ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~ 作:ドラ麦茶
由香里さんチームの陣地からフラッグを奪い、西回りのルートで脱出した、あたしとちはるさんと葵。追手は遥たちが片付けてくれる。余裕で1ポイント獲得、そして、CTF勝負に勝利するかと思われたけど、南西の壁上通路、自陣を目の前にして、立ちはだかるユカリマキさんゴーレム。その戦闘力は、ヴァルキリーズ最強忍者・一ノ瀬燈を上回る55万2千。とても倒せそうにないけれど、倒さなければフラッグは獲得できない。あたしは、勝負に出ることにした。中庭中央建物の屋上にいる遥が、あたしに向かって矢を放ち、あたしが矢を弾いて軌道を変え、ユカリマキさんゴーレムの顔面中央にヒットさせる。それで、遥の能力『ヘッドショット』が発動。ユカリマキさんゴーレムは即死となるはずだ。このバケモノを倒すには、それしか方法はない。あたしは、ユカリマキさんゴーレムから5メートルほど離れた場所で身構える。ちはるさんと葵は、あたしからさらに5メートルほど離れた後方で、戦いを見守っている。
《では、行きますよ!》遥の声。
「OK! 任せなさい!」
あたしの声で。
矢が、放たれた――。
その瞬間。
ユカリマキさんゴーレムは、顔の前で両腕をクロスさせた!
「残念でした! これで、『ヘッドショット』の能力は効かないわね!」ユカリマキさんゴーレムの後ろでゆきが笑う。
矢は、一直線にあたしに向かって来る。
あたしは――。
「――ちはるさん! 今です!!」
叫ぶと同時に。
ちはるさんは、中庭に飛び降り。
あたしは、その場にしゃがんだ。
遥の放った矢は――あたしの頭上を通り過ぎた!
「――――!?」
予想外の行動だったのだろう。目を白黒させるゆき。
飛んで来る矢の軌道を変え、ユカリマキさんゴーレムの顔の中央にヒットさせる――成功すればカッコいいけど、あたしにそんな神技、できるはずがない。仮にできたとしても、ユカリマキさんゴーレムに顔をガードされた何の意味も無いのだ。それは承知の上。矢の攻撃はおとりだ。本命は――。
中庭に飛び降りたちはるさんは、能力を発動した。
ちはるさんの能力『チェンジ』。目視しているプレイヤーと自分の位置を入れ替える能力だ。このCTFでは、フラッグの半径10メートル以内のプレイヤーには使えないけど、ユカリマキさんゴーレムとフラッグは10メートル以上離れている。だから――。
ユカリマキさんゴーレムのいた場所に、ちはるさんが現れ。
ちはるさんがいた中庭に、ユカリマキさんゴーレムが現れた!!
よっしゃ! うまく行ったぞ!! 鈍足なゴーレムが壁上通路に戻ってくるのには時間が掛かる! それに――。
ちはるさんは地面を蹴り、何が起こったか理解していないゆきに必殺の飛び蹴りを喰らわせた。ボン! 一撃で魂と化すゆき。これで、ユカリマキさんゴーレムは停止だ!
「――4分経過。残り、1分」
案内人の声。1分もあれば余裕だ!
ちはるさんはそのまま階段を下りる。階下で控えていたであろう千恵も、簡単に撃退する。
《よし! 葵! 今だ!!》
フラッグを持って走る葵。周囲に敵の気配は全く無い。そのまま階段を下り、2階の中央にフラッグを立てた! どうだ!?
――――。
「――遥さんチーム、フラッグ獲得、1ポイント」エリア中に響く、案内人の声。
同時に。
《よっしゃああぁぁ!! グレイトジョオオォォブウウゥゥ!!》
メンバー全員で一斉に勝利の雄叫びを上げる。
やったぞ! あの、アイドル・ヴァルキリーズの大キャプテン、橘由香里さん率いるチーム相手に、0対1の完全勝利だ!!
