東方双夢譚   作:クジュラ・レイ

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6 街を包む瘴気

 霊夢達はにとりの開発したマスクを着けて街へ向かっていた。にとりから借りたマスクを付けた時、少し息苦しさを感じたがすぐに慣れた。

 しばらく飛んでいると、街が見えてきたがそこで一同は驚いた。街が、見た事もない深い黒色の霧に覆われていて、立ち並ぶ家や店屋の姿かたちがほとんど見えないのだ。

 その黒い霧を見た魔理沙は驚きながらにとりに尋ねた。

 

「にとり、なんだあの黒い霧!?」

 

 にとりは魔理沙の方へ顔を向け、答えた。あれこそが、街に突如として発生した異常な濃度の瘴気(ミアズマ)なのだという。

 それを聞いた霊夢は驚きの声を上げた。元来、瘴気というのは大気や空気と同じで、目に見えないものだ。しかしそれが目に見えているという事は、それほどまでに濃度が高いという事だ。元来見えないものが見えるくらいの濃さになっているという出来事は、誰がどう考えたって異常だとわかる。

 

「目に見えないものが見えるくらいの濃さになってるなんて……どう考えたって異常ね」

 

 魔理沙が続く。

 

「あぁ。それに、自然に起きた事じゃないってのもわかる。どう考えたってこれは何かが人為的に引き起こした現象だぜ」

 

 早苗が不安げな顔で霊夢に話しかける。

 

「霊夢さん、街の人々は大丈夫なんでしょうか?」

 

 霊夢は隣に並ぶ早苗の方へ顔を向け、首を横に振った。

 

「わからないわ。それに、被害を受けてるのは人だけじゃないかも」

 

 瘴気というのは人間だけが影響を受けるものではない。瘴気を吸ってしまった妖怪もまた、人間と同じように苦しむのだ。

 この事を霊夢が話すと、魔理沙がにとりに尋ねた。

 

「にとり、これ本当に大丈夫なのか? このマスクは本当に瘴気から私達を守ってくれるのか?」

 

 にとりは頷いた。

 

「呼吸の時は安心できるよ。でも人間も妖怪も皮膚呼吸っていうのをしてるから、長い時間あの中に入ってると皮膚が瘴気を吸ってしまって、そのうち瘴気を(じか)に吸ってしまったのと同じような状況になるよ」

 

 慧音は説明を行うにとりから瘴気の立ち込める街の方へ視線を戻した。

 

「いずれにせよ長い時間あの中にはいられないという事か」

 

 妹紅が街を指差す。

 

「それだけじゃない。あの瘴気、どんどん大きくなっていってる」

 

 全員が妹紅の指差す方向へ視線を向けた。よく見えていなかったのでわからなかったが、街を包む瘴気が奇妙に波打って、その規模をわずかながら増していっている。まるで、瘴気そのものが生きているかのように。

 その動きを見た魔理沙は顔を少し蒼褪めさせた。

 

「なんだよ……あそこを中心にどんどん広くなっていってるっていうのか」

 

 霊夢が表情を引き締める。

 

「となると……いずれは幻想郷全土に及ぶって事ね。あの異常な濃度の瘴気が……」

 

 早苗が同じように表情を引き締めて一同に言った。

 

「まずはあの中に入りましょう。そして一刻も早く、あの瘴気の原因を見つけ出して潰しましょう。あれが何者かによって引き起こされた物ならば、そうする事によってあの瘴気を消す事が出来るはずです」

 

 霊夢は頷いた。

 

「その可能性が一番高そうだからね。皆、瘴気の中へ飛び込むわよ!!」

 

 霊夢のかけ声に一同は「おぉっ!」と答え、街へ、瘴気の中へと飛び込んだ。

 

