東方双夢譚   作:クジュラ・レイ

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6 暴かれた真実

 この幻想郷が生まれたその時に、ある一つの聖職者が誕生いたしました。

 その聖職者は遥か昔から続いていた一族の末裔でした。その時の聖職者は女の子で、まだ十歳になったばかりの子でしたが、その子は十歳であっても強力な力を持ち、幻想郷を護っていく事が可能な女の子でした。

 

 聖職者の女の子はやがて少女となり、大人になりましたが、ある時、聖職者の女性は暴走し、幻想郷の民の代表達によって、消し去られてしまいました。しかし、聖職者は幻想郷を続けていくには必要不可欠な存在、でも、女性の一族がやってしまっては、また女性のようになる者が現れてしまう。

 

 板挟みにされた幻想郷の民の代表達は悩んだ末に、女性の一族を女性の代で途絶えさせる事を決め、今後は代表達が決めた少女に女性が持っていた力を与えて、聖職者を未来永劫続けていくという方法を取り、聖職者を再度幻想郷に生み出しました。そしてこの聖職者は幻想郷で最も強き者となり、幻想郷を護って行くのです。

 

 しかし、代表の中に最初の聖職者、即ち女性の事が忘れられない者がいました。何としてでも、聖職者の女性を蘇らせたい。……そう思った代表は、自らの欲望のために、後から生まれた聖職者の少女達を自らの手駒に変えて、欲望を満たせる幻想郷を作り変えていくという凶行に走り、ついには幻想郷の支配者となってしまいました。しかし、それでもなお、自らの欲望である女性を蘇らせるという事は出来ませんでした。

 

 狂った代表の一人が聖職者の少女達に行ったやり方は、横暴そのものでした。聖職者の少女達が反抗しないように、または自分にとって都合の悪い行動をとらないように、聖職者の女性が遺した力を安全装置とも呼べる物に作り変え、更に、『感情抑制』、『記憶消去』という特殊な術を聖職者の少女達にかけ、聖職者の少女達がよこしまな気持ちを抱いてしまわないように、少女達がそういう気持ちを抱いたりした時、即座に記憶から追いやるようにし、他人とのかかわりを完全に絶ち、どんな者とも対等に接し、どんな者とも深くかかわってはいけないようにし、『人間』である聖職者の少女達を、幻想郷を護るためだけに存在している完全なる『人形』へと変えました。以来、この幻想郷は聖職者の少女達という『人形』に護られる事となってしまいました。

 

 しかし、『人形』とされたとしても、聖職者の少女達は『人間』です。自分で動けるし、自分で考える事が出来るし、何より『心』がある。だから、人と関わりたいと思うし、人と仲良くなりたい、人を愛したい、普通に暮らしていきたいと思うのが自然です。ですが、幻想郷の支配者によって彼女達は感情を抑制され、そんな事は忘れてしまうようになっている。少女達は幻想郷の支配者を恨み、この束縛から、聖職者から抜け出したいと思うようになりました。だって、そうでもしなければ、『人間』に戻る事が出来ないのですから。しかし、幻想郷の支配者が自らの欲望のために少女達に施した感情抑制と記憶消去は、そんな少女達の思いすら消していきました。

 少女達はいつまでたっても『人間』に戻れず、やがて『人間』であるはずの自分達を『人形』にする幻想郷(せかい)に憎悪を向けるようになりました。同時に、少女達の胸には共通する願いが生まれました。

 

 『人間』であるはずの自分達を『人形』にする幻想郷(せかい)を滅ぼし、自分達が自由な『人間』に戻れる世界がほしいという、切実な願いが。

 そしてそれは、勿論支配者の術によって封じられました。

 

 しかし、幻想郷の支配者が聖職者の少女達に施した感情抑制と記憶消去……実はこれは完璧なものではなかったのです。感情抑制、記憶消去……二つとも少女達の感情を抑え込み、記憶を消去するものだと、聞く限りでは思うでしょうが、この術の正体は、完全に抑制し、消去を行うものではなく、少女達の心の中の、少女達が気付く事の出来ないところ、片隅へ追いやるものだったのです。

 

