ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~   作:ドラ麦茶

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終わりの始まり

『融合』の能力を使い、亜夕美さんを上回る35万2千もの戦闘力となったあたしと美咲、通称カスミサキ。亜夕美さんを圧倒するも、亜夕美さんは『暴走』の能力を使う。戦闘力が10分間3倍になるが、能力使用後、ゲームから追放されるという、一発逆転を狙う能力だ。その戦闘力は、なんとあのヴァルキリーズ最強忍者・一ノ瀬燈をも上回る54万! 完全に形勢は逆転される――のは、実は最初から計算済み。あたしたちの作戦は、ここからが本番だ!!

 

「「玲子! どう!? 見つかった!?」」

 

 鋭い薙刀の連続攻撃をかわしながら、あたしはスカウト・レーダー使いの玲子に向かって叫ぶように訊いた。これでもしあの2人が見つからなければ、プランBへ移行しなければいけないが……。

 

「はい! ここから北東に約900メートル、あたしたちが拠点にしていた岩山の近くです!!」

 

 よっしゃ!! これで、あたしたちのチームの完全勝利に大きく近づいたぞ!!

 

 あたしは薙刀の一閃を大きくバックステップでかわすと、能力カードを取り出した。ちはるさんから貰った『チェンジ』のカードだ。

 

『チェンジ』の能力は、「目視している」プレイヤーと、自分の位置を入れ替えるものだ。能力を使用するためには、相手の顔をしっかりと認識する必要がある。普通ならば、せいぜい数十メートルの範囲でしか使えない。

 

 しかし――。

 

 あたしは、すぐそばにある木に飛びつき、そのまま登った。亜夕美さんも追いかけてくる。追いつかれたら作戦が全て台無しだ。あたしは枝から枝に飛び移りながら上へと進み、そして、木のてっぺんから、北東の方角へ目を凝らした。

 

 ――――。

 

 いた! 岩山の中腹辺り! 燈とエリだ!!  見える! あたしにも敵が見えるぞ!!

 

 今、あたしは美咲と合体しているから、美咲と同じ視力を有しているのだ。その視力は、現実世界でなん6.0。さらに美咲は『千里眼』の能力を持っているから、10倍の、なんと60.0! 燈たちとは1キロ近く離れているけど、髪の毛1本まではっきりと見える!!

 

 そう! 『チェンジ』の能力は、美咲の『千里眼』の能力と組み合わせることで、その射程距離は一気に10倍! 美咲の視力ならば、姿さえ見えていれば、例え島の反対側にいても入れ替わることができるのだ!!

 

 背後に、強烈な殺気を感じる。振り返らずとも、亜夕美さんが薙刀を振り上げているのが分かる。

 

 ――さあ、ヴァルキリーズ最強決定戦の始まりだ!!

 

 あたしは、ヴァルキリーズ最強忍者の燈に向けて、チェンジの能力カードを使った。

 

 木の上にいたあたしは、一瞬にして、岩山の中腹に移動した! よし! 振り返り、あたしがさっきまでいた場所を見る。燈は、亜夕美さんに背を向ける格好だ。

 

 さて、どうなる!?

 

 いきなり木の上に転送させられ、背後から暴走モードの亜夕美さんに斬りかかられたら、普通の人ならば、いや、よほどの武術の達人でも、一刀両断されてしまうだろう。

 

 しかし、さすがは燈である。

 

 それは、強烈な殺気を感じ、何が起こったか理解するよりも早く自然に身体が反応した、という感じだった。亜夕美さんの薙刀が振り下ろされる瞬間、燈は振り向きざまに背中の忍者刀を抜き、右から左に薙刀を払うと、そのまま回転し、亜夕美さんの頭部に左の踵落としを喰らわせたのだ。

 

 燈の強烈な踵落としを喰らい、吹っ飛ぶ亜夕美さん――いや!

 

 吹っ飛びながら、亜夕美さんは、燈の足首を掴んだ! そのまま燈を木から引き剥がし、地面に向け、叩きつけるように投げた!

 

 2人の姿は森の中に消える。どんなに視力が良くても、木の陰に隠れているものまでは見えない。くそう! この先どうなるんだ!? 興奮を押さえられない。これは、昔の偉い人曰く、女房を質に入れてでも見なあかん試合だ! 早く森に戻って観戦しなければ!!

 

 ――でも、その前に!

 

 あたしは、エリの方を見る。目を丸くし、かなり驚いている様子。それまで燈のいた場所にいきなり別の人が、しかもそれが右半身は美咲、左半身はカスミちゃんゴーレムという、奇怪極まりない姿の人が現れたら、さすがのエリでも驚くだろう。

 

 しかし、そこはさすが危険度超絶Sランクのエリである。状況を理解するよりも早く身の危険を感じたのだろう。素早く剣を抜き、構えた。

 

 でも、ムダだ! どんなに危険度が高くても、所詮エリの戦闘力は1万8千。こっちは35万2千だ! 1対1の戦闘で、エリに勝ち目など無い!

