターンだ。

 

「……『紫グモ・茶グモ・黒グモ』」

 

 一瞬、エリの表情が曇った。

 

 それもそのはず。瑞姫がコールしたのは、前のターンでエリがコールしたものと全く同じだからだ。瑞姫、何を考えているのだろう。表情を見るけれど、全く無表情だ。何を考えているのか分からない。

 

 もちろん、何かあると思わせて、何も無い、ということもある。考えすぎは厳禁だろう。エリもそう思い直したのか、表情を元に戻した。

 

「……1イート0キャッチです」

 

 1イート0キャッチ。コールしたクモのうちの1匹が、名前も場所も合っているということだ。1ターン目の0イート1キャッチよりはましだけど、それでもまだ、エリのリードは変わらないだろう。

 

 続いて、エリのターンだ。エリはいつものおすまし顔で言う。「『あぶり出し』を使います」

 

 やはり、由香里の予想通り、『あぶり出し』を使ってきたか。これで、瑞姫は前ターンで答えた1イート1キャッチのクモの色を教えなければいけなくなった。

 

「『黒グモ・紫グモ』よ」瑞姫の顔が、少し悔しそうに見えた。

 

「これで、エリはかなり絞れたわね」由香里がペンを走らせながら解説する。「1ターン目のエリのコールは『紫グモ・茶グモ・黒グモ』で、1イート1キャッチ。『あぶり出し』で、黒グモと紫グモの使用が確定したから、茶グモは使われていないことになる。つまり組み合わせは、『紫グモ・黒グモ・?』か『?・紫グモ・黒グモ』になるわね」

 

 ……まあ、解説されてもあたしにはよく分からないけれど、由香里が言うのだからそうなのだろう。

 

 続いてエリは、自分の配置したクモの場所と色を一つ明かさなければいけない。「えーっと……Bが赤です」

 

 これで、瑞姫はクモの配置と色を一ヶ所確定させたけれど、それでもまだエリのリードは変わらないだろう。

 

 カードの使用を終えたエリは、続いて2ターン目のコールに入る。「『赤グモ・青グモ・緑グモ』は、どうですか?」

 

 うん? さっき由香里は、『紫グモ・黒グモ・?』か『?・紫グモ・黒グモ』になるって言ったのに、なんであえて外してきたんだろ? エリ、混乱してるのかな?

 

「……違うわよ」と、由香里が言う。どうやら表情を読まれたらしい。「『?』に一匹ずつあてはめていくのは効率が悪いから、使用が確定していないクモをまとめてコールことで、どのクモが最後の一匹か確定させる狙いなのよ」

 

「へえ、そうなんだ」よく分からないので適当に相槌を打っておくあたし。

 

 エリのコールに対し、瑞姫の答えは。「1イート0キャッチよ」

 

 それを聞いて、エリは、瑞姫から見えない位置で小さくガッツポーズをした。勝利は近いのだろうか? まだ2ターン目なのに、大丈夫かな?

 

「やったわね」と、由香里も言う「これでエリは次のターン、二分の一の確率で当てられる」

 

「そうなの?」

 

「ええ。『1イート0キャッチ』ということは、コールした『赤グモ・青グモ・緑グモ』のうち、一匹の名前と場所が確定しているということ。これに、さっき『あぶり出し』で確定させた『紫グモ・黒グモ・?』と『?・紫グモ・黒グモ』を組み合わせれば、瑞姫の配置は、『紫グモ・黒グモ・緑グモ』か『赤グモ・紫グモ・黒グモ』の、どちらかということになるわ」

 

 ……ナルホド。分からん。

 

 まあ要するに、エリは次のターンか、最低でも次の次のターンで当てることができるというわけだ。たった3ターンで勝利を決めるなんて、スゴイな。

 

 と、後ろから。

 

「――だとしたら、エリ、マズイですね」

 

 そう言ったのは、エリと同じ二期生・忍者の一ノ瀬燈だった。

 

「……どういうこと?」由香里が不思議そうな顔で訊いた。

 

「瑞姫さん、たぶん三択の段階まで行ってると思いますよ?」

 

 へ? 瑞姫が三択の段階まで行ってる? そうなの?

 

 由香里を見る。目を丸くして驚いていたけれど、すぐに何かに気づき、ものすごい勢いで、紙にペンを走らせ、そして言った。「そうか! そうだよ! 『あぶり出し』の効果で、エリのBは赤に確定した。つまりエリの配置は『?・赤・?』になる。これに2ターン目にコールした1イート0キャッチの『紫・茶・黒』を合わせると、エリの配置は『紫・赤・?』か『?・赤・黒』になる。『?』に入るのは1ターン目にコールした0イート1キャッチの『黄・緑・青』のどれか。でも、属性確定があるから、Aには白属、Cには黒属しか入らない。だから、『紫・赤・青』『紫・赤・緑』『黄・赤・黒』の三択になるんだ!」

 

 あーあ。なんか、お腹減ったなぁ。お仕事が終わったら、美咲を誘って、ラーメンでも食べに行こうかな。

 

