東方双夢譚   作:クジュラ・レイ

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第3のオリキャラ登場。


4 白き神

 黒い虎の妖怪を討伐して、中から出てきた少年を街の寺子屋の教師、上白沢慧音の元に預けてきた後、早苗は神奈子、諏訪子と共に守矢神社に帰ってきた。神奈子と諏訪子は帰ってくるなりひどく疲れた様子を見せ、寝室に駆け込むように入り込み、そのまま昼寝してしまった。早苗は二人についていき、二人が昼寝を始めるなりその身体に軽いタオルケットをかけてやり、静かに寝室から出て廊下を歩き、居間に入り込むと、畳の上に腰を下ろし、溜息を吐いた。

 

(本当に……ひどい戦いだったなぁ……)

 

 黒虎との戦いは、八俣遠呂智との戦いのときのように熾烈なものだった。神奈子と諏訪子がやられて、自分に黒虎が迫った時、あの落雷がなかったら自分は死んでいたかもしれない。神奈子の言う通り、あの時は本当に運が良かった。

 しかし、早苗にとってあの戦いの内容は、その後判明した事に比べれば正直どうでもよかった。あの黒虎を討伐した後、黒虎の亡骸が霧散し、中から意識を失っている懐夢くらいの年頃だと思われる少年が出てきた。その少年を街の慧音の元に運び込んでみたところ、驚くべき事実が慧音の口から明らかとなった。

 あの少年は、西の町で生まれ、街へ越した人間だった。少年は西の町にいる頃、西の町で有名な性質の悪い子供達から本当に子供によるものなのかと疑いたくなるような酷い苛めと加虐行為を日常的に受けていたらしく、身体にいくつもの傷跡があるそうだ。

 それだけじゃない。その子供達の加虐行為は少年の両親にまで及んでおり、その子供達の手によって少年の母親は腕の骨を折る怪我を、父親は足の骨を折る怪我をしたことがあるそうだ。この子供達による、子供のやる事とは思えない加虐行為に我慢ならなくなった少年の一家は慧音によって守られている街へ越した。その後、少年は寺子屋へ入学し、一家はようやく平穏な暮らしを手に入れる事が出来たそうだ。

 

 しかし、この一家にはまだ問題が残っていた。それは、少年が両親を怪我させた子供達に強い復讐心を抱いていた事だ。少年は子供とは思えないくらいに殺気立ち、復讐の機会を伺っていたらしい。無論、それには慧音が気付き、どうにかして復讐をやめるように少年を説得。少年は慧音の説得を飲み込んでくれ、復讐するのをやめてくれた。慧音はここで、全ての問題が解決したと思って安心したらしい。

 だが、今から数日前、少年は両親の元から忽然と姿を消した。両親は少年の居場所を調べてくれるよう周囲に頼み込んだが、慧音は妖怪に喰われてしまったに違いないと断定し、諦めて少年の捜索には乗らなかった。しかし、その妖怪に喰われたと断定されていた少年を自分達が運んできたものだから、慧音は酷く驚いたそうだ。

 そして自分達が、未確認妖怪からその少年が出てきたと伝えると、慧音は更に驚き、原因を模索、究明すると言って少年の身に起きた出来事についての調査を開始した。その調査は自分達と霊夢もやる事にし、各自で調査を行う事となった。

 しかし、早苗はこの調査を行うと言った時から、嫌な予感を感じていた。

 何故ならば、今回の異変は、以前の八俣遠呂智の異変の際に妖怪達の身に起きた、暴妖魔素(ぼうようウイルス)による異変と酷似していたからだ。あの時は、暴妖魔素という八俣遠呂智の身体を構成する物質に感染した『妖怪達』が狂暴化し、やがて暴妖魔素によって別な妖怪へ変化(へんげ)するという異変だったが、今回はそれが『人間』に起きたとしか思えない。あの少年が何らかの要因によってあの黒虎に姿を変えて暴れまわり、自分達との戦いに敗れた事によって元に戻ったとしか、思えないのだ。……まぁ、定かではないから真実とは言えないのだが。

 

(妖怪が変化する異変の次は、人間が変化する異変……?)