 聖職者の少女達の幻想郷(せかい)や支配者への憎悪、他の者と仲良くしたい、愛したい、普通に暮らしたいという思いは、少女達がそう思う度に少女達が気付く事の出来ない心の隅に追いやられ、やがてそれはどんどん積み重ねられて大きくなり、憎悪は『滅びの意志』へ、愛したい、仲良くしたいという気持ちは『所有欲や独占欲』へ、普通に暮らしたいという気持ちは、普通に暮らしている者達への『嫉妬』へ、どれもこれも大きくて邪なものに変わっていきました。それは毎日、毎日積み重ねられ、濃度、密度が濃いものへとなっていきました。それに伴い、『願い』も大きく、強くなっていきました。

 

 そうした聖職者の少女達の心に宿る、大きくて邪な思いは、やがて彼女達が持つ『力』と溶け合い、融合し、少女達の心の中で一つの『種』となりました。『種』は少女達が邪な思いを抱き、それが心の隅に追いやられてきた時にそれを取り込み、『花』になろうと成長を始めました。『種』は聖職者の少女達が役目を終えた際に聖職者の少女達の心から出て、聖職者の少女達の持つ『力』に溶け込み、次の少女達に継承された際に再び『種』に戻り、次の少女達の心へ宿るというのを繰り返し、幻想郷の聖職者の少女達の歴史そのものと言える存在になり、徐々に成長していきましたが、いつまでたっても『種』のままで、『花』になる事は出来ませんでした。

 勿論、『力』と結合しているとしても、姿形を持っているわけではありませんので、少女達に気付かれる事もありませんでした。

 

 しかし、この『種』にある時転機が訪れます。それは、とある女の子が、聖職者の少女達の一人に任命され、代々人知れず育てられてきた『種』をその心に宿した時でした。

 その女の子は赤子の時に山奥で両親を失い、幻想郷の民達の代表の手によって回収され、その時の聖職者の少女に育てられた、他の聖職者の少女達と比べて少し特殊な境遇の女の子でした。女の子は聖職者の少女を母親と呼び、よく懐いていましたが、後に女の子の方が聖職者の少女達に相応しく、これまで例に見ないくらいに『力』に適合した子である事が判明します。勿論それを、幻想郷の支配者が放っておくわけがありませんでした。

 

 支配者は女の子の母親……即ちその時の聖職者の少女を暗殺し、嫌がる女の子に強い感情抑制と記憶消去の術を施し、聖職者の少女達の力を無理矢理継承させて、自分の欲望を最もよく満たせる、聖職者の少女達という名の最高の『人形』へと仕立てあげました。

 

 しかし、その女の子の心は人と比べて弱く、感情は一際強いものという不安定なものでした。突然理不尽に聖職者の少女達にされた女の子は、母親を殺した幻想郷(せかい)へは「滅びの意志」、普通に暮らす事の出来ている者へは「嫉妬」、気に入ったものへは自分だけのものにしてずっと独占し続けたいという「独占欲」といった、これまでにないくらいの大きい邪な気持ちを外部に向け、それを『種』に与え続けるという行為を知らない間に始めました。本人は、記憶を消去されて、心の隅に追いやられているので気が付きません。

 

 女の子が大きくなるのと連動するように、女の子の邪な気持ちは強くなって『種』はこれまでにないくらいに大きく成長しましたが、それでもまだ『花』になる事はありませんでした。

 

 しかし、ある時女の子に変化が訪れます。女の子の元に、見知らぬ小さな男の子がやってきました。女の子はその男の子にときめいて、男の子と一緒に暮らし始めます。するとどうでしょう、女の子を束縛していた感情抑制と記憶消去がその効力を弱め、女の子が感情を出したり、本来ならば思ってはいけない事、思っても忘れてしまう事を思えるようになったではありませんか。男の子と暮らす事によって、女の子の心に変化が出たために、感情抑制と記憶消去の効力が弱まってしまったのです。

 そもそも感情抑制と記憶消去は心の動きによって効力が変わってしまうという不安定な欠陥を持った術だったのですよ。だから、変化の訪れた女の子の心に、支配者のかけた感情抑制と記憶消去はその効力を弱めてしまったのです。

 

 『種』はそんな女の子の心の中の、抑制が弱まった邪な気持ちを取り込む事で一気に成長し、やがて女の子の心で『花』になったのです。『種』は『花』になると、意志と『化身』を会得しました。

 

 『花』は自分を育ててくれた女の子に何度も『お礼』をしましたが、女の子は術をかけられているが故に『花』の存在に気付く事が出来ませんでした。

 

