東方双夢譚   作:クジュラ・レイ

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9 最後の戦い

 霊夢達はついに博麗霊華との戦いを開始し、空中へ飛び出した。

 霊華との戦いはこれで二回目だが、あの時は勝つ事が出来なかった。霊華自身の強さが自分達の想像を超えるくらいに強すぎたのが第一の原因だが、それには霊華に何をやっても妖怪による攻撃が通用しなかった事が含まれている。

 

 その要因を、大賢者達が託してくれた神器の力で打ち破った。その証拠に、神器の神力を霊華にぶつけた際に、霊華の身体の近くに障壁が出現し、神器の力に圧し負けて砕け散った。そしてそれは、もう霊華のところに存在していない。確かに、霊華の身体を守っていた障壁を打ち砕いた。

 

 それだけではない。霊華の障壁を破った時から、霊華の身体から放たれていた神力の強さが急に低くなった。恐らく、神器の力をぶつけた際に、霊華の力が神器の力に圧し負けて弱体化したのだろう。攻めるならば、霊華の力が弱体化している今しかないが、霊華はきっと弱体化したとしても、八俣遠呂智や<黒獣(マモノ)>よりもはるかに強いのだろう。気を付けて戦わなければならない。

 

 霊夢は頭の中で考えを纏めると、早速集まる一同に声をかけた。

 

「みんな、攻撃を開始して! 霊華を、止めるのよ!!」

 

 神器を持っていない一同は霊夢の指示に頷き、散らばり、弾幕を展開。怒涛のような弾幕で霊華を撃ち始めたが、迫り来る弾幕に霊華は叫ぶように言った。

 

(かしま)しい! 黙らせてやる!!」

 

 霊華は弾幕を形成する光弾と熱弾の間を縫うように飛び抜けて弾幕の外へ脱出。そこでスペルカードを発動させるべく構えたが、その隙を突くように、早苗が霊華に狙いを定めつつ、八尺瓊勾玉に意識を送った。早苗の意識を受けた勾玉は瞬く間にその数を増やして早苗の周りに浮かび上がり、高速回転を開始する。

 

「行って!!」

 

 早苗が手を払うと、勾玉は高速回転をしながら早苗の元を飛び出し、霊華の元へ飛翔した。スペルカードを発動する事に夢中になっていた霊華は、勾玉がすぐ傍まで着たところでその存在を感知し、スペルカードの発動を中断。そのまま防御態勢に入ろうとしたが、その刹那に勾玉は霊華の元へ到達、次々と炸裂し、神力の爆発を引き起こした。

 これまで一切傷をつける事が出来なかった霊華の身体に、神力による攻撃で傷が出来た事に一同は歓喜し、映姫が思わず言った。

 

「効いた!」

 

 霊華はぎっと歯を食い縛り、体勢を立て直したが、すぐさま言葉を漏らした。

 

「なんだ、この力は……!!」

 

 首を横に振り、霊華は早苗に狙いを定めてスペルカードを高速で発動させて、武器を弓矢に変形させる。

 

「燃神「火鳥翔飛」!」

 

 霊華が弦を引いて離すと、飛び出した光の矢は炎を纏う巨大な鳥となり、傷をつけてきた早苗の元へと飛び立った。炎の鳥は羽ばたき、猛禽類のそれに似た鳴き声を交えながら早苗に突進を仕掛け、やがて早苗に直撃しようとした瞬間に霊夢がその間に割って入り、目に見えぬ速度でスペルカードを発動させた。

 

「夢符「二重結界」!!」

 

 霊夢の声の刹那に、霊夢と早苗の前に巨大かつ分厚い二重の結界が展開された。炎の鳥は突然現れた光の壁に、軌道を曲げる事も、減速する事すらも出来ずに飛び込み、爆発四散した。爆発した際に、猛烈な爆炎が広まり、二人を包み込もうとしたが、霊夢の展開した結界はそれすらも完全に防ぎ切った。

 

 それを見ていた霊華は思わず舌打ちをした。

 

「おのれ……こんな短期間で力を上げているのか……!?」

 

