東方双夢譚   作:クジュラ・レイ

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12 喰荊樹

 一同は博麗神社に帰還し、妖怪の山を見つめたところでひどく驚いた。

 天志廼で霊夢から発生した荊の大樹は、その大きさを、天志廼で見た時の数十倍に成長させて、妖怪の山をすっぽりと呑み込んでしまっていた。あまりに恐ろしい、世界の終りのような光景に一同は唖然とし、妖怪の山の出身である文、にとりは慌て犇めく。

 

「そんな、妖怪の山が……!!」

 

「あれじゃ……天志廼どころか、天狗の里も河童の里も、全滅だ……」

 

 早苗が口を覆って、遠くの荊の大樹を見つめる。

 

「あれでは、守矢神社も……」

 

 紗琉雫が歯を食い縛る。

 

「おれ達はどうにかなったが……守矢神社もあの中に呑み込まれちまったか。くそっ」

 

 幽香が腕組みをして、勢いを増す荊の大樹を眺める。

 

「随分と趣味の悪い荊だけど、何なのかしら、あれは」

 

 白蓮が震えながら呟く。

 

「私とした事が、しっかりしなければならないはずなのに、あの荊の樹を眺めていると、身体が震えて、足が竦んでしまいます」

 

 神子が周囲の音を聞くような姿勢を取り、呟く。

 

「……空が裂け、大地が割れ崩れる音がします。……発生源は、あの樹です」

 

 布都が荊の大樹を眺めて、言う。

 

「というかあの樹はどこまで大きくなるのだ。このままでは、空が突き破られるぞ」

 

「あれは、喰荊樹(しょくけいじゅ)だ」

 

 聞き覚えのない声に、荊の樹を眺めていた者達は振り返った。

 そこには、深紅の瞳で赤茶色の長い髪の毛で、がっしりとした身体つきで漆塗りの鎧のような衣装を身に纏い、左が黒、右が白の靴を履き、右手に黄色、左手に青のグローブを付け、頭の左右から二本の捻じれた赤黒い角を生やした見た目三十歳くらいの背の高い男性と、背中から他の天狗とそれと比べて大きい黒い翼を生やし、腰まで達するほど長く、美しい黒髪を持つ、白と黒を基調とした巫女装束にも似た衣装を身に纏い、手に葉の団扇を持った若草色の瞳の女性の天狗の姿があった。

 一同が二人に首を傾げる中、萃香と文は大きな声を出して、二人に驚いた。

 

「お、親父!!」

 

「か、母様!!」

 

 早苗が続けて驚く。

 

「ど、童子さんに大天狗さん!」

 

 鎧を着た鬼、伊吹童子は頷き、大天狗はその目に涙を浮かべて、文に駆け寄った。

 

「文ぁ!!」

 

 大天狗は文の元に辿り着くなり、その身体を強く抱きしめた。

 

「よかった……天狗の里から逃げる時、貴方の姿がなかったから……!」

 

 母の涙に誘われたのか、文もまた涙を目に浮かべて、母の胸に顔を埋めた。

 

「母様こそ、無事でよかったです……本当に、本当にぃ……」

 

 二人は一同に見られながらも抱き締め合い、少し小さな声で泣き合った。

 そして二人の声が収まった頃に、童子が妖怪の山に見える荊の大樹に目を向けた。

 

「あのままでは……博麗大結界を破るな。やはり喰荊樹という名で間違いなかったか」

 

 神子が首を傾げながら、童子に声をかける。

 

「あの、どちらさまでしょうか」

 

 童子は「おっと」と小さく言った後に、一同を見回して、名乗った。

 

「私は伊吹童子。幻想郷の大賢者を務めさせてもらっている鬼だ。証拠は古明地さとりだから、信じられない者はさとりに話を聞くといい。

 妖怪の山に異変が起き、尚且つ私達大賢者の中の一人に多大な異変が起きた事を知り、はせ参じたのだが……八雲紫はどこにいる」

 

 その時、博麗神社の方から声が届いてきた。

 

「待っていたぞ、大賢者の二人とも」

 