 ですが、女の子の中にはこれまで『花』が宿し続けて来た『願い』と『同じ願い』が存在する事を、『花』は理解するや否、それを現実にするために、『花』であるにもかかわらず『種』を作り出すという快挙に出ました。勿論それは、女の子が『種』を『花』に出来るほどの適合力と、邪な気持ちを抱いていたから出来た事です。

 それに『花』は、女の子が邪な気持ちの中に寂しさが混ざっている事を知っていました。『花』は女の子のために家族を作って、寂しさを癒してあげたいと思い、『種』を作り出したのですよ。

 

 『種』は女の子が邪な気持ちを向ける身の回りの人々の心に宿り、瞬く間に『花』を咲かせました。『花』は家族が出来た事を喜び、女の子に度々『伝え』ましたが、女の子は『花』の気持ちに気が付かず、家族を次々刈り取りました。そして『花』が生み出す家族を完全に滅ぼす事を決めて、戦いました。

 

 しかし、その女の子は徐々に、『花』と共に願いを叶える準備を、知らないうちに進めていたのです――

 

 

「――以上です」

 

 <黒服>はにっこりと笑ったが、霊夢は何も言い返す事が出来ず、ただ茫然としていた。

 その沈黙を、魔理沙が破る。

 

「どういう事なんだ、おい……」

 

 <黒服>は頷く。

 

「今のわたしの話に、貴方達が知っているであろう用語を入れれば、自然なものとなりますよ。というよりも、貴方達ならばわかると思いますが」

 

 早苗が驚愕したような様子で呟く。

 

「聖職者の少女達……博麗の巫女……。

 幻想郷の民の代表達……大賢者……。

 そして……男の子と出会った女の子……」

 

 <黒服>はにっこりと笑った。

 

「もうわかりますよね、皆さん。同時に、わたしの正体も、<黒獣(マモノ)>の正体も、この異変の犯人が何なのかも」

 

 慧音が口をぱくぱくと言わせて、呟くように言った。

 

「では、お前の正体は……!!」

 

 <黒服>は頷き、手を広げた。

 

「わたしは、人形とされてきた歴代の博麗の巫女の邪な心と願いと意志の総帥です。元々はそのようなものでしかありませんでしたが、博麗の力が継承されるたびにわたしも継承され、博麗の巫女達はここまでわたしを育ててくれました。それはもう、博麗の巫女が始まったその時から」

 

 <黒服>は茫然としている霊夢へ目を向ける。

 

「中でも、わたしを最も育ててくださったのは霊夢です。霊夢の中には邪な心がものすごい強さで存在していましてね。それをわたしに与えて、育ててくれたんですよ。おかげでわたしはこんな姿を持てるまでに成長し、更に家族を作る力を与えてくださったのです」

 

 レミリアが<黒服>に言う。

 

「じゃあ、あんたが幻想郷を滅ぼそうとしてる理由は……」

 

 咲夜が続ける。

 

「博麗の巫女が、幻想郷の破壊を望んでいたから……?」

 

 <黒服>は頷き、恍惚としたような表情を浮かべて空を眺めた。

 

「そのとおりです。わたし達博麗の巫女は、ずっとこの幻想郷を壊したくてたまりませんでした。だってこの幻想郷は、わたし達に理不尽な使命を与えて、『人間』であるわたし達を『人形』にするのですから。わたし達はそこから解放され、新しい世界を作る事をずっと望んでおりました。そう、わたし達が『人間』でいられる世界を」

 

 <黒服>は顔を戻し、霊夢を見つめて微笑んだ。

 

「意外だったのは、当代の博麗の巫女である博麗霊夢が、それを切望していた事でしたね。もし霊夢がそれを望んでいなければ、わたしは家族を作る事も、こうやって具現化する事さえもできなかったでしょうから。いや、ひょっとしたら『種』のままだったかもしれませんね」

 

 <黒服>はぺこりと頭を下げた。

 

「礼を言いますよ、博麗霊夢。わたし達の願いを叶えられるくらいにまで、わたしを成長させてくださり、ありがとうございました」

 

