ブラック・ブレット【閃剣と閃光】   作:希栄

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第三話

「こんばんは。お嬢さん」

 

そのセリフを聞いた瞬間、水晶の手が神速で動いた。金属製のパイプを再び握り直し、声がした方向に向ける。

 

「誰?」

 

ゆっくりと背後に顔を向けると暗い銃口がこちらに向けられていた。

カスタム元はベレッタと思われる拳銃。

上部に接近戦用のマルズスパイクを付け、銃口の跳ね上がりを抑制するために増設したのだろう、銃口下部に銃剣ユニット付きの大型スタビライザー、マガジンはエクステンションタイプの多弾倉のようだ。

 

両面には英語で何らかの文章が刻印されているようだが、闇にまぎれて見えない。

 

グリップに埋め込まれた邪神クトゥルフを象ったメダリオンや夥しい量のスパイクがついており、全体的に悪趣味な銃となっている。

 

視線を移して、銃口を向ける奇妙な人物に水晶は眉を寄せた。

 

身長はすらっとして高く、高級そうな革靴を履き、ワインレッドの縦縞の入った燕尾服にシルクハット、そして今から舞踏会にでも行くつもりなのか仮面をしているのだ。

 

「ヒヒ、少し話をしに来たのさ。その鉄パイプを下ろしてくれないかね」

 

水晶は目を細めて相手を睨みつける。

 

「残念だけど、私にも色々あるのよ。お引き取り願えるかしら?」

 

男はやれやれと言わんばかりに大げさに肩をすくめて、指をパチンと鳴らす。

 

「_____小比奈、彼女の左腕を切り落としなさい」

 

「はい、パパ」

 

少女の声が背後から聞こえ、後ろを向く。その先には黒いワンピースを着た少女が両手に小太刀を持っており、赤く光る瞳でクスッと笑ったと思うと、今まさに水晶の手を切断しようとしていた。

 

反射的に足の筋肉を収縮、垂直に飛び上がる。電柱の頂上まで飛躍すると、慣性力と重力が打ち消し合い空中でいったん静止。その瞬間、下を向く。

 

すると、先ほどまでいた場所の道路がさいの目状に切られていた。背筋に寒気が走る。

 

止まっていた時間も終わり、すぐに重力で引っ張られ地面に落ちていくが、膝のクッションを最大限まで使い着地時の衝撃を地面に逃がし、同時に力強く地面を蹴り出す。

 

タイミング、速度、男との間合い、全て良し。必ず当たると思っていたからこそ、次の出来事に水晶は目を丸くした。

 

「『イマジナリー・ギミック』」

 

男がそう唱えると、彼へ振り下ろしていた鉄パイプが雷鳴音と共に受け止められる。

 

水晶はすぐさまバックステップを踏み、助走を付け、今度は更に力強く振り下ろすが鉄パイプはあさっての方向に弾き飛ばされてゆく。

 

今度はさっきよりも鮮明に見えた。彼の周りに青白いドーム状のバリアが展開されている。

 

バリアなど、人間が出来る芸当なのか?

 

そして一瞬の隙をつき、小比奈と呼ばれた少女が水晶に向かって突っ込んでいく。

 

_____ッ。間に合わない!

 

反応が遅れ少女のバラニウム製の刀身が自身の体を貫く感覚を予感し、身を固くする。

 

直後、ギィンという音がしたと思うと小比奈が何故か吹き飛ばされていた。

 

「まったく…帰りが遅いと思って迎えに来たら何してるの」

 

「や、八葉」

 

水晶の目の前にはあきれた表情で立っている八葉がいた。

 

「てか、情けない。やられてやんの」

 

「うるさいなッ」

 

ケラケラ笑う八葉に対し、水晶は悔しそう。

 

吹き飛ばされた小比奈は空中で体勢を立て直し、着地すると睨みながら二刀を交差させて構えた。

 

だが、よく見れば二刀の一本に僅かだがひびが入っているのが見て取れる。

 

「へえ、中々やるね。折ったと思ったんだけどなー」

 

「やっぱり鈍ってるんだ」と後ろ頭をかきながらそう述べた。よく見ればその両手には愛用の黒いバラニウム製のガントレットが装着されている。

 

「あなた、名前教えて!」

 

「私は桜咲八葉。モデル・ウルフのイニシエーター。よろしく」

 

「……八葉、八葉。_____覚えた。私は蛭子小比奈、モデル・マンティスのイニシエーター」

 

小比奈は男に背を向けながら真剣な面持ちで静かに話す。

 

「パパあいつ、嫌な感じがする。今すぐ斬っていい?」

 

「_____やめなさい小比奈」

 

バリトンボイスがあたりに響き、動き出そうとしていた少女の体がぴたりと止まる。

 

「なんでパパ!?もうすぐ斬れたのに!」

 

「ダメだわが娘よ」

 

「うぅ、パパ嫌い!」

 

やれやれと仮面男はシルクハットの位置を直すと水晶と八葉の方を向く。

 

ヒュュウ、と冷たい風が両者の間に流れる。水晶は乾いた口を開く。

 

「あなた何者」

 

「失敬。まだ名乗っていなかったね」

 

男は頭のシルクハットを取り上半身を90度ぐらい傾け、礼をする。

 

「私の名前は蛭子影胤。この子は私のイニシエーターで、私の娘だ」

 

自己紹介を聞いて水晶は疑問が浮かぶ。

 

イニシエーター…こいつ民警?