 

 もしそうだとしたら、その原因は何だろう。八俣遠呂智の暴妖魔素による異変の時のような、未知の物質によるものだろうか。それこそ、外の世界にいた時に映画館で見た、とあるウィルスに感染した人々が生ける屍(ゾンビ)となって他人を襲い、自分達と同じに変えて行って、やがて世界中を覆い尽くすという内容の海外製パニック映画のような。

 だが、そんなものが起きようものなら大変だ。きっと八俣遠呂智の異変の時よりもひどい混沌に幻想郷が飲み込まれてしまうに違いない。……まぁ全て自分の憶測と創造でしかないから、本当の事かどうかなどわかりはしないのだが。けれど、突如としてよみがえった太古の魔神『八俣遠呂智』、その後に出現した黒虎による異変を経験して、一つだけいえる事が出来た。

 

「もうあんな異変は起きてほしくないな」

 

 早苗はそっと呟くと、身体を伸ばし、そのまま仰向けの状態で畳の上に寝転がった。

 眠気が来た。黒虎と戦って疲れてしまったようだ。洗濯と掃除は黒虎が出現したという知らせが来る前に終わっているし、時間だってまだ午前の十時半。昼餉の十二時まで、一時間半も余裕がある。それまで昼寝していたって問題なさそうだ。

 早苗は起き上がってテーブルに近付き、その上に置いているアラーム機能付きの時計を手に取ると、午後十二時にアラームをセットして、自分のすぐ近くの畳に置いて、もう一度寝転がり、そっと目を閉じた。

 徐々に意識が遠のき、眠りに入ろうとしたそのときだった。

 

「八坂、洩矢。いるか?」

 

 玄関のガラス戸を叩く音と声が聞こえてきて、早苗は閉じていた瞼を開いた。ゆっくりと身体を起こし、眠たい目を数回指で擦って、玄関の方へ顔を向けた。

 

「誰かしら……」

 

 少しぼーっとしていると、もう一度声が聞こえてきた。

 

「八坂、洩矢! いないのか?」

 

 聞き覚えのない若い男性の声色だった。言葉の内容から察するに、神奈子と諏訪子を用のある客のようだ。そこで、早苗はハッとした。

 

「神奈子様と諏訪子様を呼んでる……?」

 

 普通、神社にやってくる客は、自分に用件がある客だけで、神奈子と諏訪子に用があると言って来る人は、霊夢や魔理沙、紫などと言った特殊な人物か、二人の知り合いの神くらいだ。今の人は、二人の名を呼んだから、恐らく二人の知り合いの神か何だろう。もし神だったならば、礼儀正しく接しなければ。

 早苗は深呼吸をして立ち上がり、居間を出て玄関へ赴いた。

 そして靴を履き、少し緊張しながらガラス戸に近付き、恐る恐る開いた。

 

「どちらさまでしょうか」

 

 戸の向こうにいて、今は自分の目の前にいる神奈子と諏訪子の知り合いと思われる人物と目が合って、早苗は思わずきょとんとした。目の前にいる神奈子と諏訪子の知り合いと思われる人物は、自分よりもかなり背が高く、先端が空色の白金色の髪の毛を耳がすっぽりと隠れるくらいの長さのショートヘアにして、白い洋服と和服が混ざったような衣服を纏って空色の袴を履き、胴体に三つ巴の紋章が描かれた、剣道で使うような胴あてを付け、空を直接写したかのような美しい空色のとても長いマフラーを首に巻いている、整った顔立ちの、蒼い瞳の青年だった。

 早苗は青年と目が合い吃驚していたが、すぐに我に返って青年に声をかけた。しかし、そこで早苗は首を傾げてしまった。青年がこちらと目を合わせたまま、自分のようにきょとんとしていたからだ。

 

「あの、どちらさまでしょうか?」

 

 青年は我に返ったようにハッとして、早苗の問いかけに答えた。

 

「あ、あぁ……ここにいる八坂と洩矢に用があってきたんだ。あいつらは、いるか?」

 

「お二人のお知り合いですか?」

 

「あぁそうだ知り合いだ。それで、あいつらは?」

 

 早苗は頷いて、寝室の方へ顔を向けた。

 

「いらっしゃいますよ。ただ、とても疲れられて、お昼寝をされています」

 

 青年は少しだけ神社の中に入り込むと、神奈子と諏訪子の寝ている寝室の方へ目を向けた。

 

「寝てるのか。今寝たばかりか?」 

 

「はい。ただいまお休みになられたばかりなので、眠りは浅い方かと思われます」

 

 青年は早苗と顔を合わせた。

 

「そうか。二人には悪いと思うが、起こしてきてくれねえか? 結構大事な用事があってきたんだ」

 

 早苗は首を傾げる。

 

「と、言いますと?」

 

「この神社の経営に関係するような話」

 

 早苗は少しぎょっとしてから、頷いた。

 

