ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~ 作:ドラ麦茶
あたしをかばい、燈の能力、『自爆』に巻き込まれて死んだちはるさん。しかし、あたしは『蘇生』のカードを持っているのを思い出した。90%の確率で死んだプレイヤーを生き返らせ、かつ、戦闘力を1.3倍にする能力だ。あたしはちはるさんの魂へ向かって走った。フェイズ終了まで後5分。危なかったけど、なんとか間に合うな。あたしは、『蘇生』の能力カードを取り出した。
――――。
その、能力カードの説明文を見て。
あたしは、恐怖のあまり、大きく震えた。
心臓が激しく脈打つ。背中を冷たい汗が伝う。息ができない。
『蘇生』の能力は、『死亡状態のプレイヤーを90%の確率で蘇生させる。蘇生されたプレイヤーは、戦闘力が1.3倍になる。蘇生に失敗した場合、死亡状態のプレイヤーはゲームから追放される』だったはずだ。
しかし、カードに書かれていた効果は、まるで違っていた。
――これは一体、どういうことだ?
分からない。分からないけれど、恐ろしい事態に陥ったのは、間違いない。
カードに書かれていたのは――。
No.23
能力名:蘇生
効果:死亡状態のプレイヤーを90%の確率で蘇生させる。蘇生されたプレイヤーは、能力を奪われ、戦闘力が1.3倍になる。蘇生に失敗した場合、死亡状態のプレイヤーはゲームから追放される。奪える能力は最大4つまで。蘇生されたプレイヤーが同一フェイズ内に死亡状態になった場合、奪った能力は消える。
蘇生したプレイヤーの能力を奪える……だと……?
違う。あたしたちが持っていた能力の知識と、まるで違う。どうしてこんなことが……。
――――!!
一番重要なことを、忘れていた。
あたしが能力の知識を手に入れるために使ったカード『ジーニアス』。このゲームの全ての個人能力に関する知識が得られる、強力な能力だけど。
1つだけ、大きな落とし穴があった。
『知識の一つに、重大な誤りがある』
その誤りが、これか!!
蘇生に成功したプレイヤーの能力を奪う。それはつまり、森野舞さんが持っていた能力『スティール』と同じように、1人で同時に複数の能力を持つことができるということだ。
『スティール』は、このゲームではアタリ中のアタリの能力だ。あまりに強力すぎるから、瑞姫さんが最も恐れ、最優先で入手、もしくは排除しようとした能力だ。他にもそれと同等の能力があったなんて、これは確かに「重大」な誤りだ。
……だが、落ち着け、カスミ。
どんなに強力な能力だろうとも、この能力を使っていたエリは、もう倒した。間もなくゲームから離脱する。なにも恐れることはない。
しかし――。
震えは止まらない。何に対してそんなに恐怖を感じているのか、自分でも分からない。本能的な恐怖。何かが起ころうとしている。そんな予感がする。
一体何が起こったんだ。ゆっくりと、思考を巡らす。
まず。
エリの能力は、『蘇生』だった。『ジーニアス』の知識では、死亡状態のプレイヤーを高確率で生き返らせ、戦闘力を少し増やす、というものだったけど、それは誤りだった。本当は、蘇生したプレイヤーの能力を奪うというもの。『蘇生』の能力者がなんのために死んだプレイヤーを生き返らせているのか分からなかったけど、能力を奪うためだったのか……。
つまり。
今まで生き返ったプレイヤーの能力を、エリが持っている――。
だが落ち着けカスミ。エリには、能力に関する知識はない。誰が何の能力を持っているのかは、実際に能力を奪ってからでないと分からないのだ。どんなに複数能力を持てたとしても、組み合わせが強力でなければ、あまり恐れることはない。生き返ったプレイヤーは数人。その娘たちの能力が、偶然強力な組み合わせになる確率は極めて低いだろう。生き返ったプレイヤーは……。
思考を進める。
まず、三期生の沢田美樹。第1フェイズで直子が倒したと言っていたけれど、第1フェイズ終了時の離脱メンバーの中に、美樹の名前はなかった。能力は『傍受』。対象プレイヤーの会話の内容を聞くという能力だ。能力を発動するためには、対象プレイヤーに10秒間触れる必要がある。その効果は3時間。
エリがこの能力を持っていたとして、誰かに使った可能性はあるだろうか?