 言葉の直後、早苗と霊夢の目の前に紗琉雫が躍り出て、二人に続くようにスペルカードを発動させ、弩を霊華に向けた。

 

「神砲「雷帝光矢」!!」

 

 宣言の後に紗琉雫の弩から、猛烈な雷撃をその身に纏った矢が数本発射された。先程と同じように霊華は回避しようと動いたが、矢はほぼ発射された瞬間に霊華の身体に着弾。霊華の身体は大きく吹っ飛ばされて博麗神宮の地面へ激突、分厚い土煙を起こしてその中に隠れた。が、その直後に霊華は土煙を引き裂きながら空へ戻り、素早くスペルカードを発動させる。

 

「濡神「幻想水郷」!!」

 

 霊華の怒りの籠った宣言の直後、地面より大量の水が空へ向けて湧き出て、巨蛇を作り上げて一同を呑み込むべく襲い掛かった。かと思いきや、炎を使う蓬莱人、妹紅がそれに応じるかのごとくスペルカードを発動させた。

 

「不死「火の鳥-鳳翼天翔-」!!」

 

 宣言の直後、妹紅の周囲に先程霊華の放ったそれとほぼ同じ大きさの、爆炎を纏う鳥が霊華の作り出した水の巨蛇と同じ数出現し、鷹のような鳴き声を上げながら巨蛇へと立ち向かった。妹紅の放った爆炎の鳥と霊華の放った水の巨蛇は瞬く間に激突し合って、高熱の水蒸気を撒き散らしながら対消滅してしまった。

 

 妹紅が霊華の術を破った事に、慧音が驚きながら言う。

 

「も、妹紅お前……!」

 

 妹紅が得意気に笑う。

 

「なんだか調子がいいんだよね。今ならあんな奴にも勝てそうだ!」

 

 それを聞いていた霊華は歯ぎしりをする。

 

「貴様ら……いつの間にこんな力を……!!」

 

 映姫がスペルカードを発動させつつ、霊華に叫ぶように言う。

 

「私達も貴方に負けてから学習したってところですよ! 審判「ラストジャッジメント」!!」

 

 映姫の宣言の直後に、その周囲に無数の槍のような板が出現し、獲物に襲い掛かる猛禽類の如く霊華へ飛び立った。霊華はすぐさま迫り来る板の群れの方へ身体を向けてスペルカードを放つ。

 

「断神「鏡反斬舞」!」

 

 宣言の後に霊華が武器で横薙ぎすると、映姫の弾は全てその場で硬直し、反転。霊華から映姫へと矛先を変えて突撃を開始したが、映姫はそれを待っていたといわんばかりにその場から飛び立って弾幕を回避した。また同じように自分の放った攻撃で落ちなかった事に、霊華は少しだけ驚く。

 

「避けたか」

 

「……貴方でもスペルカードを放った後は隙を見せるのね」

 

 突然聞こえてきた背後からの声に驚き、霊華は振り向いた。スペルカードを発動させている証拠である光を放つナイフを両手にを構えた咲夜の姿がそこにはあった。

 

「貴様……!」

 

「傷魂「ソウルスカルプチュア」!!」

 

 宣言の直後、咲夜は持ち前のナイフで霊華の身体を目に見えぬほどの速度で切り裂いた。咲夜の斬撃は一つ残らず霊華の身体に直撃し、切り刻まれた服と血が飛び散った。そこでようやく、霊華は悲鳴を上げる。

 

「ぐぁぁあッ」

 

 霊華の悲鳴を聞き届けた咲夜は素早く霊華の元から離れて後退した。霊華はその場から吹っ飛ばされつつもすぐに体勢を立て直し、頭を軽く抱えたが、すかさず顔を上げたところでハッとした。いつの間にか、咲夜の主人であるレミリアがすぐ目の前にいて、その手に赤紫色の光を放つ魔槍を持って構えていた。そしてその顔には、強気な笑みが浮かんでいる。

 

「顔上げるの、遅いわよ! 魔槍「スピア・ザ・グングニル」!!」

 