 

その疑問に気が付いたのだろう。チッチッチッと右手の人差し指を立てて左右に振り否定する。

 

「残念ながら元民警だ。君と同じようなものさ、神澪水晶さん」

 

私を知ってる?一体…。

 

「何が目的?」

 

空気が一転。

ここに何も知らない一般人がいたら震え上がり一目散に逃げるか、失神してしまうだろう。

それほど、今の彼女は純粋な殺気を放っているからだ。それも常人が受け止められないほどの強烈なものを。

 

しかし、影胤は気にもとめないように両手を広げおどけて見せた。

 

「単刀直入に言おう。君がほしい」

 

水晶は理解できないとばかりにさらに眉を寄せる。

 

「私の仲間にならないか?と言っているのだよ」

 

「仲間?」

 

「ああ」と影胤は首を縦に振り肯定した。

 

「これから東京エリアには大絶滅の嵐が吹き荒れる。そこでだ、私は君のような力を持つ者を集めている」

 

「______なぜ、力のある者を集めようとするの?」

 

「水晶さん、この理不尽な世界を変えたいと思ったことはないか?東京エリアの在り方は間違っている。そう思ったことは、一度もないかね?」

 

影胤の言葉を聞き、拳を強く握りしめる。

 

理不尽だと、間違っていると自分は何度思ったことか。正直、影胤に言われずともわかっている。

 

だが_____

 

「丁重にお断りします。確かに、あなたの言うとおりこの世界は理不尽で間違ってると思ってるしうんざりもしてる。でも、少なくとも私の力は東京エリアを滅ぼす手伝いをするためのものじゃない」

 

「そうか…君なら断るとは思っていたが残念でならないよ。まあ、いい。では今日はこれで失礼するよ。次に会う時は、殺し合いと行こうじゃないか」

 

仮面の下で不気味に笑う影胤は、踵を返し、水晶たちに背を向けた。

 

「行くよ小比奈」

 

「はい、パパ」

 

小比奈が影胤に肩を貸す。彼女の目が赤くなり力を解放、そのままジャンプし、暗闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自宅に戻った水晶たちは、自室の布団に寝転び天井を見つめていた。

 

真っ暗な室内は、月明かりにより少し明るい。ふと、手が震えているのに気づき、震える手をもう一方の手でおさえる。

 

先ほどまで戦っていたんだ。時間が経てばたつほど後悔の念にかられる。

 

二度と戦わないと決めたじゃないか。何のために民警をやめたのだ。

 

「………何やってるんだろ」

 

酷く悲しそうに水晶は呟く。

 

すると、隣で寝ていた八葉がもぞもぞと動き目を覚ます。

 

「あ、ごめん。起こしちゃった?」

 

「ううん、大丈夫。……水晶こそ大丈夫?」

 

曇り一つない瞳は水晶を映し出していた。心配してくれているのか、少し潤んでいるようだ。

 

「大丈夫。って言ってもお見通しなんでしょ?」

 

まあね、と言わんばかりに胸を張る八葉。そんな仕草に自然と微笑む。

水晶は少し視線を落とし、彼女に問う。

 

「ねえ、八葉。私は一体どうしたらいいのかな?」

 

「えっ?」

 

「不安なの。…もう一度戦う理由もなければ、刀を握る勇気も出ないのに…そんな私でも、また戦わないといけないのかな?」

 

不安げな水晶の声に八葉は無言でいたが、突然ニッと笑みを浮かべると、水晶の布団に入り込む。

 

布団から顔をのぞかせる八葉は、いつも通りの満面の笑顔。

 

「そんなの誰にもわからないよ。でも、どちらを選んだとしても私は水晶の味方だから、忘れないで」

 

「……そうね。八葉がいるなら私も安心だよ。ありがとう」

 

布団に潜り込んでいる八葉の頭を水晶は優しくなでる。

 

それで安心したのか、八葉ゆっくりと瞼を閉じた。その後、彼女が眠ったのを確認し、自身も眠りにつく。

 

 

 

 




影胤たちとの話が長くなってしまい、すみませんw

わかりやすくまとめたいんですけど、難しいかぎりです。

感想などありましたらよろしくお願いします。

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