――――。
あたしだ。
エリはきっと、あたしに対して、この能力を使っている。
第2フェイズ、特殊ミッション・スレイヤーを終え、別れ際、あたしはエリと握手をした。あの時、エリは10秒以上、ずっとあたしの手を握っていた。あの時、あたしに『傍受』をかけたのだとしたら、その後3時間、あたしの会話内容は全てエリに聞かれていたことになる。
あの後、あたしは瑞姫さんと会い、多くの能力の知識を得た。実際に多くの能力を見た。
つまり、エリには、能力に対する知識があったのだ。誰がどんな能力を持っているのかも、少なくとも、あたしたちと同等に知っていたのだ。
だが、情報が漏れていたことは痛手だけど、まだ致命的ではない。
さらに思考を進める。
他に生き返ったメンバーは、二期生の高杉夏樹。第1フェイズ、海岸で愛子さんたちと戦闘になり、絞め落とされて死んだ。でも、美樹と同様に、第1フェイズ終了時の離脱メンバーの中に名前はなかった。その能力は、『ゴースト』。48種類の個人能力の中で、数少ない、死亡状態で発動する能力で、全てのプレイヤーのパラメーターを見ることができるというものだ。パラメーターには、能力のデータも含まれる。このゲームでは、他のプレイヤーに能力を知られるのは好ましくない。でも、致命的とは言えないし、能力の情報を得るための条件が死亡というのは、見返りが少ない割にリスクは高い。『ゴースト』は、完全にハズレの能力だ。エリが持っていたとしても、恐れることはない。
さらに思考を進める。あと1人、生き返ったプレイヤーがいる。三期生の根岸香奈。あたしたちを裏切った娘だ。その能力は――。
――――。
心臓を鷲掴みにされた――そんな錯覚。
いや、実際にあたしは――あたしたちは、心臓を鷲掴みされているのかもしれない。エリの手に。
根岸香奈の能力――『キル・ノート』。
プレイヤーの顔を思い浮かべ、ノートに名前と能力を書き込み、全てが一致すれば、名前を書きこまれたプレイヤーは心臓麻痺で死亡するという、恐ろしい能力だ!
これをエリが持っていたとしたら、とんでもないことになる。
『キル・ノート』の弱点は、ノートに書いた能力が間違っていた場合、その効果が自分に返って来ることだ。すなわち、死ぬのは自分。香奈は、瑞姫さんを愛子さんに化けていたと気付かずこの能力を使い、死んだ。使うリスクが非常に高いのだ。
しかし。
夏樹の『ゴースト』の能力を使えば、このリスクは無くなる――。
『ゴースト』の能力が発動すれば、全てのプレイヤーの能力は、完璧に把握することができる。
仮に瑞姫さんのように他のプレイヤーに化けていてもムダだ。パラメーターには、プレイヤーの名前も含まれる。これはどうやっても偽装できない。
つまり。
『ゴースト』の能力と。
『キル・ノート』の能力を組み合わせれば。
有効範囲内のプレイヤーは、全て殺すことができる――。
エリは、これを狙っていたのか!!
エリは、このゲームが始まってからずっと、目立った活動をしていない、そう思っていた。
エリに限って、そんなことが、あるわけがない。
誰よりも負けず嫌いで、誰よりも計算高くて、誰よりも危険なプレイヤー、藍沢エリ。
だが、落ち着け、カスミ。
エリはもう、死んだんだ。
死亡状態で使える個人能力は『ゴースト』だけだ。『キル・ノート』をはじめとする、他の能力は一切使えない。エリが全てのプレイヤーの能力を把握したとしても、生き返らなければ何もできないのだ。『蘇生』の能力カードはあたしが持っている。どう間違ったってエリに使うことなどありえない。エリが能力をカード化して他のプレイヤーに渡している可能性もあるけれど、その可能性が一番高い燈は、もう倒した。他のプレイヤーに渡している可能性も無いとは言えないが、わざわざ自分が殺されるのが分かっていて生き返らせるようなことはしないだろう。大丈夫だ。エリが生き返ることはない。このままフェイズ終了し、離脱するしかない。
――――。
――いや。
エリが、もうひとつ、能力を持っている可能性は無いだろうか?
