ブラック・ブレット【閃剣と閃光】   作:希栄

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第九話

翌日。

 

夕暮れ、水晶の携帯が鳴った。誰かを確認する為、表示された名前を見て水晶は一瞬眼を見開く。

 

「……はい」

 

『こんにちは、水晶さん』

 

耳元から聞こえる声は聖天子その人。

 

「何か用ですか、聖天子様」

 

『すでに耳に入っているかと思いますが、現在、蛭子影胤たちはモノリスの外“未踏査領域”でステージⅤを呼び寄せるための準備に入っています。そして、それを阻止する為に今晩、追撃作戦を実行するつもりです。……私はその作戦にあなたも参加してほしいと思っています』

 

「もちろん参加はしますよ。社長からもそう言われましたし」

 

そう言うと傍で準備をしている八葉に視線を移す。

 

『そうですか…。水晶さん、もしステージⅤのゾディアックガストレアが出現したときは…最悪、あなたの力を使ってでも東京エリアを守って下さい』

 

「………最悪の場合のみですからね」

 

「はい、ありがとうございます」と、聞こえこれで終わりだと思い、「では」と電話を切ろうとしたその時、

 

『最後にもう一つ……絶対に帰って来て下さい。これは東京エリア統治者からでも依頼主としてからでもなく、一人の友人としての願いです』

 

その言葉に、思わず呆然とする水晶。聖天子はそう告げるとそのまま電話を切った。水晶は切れた携帯をただ見つめて固まっていると、八葉が心配そうに顔をのぞき込んだ。

 

「何かあった?」

 

「…ううん、何でもないよ。ただ、大変なお願いごとを聞いちゃっただけ」

 

水晶の返答で首を傾げる八葉に、水晶は微笑みながら頭を優しく撫でる。そして、手をとるとヘリのある集合場所へと向かった。

 

 

集合場所に到着すると、そこには沢山の民警がいた。全員が今回の作戦の手柄を立てたいのか、ギラギラしているように見える。

 

「よっ、水晶」

 

「あ、蓮太郎くん。もう大丈夫なの?」

 

「ああ。何とかな」

 

そう言って後ろ頭をかく蓮太郎に水晶は何か違和感を抱いた。

 

「どうしたの?」

 

「あー…その、助けてくれてありがとな。この借りはまた返す」

 

「はは、別に気にしなくても。蓮太郎くんが無事で何よりだよ」

 

すると、時間がきたのか辺りの民警が一斉に配置されたヘリに乗り込んでいく。水晶と蓮太郎は顔を見合わせると互いに頷いた。

 

「とりあえず、まずはどっちも生きて帰って来ようぜ。じゃないと木更さんの長い説教が待ってるからな」

 

「えー、それはやだなぁ。なら尚更生きて帰って来ないと」

 

はは、と二人で笑い合い、そして蓮太郎は踵を返してじゃあな、と言わんばかりに手を上げると自身が乗り込むヘリに向かって行く。

 

八葉と延珠はと言うと、天誅ガールズの話で盛り上がっていたようで、互いに手を握り合いまた語り合おうと約束して別れていた。

 

だが、なぜかヘリに向かう二人の背を見つめていた水晶の眼はどこか影が射し込んでいるように見えたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

作戦を終え帰投の途につくヘリを見送りながら、素早く周囲の状況を確認した。

 

見渡す限りの広大な森は鬱蒼と高い常緑樹が茂っており、夜と言うことも重なり視界は最悪。更に、先日の豪雨の影響か地盤もぬかるみ、独特の湿気と土のにおいがする。

 

「……また、ここに戻って来たのか…」

 

そう呟きをこぼす水晶の表情は険しく、強く握る拳は僅かに震えていた。

 

それを見た八葉は静かに水晶の手を握ると、満面の笑みで話しかける。

 

「ほら、そんな顔してるの水晶らしくないよ!元気出していこう!」

 

「そう…かな。ううん、そうだよね。よし、いつまでもここに居るわけにはいかないし、とりあえずこの先にある街に行こう。詳しい事はそれから考えよ」

 

「よっしゃ!いこいこー!」

 

おー!と言うように手をあげながら進む八葉を見て、水晶はため息混じりに苦笑する。

 

「こら。一人で先に進んだら危ないでしょ。森にはステージⅢやⅣのガストレアが徘徊してるんだから、もっと慎重に…………?」

 

全てを言い終えることなく水晶は言葉をやめた。視線の先で硬直したように固まっている八葉に疑問を抱いたからだ。

 

「ちょっと、八葉。聞いてるの?返事くらい____」

 

そこで反射的に八葉を巻き込む形にして岩陰で息を潜める。その数秒後に巨大な未確認生物がすぐそばを通りすぎて行った。

 

大きさや形態から推測してステージⅣ。

 

