ブラック・ブレット【閃剣と閃光】   作:希栄

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第七話

「で、民警に戻ったというわけか君は」

 

「まあ、そうなるのかな?てか、何ニヤニヤしてるんです」

 

「いや、何でもない」

 

どうにも腑に落ちない水晶だったが机に置かれたビーカーに口を付けコーヒーを飲む。苦い液体が口の中に広がり顔をしかめる。

 

ここにいる理由はただ一つ、水晶は菫に会うために地下室に顔を出したのだ。

 

「しかし、あれほど戻るのをためらっていた君がどういう風の吹き回しだ?」

 

「それは……」

 

菫に問い詰められ水晶は口ごもった。

 

「どうした?」

 

水晶は迷っていたのだ。自分が再び民警としてやっていけるのか。

 

「…………」

 

「まあ無理にとは言わんよ。だがわかっているのか?君が民警に戻るということは、あのことがもう一度起こるかもしれないんだぞ。それでもやるというのか?」

 

菫は語気を強くしながら水晶に問う。

 

「_____わかってる。先生、私この一年普通に過ごしてきて分かった事があるの」

 

「? なんだ」

 

「私は………戦闘職以外あまり向いてない」

 

水晶の言葉を聞き菫が顔をしかめ、イスに深く座り直す。

 

「バイトとか、学校とか、それなりにはこなしてきたけど…やっぱり何か違うんだよね」

 

「……確かに君は安全地帯でのんびり過ごすタイプではないが、正直私の助手としての手伝いは一般人よりは上だったぞ」

 

「ははは。だけど、自分の中ではどうしても違和感を覚えちゃうんだ…」

 

菫は身じろぎして耐熱ビーカーに手を伸ばしコーヒーを飲む。

 

「まあ、私がとやかく言うことではないからな。とりあえず、これの整備に関しては請け負おう」

 

「ありがと、先生」

 

ちなみに、これと言うのは白桜と黒椿の事である。

 

水晶が礼を言うと菫はニヤッと笑った。

 

「礼なんていらないさ。今までの付き合いだろ、水晶。だが、なぜ君のパトロンに頼まない?彼女の方が武器の整備には長けているだろ」

 

その何気ない菫の言葉に、今の今まで微笑んでいた水晶の顔が徐々に青ざめていく。

 

「あ、その…そうしたいのは山々なんですが…。この一年、一度も連絡しなかったというか…しないようにしていたというか…」

 

「なるほど、つまり相手から連絡は来ていたが故意に無視していた、と言うわけか。最低だな君は」

 

「別に故意にとは言ってません!」

 

けらけらとからかうように笑う菫に、一瞬怒りを覚えた。

 

「し、しかし彼女ならそんな事気にしないんじゃないか?」

 

腹を抱えて笑っている菫の言葉に、

 

「何甘い事言ってるんです!!?」

 

と、否定するように力強く叩いた机の音が鳴り響く。さすがの菫もビクリと体を震わす。

 

「先生は何も分かってない…。いいですか!アパートを変えたのも報告してない、連絡がきても放置。つまりは死刑!会った瞬間に殺されます!確実に!」

 

「君の自業自得だろ」

 

きっぱり切り捨てられへこんだ。

 

そんな時、水晶の携帯が震えた。表示された名前を見て、通話ボタンを押す。

 

「木更?どうかしたの?」

 

『仕事してるときは社長って呼んでいったでしょ。それより水晶ちゃん、感染源ガストレアの潜伏先がわかったわ。三十二区、外周区よ』

 

「けっこう遠いんだね」

 

『ええ。里見くんたちは先に向かってるわ、急いで合流して』

 

「急いでって言われても…」

 

ここからの距離を考えたら無理な話だった。

 

『大丈夫。そこにすごいやつが迎えに行くから待ってて!あ、それと余所に手柄とられたら私、中退だから!わかるわよね!?』

 

中退って…どれだけギリギリの生活してるんだ。と、心の中でツッコミを入れながら水晶は了解と返答する。

 

『それじゃあよろしくね』

 

一方的に電話を切られてしまうが今はそこを気にしてる場合ではない。

 

「仕事か?」

 

「うん。先生、適当に刀借りてくから」

 

水晶は立てかけてあった刀を二本拝借し、急いで外に向おうとした時だ。

 

「あ、そうそう忘れる所だった」

 

何かを思い出したように菫はポンッと手を叩いて白衣のポケットに手を入れる。

 

そして、雑に投げつけてきた物を危なげなくキャッチすると、それを確認。

 

「これって…」

 

「いつもの薬だ。どうせ君の事だから、最近飲んでいなかったんじゃないか?ちゃんと飲め」

 

水晶はため息混じりに受け取った透明のケースに視線を移す。中には見た目は普通の丸い形をした錠剤が入っていた。

 

ギュッと悲しそうに握る水晶を横目に、菫は言葉を重ねる。

 