 瘴気の中に飛び込んで早々、一同は再び驚いた。瘴気の濃度は自分達が想定していたものを遥かに越ええており、どこを見てもどす黒い瘴気が立ち込めていて、十メートル先の道も建物もその前の小物も人影も見えないほどのものだった。その濃さは、もはや早朝の山に立ち込める濃霧に匹敵するもので、完全に視界を潰されてしまっている。

 辺りをきょろきょろと見回しながら、霊夢は呟いた。

 

「なんて濃さなの……こんなんじゃ、瘴気の根源なんて見つけられないわ」

 

 本来人為的に霧などを引き起こした場合、広範囲に渡って薄いところと濃いところが出来、その中でもっとも濃度が高いところがそれの発生源のいる場所となる。つまり、一番濃度高いところを探せばよいのだが、この瘴気には薄いところはなく、全てが均一な濃度になっていて一際濃い部分などどこにあるのかわからない。

 ならば上から探せばいいではないかと思ったが、生憎上から見てもこの瘴気はどこまでも均一な濃さになっていて、一際濃い部分など見つけられなかった。どこへ行ったってどんな方法を取ったって結局は同じなのだ。

 その時、魔理沙がうんざりしたように呟いた。

 

「畜生……全然見えねぇ。これじゃあ生き残ってる人とかも見つけられないよ」

 

 そう言われて、霊夢は気付いた。そういえば、人の気配がない。

 普段ならばこの街は人や妖怪が常に行き交っているのだが、今はどこにも人の気配がない。普通こうなってしまっている時には道端に人が倒れていたりするものだが、それすらも見つからない。

 

「そういえば、街の人いないわね……どこに行ってしまったのかしら」

 

 慧音が周りを見渡しながら答える。

 

「恐らく皆建物の中へ入り込んだのだろう。だがこれほどの瘴気だ、建物の中にも侵入してしまっているに違いない」

 

 その時、自分の立っている位置からすぐ近くにある建物から音が聞こえてきたのを霊夢は感じ取った。

 建物の方を向いて耳を澄ませて聞こえてくる音を感じ取ってみたところ、それは人が咳き込むような音だった。それも、大人の咳ではなく子供の咳。

 霊夢は建物の入口を見つけると慌ててその戸をぴしゃっと開いた。

 そこは一般的な民家だったが、居間の方を見てみれば数人の人が床に伏せているのが見えた。その中には咳の根源であると思われる九歳くらいの少女が紛れている。

 

「大丈夫ですか!?」

 

 霊夢が叫ぶと、居間の方から少女の父親と思われる男性が出てきた。

 男性は霊夢を見るなり驚いたような表情を浮かべた。

 

「は、博麗さんではありませんか。よくぞご無事で……」

 

「私の事はどうだっていいわ。それよりも、一体何があったの?」

 

 男性は霊夢にこの出来事について説明を施した。

 なんでも、慧音が行方不明となった大人と子供達を探しに行ったすぐ後にどこからともなく見た事もないようなどす黒い霧が街に立ち込め始め、瞬く間に街全体を覆ってしまったらしい。突然の事に街は恐慌(パニック)状態に陥ったが、それも女子供といった体の弱い者達が次々臥せていった事によりすぐに消えてしまったという。街の住民たちは黒い霧から身を守ろうと街を出たり、自分の家や建物の中に閉じこもったりしているそうだが、この中の自分の家や建物の中に閉じこもった者達は次々と倒れて行っているらしい。

 この男性も妻と子供に臥せられてしまい、もうすぐ自分も臥せてしまいそうだという。

 

「相当な被害が出ているようね……」

 

 男性はおどおどした様子を見せた。

 

「妻と子供はどんどん弱っていって、私の体調もどんどん傾いていって……他のところも同じ有様で……博麗さん、どうしてこんな事になったんですか! これは一体何なんですか!?」

 

 霊夢は男性に落ち着くよう言った後、今の街の状況を説明した。

 

