ブラック・ブレット【閃剣と閃光】   作:希栄

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第五話

庁舎に到着した水晶と八葉は受け付けで名前を告げると、第一会議室と書かれた部屋の前まで案内された。

 

「き、緊張するなー…」

 

「八葉はこういうのに弱いもんね」

 

と、言いつつ水晶も緊張しているのか、ドアノブに手を伸ばしたところで深呼吸を一つ吐く。

 

扉の向こう側から複数の人の気配を感じながら扉を開けると、小さな扉からは想像できないほど部屋は広い。

中央に細長い楕円形の卓、奥には巨大なEDパネルが壁に埋め込まれていた。

 

だが、何より目についたのは中にいる人間だ。

 

「勢ぞろいって感じかな…」

 

中にはおそらく民警の社長格であろう高級感あふれるスーツに袖を通した人たちが椅子に座っていた。更にその後ろには威圧感漂うプロモーターと思われる連中がおり、何人かイニシエーターも傍に控えている。

 

その光景に不快な気持ちが芽生えた。

プロモーター達がいるのは護衛を兼ねているのかもしれないが、それだけではないだろう。

 

簡単にいえば、自らの民警の力がどれほど大きいのか示しているのだ。

 

____こんな大変なご時世に馬鹿らしい。

 

ため息混じりに中へと足を踏み入れると、雑談の話し声が消えて一斉に視線が二人に集まる。

珍しいものでも見たかのような反応に八葉は目を丸くし、水晶は涼しげな表情のまま室内へ進む。

 

しかし、それを邪魔する者が現れた。

 

「んだよ、民警ごっこのガキ共の次は、小娘か?迷子ならとっととここから出ていけや」

 

口悪い男は二人の行く手を塞ぐように立ちながら、悪態をついてくる。

水晶は視線を男に向ける、そこには逆立った頭髪に、筋肉質な体格、そして口元は髑髏のフェイススカーフを巻いた青年が仁王立ちしていた。

 

よく見れば、彼の手には何とも物騒なバスターソードと思われる巨剣が握られているのに気づく。

 

脅しのつもりかは知らないが、この程度の事で怖気づくほどやわではない。

 

水晶は八葉の手を握り、男を無視するようにすぐ傍を素通りする。それが気に入らなかったのか「おいッ!」と怒声が部屋に響く。

 

「……何か用ですか?」

 

少し面倒くさそうに振り返る水晶の行動が、さらに男の怒りにふれる。

 

「何か用ですか?じゃねぇッ!ここはテメェみてぇな奴が来る所じゃねぇつってんだよッ!!」

 

何て耳障りな大声なんだろう。迷惑この上ない。

 

「おい!聞いてんのか?あぁ?」

 

男がそう言ったところで沈黙が流れる。この気まずい雰囲気の中、

 

「あ、話終わりました?」

 

と、水晶の間の抜けた言葉に誰もが唖然とする。男も口をパクパクさせていた。

 

「話が終わったようなら、私たちはこれで失礼します」

 

ぺこりと軽く一礼、顔を上げたところで頭に血が上った男は水晶の胸倉に手を伸ばしてくる。

 

水晶は滑るように後退した。一瞬、周りからどよめきが上がる。

これにより、完全に逆上した男が再び水晶に掴みかかるが、闘牛士のようにその手から逃れる水晶。

 

「女性の胸ぐらを掴もうなんて失礼じゃないんですか?」

 

ニコリと微笑むが、目が笑っていない。

 

「ざけんな!」

 

今度は拳を固めて殴りかかる。が、

 

「やめたまえ将監!また面倒を起こすつもりか?今度は本当にここから出て行ってもらうぞ!」

 

彼の雇い主と思われる人物が静止を促す。将監と呼ばれた男は黙っていたが「チッ」と舌打ちをしてから壁際まで引き下がった。

 

「お嬢さん、申し訳なかった。代わって謝罪する」

 

「いえ、こちらも言いすぎました。すみません」

 

両者共に頭を下げた。

 

「水晶やりすぎ」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

少し進んだところで水晶と八葉も壁際まで下がり、ふと視線の感じる方を見る。

 

その瞬間、水晶は目を見開いた。

 

水晶の視線の先には同い年ぐらいであろう二人が目に入る。一人は少女で、着ている制服が御嬢様学校として有名な美和女学院のものあり、同じ女性の自分でも見惚れてしまうほどの美人だ。