 宣言の直後、回避体勢を取ろうとした霊華の身体に、レミリアはほぼ零距離と言っていい立ち位置で魔槍を放った。赤紫の光にその身を包む魔槍は瞬く間に霊華の身体に突き刺さり、そのまま遠方へ飛翔し、やがて霊華の身体を貫通して空へと消えて行った。霊華の身体はぐらりと落ちそうになったが、やはりそこでも体勢を立て直し、すぐに元の高さへと戻ったが、その身体には大きな穴と切り傷が出来ており、白装束は血で赤く染まっていた。

 

 その姿を見たアリスが言う。

 

「もうやめなさい霊華。これ以上戦ったら、あんたは死ぬわよ」

 

 懐夢が霊華に言う。

 

「僕達は霊華さんに死んでもらいたくはありません。ですから、もうやめてください!」

 

 霊華は何も言わずに俯いていたが、やがて顔を上げて一同に言った。

 

「まさか貴様ら、これで私が死ぬとでも思っているのか」

 

 一同はびくりとして、少し後退した。驚きと若干の恐怖を混ぜた顔をしている一同の視線を浴びつつ、霊華は一枚のスペルカードを出現させて光に変えた。かと思えば、霊華は胸元に手を当てて、宣言する。

 

「蘇神「臥龍天生」」

 

 静かな宣言の直後、霊華の周囲に温かく、柔らかい光の珠が無数に出現し、霊華の身体に吸い込まれるようにして消えた。直後に、一同の攻撃によって霊華の身体に出来ていた穴と切り傷は全て塞がり、身体を紅く染めていた血はすべて落ちた。

 瞬く間に傷を治した霊華に、一同はごくりと息を呑み、その内の一人である幽々子が呟くように言う。

 

「回復術まで持ち合わせているなんて、やはり必殺武器を持ったとしても侮れない相手なのね」

 

 魔理沙が悔しそうに拳を握る。

 

「くそ、霊華の事だから回復術は持ち合わせていないって思ってたのに!」

 

 霊夢はそうは思っていなかった。博麗の巫女は回復術も使いこなす事が出来るもので、霊華は初代且つ歴代最強の博麗の巫女だ。そんな霊華が回復術を持たないなんてありえない。霊華は回復術の、とびきり強力なものを使いこなせるに違いないというのが、霊華に挑む際に考えていた事だった。

 

 しかも霊華は既に使ったスペルカードを再度発動させているため、弱体化しているとはいえその力は無尽蔵に等しいらしい。やはり、神器を持ち合わせて戦ったとしても、霊華はとんでもない強敵だ。

 

 きっと霊華と長時間戦い続けても、無尽蔵の神力を使った回復術を使われて、ふりだしに戻されるだけだ。そうなってしまえばこちらが消耗戦を強いられる事となり、勝機は完全に潰える。

 

 そうなる事を防ぎつつ霊華を撃破するには、八俣遠呂智の時のように皆で一斉攻撃を仕掛けて、回復術を使う暇すらも奪うくらいの短時間のうちに大量のダメージを与えて、大火力の技で完全に倒すしかないだろう。どんな作戦も失敗に終わらせるくらいに強い霊華を倒すには、もはやそれくらいの作戦しかない。

 

 しかし霊華は紫の娘であるためなのか、強力な結界術までも完備している。下手に一斉攻撃を仕掛けたところで、紫のそれと同じ結界術を使われて無効化されるだけだ。防がれないように一斉攻撃を仕掛けるには、霊華の注意を何らかのものに向かせて逸らし、出来た隙を突くほかない。僅かに見せるであろう隙を突いて、短時間のうちに超火力の技をぶつけ、撃破する。それ以外の、この戦いに勝つ方法は見当たらない。

 

 霊夢は頭の中で作戦を纏めると、回復した霊華に震えあがる一同に声をかけた。

 

「みんな、諦めないで! もっともっと火力をぶつけるのよ!!」

 

 霊夢の声に頷いたレミリア、咲夜、幽々子、映姫、小町、慧音、妹紅は霊華の周りを囲むように立ち回り、再度弾幕を展開。隙間のほとんどない光弾と熱弾の豪雨の中に霊華を閉じ込めた。再度弾幕の檻の中に閉じ込められた霊華は怒り出すような声を上げる。