「この黒い霧の正体は瘴気よ。それも、自然界では絶対に起きないほどの濃度の。これを吸い続ければ身体を瞬く間に侵されちゃって、最終的には死に至るわ。このままじゃ臥せた人達が死んでいくのも時間の問題でしょうね」

 

 男性は顔面蒼白にして霊夢の両肩を掴み、叫んだ。

 

「そんな! 妻も子供も死ぬっていうんですか! どうすれば妻と子供は助かるんですか!?」

 

 霊夢は男性の手を肩から外させ、表情を引き締めた後言った。

 

「この瘴気は何らかの要因によって人為的に引き起こされたものよ。それを止めてこの瘴気を打ち払い、綺麗な空気を吸わせて体内の瘴気を吐き出させれば、体調は元に戻る。私達は今、その根源を探してる」

 

 その時、外から声が聞こえてきた。

 

「霊夢! 大変だ! すぐに来てくれ!!」

 

 霊夢は咄嗟に振り向いた。そこには慌てている魔理沙の姿があった。

 

「何かあった?」

 

「とにかく来てくれ!」

 

 霊夢は男性に別れを告げると妹紅の待つ外に出て、辺りを見回した。

 その時に、黒い濃霧の中で地面に座って何かを抱えている慧音と早苗とその近くに立って二人の抱えているものを見ていると思われる妹紅とにとりの姿を見つけた。しかしこの位置からは慧音と早苗が何を抱えているのか、見えない。

 霊夢は魔理沙と共に慧音と早苗に近付き、二人の抱えているものを見て、驚いた。

 二人の抱えていたものとは、チルノとミスティアだった。

 

「チルノ? それにミスティア? どうしたの?」

 

 慧音は顔を上げて霊夢と顔を合わせ、状況を説明した。

 何でも、霊夢が建物の中に入っている間、道を見ていたら瘴気の中にぼんやりと光る蒼い光を見つけ、慌てて駆け付けてそれを確認してみたところ、チルノとミスティアだったという。

 しかし、チルノとミスティアは見つけた時には息はしているものの非常にぐったりしており、抱きかかえて声をかけても全く反応を示さないという。

 その二人を見て、魔理沙が呟いた。

 

「もしかしてこれ、瘴気を吸い過ぎて死にかけてるんじゃ……?」

 

 霊夢はにとりの方と顔を合わせた。

 

「その可能性は高そうね。にとり、マスクまだある?」

 

 にとりはあるよと答え、懐から霊夢達が付けているものと同じマスクを取り出し、慧音と早苗に差し出した。

 慧音と早苗はそれを受け取ると、チルノとミスティアの顔にそれを装着し、マスクを着けられた二人の呼吸は少しだけ穏やかになった。

 直後、霊夢が呟いた。

 

「それにしても、どうしてこの子達がここに……?」

 

 普段チルノ達は街へ足を運ぶ事も多い。恐らくいつも通り街に来た時に、この瘴気に巻かれてしまったのだろう。しかし、そこである疑問が浮かび上がる。

 どうしてチルノとミスティアは瘴気から逃げ出そうとしなかったのだろうか。空を飛ぶ事が出来るこの子達ならば瘴気に巻かれる前に空へ飛び出し、逃れる事が出来たはずだ。どうして、そうしなかったのだろうか。或いは、空を飛んで逃げようとしたが、何か事情があって逃げだせなかったのだろうか。

 考えに頭を回していると、チルノから小さな声が聞こえてきた。

 

「……だい……ちゃん……」

 

 一同は吃驚して、抱きかかえている慧音が声をかけた。

 

「チルノ? チルノ大丈夫か!?」

 

 チルノは目を開けなかった。どうやら今のは譫言(うわごと)のようだ。

 そう思ったその時、チルノは続けて言った。

 

「……だ……いちゃんが……かい……ぶつ……に……」

 

 それを聞いて一同は驚き、そのうち魔理沙が噛み付くようにチルノへ尋ねた。

 

