外伝 西木野 真姫の場合
僕から見た”西木野 真姫”と言う人物は、プライドが高い故にどこか触れ合う事を苦手としている、からかいがいのある可愛い女の子だった。
そのせいか、からかうたびに新鮮な姿を見せてくれる。僕はとてもその姿が好きだった。
あくまで、恋愛感情としてではなく友達としてだが。彼女の表情は、見てて飽きない。
今日も同じようにからかおう。どんなふうにからかおうか。
頭の中で浮かべる表情にくすりと笑みがこぼれる。そう思い部室のドアを開ける。
中には真姫ちゃんが一人座っていた。本をゆっくりと捲る。
まるで、一枚の絵のようだった。
「あれ、真姫ちゃん一人?」
「そうよ、凛とかよちんは先生の手伝いに呼ばれていったわ」
目線を合わさずに言う。ふうんとうなずくと椅子に座る。
鞄を置き、だらりと机に上半身を預ける。ふと見ると、真姫ちゃんが部室にある備え付けのお茶を入れてくれていた。
「あ、ごめんね」
「いいのよ、気にしないで。私がしたいだけなんだから」
何だか今日の真姫ちゃんはやさしい。いつもならそんな事言わないのに。
一口飲んで、気分を落ち着ける。それを見ていた真姫ちゃんは自分の座っていた椅子に座り、読書を再開する。
皆が来るまで暇になりそうだし、とりあえず話をしよう。
「ねぇ、真姫ちゃん。話しようよー」
「え、何でよ」
「いいじゃん。暇なんだし」
「しょうがないわねぇ」
そう言って読書していた手をやめる。目線をこちらに向ける。
さて、何の話をしようか。そう言えば真姫ちゃんは知ってるだろうか。
「真姫ちゃん。そういえばさぁ、僕の上着を知らない?昨日ここに来た時、置いたまま忘れちゃったんだよね」
「え、し、知らないわよ?」
「そっかぁ。うーんどこ行ったんだろ」
はぁと息を吐く。学校の上着だから代えはある物の、あったほうが良い。
一応皆に聞いてみようと思っていたのだ。でも先に入っていた真姫ちゃんが無いと言うのだから無いのだろう。
無くしたと思って諦めるしかないか。ふと、目線を上げる。真姫ちゃんの顔が近い。
「うぉ、近いよ真姫ちゃん。びっくりした」
「ちょ、ちょっと!急に起きないでよ!」
驚いたように遠ざかる。そんなに驚かなくても。
あ、今からかえるチャンスだ。少し息を吸う。
「何々、真姫ちゃん。僕にキスでもしようとしたのー?」
「そ、そんなわけないじゃない!」
「顔赤いよ?可愛いね」
さらに赤くなる。うーむ。やっぱり可愛いなぁ。
さてどうやって、ここからからかおうか。今までは他の人がいて大体止められたけど、まだ行けそうだ。
体を起こして真姫ちゃんを見る。
「真姫ちゃん。こっち向いてよ」
「嫌よ。もう、またからかうじゃない」
「からかわないよ」
こっち向いてない間に先程の近さまで寄る。真姫ちゃんがさっきやった様にしよう。
笑みがこぼれる。ふと真姫ちゃんの顔を見ると、笑っていた。
とても綺麗な笑みだった。危険を感じ時には、もう遅かった。
「んっ……」
「え」
キスを、された。とても優しく、壊れ物を扱うように。
驚きすぎて言葉が出ない。こんな事誰が予想できただろうか。
更にキスは激しくなり、僕の口の中に舌が侵入してくる。まるで、蛇のように舌を絡められる。
抵抗したくても、できない。体が痺れたように動かなくなっていた。
真姫ちゃんが口をゆっくりと離すと、銀色の絹糸の様に唾液がつながっていた。
肩を押されて、椅子から転げ落ち尻餅をつく。ゆっくりと真姫ちゃんがこちらに向かってくる。
「どう、し、て?」
言葉がうまく言えない。何か飲まされたのだろうか。
入れてくれたお茶に何か入っていたのだろう。
「湊がいけないのよ。私の気持ちも知らずにするんだから」
白い手が、艶めかしく僕の頬を撫でる。そのまま僕にしな垂れる。
手が僕の鎖骨から腹部、脚の付け根をゆっくりとなでる。
真姫ちゃんが僕のうなじに顔を近づける。匂いをかがれていた。
「ああ、いい匂い。やっぱり本物じゃなきゃダメね」
「それって、もしかして」
「そうよ、湊の上着を取ったのは私。どう?びっくりしたでしょ」
それは、もう。そう答えることさえ億劫だった。
でも真姫ちゃんは止まることも知らず。僕の頬を舐めて、そのまま首筋にキスマークを付ける。
何度も、何度も。証を付けるように。その証をみて、微笑む。
「私と湊の証。繋がってる証拠よ」
立ち上がり、真姫ちゃんが自分の鞄を探る。じゃらりと音がする。中から出てきたのは手錠だった。
部室の鍵を閉めて、窓にはカーテンで覆う。手錠を僕の手に付けると、もう片方を自分につける。
カギは見当たらない。ゆっくりと顔を見ると、恍惚の笑みを浮かべていた。
「協定だなんてもう知らない。私はあなたさえいたらいいのよ……!」
押し倒され、キスをされる。口の中で唾液の交換が行われる。そのまま体を抱きしめられる。
柔らかい感覚がする。耳元で囁かれる。
「ずっと、あなたを離さない」
逃げられそうになんてなかった。