ZMB48~少女たちは、ゾンビの徘徊する船上で戦い続ける~ 作:ドラ麦茶
敵チームの陣地からフラッグを奪い、自陣まで持ち帰るゲーム『キャプチャー・ザ・フラッグ(通称CTF)』の第1ラウンド。あたしたちのチームはフラッグを守る側・ディフェンス。由香里さんチームの能力をフルに使った猛攻になんとか耐え、相手チームは0ポイント。勝利に大きく近づいた。
そして、今度はあたしたちのオフェンス――フラッグを奪う番だ。
「――それでは、ラウンド2を始めます」
案内人の声とともに、転送が始まる。あたしたちのチームメンバーは、自陣の建物2階に転送された。
「キャプチャー・ザ・フラッグ――オフェンス」案内人の声で、ラウンド2が始まった。
「さて――」リーダーの遥が、みんなをぐるりと見た。「ラウンド1は完璧なゲーム展開だったと言えるでしょう。みなさん、グッジョブです。しかし、まだ勝ちが確定したわけではありません。何といっても、相手はあの由香里さんが率いるチームですから。気を引き締めていきましょう」
「つーか遥、お前、さっきのラウンド、全然リーダーシップが発揮できてなかったぞ?」ちはるさんが笑う。「今からでも美咲に代わった方がいいんじゃねぇのか?」
確かにな。作戦の立案から具体的な指示、そして、士気を高める激まで、全て美咲がやっていた。まあ、ゲームマニアの美咲はこのCTFの達人だから、しょうがないけどね。
「申し訳ありません」遥は頭を下げる。「ですがご安心ください。さっきのラウンドは、ワザと、美咲に指示を任せたのです」
うん? ワザと?
「残念ながら、あたしはテレビゲームを全くやらないので、CTFに関する知識はありませんでした。なので、事前に相談して、美咲に指示を出してもらうようにしたのです。これは大正解でした。もしあたしが指示を出していたら、恐らくフラッグを守ることはできなかったでしょう。美咲、礼を言うわ。ありがとう」
美咲はへへへと笑い、頭を掻いた。
「まあ、確かにそうだな」ちはるさんが言う。「じゃあ、どうする? このCTFだけ、美咲がリーダーで行くか?」
「いえ、もう大丈夫です。CTFのルール、戦略、そして、敵チームの特徴は、もう分かりました。このラウンドは、あたしがリーダーを務めさせていただきます」
遥は、自信に満ちた目でそう言った。
「へ、言うようになったじゃねぇか」ちはるさんは、遥の胸に拳を当てた。「期待してるぜ、新キャプテン」
「ありがとうございます。さっそくですが、このオフェンスで試したい作戦があるのですが」
「作戦? どんなのだ?」
「CTFは、フラッグの獲得した回数が多いチームが勝利となりますが、もう1つ、勝利条件があります。フラッグ獲得数が同じだった場合、チームのキル数で、勝敗が決定します。これを利用しましょう。正確な数は分かりませんが、今の所、キル数は圧倒的にあたしたちのチームの方が多いと思います。これは、ゲーム的に見て、フラッグを奪うためどうしても動かなければいけないオフェンス側より、フラッグを守るために自陣に立てこもって敵の動きに合わすことができるディフェンス側の方が、死亡しにくいから、と考えられます。敵チームは前ラウンド、フラッグを獲得できませんでした。0ポイントです。しかし、まだ負けが確定したわけではありません。由香里さんチームはフラッグを守り、かつ、キル数があたしたちのチームを上回れば、勝利することができるのです。逆に言えば、あたしたちはムリにフラッグを奪わなくても、自陣に立てこもって敵に倒されないようにすれば、勝負に勝つことはできるわけです」
「おいおい、冗談じゃないぜ」ちはるさんが言う。「そんなみっともない勝ち方、できるかよ。由香里チームからきっちりフラッグを奪って、完全勝利にしてやるぜ」
「もちろん、あたしもそのつもりです。ですが、あたしたちにはそういう勝ち方もある、というのは、大きなアドバンテージです。由香里さんも、そのことに気付いているでしょう。ですから、それを利用します」
同点でのキル数勝負でも勝てる、それを利用する? どういうことだろう?