「おいチルノ! それってどういう事だ!?」

 

 チルノは答えなかった。

 その始終を聞いていた霊夢は咄嗟に『考える姿勢』をとった。

 『大ちゃんが怪物になった』。大ちゃんというのは、チルノといつも一緒にいる親友、大妖精の事だろう。そして、大妖精はリグルと同じように数日前までは頭がぼーっとして物事がうまく考えられないという症状を患っていた。―――それが怪物になったという事は、大妖精もまたりリグルと全く同じ感染症に感染していて、それが発症してしまったという事だ。最悪のケースに、陥ってしまった。

 考えていると、慧音が顔を少し蒼白にして呟いた。

 

「大妖精が……怪物になっただと?」

 

 魔理沙が慧音の方を向く。

 

「それって……まさかリグルと同じような事になった事か!?」

 

 霊夢は頷いた。

 

「その可能性が一番高そうね。あの子もリグルと同じ感染症に感染していたんだわ」

 

 にとりが物事を不思議がるような顔をして霊夢と慧音と魔理沙を交互に見る。

 

「え? 感染症? それってどゆ事?」

 

 妹紅が答える。

 

「詳しい事は後だ後。それよりも、こいつらどうするよ。このまま放っといたらいくらこのマスクを着けててもやばいんじゃないか?」

 

 慧音が頷く。

 

「あぁやばいとも。だから早いところ安全な場所まで運んでやらないと……」

 

 早苗が慧音の方へ顔を向ける。

 

「でもそうしたらこの街の人々が……!」

 

 霊夢は更に考えた。確かに慧音と妹紅の言うとおり、チルノとミスティアは大量の瘴気を吸い込んで衰弱してしまっている。このまま放っておいては衰弱死してしまうだろう。だが、だからと言って瘴気の根源を潰して瘴気を打ち払わずに捜索を途中でやめてここから出てしまえば、この街に残された人々が衰弱死し始めるだろう。

 どちらとも助けるにはチルノとミスティアの救出と街を包み込む瘴気の根源探しは同時に行う必要がある。それには、人員を分けなければならない。

 霊夢は思い付くと、皆に提案を持ちかけた。

 

「こうなったらリグルの時と同じように人員を分けましょう。この中で二人がチルノとミスティアを抱えて博麗神社で戻り、残った四人が瘴気の根源の捜索を続けるってので」

 

 魔理沙が答える。

 

「そうするしかないわな」

 

 慧音が続く。

 

「それが一番良さそうだ」

 

 妹紅がさらに続く。

 

「まぁそうだろうな」

 

 早苗が続く。

 

「賛成です」

 

 にとりが最後に言う。

 

「それが一番良さそうだね」

 

 全員の賛成を聞くと、霊夢は皆に人員についての話し合いを持ちかけた。

 話し合いはすぐに終わり、一同は残る者と帰る者に分かれた。

 この場に残って瘴気の根源を見つけて瘴気を打ち払う者達は霊夢、魔理沙、早苗、にとりの四人、チルノとミスティアを連れて博麗神社に戻る者達は慧音と妹紅の二人に決まった。どうしてこんな人選になったのかというと、霊夢は博麗の巫女としてこの異変を解決しなければならないため、魔理沙と早苗は霊夢とほぼ同じ目的、にとりは非常時のマスクの補給の為で、慧音と妹紅が帰る事になったのは慧音はチルノとミスティアの教師だから、妹紅はそのフォローをするためだ。

 残る者と帰る者が決まると、帰る者達はチルノとミスティアを抱えて飛び上がり、博麗神社へと向かっていき、残った者達は引き続き街中を歩き始めた。

 しかし、街の中は相変わらずどす黒い瘴気に包まれていて、まるで闇夜に呑み込まれてしまったように暗く、瘴気の根源を見つける事など一向に出来なかった。

 そのうち、魔理沙が呟いた。

 

「暗ぇ。まるでここだけ夜になっちまったみたいだ」

 