 

もう一方の少年は、真っ黒の制服に、言っては悪いが不幸面。覚えてる、昨日の朝にぶつかりかけた少年だ。

 

「民警だったんだ…」

 

という事は後ろに乗っていた少女は彼のイニシエーターであろう。

 

こんな所で出会うなど、これも何かも縁なのか。

 

「水晶、『天童』ってあの天童?」

 

八葉も彼等の事に気がついたのか、首を傾けて尋ねる。

 

「だろうね。あのおじいさんの孫でしょ」

 

「…私あの人苦手」

 

苦い顔をする八葉に、水晶は苦笑しながら頭をなでた。

 

確かにプレートには『天童』と書いてあるがおそらく彼女はあの噂に聞く『天童殺しの天童』だろう。

 

「ねぇねぇ、水晶」

 

「ん?」

 

服を軽く引っ張られ、視線を移した。

 

「何か食べ物持ってない?」

 

「食べ物?もしかして、お腹減っちゃったの?」

 

服のポケットやカバンの中を確認しつつ八葉に問うが、彼女は首を横に振る。

 

「いや…私じゃないんだけど…」

 

八葉の視線をおうと一人の少女がいた。

先程、言い争った将監の隣にいる事から彼のイニシエーターなのだろう。こちらに送られてくる視線からお腹が減っているのは彼女だとわかった。

 

隣では八葉が楽しそうに少女とジェスチャーで会話しているのを横目で見つつ、その間に水晶は再び食べ物の捜索にあたる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…」

 

「どうしたの、里見くん」

 

蓮太郎は伊熊将監を軽くあしらった少女を見ると、思わず固まった。その事に疑問を感じた木更は蓮太郎の視線の先に焦点を合わせる。

 

「…もしかして、あの可愛い子に一目惚れしちゃったの?」

 

「は、はぁッ!?」

 

「この最低、不純、お馬鹿」

 

軽蔑の眼差しに蓮太郎はがっくり肩を落とす。

 

「ちげぇっての。昨日の朝だったかな…自転車でぶつかりそうになった人なんだよ」

 

後ろ頭をかきながら言いにくそうに蓮太郎がそう述べると、

 

「ちゃんと前見て運転しなさい。あんな可愛い子に怪我でもさせたら私、許さないから」

 

先程から一転。

理不尽な事を告げる木更に、蓮太郎は小さく口を開けたまま凍りつく。

 

この社長は一体何なのだろう。

だが、考えるだけ無駄なので、もう一度視線を少女に戻す。

 

「しっかし、同じ民警だったなんてな…」

 

「私も初めて見るわ。けど、あの千番台の伊熊将監を圧倒していたから、ただ者ではないでしょうね」

 

「まあな」

 

蓮太郎は何か変な縁のようなものを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今だ食べ物を探していると、制服を着た男が部屋に入ってくる。お偉い方々が一斉に立ち上がりかけたところで、男が手を振って着席を促す。

 

「本日集まってもらったのは他でもない、諸君等民警に依頼があるからだ。空席が一つあるようだが…話を続けさせてもらう」

 

見れば、『大瀬フューチャーコーポレーション様』とかかれた席だけが空いていた。

 

男は咳払いを一つ吐くと、当たりを見渡す。

 

「本件の依頼内容を説明する前に、依頼を辞退する者はすみやかに席を立ち退席してもらいたい。依頼を聞いた後では、もう断ることは出来ない」

 

水晶はもちろん、他の民警も誰一人立ち上がる者はいなかった。

 

「よろしい、では説明はこの方に行ってもらう」

 

と言って男は背後の特大パネルに一礼。

同時に一人の少女が映し出される。

 

『ごきげんよう、みなさん』

 

その瞬間、信じられないという驚きと共に誰もがその場に勢いよく立ち上がった。

 

敗戦後の日本、東京エリアの統治者。聖天子がそこに現れたのだから、面を食らわないはずがない。

 

そして彼女から少し離れた位置に天童菊之丞の姿も。

 

僅かに聖天子と目が合い、微笑まれたような気がしたがなるべく平静を装った。

 

 

 




前回言ったように蓮太郎と木更は出てきましたが…からみがあまりありませんでしたね…。

次回は、再び影胤が出てくる予定なのでよろしくお願いします!

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