 大賢者の二名を含めた一同は、声の聞こえてきた方向へ目を向ける。

 そこには、先々代の博麗の巫女を務めていた、霊紗の姿があった。その姿に、早苗は思わず声を上げる。

 

「霊紗さん!」

 

 霊紗は早苗に頷いた後に、大賢者の方へ顔を戻した。

 

「八雲紫は仲間を守って深く気絶している。話と今後の指揮は私に任せられているから、私に話してくれ」

 

 童子は承知と言って、更に霊紗に言った。

 

「境内に人を集めてもらいたい。そこで、私がこれから話す内容を皆に話してもらいたい」

 

 霊紗は頷いた。

 

「わかった。とりあえず、ここに人を集めるとしよう」

 

 霊紗はその場から離れると、神社に集まる一同に声をかけて回り、博麗神社の前という一か所に集めると、童子から大賢者達がまとめた話を聞いて、それを皆に話した。

 

 まず、妖怪の山を呑み込んだ荊の大樹。あれは大賢者達により『喰荊樹』と名付けられ、同時に凄まじい滅びの意志を宿している事が確認された。その証拠として、あの喰荊樹付近では空間が歪み、大地や空気は溶かされ、更に無数の<黒獣(マモノ)>達が樹より生まれて、幻想郷全土へ向けて飛び立っている。あの樹は最終的に博麗大結界へ辿り着き、結界を破壊すると推測されており、何らかの対策を立てない限りは、幻想郷はあの樹に呑み込まれて消え去り、更に外の世界もまた、あの樹に呑み込まれて消えるだろうと、大賢者達は推測した。

 霊紗の話を聞き、一同はざわついたり、そんな馬鹿なと声を上げたりしたが、霊紗は「聞いてくれ」と一言。話を続けた。

 

「現に、空が震え、大地が裂けている。あの樹はこの幻想郷を呑み込み、すべての生命を殺し尽くすつもりだ。あれに呑み込まれれば、私達だって間違いなく死に絶えてしまう」

 

 一同の、前の方にいる早苗が挙手をする。

 

「私達に出来る事はないんですか」

 

 霊紗は腕組みをした。

 

「そもそも私や大賢者達は、何故このような事態になったのかが把握しきれていない。あの樹が出現する直前まで天志廼にいた君達は、何か知っているのではないのか。誰か代表して出てきてほしい」

 

 一同は再びざわつき始め、互いを見あうようになったが、その中で一人、手を上げた。

 

「わかった。私が話すぜ」

 

 声の主は魔理沙だった。魔理沙は帽子を深く被って集まる人と妖怪の間を抜け、霊紗の隣……博麗神社の前までやってきて、霊紗と並んだ。

 

「これから話す事は本当の事だし、結構きつい内容だ。だけど話さなきゃいけない内容だから、話すよ」

 

 そう言って、魔理沙は無縁塚で見たもの、そして天志廼で起きた事を全て一同に話した。

 魔理沙の話が終わる頃には、大賢者を含めた、天志廼に向かっていない者達が驚愕してしまったような表情となり、再びざわついた。

 

「だから、あの樹にいるのは霊夢だ。霊夢が幻想郷への憎悪を爆発させて、あんなものを出現させちまった。そして……今まさに幻想郷を滅ぼそうとしてる」

 

 童子の隣にいる萃香が慌てるような仕草をする。

 

「じゃ、じゃあどうするんだ。やっぱり霊夢を倒すしか、ないのか」

 

 魔理沙は頷いた。

 

「普通に考えればそうだろう。だけど、多分倒すだけじゃあの樹は止まらない。本当に、殺さなきゃ完全に止める事は不可能だと言えるだろう」

 

 一同の顔に苦い表情が浮かぶ。皆の顔を眺めて、魔理沙は力強く言い放った。

 

「みんな……みんなはどうしたい。幻想郷を滅ぼされるのは嫌か? 嫌だよな。私だって嫌だ。

 だけど、霊夢を殺すのはどう思う。霊夢を殺してでも、あの樹を止めたいと思うか」

 

 地獄の閻魔、映姫が挙手する。

 