思考をさらに進める。
そうだ。
もう1人、生き返ったプレイヤーが、いる。
四期生の黒川麻央。その能力は『復活』――死亡しても、20分で生き返る能力だ。
第1フェイズで、香奈が麻央を倒したと言っていたけれど、離脱メンバーの名前に麻央の名前は無かった。それは、麻央が自分の能力で復活したのだと思っていたけれど。
もしも。
それは、エリが生き返らせたのだとしたら。
あるいは、自分の能力で生き返った麻央を、エリが殺し、その後、生き返らせたのだとしたら。
エリが死んでから、もう30分以上経っている。間もなく、フェイズが終了する。
あたしは――。
「逃げてください!!」
振り返り、みんなに向かって叫んだ。
突然のことに、みんな、きょとんとした顔で、ただ立ち尽くしている。
「早く逃げて! 逃げて!!」
ただ叫ぶ。
「いや……逃げてって……何で?」真穂さんが戸惑った声で訊く。
「説明している時間はありません! とにかく逃げてください!! エリから、500メートル以上、いえ、とにかく、できるだけあの娘から離れてください!!」
愛子さんが怪訝そうな目であたしを見た。「はぁ? エリから? 何バカなこと言ってんだ。エリなら、お前と美咲が倒したはずじゃ――」
その顔が、歪む。
そして、胸を押さえ。
苦悶の表情で、その場に倒れた。
クソ! 遅かった!!
ボン! あたしは反射的にゴーレムに変身する。
「――愛子? 何遊んでるの?」真穂さんが、笑いながら、倒れた愛子さんに近づく。
その顔が、歪む。
そして、胸をかきむしりながら。
その場に倒れた。
「へ? 2人とも、どうしたんです――」
美咲の表情が苦痛に歪み。
そして、胸を押さえて倒れる。
「とにかく逃げて! 早く!!」
叫ぶことしかできないあたし。
反応が早かったのは遥だった。「さゆり! テレポートを!! 一か八か、紗代さんの所へ――」
その顔が歪み、そして、倒れる。
「何!? 何が起こってるの!?」
パニックになった由紀江が倒れる。
「みなさん! しっかりしてください!!」
助けようとした美優さんが倒れる。
「――――」
呆然とその場に立ち尽くしていた葵が倒れる。
さゆりが、直子が、みんなが。
次々と、倒れる。
苦痛に顔を歪め。
胸を押さえながら。
やがて、全員が倒れ。
そして、青い炎の魂と化した。
――そうだ! 『蘇生』のカードを使えば!!
走る。
でも、誰を生き返らせる?
リーダーの遥か? 戦闘力の高いちはるさんや愛子さんや美咲か? 『非戦闘地帯』を持っている真穂さんか?
――いや、誰を生き返らせてもムダだ。
生き返らせたとたん、また、殺されてしまう。
今のあたしたちに、エリの攻撃を防ぐ手段は無い。
いや、違う。生き返らせた人に、あたしの『ザ・ロック』の能力カードを渡せば――。
しかし。
TAが鳴った。
クソ! こんな時に何だ!? 無視して走る。
でも、無駄だった。
あたしの目の前で。
青い炎が、消えていく。
――ちょっと待って! 何で!? 何でよ!?
すべての魂が消え。
その場には、あたしだけが残った。
フェイズが、変わったのだ。
あたしは、震える手でTAを開いた。ゲームマスターからの連絡だった。
『第7フェイズ終了。
本郷亜夕美
一ノ瀬燈
桜美咲
篠崎遥
小橋真穂
早海愛子
白石さゆり
吉岡紗代
並木ちはる
沢井祭
本田由紀江
秋庭薫
高倉直子
佐々本美優
鈴原玲子
西門葵
藤村椿
以上、17名が離脱。残り、3名』
やはりそこに、エリの名前は無い。
――クソ!! エリめ!!
膝をつき、地面に怒りをぶつける。どうして気付かなかった!! どうしてアイツを放っておいた!! アイツが一番危険だってことは、 最初から分かっていたのに!!