「わ、わかりました。お二人を起こしてきます」

 

 青年の「頼む」という一言を聞くと、早苗は振り返り、玄関から出て寝室へ戻った。

 寝室に入り込むなり、部屋のほぼ中央で神奈子と諏訪子がタオルケットに身を包んで眠っているのが見えた。少し近付いて寝顔を見てみたところ、二人は静かな寝息を立ててぐっすりと気持ちよさそうに眠っているのがわかった。客人の青年には起こせと言われたが、流石にここまで気持ちよさそうに眠り込んでいる人を起こすのは酷だ。

 早苗は音をたてないように寝室から出ると、なるべく足音を立てないように玄関に戻り、青年に声をかけた。

 

「すみません。お二人、かなり深く寝入っておられるみたいで……起こそうとしても起きてくださりませんでした」

 

 青年は早苗の顔をちらと見てから、腕組みをした。

 

「そうか。あまりに気持ちよさそうに寝てるんで、起こすのは酷だと思ってやめて来たか」

 

 早苗はきょとんとした。自分は今、「起こそうとしても起きなかった」と言ったのに、青年は寝室に入った際に自分が思った事を言ってきた。まるで、自分の心を読み取ったかのように。もしかして、この人にも人の心を読む力があるとでもいうのだろうか。

 早苗はきょとんとしたまま、青年に問いかけた。

 

「ど、どうしてわかったんですか?」

 

 青年はあっと言ってハッとしたような表情を浮かべ、すぐに首を横に振った。

 

「あぁいや。何かそんな気がしたんだよ」

 

 早苗は首を傾げた。

 

「そうですか……?」

 

 青年は頷いた。

 

「そうだよ。さてと……あいつらにはかなり重要な用があったから来たわけなんだが、寝てるんじゃ仕方ねえな」

 

 早苗は青年に尋ねる。

 

「出直されますか?」

 

 青年は顎に手を添えて、目で神社の中を見回した。

 

「……この神社は、今はお前一人だけなのか?」

 

 早苗は頷いた。

 

「はい。正確には神奈子様と諏訪子様と私の三人ですが、お二人は眠っておられますので、私一人だけです」

 

 青年は軽く何かを考えているような表情を浮かべて、少し黙った後、口を開いた。

 

「厚かましい事を言うかもしれないが……あいつらが起きるまでこの神社で待ってるってのは、駄目か?」

 

 早苗はまたきょとんとした。

 

「はい?」

 

「あぁいや……お前はあいつらに仕える巫女なんだろ?」

 

「はい。確かに私はあのお二人に仕える巫女ですが……それが?」

 

 青年は頭を軽く掻いた。

 

「ちょっと、お前と話がしてみたいって思ったんだよ。あいつらに仕えてるお前と」

 

 早苗はもう一度首を傾げた。

 

「私と話……ですか?」

 

 青年が答えを返そうとしたその時だった。背後から、声が聞こえてきた。

 

「んなことさせないよ」

 

 早苗はぎょっとして、振り返った。そこには不機嫌そうな表情を浮かべて立っている神奈子と諏訪子の姿があった。いつの間にか、起きてここまで来ていたらしい。

 

「か、神奈子様に諏訪子様」

 

 青年は神奈子と諏訪子を見て、呆れたような表情を浮かべた。

 

「気持ちよさそうに眠ってたんじゃねえのか」

 

 諏訪子は大きな欠伸をした後、不機嫌そうな声を出した。

 

「あんたの気配の接近で起こされたんだよ。あんたの気配は神の中でも一際強いからね」

 

 早苗は青年を見て驚いた。

 

「えぇっ! 貴方も神様だったのですか!?」

 

 青年は早苗に目を向けて、頷いた。

 

「あぁそうだ。驚いたか?」

 

 早苗は思わず頷いてしまった。まさか、今まで話していたのが神だったとは、あまり考えていなかった。

 直後、神奈子が腕組みをした。

 

「んで、何の用で来たんだい、紗琉雫(シャルダ)

 

 早苗は神奈子と青年を交互に見た。

 青年は神奈子に答えを返すべく口を開いた。

 

「あぁ。実はな」

 

 早苗は声を上げた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください! 玄関先で話しているのもなんだと思います。だから、せめて居間に行きましょうよ」

 

 三人の神は一斉に早苗に目を向けて沈黙した。その沈黙が長く続くと思いきや、諏訪子が沈黙を裂くように口を開いた。

 

「早苗の言う通りだね。とりあえず居間に移動しよう」

 