 早苗が続く。

 

「本当に、この中に瘴気の根源が居るのでしょうか……? なんだか不安になってきました」

 

 魔理沙が隣を歩くにとりを見る。

 

「にとり、何かいい道具ないのか? こんな状況でも妖怪とかの位置がわかる物とかさぁ」

 

 にとりは魔理沙と顔を合わせた。

 

「あればとっくに使ってるよ」

 

 皆が瘴気の根源を発見できずに苛立っている中で、霊夢は身体に違和感を感じていた。

 先程から、身体が妙に重いのだ。いや、重いというよりも自由がだんだん効かなくなってきていると言った方が正しいのかもしれない。

 そしてその感覚は、瘴気を吸ってしまった時の症状に非常に似ている。マスクをしているので口や鼻から瘴気が入る事はないが、どうやらにとりの言っていた通り、皮膚から瘴気が体に入ってきているらしい。このまま皮膚が瘴気を吸い込み続ければ身体の中に勝機が蓄積されていき、最終的に先程のチルノとミスティアのような事になってしまうだろう。そうなってしまえば、街の人々と共倒れだ。

 なんとしてでも、早いところ瘴気の根源を見つけ出さねば。

 そう考えていると、魔理沙が声をかけてきた。

 

「なぁ霊夢、そういえば今大妖精ってどこにいるんだろうな」

 

 霊夢は魔理沙と目を合わせないまま答えた。

 

「知らないわよそんなの。でもこの異変を終わらせたらすぐに探し出さないといけないわね。リグルみたいな怪物になっちゃった以上、何をしでかすかわからないからね」

 

 直後、早苗が魔理沙に続くように声をかけてきた。

 

「あの、霊夢さん」

 

「何よ」

 

 霊夢は早苗の顔を見た。その時、ある異変に気が付いた。

 早苗の顔が、少し蒼褪めているような気がする。なんだか、具合が悪そうだ。

 

「どうしたのよ早苗。顔少し蒼いわよ」

 

 早苗は答えた。

 

「何だか……時間が経つ毎に身体が少しずつ重くなっていっているような気がしまして……」

 

 その言葉を聞いて霊夢はハッとした。早苗も自分と同じ状態にある。いや、下手すれば自分よりも瘴気に深くやられてしまっているのかもしれない。

 それを聞いた魔理沙は早苗の顔を見て、驚いたような表情を見せた。

 

「うわ! 早苗顔色悪いぞ? おいにとり! このマスク本当に効果あるのか?」

 

 にとりは少し険しい表情を浮かべた。

 

「さっきも言っただろう。瘴気は皮膚からも身体に入ってくるって。それに瘴気は身体の弱い奴を早く侵すんだ」

 

 霊夢は顔色の悪い早苗を見て、尋ねた。

 

「まさかあんた……そんなに身体強くない?」

 

 早苗は小さく頷いた。

 

「はい……小さい頃から風邪を少し引きやすい体質でして……」

 

 魔理沙が心配そうな表情を浮かべて早苗に再度声をかける。

 

「大丈夫かよ。お前も慧音達の後を追って博麗神社に戻った方がいいんじゃないか?」

 

 早苗は顔面蒼白なまま笑みを浮かべる。

 

「大丈夫ですよ……これくらい、何とでもなります」

 

「しかしだなぁ」

 

 魔理沙が言いかけたその時、どこからか声が聞こえてきた。

 

「誰かいるのか?」

 

 四人は何事かと思って辺りを見回した。しかしどこを見ても真っ黒で、何も見えないし人影もない。

 気のせいかと思ったその時、今度はどこからか足音が聞こえてきた。それも、複数でどんどん大きくなってきている。

 音を聞き続けて、霊夢は声を出した。

 

「誰?」

 

 霊夢が言ったその直後、目の前に二つの人影が写った。そしてその姿がはっきりすると四人は驚いて思わず声を合わせて言った。

 