激しい後悔が襲う。エリの行動に気付くチャンスは何度もあったはずだ。それなのに、目の前の由香里さんや亜夕美さんに気を取られて、エリを放置してしまった。完全に、あたしたちのミスだ。
――――。
あたしは、立ち上がり。
由紀江の能力カード、『連絡係』を拾った。
カードの力を発動する。
「エリ? 聞こえる?」静かな声で呼びかける。
《あら? カスミじゃない》いつもの調子で応えるエリ。《へぇ。これが『連絡係』の能力か。ゲーム中遭遇したプレイヤー全員と連絡を取ることができるんでしょ? 便利ね》
「やってくれたわね」
《あは。驚いたでしょ? 第3フェイズで、香奈が『キル・ノート』で舞さんを殺した時、すぐに、この技を思いついたの。第1フェイズで、念のため夏樹の『ゴースト』の能力を奪っておいて良かったわ。これも、カスミや瑞姫さんが、あたしに会話を聞かれてるとも知らず、能力のことをベラベラ喋ってくれたおかげよ。ありがとね》
あたしは、唾を吐き捨てた。「うかつだったのは認めるわ。でも、その技ではあたしは殺せない。岩状態のあたしには、心臓が無いからね」
《まあ、それは最初から分かってたけどね》
「どうするの? ゴーレム状態のあたしは、戦闘力12万。戦闘力1万8千のあなたに勝ち目はないわよ? せっかくみんなを殺したのに、残念だったわね。優勝は、渡さない」
《大丈夫。ちゃんと、対策は取ってあるから》
対策? どんな対策だ? 考える。ゴーレムモードのあたしへの対策といえば、何といっても上原恵利子の能力、『デストラクション』だ。しかし、恵利子が死んだとき拾ったカードはもう使ったし、エリが能力を奪ったり、カードを貰ったりしている可能性は、まず無いだろう。
「フン。ハッタリね。今のあなたに、あたしを倒す方法なんて無いわ」
《さあ、どうかしらね? 試してみる?》
「いいわよ? 今すぐ行くから、待ってなさい」
あたしは、さゆりの能力カード『テレポート』を拾った。
《うーん。それも悪くないけど、でも、その必要はないんじゃないかな?》
その必要はない? どういうことだ?
と、再びTAが鳴った。何だ? 開くと、ゲームマスターからだった。
『最終ミッション発動。
生存者が4名以下となったため、
これより、最終ミッション“デスマッチ”を行う。
現在生存している3名は、1分後、強制的にミッション会場に転送される。
このミッションは、優勝者が決まるまで続く』
《やっぱりね。運営のことだから、こうなると思ったの》笑うエリ。
最終ミッション“デスマッチ”か。その名の通り、最後の1人になるまで戦うのだろう。
「いいわ。望むところよ。じゃあ、最終ミッションで決着をつけましょう。あたしの恐ろしさ、思い知らせてやるわ」
《そう。楽しみにしてるね。じゃ、ミッション会場で会いましょう》
通信が切れた。
あたしは、持てるだけの能力カードを持つと。
――ちはるさん、真穂さん、遥、みんな。行ってくるね。
1分後、ミッション会場に転送された――。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
TIPS 30:ドリームペインター解散
■ドリームペインター解散。武闘館コンサートはヴァルキリーズが行うことに
大人気アイドルグループ『アイドル・ヴァルキリーズ』の姉妹ユニットとして今年2月にデビューを予定していた『ドリームペインター』が、公式ホームページにて、解散を発表した。
『ドリームペインター』は、今や国民的アイドルグループとなった、アイドル・ヴァルキリーズのプロデューサーをはじめとするスタッフが手掛けるプロジェクトとして、昨年4月より始まり、いきなり日本武闘館でのデビューコンサートや、デビュー前からCDの発売が決定するなど、異例の高待遇で話題を呼んでいた。解散の理由については、ホームページ上では明かされていない。
2月25日開催予定だった同グループのデビューコンサートは中止となり、代わりにアイドル・ヴァルキリーズがコンサートを行うと発表。先行発売されていたコンサートチケットはそのまま使用できる他、チケット料金の払い戻しも受け付けている。
また、解散したドリームペインターのメンバーは、希望者のみ、アイドル・ヴァルキリーズの四期生として受け入れることも発表。浅倉綾さん、藤村椿さんなど、5名のメンバーが、ブログ上にてヴァルキリーズへの移籍を希望している。
(2012年1月12日、大手インターネット検索サイトのニュース記事より抜粋)