「しかも瑞姫は、『連続』のカードを持っている。これを使えば、確率は三分の二。瑞姫の方が圧倒的に有利だよ……」

 

 うーん。ラーメンもいいけど、たまには変わったものを食べたいな。そうだ。最近テレビなんかでウワサになっているB級グルメ、「焼豚玉子飯」なんてどうだろう? その名の通り、ご飯の上に焼豚と目玉焼きを乗せて、タレを絡めて食べる丼ぶりものだ。確か、愛媛の今治という街発祥の料理だ。あそこのゆるキャラのヴァリィさんが、また可愛いんだよな。どこか、この近くで食べられるところは無いかな? 後でケータイで検索してみよう。

 

 などと現実逃避をしている間に。

 

 瑞姫のターンとなった。

 

「『連続』を使用します」

 

 あたしが現実逃避をしている間に由香里が言った通り、瑞姫は『連続』のカードを使った。

 

『連続』のカードは、1ターンに二回コールできるようになるカードである。由香里の言う通りならば、これで瑞姫は三分の二の確率で勝利することができる。

 

 エリの表情は変わらない。たぶん、自分がそこまで追い詰められていることに気が付いていないのだろう。

 

 瑞姫は勝利を確信したかのように、最初のコールをする。

 

「『紫グモ・赤グモ・緑グモ』」

 

 その瞬間。

 

 エリは、信じられない、といった表情で、瑞姫を見つめた。

 

 瑞姫のコールしたクモは、名前も、配置も、完璧に、エリの設定した通りだった。つまり――。

 

「……3イートです」

 

 3イート。それは、敗北宣言に他ならない。

 

 エリが、敗北を宣言した。

 

 この瞬間。

 

 第3回特別称号争奪戦・スパイダー・マスターマインド決戦。アイドル・ヴァルキリーズ全四十八人の頂点に立ったのは、インテリアイドル・緋山瑞姫となったのである。

 

 勝者の名がコールされ、勝利を祝うファンファーレが鳴り響く。パンパンパン! と、乾いた発砲音とともに、巨大クラッカーから打ち出された紙テープと紙吹雪がリング上に降り注いだ。

 

 モニタースタジオは、メンバーとファンの歓声に包まれる。

 

 最終的な結果は大会前から予想通り、瑞姫の優勝だったとはいえ、予想外の強さを見せ決勝に勝ち上がったエリ。そして、そのエリに追い詰められながらも、冷静な状況分析でそれをかわし、見事に優勝を成し遂げた瑞姫。しかもそれは、わずか3ターンでの出来事だ。短いながらもあまりにも濃密な試合展開に、みんな、興奮を抑えきれない。

 

 瑞姫が静かに席を立った。互いの健闘を称え、握手を交わす――かと思いきや、薄く笑った表情のままエリを見ている。座っているエリは瑞姫を見上げる格好だ。瑞姫は背を向け、リングを下りた。そのままスタジオを出て行く。エリはただじっとその背中を見つめていたけれど、瑞姫の姿が消えると、ゆっくりと席を立ち、リングを下りた。

 

 しばらくして、モニタースタジオに瑞姫が姿を現した。観客とメンバー、全員スタンディングオベーションで迎える。軽く手を上げ、笑顔で応える瑞姫。激戦を終えた疲労感などは微塵も感じない。「勝って当然」と言わんばかりの表情だ。

 

 少し遅れて、エリもスタジオに戻って来た。同じように、手を上げ笑顔で応える。しかし、はらわた煮えくり返っているのを必死で押さえているような表情に見えるのは、きっと気のせいではないだろう。

 

 ステージ中央に二人が立ち、一層大きな拍手と歓声が贈られる。

 

「それでは、激戦を終えたお二人に、お話を伺いたいと思います!!」

 

 司会者が言い、まず瑞姫にマイクを向けた。「瑞姫さん、優勝、おめでとうございます!! 大方の予想通りの結果に終わりましたが、どうでしょう? 今回の試合は、序盤、かなり追いつめられたように思えましたが?」

 

「そうですね。確かに出足はエリの方が良かったです。でも、2ターン目でエリが大きなミスをしてくれたので、助かりました」

 

「と、言うと?」

 

「1ターン目のコールで、あたしが0イート1キャッチだったのに対し、エリは1イート1キャッチ。それを見て、エリは『イケる!』と思ったんじゃないでしょうか? 次のターンで、『あぶり出し』のカードを使ってきました。戦法としては間違っていないと思います。決定的なミスは、あの後、Bの配置を公開したこと。冷静に考えていれば、あの時点でBを公開したら、あたしが三択の段階まで行くことに気が付いたはず。しかもあたしは『連続』のカードを持っている。敗北する可能性は極めて高い。あの時公開するなら、Aだったんですよ。攻めに集中しすぎて、自分が大きなミスをしていることに気づかなかった。それが、エリの敗因ですね」

 

「……と、言うことですが、エリさん、どうですか?」司会者がマイクをエリに向けた。

 