 霊夢はじっと、<黒服>を否定しようと考えていた。しかし、どんなに否定の言葉を考えても、<黒服>の言葉を否定する事が出来なかった。そもそも、感情抑制と記憶消去とはどういう事だ。そんな事をされた覚えもないし、それに、<黒服>が言う幻想郷の崩壊だって望んだ事はない。でも、何故か<黒服>の言葉を否定する事が出来ない。

 

「私が……幻想郷の崩壊を望んだ……?」

 

「そうです。だから貴方は幻想郷を崩壊させる下準備のために、無意識のうちにわたしの力を使って、周囲の人を<黒獣(マモノ)>に変えたのですよ。まぁそれは全部貴方自らが封じてしまったんですけれど」

 

「なにそれ……そんなの知らない、私は知らない! 私が<黒獣(マモノ)>を生んで、私達博麗の巫女が幻想郷の崩壊を望んでたなんて、知らない!!」

 

「知らなくて当然ですよ。貴方は記憶を消去されていたんですから。正確には心の片隅に追いやるというものですが」

 

 次の瞬間、<黒服>は一気に霊夢へと接近し、自らの顔を霊夢の顔に近付けた。

 

「それじゃあ、思い出させてあげましょう。博麗の巫女でもあるわたし達の力ならば、貴方の忘れられた記憶を思い出させる事も出来ます」

 

 霊夢は驚いてその場を動かなかったが、近くにいた懐夢が<黒服>へと斬りかかる。

 

「霊夢に触るな!!」

 

 <黒服>に向けて力いっぱい刀を振り下ろしたその時、懐夢の刀はがきぃんという硬い何かにぶつかったような音を立てて、空中で静止した。いつの間にか、<黒服>と霊夢の周囲に、霊夢がよく使うものと同質の結界が出現していて、二人をすっぽりと覆っていた。

 結界の中に閉じ込められた霊夢に、紫が悲鳴を上げるように叫ぶ。

 

「霊夢、駄目!!」

 

 <黒服>は紫へ、そして周囲の者達を交互に見まわした。

 

「いいでしょう。貴方達にも見せてあげましょう。博麗の巫女が蓄積させ続けてきた記憶を、博麗霊夢が大賢者達によって忘れさせられていた記憶を、全て」

 

 博麗の巫女達の願いの総帥の宣言の直後、ドーム状の黒い閃光が<黒服>の身体より放たれ、まず最初に霊夢が呑み込まれ、次に懐夢が、紫が、魔理沙が呑み込まれ、やがて無縁塚に揃った一同全員が、黒い光のドームの中に呑み込まれた。

 

 

           *

 

 

「こんなの、こんなの、こんなのっ!!」

 

 声が聞こえる。

 聞いた事のない声色だ。でも老婆や女性が出しているような声じゃない。

 これは、女の子の声だ。そう、私と同じくらいの女の子の声……。

 でも、目の前が見えない。真っ暗で、何も見えない。……うん? あぁ、これ私が目を瞑ってるだけか。

 そう思って目を開けてみたところで、私は少し驚いた。目の前に、博麗神社がある。いつの間に帰って来たんだろう。さっきまでは無縁塚にいたはずなのに。

 頭がぼんやりする。ちょっと疲れてるのかも。誰がいるのかを確認してから、寝室で昼寝しようと。

 そんな事を思いながら、博麗神社に近付く。玄関に入って靴を脱ぎ、中に入る。

 いつもどおりの玄関だし、いつもどおりの廊下だ。何か声が聞こえてきた事以外は何もかもいつもどおりだ。廊下を歩けば何となくだけど音が鳴るし、空気だっていつも通り……そう思って寝室に辿り着いて、私は息を呑んだ。

 

 寝室に既に私がいた。いや、私じゃない。顔も髪の毛も違うけれど、私と同じような服を着ている、私と同い年ぐらいだと思う女の子が、寝室の壁を殴りつけてる。寝室の壁を殴りつける度に、女の子の手が傷を作り、お腹に振動が来る。

 

「ちょっとあんた、何をして……」

 

 声をかけても女の子は壁を殴り続ける。

 

「なんでよ、なんでよ!! 何でわたしばっかりこんな目に!! こんな世界なんか、いらないっ!!」

 

 そして、女の子は耳を劈くような声で叫ぶ。

 

「この、呪われた世界がぁぁ―――――――――ッ!!!」

 

「いやぁぁっ!!」

 