遥は、みんなに作戦の内容を説明した。
説明を聞いたみんなは、全員、大きく頷いた。
「よし。いいぜ。それで行こう」ちはるさんも同意する。
「ありがとうございます。それでは、作戦開始です――」
☆
オフェンスラウンドが始まって2分が経過した。その間、あたしたちはフラッグを奪うため、敵チームの陣地を執拗に攻め――たりはせず。
ラウンドが始まってからずっと、自陣の建物の1階で、息を潜めていた。1歩も外には出ていない。当然このラウンド、敵チームとの戦闘は1度も発生していない。このままラウンドが終了すれば、恐らくキル数で上回っているあたしたちの勝利となるだろう。
もちろん、あたしたちの狙いは、そんなことではない。
「――あ!?」葵が声を上げる。「一瞬、反応がありました。由香里さんと麻紀さん、東側の通路です」
葵の能力『モーション・トラッカー』だ。東側通路……壁の中の道だな。予想通りだ。
由香里さんチームはこのラウンド、ディフェンス側だ。通常なら自陣のフラッグから離れる必要はない。あたしたちのチームが攻めなければ、放っておいてタイムアップになるのを待てばいい。でも、由香里さんチームは前のラウンドでフラッグを奪えず、かつ、キル数でも下回っている。フラッグを守っているだけでは勝てない。だから、こちらが攻めなければ、痺れを切らし、様子を見に来るはず――遥の読み通りだ。
「では、配置についてください」遥が言う。「もちろん、おとりの可能性もあります。葵さんは、反対側の通路を警戒してください」
「了解!」
葵は2階へ移動する。残りのメンバーは、東通路の側で、息を潜め、由香里さんたちが来るのを待つ。
しばらくして。
東側通路から、由香里さんが姿を現した。今だ! あたしは由香里さんに後ろから襲い掛かり、手で口を封じ、押さえつけた。由香里さんのすぐ後ろにいた麻紀さんは、愛子さんが押さえつける。暴れる2人。でも、あたしはカスミちゃんゴーレムモードで戦闘力12万、愛子さんは柔道家でパワーはチームトップクラス。逃れることなど不可能だ。
「よし! 直子! 今よ!」
直子が両手を拳に握り、由香里さんをポカポカたたく。ピシッ! 石になる由香里さん。続いて麻紀さんも石にする。よし! うまく行った! 石化状態は放っておいても元に戻らない。敵チームがこの2人の石化を解くには、破壊して復活を待つか、ゆきの『ゴーレム』の能力を使うかしかない。ここに放置しておけば、かなりの時間を稼げるだろう。
「ひとまず、グッジョブです」遥が言う。「では、行きましょう」
由香里さんと麻紀さんの石像を残し、あたしたちはメンバー全員で東側の壁中通路を進む。しばらく進むと通路は北に折れ曲がり、途中、地下通路へ続く階段がある。地下通路は、中庭中央の建物、及び、北西の壁中通路、そして、敵陣建物1階に通じている。このルートならば、敵陣で見張っているプレイヤーに姿を見られることなく、敵陣建物に近づくことが可能なのだ。
あたしたちは、ひとまず中庭中央の建物の地下1階まで進んだ。
「では、あたしと美咲はここで待機しています」遥が言う。「準備が整ったら、知らせてください」
「了解」
遥と美咲を残し、6人で地下通路を進む。この辺りから敵の『モーション・トラッカー・ライト』の能力に引っかかる可能性があるので、足音を感知されないよう、しゃがみ歩きで慎重に進んだ。そのまま北西の角まで進む。ここを曲がって少し進めば、敵陣建物の1階だ。そっと顔を出して通路の先の様子を伺うが、敵の姿は見えない。
ちはるさんが『ボイス・チャット』の能力を使い、中央建物で待機している遥たちに言う。「遥、美咲。配置に付いた。通路からは誰の姿も見えない。そっちから、何か見えるか?」
《屋上で朱実が見張っている以外は、確認できません》遥が応える。《恐らく、建物内に隠れているのでしょう》
全員がフラッグの側を離れて建物の外に出るとは考えにくいから、恐らく遥の言う通りだろう。由香里さんと麻紀さんは石にしたから、敵チームは残り6人。戦闘力が低いメンバーで、リーダーも欠いているけれど、敵陣内で守りを固めているところに無計画に飛び込むのは危険だろう。
「――よし。じゃあ、作戦通り」
《了解です。成功を祈ります》
通信を終え、ちはるさんは、薫を見て大きく頷いた。薫も頷き返す。いよいよ、この特殊ミッションが始まる前の参加メンバーを決める会議の時に、薫が提案した作戦を試す時が来た。
薫は能力を発動する。遭遇したメンバーに変身することができる『ミミック』だ。この能力を使えば、外見と声は、完璧に他のプレイヤーに化けることができる。ボン! 薫は、敵チームのリーダー・由香里さんに変身した。『ミミック』の能力は、CTF中も効果に変化はない。例え敵チームのメンバーでも、特殊ミッションに参加していないメンバーでも、変身することは可能だ。
続いて薫は、能力カードを取り出す。特殊ミッションが始まる前、由紀江から貰ったカード『連絡係』だ。遭遇した全てのプレイヤーと連絡が取れる能力である。これも、CTFによる効果の変化は無く、誰とでも連絡を取ることが可能だ(ただし、全ての能力はCTFエリア外のメンバーに向かって使うことはできないので、エリア内にいるメンバーに限られるが)。
つまり、この2つの能力を組み合わせれば――。
薫が、敵メンバー6人に対して能力を使った。「みんな! 由香里よ! 敵チームのメンバーを発見したわ! エリア南東、壁の中の通路よ! どうやら敵チームは、フラッグを奪うつもりはないみたい。このままキル数のリードを守るつもりね。現在交戦中。今すぐメンバー全員で、南東の通路まで来て! 急いで!!」
――と、いう風に、『ボイス・チャット』の能力のように見せかけ、間違った指示を出すことが可能なのだ。
「さて、うまく行くといいが……」ちはるさんが言う。
『ミミック』の能力は、外見と声は本人そっくりに化けることができるけど、喋り方まで同じにはならない。薫はモノマネが得意とは言え、それはリアルさを追求したものではなく、どちらか言えば笑いを追求したもので、喋り方や仕草などは、かなり大げさな表現になっている。もちろん、今回の目的は笑いを取ることではないので、喋り方も由香里さんに極力似せてもらったけど、やはり、完璧とは言い難いかもしれない。ニセモノだとバレる可能性も十分にある。まあ、仮にうまく行かなくても、連絡の真偽をメンバー間で話し合っている間にスキはできるし、この先敵チームが少しでも『ボイス・チャット』の指示を疑えば、その後の連携に微妙な影響が出るだろう。それだけでも効果は大きいはずだ。さて、どうなる……?