 エリは、ニッコリと笑うと。「そうですね、その通りだと思います。勉強になりました」エリは、瑞姫の方を見て、右手を差し出した「ありがとうございます」

 

 瑞姫はエリの顔と右手を順に見て、そして、右手を握り返した。会場から惜しみない拍手が贈られた。

 

 激戦を終え、互いの健闘を称え合う二人――に、一見見えるだろうけれど。

 

 握手を終え、エリが瑞姫から視線を逸らした途端、顔をしかめ、「チッ!」と、舌打ちをしたのを、あたしは見逃さなかった。

 

 ……エリ、あれ、相当腹を立ててるぞ。大丈夫かな? 瑞姫に毒を持ったりしないだろうな? エリはコンサートやテレビの収録が終わった後、特製のスポーツドリンクを差し入れしてくれる。毒を盛るなんてお手の物だろう。

 

 世間一般では清楚なお嬢様キャラで通っているエリだけど、実はかなり好戦的な性格をしている。売られたケンカは先輩後輩を問わず買い、相手の痛いところをズバズバついた攻撃ならぬ口撃を繰り出す女なのだ。まあ、毒を盛るまでは行かなくても、なんらかの仕返しはしそうな気がする。

 

 その後、一見お互いの健闘を称え合う感動的な二人に見えて、見る人が見れば火花がバチバチ飛び散るヒヤヒヤもののインタビューは、とりあえず乱闘にはならず無事に終わり、第3回特別称号争奪戦は、今年も大盛況を持って幕を下ろした。

 

 しかし。

 

 出足の劣勢にも関わらず、状況を冷静に分析し、相手のミスを見逃さず見事に勝利した瑞姫もすごいけど、観客席でそれを見切っていた燈もすごいな。しかも燈、驚いたことに、紙とペンを持っていないのだ。つまり、瑞姫と同じように、メモを取らず、頭の中だけで整理し、エリが追い詰められていたと気づいたことになる。燈って、そんなに頭がいい娘だったのか?

 

 しかし、当然燈もこの大会に出場しているけれど、三回戦で負けている。瑞姫と同じ能力を持っているなら、もっと勝ち進んで、優勝争いをしてもおかしくないはずなんだけど。

 

「……若葉さん、どうかしましたか?」

 

 あたしがじっと顔を見ていたのに気付いた燈が、不思議そうな表情で言った。

 

「あ、いや、燈って、実は頭良かったんだな、って、思って。ほら。紙とペンを使わずに、頭で考えただけで、瑞姫の攻めの手を特定したんでしょ?」

 

「いえ? あたし、そんなことしてませんよ?」

 

「へ? してない? じゃあなんで、瑞姫の攻め手が分かったの?」

 

「ああ、口と指の動きです」

 

 ……は? 口と指の動き? どういうことだ?

 

「瑞姫さん、このゲームでは紙とペンを使わず、全部頭の中で考えているみたいですけど、考えてる時、口と指が微妙に動くんですよね。たぶん、それで整理してるんだと思います。あたし、読唇術とかの心得があるんで、そういうのを見てると、大体言ってることが分かるんです。あの時瑞姫さん、『紫・赤・青』『紫・赤・緑』『黄・赤・黒』って言ったんですよ。指もそんな風に動きましたし、だから、三択まで行ってるんだな、って、思ったんです」

 

 ……そうなのか? 対戦中、モニターには瑞姫の顔のアップや、机の上のクモの配置が映らない角度で瑞姫の全身が映ることがあったけれど、そんな様子は全然見えなかった。まあ、考え事をしていたり本を読んだりするときに口が動く人はよくいるし、暗記や暗算をするときに指を動かす人も多い。瑞姫もそんな人なんだろうけど、でも、そんなわずかな情報から相手の手を読み取るなんて、それはそれでスゴイな。

 

「あと、ペンが走る音を聞いていれば、ひらがなやカタカナくらいなら、何て書いたか分かります」さらっとした口調でとんでもない特技を言う燈。この娘の近くで内緒話はできないな……。

 

「……でも、そんな能力があるのに、何で三回戦で負けたの?」あたしは記憶を探った。燈が負けた相手は誰だっただろうか?

 

「相手がエリだったんで、一杯食わされました」燈は笑いながら言う。そうか。燈はエリと対戦して負けたんだった。「あたしがそういう技を使っていることに気が付いたんでしょうね。全く関係のない配置を口にしたり、暗号を使ってメモを取ったりして、混乱させられました」

 

 ……いかにもエリがやりそうなことだ。エリと燈は同じ二期生で、特に仲がいいことで知られている。相手のことがよく分かっているからこその戦法だ。

 

 しかし、人並み外れた特技で三回戦まで進んだ燈、その特技を逆手にとって燈に勝利したエリ、天才的な状況判断でそのエリを倒した瑞姫、その瑞姫の手を読んでいた燈……大会を制したのは瑞姫だけど、本当の意味で一番強いのは、誰なんだろうな?

 

 

 

 

 

 

 あたしは、そこで目を覚ました――。

 

 

 

 

 

 


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