「戦うならそれは必須になる。…よくわかっているだろ?」

 

「………うん。ありがと、先生」

 

「礼はいいっていったろ。さ、早く行かないと木更に怒られるぞ」

 

水晶はその言葉に頷くと、地下室の階段を駆け上がる。その背を見送る菫はどこか懐かしそうな表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

木更の述べたすごいやつと言うのがヘリだとわかった瞬間驚いたのは言うまでもない。

そして、水晶は先に乗り込んでいた八葉と合流し、三十二区の上空に辿り着くと蓮太郎たちの姿を探した。

 

「んー………雨のせいで視界がわるいな…。木更からの情報だとこの辺りのはずだけど」

 

水晶は確認するように八葉にも視線を送るが、彼女は首を横に振る。

 

「地上に降りられたら見つけられると思うよ」

 

「地上にですか…。しかし、着陸できるような場所が見つからなければ…」

 

八葉の案は無理だと言うように男性の操縦士は言葉を濁す。

 

二人を交互に見つめると、水晶は手に握って携帯電話に視線を移した。表示されているのは蓮太郎に何度も連絡を試みようとした証の発信履歴である。

 

先ほどから一行に繋がらないのだ。

 

____嫌な感じがする。

 

水晶は自身の携帯電話をポケットにしまうと、シートベルトを外す。

 

「なッ、何をする気ですか!?」

 

「すみません、先に降りますね」

 

その言葉に驚愕の目を見開く操縦士に微笑みながら八葉の頭を軽く叩く。

 

「私にはとっても優秀な相棒がいるので」

 

自信満々だと言わんばかりに、えっへんと八葉は胸を張る。何をするのか彼女は察してくれたようだ。

 

「じゃあ、よろしくね八葉」

 

「任せて!大船に乗ったつもりでいいから」

 

褒めすぎたか、と思いつつ後部の扉を解き放つ。

 

「それじゃあ、行きます!私たちが降りたと認識したら、直ぐに立ち去って下さい!」

 

確実に聞こえるように大きな声で言うと、操縦士は大きく頷いた。それを確認した所で八葉に掴まる形で負ぶってもらう。

 

そして、八葉の瞳が真っ赤に赤熱、力を解放。一瞬、世界が静まり返った気がした。

 

などと、油断していたのが運の尽き。突如、凄まじい速度で景色が流れ、重力に逆らう事なく落下していく。強烈なGに引きはがされそうになるが、しがみついた。…意地でしがみつくしかなかった。

 

八葉が地面に両足をつくと、そこを中心に破砕する。

 

「到着〜!…って大丈夫、水晶」

 

ふらっとおぼつかない足どりで大丈夫大丈夫と、苦笑する水晶。

酔ったのだ。何かがこみ上げてきそうになるのを口で軽く抑えつつ、気分を直す。

 

「ほんと、水晶はこういうの苦手だよね」

 

「う、うるさいな」

 

そう私、神澪水晶は絶叫アトラクションなどが大の苦手なのだ。

あんな恐ろしい物に乗る人の気持ちが分からん。と思いながら、二人は歩を進める。

 

「注意をしながら急ごう。…けど、最悪準備しててね」

 

「あの人たち?」

 

八葉の問いに、水晶は頷く。

愛用のガントレットを装着する八葉を水晶はただ黙って見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

歩き始めて数分たった頃、水晶にある疑問が生じていた。

 

___他の民警はどこ?

 

何度も辺りを見渡すが人の気配どころか、人影すら見当たらない。八葉も雨のため臭いでの詮索は断念している。

 

その時、八葉の耳がピクッと僅かに反応を示す。

 

「………誰かくる」

 

八葉が見据える先に視線を合わせると、微かに足音が聞こえてくる。

 

こちらに近づいてくる足音に、警戒の姿勢を取るがすぐに不要だったと感じ取った。

 

徐々に明確になるその人物の姿に先に声をかけたのは八葉だった。

 

「延珠!!」

 

その声にやっと気がついたのか、ハッと延珠がこちらを見ると突っ込むように水晶に飛び付く。

 

「み、水晶……助けてほしいのだ…!!蓮太郎が……蓮太郎が……ッ!!」

 

涙目で訴えてくる延珠に、すぐ何があったか水晶は推測できた。

 

「延珠ちゃん、落ち着いて。蓮太郎くんはどこにいるの?この先?」

 

「ま…真っ直ぐ走ってきたから…それほど遠くないと思うぞ」

 

「そっか、わかった。八葉、延珠ちゃんのことよろしく。私は先に行くから、後から追ってきて」

 

「おっけー!」

 

手を上げて返答する八葉。水晶は視線を延珠に戻すと、頭を優しく撫でる。

 

「大丈夫だから、心配しないで。蓮太郎くんは必ず助けるから」

 