「そうするしかないでしょう。現に霊夢はあの樹で私達を殺そうとしている。このまま殺されるより、殺してでも止めると考えるのが一般的です」

 

 魔理沙はうんうんと頷いた。

 

「そうか。そうだよな。あの樹を止めるには、あの樹の核になっていると思われる霊夢の命を奪い、あの樹の核を完全に機能停止させるしかない。

 でも私は……」

 

 魔理沙は一時俯いて、顔を上げた。

 

「霊夢を殺すのは嫌だ。あの樹をぶっ壊して……霊夢と一緒にここまで帰ってきたい。そう考えてる」

 

 一同の顔は一気に驚いたようなものと変わった。

 魔理沙は続ける。

 

「だってそうだろ。私達は何度も何度も、霊夢に助けてもらった。前の八俣遠呂智の時だって霊夢がいなかったら、この幻想郷はあいつのものになってただろう。でも、霊夢は私達をあいつから守ってくれて、手を合わせて戦い、八俣遠呂智を倒してくれた。それに、今まで出現していた<黒獣(マモノ)>……あいつが生み出していたって言えばそうだけど、それに気付くまで、私達を守ってくれてたじゃないか」

 

 魔理沙は拳を握った。

 

「そんなあいつに、お前は幻想郷を滅ぼすから死ねなんて、軽々しく言えない。あいつの命を、奪う気になんかならないよ。私達はあいつから色んな物をもらったけれど、あいつに何も返してない。あの樹を止めるためにあいつを殺すなんていうロジックを、私は認めない」

 

 アリスが挙手をする。

 

「そういう貴方は何か策でもあるの。あんなふうになった霊夢を元に戻して、尚且つ樹を止めて、一緒に帰ってくる方法なんか、思い付いてるの」

 

 続けて、パチュリーが挙手をする。

 

「それに、あれだけの禍々しい気を放っているって事は、並大抵の方法じゃ近付けないわ。せめて霊夢が使ってた博麗の巫女の力がない限りは」

 

 魔理沙は妖怪の山――周囲を呑み込みながら空へ成長を続ける喰荊樹の方へ目を向ける。

 

「うぅん……あの樹の滅びの意志とやらはすごいらしいな。ちょっと見つめるだけで足に震えがくるぜ。ありゃ、本当に博麗の力がなきゃ突破は出来ないだろうな」

 

 魔理沙は顔を一同に向け直す。

 

「だけどよくよく考えてみよう。あの樹の元……『花』とかいうのは、霊夢や博麗の巫女達の『邪な心』が形と力を得たものであり、『心そのもの』と言えるものだ。

 あの樹は完全に閉じて、自棄(ヤケ)に走った霊夢の心なんだ。だけど心は、決して開かない鉄の扉じゃない。開く方法は必ずある。そうだろう」

 

 心に詳しいさとりが頷き、挙手をする。

 

「そのとおりです。閉じてしまった心は外部によって癒される事で、開く事もあります。ですが、霊夢は私達から遠い場所にいたような人……彼女の心に近しい人なんて、いるのでしょうか」

 

 魔理沙はさとりを指差した。

 

「そこだ! あの樹を止めるには、あいつの閉じてしまった心を開き、癒せる人が必要だ。そして、博麗の力みたいな、強力な力を使えるのも、一緒に必要だ」

 

 一同は顔を見合ったりしてざわつき、その中で神子が手を上げる。

 

「そんな人がいるんですか」

 

 魔理沙は自信満々な様子で頷いた。

 

「あぁいるともさ。霊夢がいない今、この幻想郷で唯一博麗の力を使う事が出来、尚且つ隔離された場所にいた霊夢と心を通わせ続けた奴が、たった一人、それも私達のすぐそばにいるよ」

 

 魔理沙は言い放った。

 

「その名前は、博麗懐夢!」

 

 一同は懐夢の名前を聞き、「あぁ!」という声を上げた。

 魔理沙は一同に頷き、更に続ける。

 

「懐夢は霊夢に養子にされるくらいに霊夢と仲良くして、霊夢の心に最も近付いた奴だ。だからあいつをあの樹の中に向かわせて、霊夢と会わせる。そうすれば、霊夢だって心を開くはずだ」