 

 あたしは、一気に間合いを詰めると、エリにガードさせる間も与えず、右のショートアッパーをお見舞いした!

 

 その瞬間、あたしの身体中を青い稲妻のような光がほとばしる!

 

 そして、エリの身体は、のけ反って空中へ飛びあがった!!

 

《おお! 最速風神拳キタコレ!!》興奮を押さえられない口調で、あたしの右半身が言う。

 

 最速風……何?

 

《このまま一気に決めますよ!!》

 

 なんだかよく分からないが、決めてしまえるなら決めてしまおう。

 

 あたしは落ちてくるエリに対し、まず左のジャブを決める。続いて、左のショートアッパー、さらには振りかぶって右拳を上から叩きつけた。地面に叩きつけられたエリの身体は大きくバウンドする。そこへ、あたしはしゃがみつつ右回りで下段回し蹴りを喰らわせ、そのままコマのように回転し、さらにもう1発回し蹴りを喰らわせた。最後に、立ち上がりつつ、左のカエル飛びアッパー、ならぬ、三島流喧嘩空手・必殺雷神拳!! エリの身体はくるっと1回転し、背中から地面に落ちた!

 

 そして――。

 

 ボン!! 小さく爆発するエリ。

 

 あたしの強烈な空中連続技を喰らったエリは、反撃すらできず、一瞬で、青い魂となったのだ! やったぞ! このゲームで最も恐るべき敵であろうエリを倒した!! いかに危険度MAXとはいえ、まともな戦いならこのカスミサキちゃんの敵ではない!!

 

 後は!!

 

 振り返り、再び森を見る。ここから見る限りは静かなものだけど、あの中では、アントニオ猪樹VS.モハドメ・アリ戦を超える世紀の一戦が行われているのだ。こうしてはいられない。早く戻って観戦しなければ! あたしは、前フェイズで手に入れた『マングース』の能力カードを使った。通常の2倍の速さで走ることができる能力である。

 

《あ、カスミ先輩。エリ先輩の能力カード、忘れずに拾っておいてください》と、あたしの右半身。

 

 おっと、そうだった。気持ちが高揚して忘れる所だった。あたしはエリの魂の側に落ちていたカードを拾った。それは、『蘇生』のカードだった。死亡したプレイヤーを90%の確率で生き返らせる能力だけど、今はどうでもいい。あたしは素早く能力カードをポケットにしまうと、全速力で、森へ駆けて行った。

 

 …………。

 

 しかし、エリのヤツ、ホントに、あっけなかったな。戦闘力に大きな差があるとは言え、何の反撃もしてこなかった。思えばエリは、ゲームが始まってから今まで、目立った活躍はしていない。誰とも戦わず、ただ逃げ回っていただけだったのだろうか? なんともエリらしくないけれど、まあ、仮に何かしていたとしても、もうエリは死んだ。気にしなくていいだろう。

 

 森へ向かって走るあたし。まだ500メートル以上離れているけれど、ここからでも、凄まじい殺気と殺気がぶつかり合っているのが分かる。戦闘力的にはわずかに亜夕美さんが上回っているとはいえ、どちらが勝つか全く予想がつかない。だが、どちらが勝ち残るにしても、無事では済まないだろう。戦闘力は大幅に低下するはずだ。そこへ、あたしがトドメを刺す。亜夕美さんと燈の2人さえ倒せば、もう、このゲーム勝負は決まったも同然だ。あたしたちのチームの完全勝利である。後は、チームメンバー内で誰がセンターポジションをやるかを決めるだけだ。むっふっふ。カスミちゃん2度目のセンターポジションが近づいてきたぞ。

 

 あたしは、亜夕美さんと燈が戦っている森へ向かって、全力で走った。

 

 

 

 ☆

 

 

 

 ――もちろん。

 

 

 

 あのエリに限って、ゲーム開始から6時間以上も何もしていない、などということがあるわけも無く。

 

 

 

 エリは、あたしたちが由香里さんチームと戦っている間。

 

 いや、それよりももっと以前、第1フェイズ、海岸で、あたしと出会った時から。

 

 このゲームで勝ち残るために。

 

 まるで、ジグソーパズルのピースを、1つ1つはめて行くかのように。

 

 ゆっくりと、しかし、確実に。

 

 このゲーム、最強の一手とも言える技を、完成させようとしていたのだ。

 

 

 

 そして、皮肉にも。

 

 

 

 その最後のピースを、あたしは、自分自身の手で、はめてしまったのである――。

 

 

 

 

 

 


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