「篠崎遥チームの勝利が確定しましたので、以上で、特殊ミッション・キャプチャー・ザ・フラッグを終了します。参加メンバーは、控室のメンバーも含め、10秒後、エリア中央に転送されます」
案内人の声の後、あたしたちは、中庭中央の建物の前に転送された。
「やったわね、みんな! おめでとう!!」
遥や愛子さんたちを始め、ゲーム中は控室で待機していた真穂さんたちも一緒に、ハイタッチで勝利を喜び合う。
「遥、みんな、おめでとう」相手チームも転送され、融合ゴーレム状態から元に戻ったリーダーの由香里さんが祝福してくれた。
「へっ。まあ、当然の結果だな」ちはるさんが言った。
普段だったら、「見たか由香里! これがあたしたちの実力だぁ!!」とか言って、必要以上に勝利をアピールしそうなんだけど、なんだか今日はおとなしいな。まあ、いいことだ。うん。
由香里さんは続ける。「あたしたちの作戦、結構自信があったんだけどね。うまく対応されたわね。完敗だわ。特に、あなたたちのオフェンスラウンド。フラッグを奪って、自陣に持ち帰るまでの一連の流れは見事だったわ。あれは、遥の作戦?」
「いいえ」遥が答える。「初めに立案したのはあたしですが、状況を判断し、その都度的確に対応したのは、皆さんです。あれは、メンバー全員の作戦――あたしたち、全員で掴んだ1ポイントです」
「そう。本当に、そうね」由香里さんは、清々しく笑った。
「由香里さん――」と、綾たち四期生メンバーの、弱々しい声。「負けたのは、あたしたちの力不足が原因です。本当に、申し訳ありません」
「何言ってんの。あなたたちは、精一杯やったじゃない」即座に否定する由香里さん。「負けたのは、他でもない、あたしのせいだよ」
「そうそう。こういう時は、リーダーのせいにしておけばいいんだ」と、ちはるさん。「勝てば全員の手柄、負けたらリーダーの責任。それでいいんだよ」
「だな。お前らは、ホントに、よくやったと思うぜ」愛子さんも言う。「お前らのことだから、どうせキャーキャー言って逃げ回るだけだろうと思ってたが、あたしやちはるを相手にしても、逃げずに堂々と戦ってたじゃないか。戦わず尻尾巻いて逃げた亜夕美や紗代なんかより、よっぽど見どころがあるぜ。これから、期待してるぞ」
「あ――ありがとうございます!!」
ヴァルキリーズの怖い先輩の代表、愛子さんとちはるさんから思わぬ優しい言葉を掛けられ、綾、朱実、可南子の四期生トリオは、嬉しそうに笑った。
本当に、愛子さんの言う通りだな。四期生の娘たちって、14、5歳の若い娘が中心になっているせいか、イマイチ元気が無いと思ってたんだよね。愛子さんや美咲のような、ヴァルキリーズに入る前から武術を習ってた娘もいないし、心配だったんだけど、これなら安心かな。今後の活躍が楽しみだ。
由香里さんが大きく咳払いをし、そして、チームメンバー1人1人の目を見る。「――理香、麻紀、千恵、ゆき、可南子、綾、朱実。あなたたちは、本当によくやりました。愛子の言う通り、今回負けたのは、全て、あたしの責任。あなたたちは、最高の試合をしました。自信を持ってください」
「はい!!」理香さんたちは、悔しさをにじませながらも、どこか満足げな表情で応えた。
由香里さんは、今度は菜央と奈津美を見る。今回のCTFに参加できなかった2人だ。「菜央、奈津美。こんな結果になって、本当に、申し訳ないと思います」
「何言ってるんですか。あたしたち、由香里さんと同じチームで戦えて、本当に、良かったと思ってますから。ありがとうございました」笑顔で応える。
「お礼を言うのは、あたしの方だよ。こんなあたしについて来てくれて、本当に、ありがとう」由香里さんは、深く頭を下げた。
「そして――」由香里さんは、最後にあたしたちに向かって言う。「あなたたちは、本当に、素晴らしいチームだと思います。この特殊ミッションが終わっても、まだゲームは続きます。ここで気を抜かないで、最後まで、正々堂々、悔いのないように戦い抜いてください!」
「はい!!」全員で応える。
本当に。
このチームは、いいチームだ。
このチームのメンバーでいることを、誇りに思う。
そして、由香里さんの言う通り、まだ戦いは続く。気を抜かず、最後まで戦い抜こう。
「それでは、特殊ミッションのルールに則り、敗北した橘由香里チームのメンバーは、ゲームより追放されます」案内人が言う。
あたしたちは、チームに分かれて向かい合い。
「ありがとうございました!!」
互いの健闘を称え、敬意を込め、深く、頭を下げた。
しばらくして。
ボン! 由香里さんチームのメンバーは一斉に青い魂状態になった。その魂も、すぐに消える。現実世界に戻ったのだ。残されたのは、8枚の能力カード。
案内人が言う。「離脱したメンバーの能力カードは、ミッションに参加しなかった菜央さんと奈津美さんを除いた8枚が、遥さんチームの物となります」
あたしたちはカードを拾った。誰がどのカードを貰うのかは、後で相談して決めよう。