ガストレアが通り過ぎたのを確認すると一息つく。ふと隣を見ると、そのガストレアが歩いて行った道を名残惜しそうに見ている八葉の眼は赤く染まり、気持ちが高ぶっているのか口角が上がっている。

 

「……八葉!」

 

「えっ…あ、うん?なに?」

 

理性に戻ったのか曖昧な返事をする八葉に、水晶は呆れた。

 

___まあ、仕方が無いんだろうけどさ。

 

八葉はモデル・ウルフのイニシエーター。つまりはウルフ…『狼』の因子を持つ呪われた子供たちだ。

身体能力はもちろん、視覚や聴覚、嗅覚などの五感も発達している。特に秀でたものはないものの万能と言えるだろう。無論、まだ秘密はあるのだが。

 

だが一方で、破格な戦闘能力についてきたのが厄介な闘争本能。つまり、強い敵と戦いたいという血の気の多さだ。ここ一年ほどは前線から身を退いていた為それほど気に留めなかったのだが、やはり影響があるようでこのありさま。

 

昔は、片っ端からガストレアに戦闘____もとい、喧嘩を吹っかけていたので良くなった方なのだろうが心配の種だ。

 

これさえもう少し抑えられれば学校にだって……。

 

と、考えた所で水晶は頭を横にぶんぶん振った。今は影胤たちが最優先事項、学校などは全部終わってから考えよう。

 

「おーい、どうしたの水晶!早く来なよー!」

 

「えっ、ちょっと待ってよ!」

 

気がつけばいつの間にか先に進んでいた八葉の下に小走りで向かっていく。

 

進みはじめて少ししたところで前方に人影が見えた。よく目を凝らせばそこに。

 

「あ」

 

「ああ?」

 

不愉快そうに顔をゆがませる伊熊将監と_____、

 

「どうも」

 

ぺこりと礼儀正しく頭を下げる彼の相棒であるイニシエーターとばったり出会ってしまった。

 

「やあ!あの時以来だね!えっと………」

 

言葉をつまらせる八葉に少女は気がついたようで。

 

「まだちゃんと自己紹介してませんでしたね。私は伊熊将監のイニシエーターで千寿夏世(せんじゅかよ)、と申します」

 

「そっか!私は桜咲八葉!八葉でいいよ。で、こっちが私のプロモーターの神澪水晶。よろしくね、夏世!」

 

満面の笑みで八葉は夏世の手を取ると、少々乱暴に上下に振っている。夏世はそんな事に慣れてないのか戸惑いつつ、少し嬉しそうだ。

 

チラッと将監の方に視線を向けると、将監の表情は意外と穏やかであった。

 

先日の事から好戦的で短気な性格だと思っていたのだが、

 

_____意外といい奴なんじゃ…。

 

そうこう考えている間に不意に将監と目が合う。

 

「チッ!」

 

「なっ!?」

 

目を逸らすと、明らかこちらに聞こえるようにわざとらしく舌打ちをする将監。

 

_____やっぱりこの人苦手だ!!

 

拳をギリギリと強く握りながら、心の中でそう叫んだ。

 

「おい、行くぞ夏世」

 

一人で先に進もうとする将監に、「はい」と言って再びこちらに礼儀正しく夏世は頭を下げてから、将監の後を追う。

 

それを見た水晶たちも歩き始めようとした、そんな時。

 

「……あ?何だ?」

 

将監の苦々しい呟きが耳にはいる。何事かと思い振り向くと、将監と夏世が凝視している奥の方で点滅する青いパターンライトが見えた。

 

「ほかの民警でしょうか。どうします?」

 

「ハッ!民警なら大丈夫だろ。行くぞ」

 

お構いなしに突き進む将監と夏世。

 

だが、水晶たちは違った。

 

おかしい。青いライトなど使っている民警なんているのか?いや、それだけではない。微かに香るこの匂いは_____。

 

「!水晶、あの先から腐臭がする!」

 

その言葉を聞いた瞬間、水晶は直感した。___これは罠だと。

 

「待って!!不用意に近づいちゃダメ!!!」

 

必死に叫んだものの、すでに遅く。二人は気持ち悪い花のようなガストレアと対面していた。尾部が発光している事からやはりこれは罠だったのだと理解する。

 

見れば、将監も夏世も突然の事に立ちすくんでしまっていた。

 

「くそっ!」

 

水晶は刀に手を掛け、八葉も戦闘体勢に入り地を蹴る。しかし、攻撃が届くより先に我に戻った夏世が手榴弾を取り出す。

 

「!!」

 

「ちょっ____」

 

次の瞬間、重低音の爆発音が空気を地面を振動させた。

 

 




やっと夏世ちゃんたちを再登場させられました!


さて夏世ちゃんがこの先、生きるか死ぬかは正直迷ってますが私的には彼女、好きなんですよねー…ww


あ、そうそう。漫画版の将監はいい人なんで結構気に入ってますw


また感想や意見などがありましたらよろしくお願いします!!

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