 

 一同は「なるほど!」等の声を上げたが、紗琉雫が挙手をした。

 

「おい霧雨、忘れたのか。あの餓鬼、おれ達に襲い掛かったじゃねえか。そんなのが、おれ達に協力するっていうのかよ」

 

 一同は紗琉雫の方を向いて、驚いたような顔になった。

 「どういう事!?」という声が上がり始めると、魔理沙は頷いた。

 

「そうだ。だけど懐夢は私達が霊夢を殺そうとしたから襲いかかったにすぎないんだ。だから私達に敵意がない事を、霊夢を一緒に助けようって言えば、乗ってくれるはずなんだ。

 それに、霊夢があんなふうになってて一番辛いのは懐夢だ。懐夢だって、霊夢を元に戻したいって思ってるはずなんだ」

 

 白蓮が顎に手を添える。

 

「確かにあの子が霊夢を想う気持ちは、本物の家族のそれと同じくらい強いものです。霊夢の事を助けたいと思っているとは、推測できますが……」

 

 ナズーリンが挙手する。

 

「それで、今あの坊主はどこにいるんだ。どうしてこの場にいない」

 

 魔理沙は博麗神社の寝室の方へ目を向ける。

 

「あいつは……寝室で気を失ってて、ある三人に介抱してもらってる」

 

 

 

         *

 

 

 博麗神社、寝室。

 こちらはリグルと慧音と霊華。三人は魔理沙曰くスキマから出てきたとされる、懐夢の看病を行っていた。

 懐夢は<白獣(マガツ)>になった時の後遺症なのか、髪の毛が尻のあたりにまで伸び、身体のところどころに薄らと傷が出来ていた。<黒獣(マモノ)>になった事があり、そして<黒獣(マモノ)>から排出された時には無傷で済んでいたリグルと慧音は、懐夢が傷を負っていた事で、<白獣(マガツ)>と<黒獣(マモノ)>は違う事を悟った。しかし、そんな懐夢の傷は霊紗の治療術とその他の者達の回復術によって癒され、重傷にならずに済んだが、意識は一向に戻る気配を見せなかった。

 死んではいないものの、まるで死んだように動かない懐夢に、リグルがそっと声をかける。

 

「まだ、起きないの懐夢」

 

 慧音が腕組みをする。

 

「<白獣(マガツ)>になってしまったのが相当な負担だったのだろう。<黒獣(マモノ)>と私達は、ほぼ隔離された存在だったから、出てきても何の後遺症も残らなかったのかもしれないが……懐夢の場合は……」

 

 霊華が心配そうな声を出す。

 

「<白獣(マガツ)>っていう<黒獣(マモノ)>とは違う存在になってたから、こうなっちゃったの」

 

「あぁ。<白獣(マガツ)>は恐らく、元になった者にも傷などが入る仕組みになっていたのだ。だから出てきた懐夢は傷付いていて、髪が長くなったりしていたのだろう。だがそれ以上に……」

 

 リグルが慧音に顔を向ける。

 

「それ以上に、なんですか先生」

 

 慧音はこれまで思い続けていた事を、リグルに話した。

 

「……私はな、リグル。懐夢があんなに大きな力を使えている事が不思議で仕方がなかった。博麗の力……本来ならば、女性のみしか扱えないはずの力を、懐夢は男性であるにもかかわらず、尚且つわずか十歳という年齢と小さな身体で使いこなす。こんな事、通常ではありえないし……」

 

 霊華が問う。

 

「ありえないし?」

 

「彼が、何の弊害もなしに能力を使えている事も、ありえないはずなんだ。あれだけの大きな力を使って、何の反動もデメリットも抱えていないなど、ない」

 

 リグルが首を傾げる。

 

「でも、懐夢はいつも元気ですよ。戦った後でも、術の反動を受けている様子もありませんでしたし……」

 

 慧音はリグルに目を向ける。

 

「そうだ。懐夢はいつだって元気だ。<黒獣(マモノ)>になったお前と戦った後も……」

 