《うまく行きました》遥の声。《理香さんたちが、東の壁上通路を通って移動しています》
よし! これでフラッグはフリーだ!!
《ただし、注意してください。移動しているのは4人です。千恵さんとゆきさんの姿が見えません。恐らく、残ってフラッグを守っているのでしょう》
全員で来いと言ったのに、キャプテンの指示をムシするとはなんてヤツらだ。後でセッキョーだな。
まあ、2人なら何とかなるだろう。作戦続行だ。あたしたちはしゃがみ歩きで通路を進み、建物内に入った。そのまま階段を上がる。先頭のちはるさんがそっと顔を出し、2階の様子を伺う。
「――――!!」
驚いた顔。そして、階下を指さす。「1度戻れ」ということだろう。あたしたちは静かに階段を下り、再び通路まで戻った。
「どうしたんですか?」あたしは小声で訊く。
「ヤバイことになった。千恵とゆきの他に、ゴーレムが2体いる。石化したメンバーじゃない。あれは、中庭にあった石像だな」
全員絶句する。
確かに、『ゴーレム』の能力は、石化したプレイヤーだけでなく、ゲームの進行に著しく影響がある無機物(例えばこの建物や壁など)以外は、何でもゴーレムにすることができる。中庭には石像が数体あったから、それを利用したのだろう。考えたな。
「行くしかないだろう」愛子さんが言う。「時間が経てば、南東に向かったメンバーも戻ってくる。そうなったらますます厄介だ。ゴーレムは、あたしとちはるとカスミでなんとかする。直子と薫と葵は、そのスキにフラッグを奪え」
そうするしかないか。ラウンド2も間もなく残り3分を切るだろう。フラッグを奪うチャンスは、恐らくこの1回のみだ。全力で行こう。
《待ってください》遥のボイス・チャットだ。《薫の能力を使って、もう1つ、いい作戦があります。それを、試してみましょう》
遥は、作戦を説明した。
「……悪くないな」ちはるさんをはじめ、全員が同意する。「よし、それで行こう」
《はい。では、成功を祈ります》
通信が切れ。
あたしたちは、作戦を開始した。
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TIPS 23:ドリームペインター、センターポジション決定
■ドリームペインターが公開練習。センターポジションも決定
大人気アイドルグループ『アイドル・ヴァルキリーズ』の姉妹ユニットとして2012年2月にデビューを予定している『ドリームペインター』が、3日、都内で公開練習を行った。
『ドリームペインター』メンバーはこの日、完成したばかりのデビュー曲の振付を中心に練習を行い、プロデューサーや振付の先生の熱心な指導のもと、1時間汗を流した。
練習終了後は、集まった報道陣に向け、メンバー1人1人簡単な自己紹介を行い、その後、来年2月に予定されているコンサートでも公演予定の、アイドル・ヴァルキリーズのデビュー曲『胸奥の試練』他2曲を披露。同時に、注目が集まっていたグループのセンターポジションに、14歳の朝比奈真理さんが立つことが発表された。『ドリームペインター』は、オフィシャルホームページ上にて人気ランキングを行っており、17歳の神坂智恵理さんと、18歳の高橋花恋さんが人気を二分し、朝比奈さんはベスト10に入っていないが、その結果を覆しての抜擢となった。
公開練習後、記者会見を行ったドリームペインター・プロデューサーは「メンバーのオーディションの時、朝比奈を見て、(アイドル・ヴァルキリーズメンバーの)神崎深雪のオーディションの時と、ピタリと重なった。あの時から、私の中で、ドリームペインターのセンターポジションは、朝比奈以外にはありえなかった」とコメントしている。
本日行われた公開練習の様子は、大手動画投稿サイトにて視聴可能となっている。
『ドリームペインター』は2012年2月、日本武闘館にてデビューコンサートを行い、同年4月にCDデビューを予定。
(2011年12月3日、大手インターネット検索サイトのニュース記事より抜粋)