 

「そんな攻撃が私に効くと思うな! 「燃神「火鳥翔飛」!」

 

 霊華はスペルカードを発動させて弾幕をある程度蹴散らしたが、霊華の注意が完全に神器組から逸れている事を察した霊夢は神器組と、戦いに向かっていない紗琉雫と紫を集めて作戦を話し始めた。

 

「みんな、あいつを倒すには短時間で超火力をぶつけるしかないわ」

 

 紗琉雫が言い返す。

 

「そんな事はわかってるよ。あんな出力の回復術を無尽蔵に使えるんじゃ、消耗戦で勝ち目はねぇぞ」

 

「えぇそのとおり。だからあいつに回復術を使わせないように攻撃を叩き込んで、一気に倒すしかない。作戦はこうよ」

 

 霊夢は頭の中に纏めていた作戦の全てを、集まる者達に話した。

 霊夢の話が終わると、魔理沙が腕組みをしつつ霊夢に言う。

 

「私とアリスのスペルカードであいつに結界を張らせて……」

 

 妖夢が言う。

 

「私と文さんと早苗さんと紗琉雫さんで結界を解除した瞬間の霊華に接近攻撃を仕掛けてよろめかせ……」

 

 最後に懐夢が言う。

 

「ぼくと紫師匠とお姉ちゃんの三人で一斉攻撃して倒す……か」

 

 霊夢は頷いた。

 

「そうよ。丁度夏に八俣遠呂智と戦った時みたいな作戦ね」

 

 アリスが魔理沙の隣で腕を組む。

 

「確かにあれだけ強い霊華に真っ向から挑んだところで勝てるわけがない。奇襲を交えた作戦で隙を突くってのは、極めて有効だと思うわ」

 

 早苗が不安そうな表情を浮かべる。

 

「で、でもそれで倒せなかったらどうするんですか。この作戦で霊華さんを倒せなかったら、もう勝ち目はありませんよ」

 

 霊夢は頷いた。

 

「倒せなかったらどうするんじゃないわ。倒すのよ、霊華を。この作戦でね。だからこの作戦はみんな死ぬ気でやって頂戴。もう、後はないのだから」

 

 一同はごくりと唾を飲み込んだ。霊夢は続けて、博麗神宮に入り込んでから口数がすっかり減っている紫に話しかけた。

 

「紫、私は作戦の最後に貴方を指定したわけだけれど……」

 

 紫は静かに言った。

 

「やらせて頂戴、霊夢。あの子は私が止めなくてはならないわ」

 

「そうだけど、実の娘を攻撃するっていうのは」

 

「もうそんな事を言っている場合ではないわ。私はあの子の母親として、そして幻想郷の大賢者としてあの子を止めるわ。もう私は、あの子に苦しい思いをしてもらいたくはないの」

 

 霊夢は表情を険しくした。

 

「わかったわ。その代わり、絶対に手加減しないでね。貴方の娘さんはすごく強いんだから」

 

 紫は再度頷いた。

 

「わかっているわ。さぁ、開始しましょう、霊夢」

 

 覚悟が定まっている、これまで見た事のない紫の顔を目にして、霊夢は静かに礼を言った。その直後、霊華と他の者達が戦っているところで爆発音のような大きな轟音が聞こえてきて、思わずそこへ目を向けた。その他の者達は霊華にやられたのか、全て博麗神宮の地面へと落ちており、霊華は息を切らしながら背中を向けていた。霊華の注意は落ちて言った者達に向いているらしい。

 

 今ならば作戦を実行できる。落とされてしまった者達のためにも、この作戦は無駄に出来ない。霊夢はそう心の中で叫ぶと、素早く霊華の死角となりうる方角へ飛び出した。

 

 続いて神器組、その他の者達もそれぞれの役目を果たしやすいところへ飛び、やがて作戦の最初を実行する魔理沙とアリスが、霊華の視線から逸れた場所でスペルカードを発動させつつ霊華に叫んだ。