「さ、咲夜に妖夢!?」

 

 やって来たのは、白玉楼にて西行寺幽々子に仕える庭師魂魄妖夢と紅魔館にてレミリア・スカーレットに仕えるメイド長十六夜咲夜だった。二人もまた四人が居た事に驚いたらしく、そのうちの咲夜が言った。

 

「れ、霊夢に魔理沙! それに早苗ににとり……」

 

 妖夢が続くように言う。

 

「何故ここに?」

 

 霊夢は妖夢の問いかけに答えず、二人の口元に注目した。二人は布で簡易マスクを作り、それで口を覆っていた。明らかに、瘴気が口の中に入っていそうなほど脆いマスクだった。

 それを見るなり霊夢は少し呆れ、にとりに声をかけた。

 

「にとり、マスク」

 

 にとりはリュックから二つマスクを取り出し、妖夢と咲夜に差し出した。突然見た事もないようなものを渡されて二人は戸惑ったが、にとりが使い方とそれが何なのかを教えるとそれまで着けていた布を外して、にとりの教えの通りに装着した。そして二人が安心して呼吸が出来るようになったのを確認すると霊夢は妖夢に再度自分達へ問いかけるように言った。

 妖夢はそれに答えるように、再度霊夢へ問いかけた。

 

「霊夢殿、それで貴方達は何故ここへ?」

 

 霊夢は答えた。

 

「私達はいつもどおり異変の解決に。あんた達は?」

 

 それにはまず咲夜が答えた。咲夜は食材を買い求めるために街へやってきていたところ、突如街を包む黒い濃霧に飲み込まれてしまったらしい。そして今まで、この黒い濃霧の原因が何なのかを探して街を歩いていたらしい。ちなみに、妖夢も全く同じ用事で街へやって来て、全く同じように黒い濃霧に呑み込まれてしまったそうだが、途中で咲夜と会い、黒い濃霧を吸い込まないようにしてこの黒い濃霧の原因を探して歩いていたそうだ。

 二人の事情を聴いて、魔理沙が呟いた。

 

「なるほど……二人仲良くこの瘴気に包み込まれてしまったわけか」

 

 妖夢は驚いた。

 

「瘴気……だと?」

 

 霊夢が頷く。

 

「そうよ。しかも目の前が見えなくなるくらいのすっごく濃い瘴気。あんた達よく無事だったわね」

 

 咲夜がふふんと笑う。

 

「そりゃそうよ。私は紅魔館のメイド長、瘴気如きにやられたりはしないわ」

 

 妖夢が続く。

 

「私も同じだ。瘴気にやられるくらいでは白玉楼の庭師は務まらない。というか、この黒い霧の正体は瘴気だったのか……」

 

 早苗がそれに答える。

 

「そうなんですよ。しかも、どこから湧いて出てきたのかわからない、正体不明の瘴気なんです」

 

 妖夢は顎に手を添えた。

 

「瘴気は山川の間から生じると言われているが……これほどまでの濃度の瘴気が発生する事はあるのか?」

 

 霊夢は首を横に振った。

 

「ないわ。だから、私達はこれを何かが人為的に引き起こした異変とみなして、その元凶床の瘴気を打ち払う方法を探しているのよ。早くこの瘴気を打ち払わないと、街の人達は全滅してしまうわ」

 

 咲夜は表情を少し険しくした。

 

「それは困るわね。この街は紅魔館の生命線の一つだから、無くなられると大打撃よ」

 

 妖夢も同じように言った。

 

「私もだ。この街に無くなられては食材の供給減が途絶える。それだけは回避したい」

 

 魔理沙がふふっと笑った。

 

「よし。それじゃあ皆で行こうじゃないか。この異変を解決しに!」

 

 魔理沙の言葉に一同は頷き、再びどす黒い瘴気の包む街の中を歩きはじめた。

 


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