 その時、慧音は何かに気付いたような顔になった。

 

「まさか、あれが……!?」

 

「どうしたんですか先生」

 

「リグル、お前が<黒獣(マモノ)>から出た後、懐夢に何が起きたかわかるか」

 

 リグルは吃驚して、あの時の事を話した。

 

「えっと、懐夢は確か、疲れて眠ってましたよね」

 

「そうだ。もしかしたら、あれが懐夢の術の使用による反動なのだとすれば……今の懐夢の状態は……」

 

 リグルは慧音と同じように、何かに気付いたように懐夢を見つめた。

 

「まさか、<白獣(マガツ)>になって術を沢山撃ったから……!?」

 

「あぁ。そう考えるのが妥当だろう。いや、もしかしたら彼の身体には術を撃つ度に、負担が少しずつ溜まっていっていたのかもしれない。その結果がこれなのだとすれば……もし、次戦って、術を撃ちまくるような事があったら……」

 

 リグルは一気に顔を蒼褪めさせて、眠る懐夢を見つめた。懐夢の身体には今まで身の程を超える術の使用を行った負担が溜まっている。先程、懐夢は<白獣(マガツ)>になってあれだけの術を発動させたりしたから、その負担は一気に大きくなってしまったはず。もし次戦うような事があって、もっと大きな術を使う事になってしまったら……。

 

「懐夢……今度こそ死んじゃう……?」

 

「わからない。わからないが……本当にどうなってしまう事か……」

 

 慧音の言葉に、リグルと霊夢が顔に影を落としたその時、懐夢の口がかすかに動き、声を漏らした。

 三人は吃驚して、リグルが慧音に言う。

 

「先生、懐夢が!」

 

 慧音は頷き、懐夢に声をかけた。

 

「懐夢、おい、懐夢!!」

 

 慧音の声が届いたのか、懐夢はゆっくりとその瞼を開き、藍色の瞳を覗かせた。……かと思えば、懐夢ははっとしたような顔になって、いきなり上半身を起こした。

 三人は驚き、声を掛けずにいたが、懐夢は辺りをきょろきょろと見回した後に、呟いた。

 

「あれ……ここって天国だよね。天国ってぼくが暮らしてたところと似てるんだね」

 

 三人は目を点にし、そのうちの慧音が苦笑いしながら言った。

 

「……懐夢。ここは天国ではないぞ」

 

 懐夢は驚いたような反応をして、慧音と顔を合わせた。

 

「あれ、慧音先生? どうしてここに……もしかして、みんな、死んで……?」

 

「誰も死んでない。お前は生きているんだよ懐夢。ここは、博麗神社の寝室だ」

 

 懐夢は辺りをもう一度きょろきょろと見回して、リグルと霊華を見つけた。

 

「あ、リグルに霊華さん……」

 

 リグルは安堵したような表情を浮かべた。

 

「よかった……もう目を覚まさないんじゃないかって思ったんだよ」

 

 霊華が頷く。

 

「まるで死んだように眠っていたのよ、貴方。気分はどうかしら」

 

 懐夢は頭を片手で抱えた。

 

「ぼくは……一体……?」

 

「お前は今まで眠っていたんだ。私達の攻撃を受けて、<白獣(マガツ)>の中から排出された時からずっとな」

 

 懐夢ははっとして、頭から手を離した。

 頭の中に、気を失う前の記憶が戻ってきた。確か、霊夢を守るために皆と戦って……それで、最後に爆発に呑み込まれたような気がする。そこからの記憶はないが、霊夢は一体どうなってしまったのだろう。

 

「霊夢は、霊夢はどうなったの!? ぼくは霊夢を守るために……!!」

 

 慧音は懐夢の肩に手を添えた。

 

「安心しろ懐夢。霊夢は死んでないし、誰にも殺されていない。霊夢を殺害するという作戦は、中止にされたんだ」

 

「中止……?」

 

「あぁそうとも。その代わり……霊夢が死ぬより拙い事になってしまったがな」

 

 懐夢は「え?」と言って、きょとんとした。

 


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