 

「隙だらけだぞ、霊華!!」

 

 魔理沙の懐で天羽々斬の欠片が光り輝き、魔理沙、そして元は人間であったアリスの身体に神力を流し入れる。強力な力を得た魔理沙とアリスはスペルカードの名を力強くを宣言した。

 

「偵符「シーカードールズ」!!」

 

「魔砲「ファイナルマスタースパーク」!!」

 

 二人の宣言の直後、魔理沙の持つミニ八卦炉とアリスの出現させた無数の人形から、魔方陣を伴う超極太のレーザー光線が轟音を立てながら霊華に向けて発射された。空気を切り裂き、空を揺らしながら突き進むレーザー光線の接近を受けて、霊華は素早くスペルカードを発動させる。

 

「無駄だ! 境符「四重結界」!!」

 

 宣言の後、霊華とビーム光線の間に四重に張られた分厚い結界が出現し、ビーム光線の接近を轟音と衝撃と共に押し止めた。それでも負けじと、二人は八卦炉と人形に力を注ぎこみ、その出力を高め続ける。

 

 二人の思いと力が通じているのか、霊華の四重結界は徐々に後退し、やがて霊華自身もビーム光線に圧されるように後退を始めた。押されている事に戸惑っているのか、、霊華の顔に若干の焦りが浮かび上がる。

 

「この力は……!!」

 

 二人は霊華を圧す事に成功している事に気付くや否、更に出力を上昇させた。同時に、二人から放たれるビーム光線も更に巨大になり、霊華は更に後退を強いられる。そしてとうとう、霊華の四重結界は限界に近付き、その身に亀裂を走らせた。

 

「限界かッ……!!」

 

 霊華が呟いた直後、魔理沙とアリスも限界を迎えて、ビーム光線の照射を中止。同時に霊華の張った結界と、魔理沙の八卦炉とアリスの人形達が脆く崩れた。霊華は再度息を切らしながら、攻撃手段を失って慌ただしく息をしている二人に言った。

 

「その程度か……それでは私を倒すなど話にならな」

 

 その時、強い気配を感じて霊華は振り返った。そこには、どこへ行ったのかわからなくなっていた天津獣神、紗琉雫の姿があった。しかも紗琉雫の身体は巨大な球体の後と雷撃を纏っている。

 

「気付くのが遅いぞ、霊華!」

 

「しまッ……!!」

 

 紗琉雫はスペルカードの名を宣言し、雷撃を纏ったまま霊華へ突進を仕掛けた。

 

「雷撃「撃天雷珠」!!」

 

 紗琉雫の突進と共に霊華の身体を雷撃の珠が包み込み、破裂。轟音と閃光を伴う雷の大爆発を引き起こして、霊華の身体を空へ吹っ飛ばした。吹っ飛ばされた霊華が体勢を立て直す前に、暴風をその身に纏った文が霊華を追撃し、スペルカードを宣言する。

 

「突風「猿田彦の先導」!!!」

 

 文の高らかな宣言の刹那に、文の攻撃が霊華を直撃。雷撃を受けて痺れた霊華の身体を暴風の刃が切り裂き、更に文がその手に持った天狗の団扇を居合抜きのように振るい、その身体をもう一度切り裂いた。

 

 霊華の身体は更に吹っ飛ばされ、空を舞ったが、その隙を逃さんと言わんばかりに、少し遠方で構えていた早苗がスペルカードを発動させる。

 

「真神器「八尺瓊勾玉」!!!」

 

 その高らかな宣言の直後、早苗の周囲に無数の勾玉が出現し、高速回転を開始。そして早苗がすかさず腕を振るうと、群れを成した勾玉達は高速回転したまま隙だらけの霊華の元へ空を切り裂きながら飛び、着弾、炸裂。連鎖するように神力を含む爆発が発生し、ぼろぼろになった霊華の身体が宙を舞った。

 

 しかし、そこでようやく、霊華は意識をはっきりさせて体勢を立て直し、空中にとどまったが、目の前を見たところでぞっとした。そこには、その手に刀と黄金色に輝く刀身の剣を持った妖夢があった。そしてそれらは、スペルカードを発動させている証拠である、強い光を放っている。