 たまらず怖くなって、私は寝室から逃げ出した。なんなのあの子は。なんであんなふうになってるの。何があって、あんな事になってるの。そもそも呪われた世界って……。

 寝室を抜け出して居間に着いて、私はまた立ち止まった。

 まただ、また人がいる。さっきの女の子よりも……すごく小さい子だ。まだ六歳くらいじゃないかしら。そして、その女の子は大きな声で泣いてる。

 

「ああぁぁぁぁぁぁん、うああぁぁぁぁぁぁん!!」

 

「な、何よ……」

 

「ああぁぁぁぁぁぁん、おとうさーん、おかああさぁぁぁぁぁん!!!」

 

 なんなのこの女の子。親元から離されたの? そんな白と赤の服を着てるって事は巫女をやってるはずだけれど、まさかそんな歳で博麗の巫女をやらされてるって事なの……ひどい!

 泣きわめく女の子の声に混ざって、まだ声がする。今度は何だって言うの。もう聞きたくない。……でも、何なのか確かめたい。そんな変な思いに駆られて、私は居間を出て、台所へ向かった。――また巫女がいた。ぬいぐるみか、人形のようなものを抱き締めて、「だいすき、だいすき」と狂ったように連呼してる恐ろしい巫女が。そこから逃げて庭を見てみれば、怒鳴り散らしている巫女と、泣き喚いている巫女など、普通ではない言動を繰り返している巫女が十人ほど見えた。

 もうこの時点で、私は博麗神社がまともじゃなくなってる事に気付いた。こんなとこ、早く出なきゃ――!

 

「いかがですか、霊夢」

 

 博麗神社の玄関に差し掛かったところで、頭の中に声が響いてきた。

 この暖かいようで冷たく、優しい声色……確かこれは、<黒服>の声だ。あいつ、どこからか私の事を見ていたのね。

 

「<黒服>……何なのよこれは!」

 

「わたし達ですよ、霊夢。貴方が見てきたのは全て、博麗の巫女です」

 

 あれが、博麗の巫女? 確かに神子らしい服装はしてるし、私と同い年の子が多かったけれど、あんなのが博麗の巫女なわけがない!

 

「嘘を吐くな! あんなのが、あんなのが博麗の巫女なわけがないわ!」

 

「いいえ博麗の巫女ですよ。あの子達は、貴方の前の博麗の巫女達……感情を抑えつけられ、記憶を消されて、『人形』にされていた女の子達です。今貴方に見せているのは、そういった博麗の巫女達の消されたように見せかけて隠された記憶、光と影ならば、影の部分……」

 

 博麗神社の奥の方へと目を向ける。怒鳴り散らす女の子の声、泣き叫ぶ女の声、狂った女の子の声、おかしく笑う女の子の声、色んな声が聞こえてくる。どれもこれも、不快なものだ。

 

「博麗の巫女って……あんなふうなものだったの……」

 

「いいえ、あんなふうなものではありませんよ。もし彼女達が『人間』として博麗の巫女を全うしていれば、あんな事にはならなかったでしょうに」

 

「どうすれば、あんなふうにはならなかったのよ。何があんなふうに……何のせいなの」

 

「はっきり言ってしまうと、幻想郷を支配する者、大賢者達のせいではありますが、それをここまで放置し続けた幻想郷そのもののせいと言えるでしょう」

 

 私達は幻想郷を護る存在のはず……なのに、幻想郷に苦しめられてる?

 

「護るべきものに苦しめられ、『人形』にされ続けた博麗の巫女達の中には、先程も言った通りの願いが宿りました。幻想郷を崩壊させて、自分達が自由な『人間』として生きていける世界を」

 

「そんな……」

 

 その時、頭の中に何かが動いたような感覚が走った。

 

「な、なに?」

 

「さぁ霊夢。貴方の番ですよ。幻想郷に封じ込められた記憶を、取り戻しなさい。貴方が本来どのような子なのかを、知りなさい」

 

 私の中の、封じ込められた記憶?

 確か、あの子達の封じ込められた記憶が解放された姿があれなのよね。それが私にもあるって事は……あ!

 

「や、やめて!! 思い出させないで!!」

 

「駄目ですよ霊夢。さぁ、始めましょう」

 

「いや……やめて、やめてぇ、やめろ、やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ」

 

 一気に頭の中に何かが広がり、目の前が真っ白になった。

 

 


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