ニコッと笑う水晶に、少し安心したような表情で延珠は頷いた。それを確認すると、水晶は全力で疾走を開始する。

泥水が服にかかるのも気に留めず突き進む。

 

すると、銃声音が雨音と共に鳴り響いた。それも一発ではない何発も連続で聞こえてくる。

 

さすがの水晶にも焦りが芽生えた。

 

____蓮太郎くん、無事でいてよ!

 

祈りにも似た思いを抱いて、水晶は前方を見据えると三人の人物を認識した。

 

増水した川をバックに立っているのは、明らかにぼろぼろで立っているのが精一杯な里見蓮太郎。

 

そして、彼にカスタムベレッタの銃口を向けているのが蛭子影胤。隣には蛭子小比奈の姿も。

 

その光景に水晶の中で何かが切れた。

 

両足に力を込めると一気に解放。筋肉の収縮する感覚を感じながら、瞬時に距離をつめた。

 

「なッ…!!」

 

水晶に気づいた影胤の顔が驚愕に染まる。水晶は抜刀した刀をためらいなく、拳銃を握る影胤の手にめがけて振り下ろす。

 

「『イマジナリー・ギミック』!」

 

焦りの交じった影胤の声と同時に、バリアが展開される。水晶の剣と影胤の間に青白い燐光が。

 

一旦、上に飛び退くと態勢を反転させ太い木の枝に両足を着地し、影胤を見下ろすように空中で一瞬静止。

 

「神澪流剣術、四式。______雷霆(らいてい)ッ!!」

 

重力と脚力を最大限に利用し、稲妻の如く突撃。影胤は凄まじい殺気を感じ取り、再び斥力フィールドを展開させる。

衝突と共に、爆音と青白い火花が散った。

 

剣技を放ち終えると、水晶は蓮太郎の前に立つ。立ち込める煙の中心にいるであろう影胤を見据える。

 

「お、まえ……」

 

蓮太郎は必死に言葉を繋ぐ。

 

「無事、って訳じゃないよね…。でもよかった…、もう少しだけ待っててすぐ終わらせるから」

 

視線はそのまま前見ていたので表情は確認出来ないが水晶の言葉には安堵の色が伺える。

 

「さすがに驚いたよ神澪さん。全く君の気配を感じなかった」

 

煙から出てきた影胤は無傷。そして、何故か勝ち誇った笑みを浮かべていた。

水晶の剣術を受け止めた事に対してだろう。だが_____。

 

「……うん、やっぱり凄いねそれ。強度も威力も予想以上。でも_____」

 

「……ッ!?」

 

ピシリと影胤の仮面に縦に亀裂が走る。少量ながら血も滲んでいた。

 

「_____壊せない物でもない。そんなのに頼ってばかりいたら、足元をすくわれるよ?」

 

ニヤリと笑いながら言う水晶に対し、影胤は割れた部分を手で確認すると手の平についた血を見て小さく笑う。

 

「ヒヒヒ、まさか私のフィールドを破るなんてね。君は本当に面白い」

 

水晶を見る仮面の下の双眸は爛々と光る。すると、

 

「パパを、いじめるなッ!!」

 

小比奈が水晶の首にめがけて二本の小太刀を神速で振るう。だが、驚愕の表情を浮かべたのは小比奈だった。

 

二刀とも八葉がガントレットの前腕部で防御して止めていたのだ。

 

「や、小比奈。悪いけど少し大人しくしといて!」

 

力を解放すると同時に地面を踏みしめ放った回し蹴りは見事命中。小比奈は後方へと飛ばされ木に激突する。

 

後ろから延珠と、延珠に支えられた蓮太郎が驚愕の声を上げた。

 

「それでどうする?まだ続けるの?」

 

水晶と八葉に視線を交互に送ると、シルクハットの位置を直しながら鼻で笑う。それと同時に「小比奈」と呼んだ。

 

「いや、もうすでに目的は果たしているからね。失礼させて頂くよ」

 

そう言うと、傍にあったジュラルミンケースを拾う。

 

「ああ、最後に神澪さん。今回の事で私は確信したよ、君はこちら側の人間だとね」

 

影胤の言葉に水晶は眉を歪ませるが、影胤は気に留めず「また会おう」とだけ言い残し二人は姿を消した。

 

「水晶、追う?」

 

「ううん。深追いは禁物だし、今は一刻でも早く蓮太郎くんを病院に連れて行かないと」

 

水晶の視線の先には大量失血で、意識が朦朧としている蓮太郎が。

 

「蓮太郎くん、しっかり意識を保って。絶対に死なせたりしないから」

 

それから水晶たちの行動は迅速であり、すぐさま病院へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 




何と言うか文がまとまってませんねww

とりあえず、水晶の力も少しは垣間見ることが出来たのではとおもってます。
詳しくはこれから徐々に明らかになるので待っていて下さい!

感想やアドバイスなどありましたらよろしくお願いします。

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