 

「まだ終わらないよ、霊華! 断霊剣「成仏得脱斬」!!!」

 

 妖夢は宣言しつつ、その手に握る天叢雲剣と白楼剣を交差させるようにして霊華の身体に斬撃を放った。

 

 天叢雲剣と白楼剣、まるで折れた楼観剣の仇と言わんばかりに霊華の身体の身体を切り裂き、そこに大きな切り傷を作り上げて、服の破片と鮮血を散らした。同時に、天叢雲剣の身に宿る神力が霊華の身体に更なる追い打ちをかけ、その動きを鈍らせる。

 

 そこへすかさず、死角に隠れていた懐夢が霊華に急接近、喰荊樹を打ち倒す時に浸かった神器、天羽々斬で動きを鈍らせた霊華に斬りかかった。

 

「霊華さんッ!!」

 

 懐夢が速度を上げながら霊華に接近し、天羽々斬を振り下ろしたその時だった。突如として霊華が体勢を立て直し、咄嗟に武器を構えて、懐夢の神器へ振るった。がきんっという鋭い金属音が鳴り響き、火花が散って二人の顔が赤く照らされたのを皮切りに鍔迫り合いが始まる。

 

 懐夢は驚いて目を見開いたが、そこで霊華は懐夢の神器を弾いて、武器を振り上げた。

 

「調子に乗るなッ!!」

 

 驚いて動けない懐夢に、霊華の刃が迫り来て、間もなく懐夢の身体に入り込もうとしたその時だった。

 

「幻巣「飛光虫ネスト」」

 

 どこからともなく声が響き渡って、更にどこからともなく光の珠が霊華の周囲に瞬時に出現し、レーザー光線を発射。放たれた光線は霊華の手に当たり、衝撃と痛みを受けた霊華の手から武器が離れ落ちた。

 

 咄嗟に、霊華は懐夢の背後の方へ目を向けた。そこに、悲しそうな表情を顔に浮かべている大妖怪の姿があり、不意打ちをされた怒りに霊華は歯を食い縛りながら、大妖怪の名を呼んだ。

 

「八雲紫ぃぃぃ……!!」

 

 大妖怪は声鳴く言葉を発した後に、叫んだ。

 

「懐夢、霊夢、やりなさい!!」

 

 師の指示を受けた懐夢はハッと意識を取り戻し、目の前にいる元同居人へ神器を振るった。神器の刃は霊華の身体に食い込んでいき、懐夢にこれまでにないくらいに嫌な手応えを感じさせたが、懐夢は歯を食い縛りながら神器を振るい、上空へ霊華の身体を打ち上げた。直後に懐夢は全身に力を込めて叫んだ。

 

「お姉ちゃん!!!」

 

 霊華は首を動かして目の前に視線を送った。赤と白で構成された衣装を身に纏った少女の姿が確認でき、少女の周囲には光を放つ七つの陰陽玉が旋回しており、そして少女は静かにこちらを見つめていた。その名を、小さく霊華は呼んだ。

 

「霊夢……霊夢ぅぅぅ……!!」

 

 霊夢は空を蹴るようにして急加速し、一気に霊華との間合いを詰めた。

 

「これで終わりよ、霊華」

 

 直後、霊夢の身体を強い光が包み込み、霊華の目の前まで来たところで、霊夢はその掌を霊華の顔に突き出した。それが指示だったかのように、霊夢の周囲に浮かんでいた陰陽玉は強い光を放ち、輝いた。霊華は防御や回避、とにかく攻撃を防ぐ事の出来る行動を取ろうとしたが、どんなに動こうとしても身体は答えてくれなかった。

 そして、霊夢は静かに宣言した。

 

「夢想天生」

 

 霊夢の宣言と共に、霊夢を中心に博麗の力による光と大爆発が発生。役目を狂わせてしまった原初の博麗の巫女であり、この幻想郷を生み出した母である博麗霊華を静かに包み込んだ。

 


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