 一同は頷き、総出で玄関から出て、居間へ向かった。

 

 

            *

 

 

 居間に着き、全員で畳の上に座って話を始めようとしたところ、まず青年が名乗った。青年の名は憶礼(おくらい)紗琉雫(しゃるだ)。神奈子と諏訪子とは幻想郷に来る前からの長い付き合いで、本人達曰く『腐れ縁の仲』だそうだ。

 その名前を聞いて、早苗は紗琉雫に聞こえないような小さな声で軽く呟いた。

 

「憶礼紗琉雫……変わった名前だなぁ……」

 

 紗琉雫が目を閉じる。

 

「変わってねえよ。神なんてみんなそんな名前だ。まぁ俺達は人間の名前っぽい名前で呼び合ってるだけなんだけどな」

 

 早苗は身体をびくんと言わせて紗琉雫を見た。

 

「き、聞こえたんですか?」

 

 紗琉雫は頷き、微笑んだ。

 

「あぁ。聞こえてたよ。でもいいよ。そんなの気にしねえから」

 

 早苗は視線を紗琉雫から逸らした。

 神奈子が割って入るように紗琉雫に尋ねた。

 

「んで、何の用で来たんだい紗琉雫」

 

 紗琉雫は顔を険しくして、要件を話し始めた。

 

「この幻想郷で、近々かなり大きな異変が起きるかもしれないらしい」

 

 諏訪子が目を丸くする。

 

「大きな異変が起きる……だって?」

 

 紗琉雫は頷いた。

 

「あぁ。他の神が言ってたんだ」

 

 神奈子が首を傾げる。

 

「他の神がだって? なんでそんな事わかるんだ?」

 

 紗琉雫は神奈子へ目を向ける。

 

「邪気だよ。この前、これまで観測された事のない邪気が神によって観測されたんだ。そして、その根源もな」

 

 神奈子が「邪気だと?」と言った後、紗琉雫が頷く。

 

「俺も実際に見てきたんだが……身の毛が弥立つような邪気だった。あんなの見た事ねぇ」

 

 諏訪子が少しだけ前に出る。

 

「それで、その根源っていうのは? 邪気は根源ってやつから出てたんだろ?」

 

 紗琉雫は頷く。

 

「邪気の根源は……妖怪だ」

 

 早苗が驚いたような表情を浮かべる。

 

「妖怪ですって?」

 

「正確には妖怪なのかそうじゃないのか、よくわからない何かだ。だがそいつらは妖怪に近い姿をしている。そいつらから、これまで観測された事のない邪気が発せられてたんだ」

 

 紗琉雫は目を閉じた。

 

「いや、邪気じゃないかもしれない」

 

 神奈子が相槌を打つ。

 

「と言うと?」

 

「おれにもよくわからん。だが、あれは邪気というよりも、殺気や魔力といったあらゆるものが混ざり合っている何かって言った方がいいのかもしれない」

 

 諏訪子が顔を顰める。

 

「それじゃ答えになってないよ。結局なんなのさそれ」

 

「だからわからんって言ってるだろ。とにかく観測された事がない何かを放つ見た事のない化け物が現れたんだよ」

 

 紗琉雫は目を鋭くした。

 

「それで、それを見た神達がこれは異変の始まりに違いないって言って、八坂と洩矢に伝えるよう言ったんだ」

 

 紗琉雫の言葉を最後に、部屋を沈黙が覆った。

 しかしその沈黙を、すぐに早苗が打ち破った。

 

「あの、憶礼様」

 

 紗琉雫は早苗と目を合わせた。

 

「なんだ早苗」

 

 早苗は思わず目を見開いた。

 まだ名前を教えていないはずなのに、紗琉雫が自分の名前を口にした。あらかじめ知っていたのだろうか。

 

「ど、どうして名前を……?」

 

 紗琉雫はまたあっと言って視線を早苗から逸らし、理由を話した。

 なんでも、紗琉雫はここに来る前、他の神から神奈子と諏訪子に東風谷早苗という巫女が仕えているという情報を聞いており、自分の名を既に知っていたそうだ。だから、初対面だというのにいきなり名前を口に出来たらしい。

 それを聞いて、早苗はそこそこ納得した。

 

「そうだったんですか」

 

 紗琉雫が頷く。

 

「そうだ。あとおれを呼ぶなら紗琉雫でいい。それで、なんだ早苗。何か言いたかったんじゃないのか?」

 

 早苗は紗琉雫に言おうとした事を紗琉雫の言葉で思い出し、話した。

 