「以上を持ちまして、特殊ミッション・キャプチャー・ザ・フラッグを終了します。お疲れ様でした。このエリアは、第6フェイズ終了まで封鎖しておきますので、ゆっくりと、身体を休めてください」
案内人が消えた。前回の特殊ミッションでは、終了後、案内人に言われた通りゆっくり休んでいたら、エリアの封鎖が解かれた後、他のプレイヤーに襲われ、エライ目に遭った。まあ、今回はチームでいるし、あまり気にすることはないだろう。
「さて――」リーダーの遥がみんなの前に立つ。「ひとまずは、お疲れ様でした。みなさん、素晴らしい戦いでした。このチームのリーダーとして戦えることを、誇りに思います。本当に、ありがとうございます。これからも、皆さんのお力をお借りし、あたしは――」
「面白味のない挨拶なら省略しろ」ちはるさんが笑う。「それより、次はどうするんだ?」
「はい。次は当然、亜夕美さんを倒します」
「――だな。あのヤロウ、散々こっちを挑発しておいて、いざ勝負となったら逃げやがったんだからな。観客はガッカリしただろうぜ。責任は、取ってもらわないとな」
「でも、倒せるの?」と、真穂さん。「亜夕美の戦闘力は18万。紗代は5万5千。迂闊に手は出せないわ」
真穂さんの言う通りだ。あたしはこの特殊ミッションで大幅にパワーアップする術を得たけど、それでも戦闘力は12万だ。まだ亜夕美さんには届かない。
「問題ありません。これを使います」
遥は、さっき拾った由香里さんチームの能力カードを見せた。『融合』のカード。2名のプレイヤーが合体し、戦闘力が飛躍的に向上する、麻紀さんの能力だ。
遥は自信に満ちた表情で言う。「これを使えば、亜夕美さんの戦闘力は簡単に越えられます。あとは――」
☆
それから、20分後――。
「――それでは、ただ今の時間を持ちまして、エリアの封鎖を解きます。戦闘行為が可能となりますので、お気を付けください」
案内人の声がした。
同時に、TAが鳴った。第6フェイズ終了の知らせだろう。開くと。
『第6フェイズ終了。
橘由香里
宮本理香
夏川千恵
栗原麻紀
藤沢菜央
宮野奈津美
大町ゆき
降矢可南子
浅倉綾
雨宮朱実
以上、10名が離脱。残り、20名』
一気に10名が離脱だ。ゲームマスターのもくろみ通り、特殊ミッションで大きくゲームが動く結果となった。これは、勝敗が決するのも時間の問題だろう。
エリアの封鎖が解けたので、玲子が『スカウト・レーダー』の能力を使う。「――捕捉しました。戦闘力18万と5万5千。亜夕美さんと紗代です。ここから800メートルほど北東。一緒にいますね。エリさんと燈さんは……捕捉できません。どうやら、あたしの能力のエリア外にいるようです」
よし。あたしたちがCTFで戦っている間に、亜夕美さんたちとエリたちが手を組んでいたら、作戦を練り直さなければいけなかったけど、その心配はなさそうだ。
「――では、作戦開始です!!」
遥の号令で、あたしたちは、行動を開始した。
☆ ☆ ☆ ☆ ☆
TIPS 25:生存者、及び、使用者の判明していない能力
生存者
桜美咲
篠崎遥
小橋真穂
早海愛子
白石さゆり
並木ちはる
本田由紀江
前園カスミ
秋庭薫
高倉直子
佐々本美優
鈴原玲子
西門葵
本郷亜夕美
吉岡紗代
沢井祭
朝比奈真理
藤村椿
藍沢エリ
一ノ瀬燈
使用者の判明していない能力
No.15
能力名:解放プレッシャー
効果:あなたはすべてのプレイヤーの能力の対象にならない。
No.23
能力名:蘇生
効果:死亡状態のプレイヤーを90%の確率で蘇生させる。蘇生されたプレイヤーは、戦闘力が1.3倍になる。蘇生に失敗した場合、死亡状態のプレイヤーはゲームから追放される。
No.28
能力名:自爆
効果:自爆する。半径5メートル以内のプレイヤーは、能力使用者を含め、すべて死亡する。
No.34
能力名:暴走
効果:戦闘力が3倍になる。自制心が無くなり、目視しているすべてのプレイヤーに襲い掛かる。効果は10分間。使用後、ゲームから追放される。
No.36
能力名:エリアヒール
効果:半径5メートル内のすべてのプレイヤーにヒールの効果。
No.46
能力名:やればできる子
効果:半径10メートル以内にいる戦闘力5千以下のプレイヤーを、10倍の戦闘力にする。自分自身には無効。
No.48
能力名:さそりの女
効果:戦闘力が10倍になる。自制心が無くなり、目視しているすべてのプレイヤーに襲い掛かる。効果は10分。この能力は、全プレイヤーを通じて1ゲーム中1度しか使えない。能力のカード化、コピーは可能だが、プレイヤーの誰かがこの能力を使用した場合、それらはすべて消滅し、使えなくなる。
(前園カスミ作成の能力表より抜粋。なお、『No.7 ワールド・キング・フィスト』『No.18 クォーター・ボディ・フィスト』『No.25 ソーラー・フィスト』『No.47 バイタリティ・ボール』の使用者は、すでに離脱しているため省略)