「あ、そうでした。紗琉雫様の言うその妖怪に似た何かに特徴とかってありますか?」

 

 紗琉雫は軽く上を見た。

 

「そうだな……俺が見た奴はかなりでかい犬に似た姿で、身体の色が黒と赤で、身体に妙な模様がある奴だったな」

 

 それを聞いて、早苗は目を丸くした。

 今、紗琉雫が言った何かの特徴は、先程討伐した黒虎の特徴に似ている。いや、もしかしたら同じなのかもしれない。黒虎のようなものは、あれだけではなかったというのか……。

 その時、紗琉雫が声をかけてきた。

 

「どうした? そんな顔をして」

 

 早苗は答えた。

 

「そんなのと、私達さっきまで戦ってました」

 

 神奈子が頭をくしゃくしゃと掻く。

 

「あいつは強かった……危うく死にかけたよ」

 

 諏訪子が溜息を吐く。

 

「命辛々で勝ったもんねぇ……でも、紗琉雫の話じゃ、あれだけじゃないって事だよねあぁいうの」

 

 紗琉雫が頷く。

 

「おれが見た奴だけじゃないとは思ってたが……やっぱり複数いたんだな。

 これはおれの推測でしかないけど、あぁいうの、多分もっと増えていくと思う」

 

 早苗が顔を蒼くする。

 

「あんなのが、もっといっぱい出てくるっていうんですか?」

 

「あくまで推測だけどな。でもそんな気がしてならねえ。少なくとも、警戒する必要はあるだろう。

 ここまでは、他の神から頼まれた要件だ」

 

 紗琉雫は瞳を閉じた。

 

「ここからはおれ自身の要件」

 

 神奈子が面倒くさそうな表情を浮かべる。

 

「なんだよ」

 

 紗琉雫は閉じていた瞼を開いた。

 

「今後、お前達はあんなのとまた戦うかもしれねえ。その時なったら、おれも手を貸そうと思う」

 

 諏訪子が驚いたような表情を浮かべる。

 

「あんたも私達と一緒に戦おうっての!?」

 

 紗琉雫が頷く。

 

「そうだ。おれだって神だから力はある。お前達の助けにだってなるはずだ」

 

 神奈子が首を横に振る。

 

「駄目だね。お前、私達と会わない約束だっただろ。それを破ってきて一緒に戦おうだって?

 勝手にも程があるんじゃないのかい?」

 

 紗琉雫が腕組みをする。

 

「そうだったな。だけど、四の五の言っていられる状況だとお前達は思うのか?

 洩矢の話じゃ、俺が見たのと似た奴と戦って、命辛々で勝ったんだろ。だけどそれ、大方あの博麗の巫女とかいう奴の手を借りた結果なんじゃないのか」

 

 早苗は目を見開き、神奈子と諏訪子は身体をびくりと言わせた。

 

「な、なんでそれを……?」

 

 紗琉雫は溜息を吐いた。

 

「博麗の巫女は幻想郷の秩序とやらを守る最強の存在だ。あんな得体のしれない奴が現れたら、真っ先に動き出す。お前らはそれに乗っかって、そいつをようやく倒したんだろ。もし博麗の巫女がいなかったら、お前達どうなってたんだ?」

 

 早苗は俯いた。あの黒虎とは最初、自分達だけで倒せると思って戦った。しかし黒虎が予想以上に強くてどうにもならず、結局霊夢に頼って倒す結果となった。もしも霊夢がいなかったら、自分達は今頃ここにはいなかっただろう。紗琉雫の言ってる事は、霊夢並みに鋭い。

 紗琉雫が続ける。

 

「もう四の五の言ってる場合じゃないはずだ。正直、お前達には死んでほしくない。

 死んでほしくないから、おれはお前達と一緒に戦いたい。それとも、お前らは約束を優先して死ぬか?」

 

 神奈子は俯き、諏訪子はそっぽを向いた。

 そこで早苗は考えた。紗琉雫がここまで言うという事は、紗琉雫自身かなりの強さを持っているという事だ。だが、もしそうじゃないとしたら、非常に迷惑な話になる。一体紗琉雫はどちらなのだろうか。

 普通ならここで神奈子と諏訪子に尋ねるところだが、生憎二人は紗琉雫を見ないようにして黙り込んでいる。多分聞いても答えてくれないだろう。これでは紗琉雫の強さはわからない。

 どうしようと思ったその時、早苗は閃いて、声を上げた。

 

「あの、こういうのはどうでしょうか?」

 




早苗の提案とは。

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