ハイスクールD×D ~自堕落主と相談屋~ 作:タロー☆マギカ
うまく書けたかな
旧校舎裏庭にある闘いの場にはもってこいの広場。その場の中央には先程までお菓子をパクついていたロリ系少女と、その少女に痛い目にあわされた男子がいた。
言うまでもなく小猫ちゃんと摩耶さんだ。
木場の話によると、二人が闘う時はいつもここを使っているらしく、地面が何度もえぐれたせいか土質が変わってきているらしい。何ソレ怖い。
「んで、どうする?今日はどんな風にやりあう?」
不意に摩耶さんが口を開き、小猫ちゃんに何かを尋ねていた。どんな風に闘うとは?
「摩耶は小猫のリクエストに応えて対応訓練をしてくれるのよ。例えば摩耶は反撃無しの代わりに攻撃を全力で避けるとかね」
摩耶さんの発言の意味が分からなく、首を傾げていた俺にリアス先輩が分かりやすく説明してくれた。何度も思うけどこんな風に言葉の意味が一発で分かるような発言を摩耶さんにもしてほしい。どれだけ願っても無駄なのだろうが……。
「……摩耶先輩の好きなようにしていいですよ」
相変わらず小猫ちゃんは無表情のまま摩耶さんに戦闘内容をリクエストしていた。す、好きなようにしていいだって!?思春期真っ盛りの高校生男子に、そんな期待されるような事言ったらありとあらゆる妄想がーーーー!!
「……へぇ、本当にいいのかい?」
摩耶さんの口調がいつもの堕落ぶりな物ではなく、鋭利な刃物を突きつけられているような物に変わっていく。な……何か摩耶さんの気合いの入りようが凄まじい。いつも面倒くさいと言っていたあの人の面影がいまや微塵もない。
「あらあら、摩耶君も気合い充分ですわね」
「ええ……素人の俺ですら感じ取れる程ですからね」
摩耶さんがどれだけ身を震わせる程のオーラを発しているのか、この場にいる全員が感じ取れていた。少し遠くから眺めている俺達でさえこれほどの物を感じるのに、対面している小猫ちゃんは一体どれほどの物を感じているのか、想像もつかない。
その恐ろしい、という言葉でしか表せない気迫に怖じ気づいたせいか小猫ちゃんは一瞬たじろぎ、元いた場所から一歩後ろに後ずさった。
しかしすぐに気合いを入れ直そうと言わんばかりにその瞑らな双眸に力を入れ、真正面にいる摩耶さんを睨み返した。す、スゲェ……あの状況で睨み返せるのか。小猫ちゃんの度胸を見習おう。
「……それじゃ、行きますよ」
「いつでも」
オープンフィンガーグローブを着け、様になっているファイティングポーズをとりながら小猫ちゃんがグッと腰を落とす。か、カッコイい。
自分より背丈が短く、年下である少女にそんな魅力を感じてしまった。
対する摩耶さんは今までポケットに突っ込んでいた手を出し、黄土色のグローブを纏った手をダラリとぶら下げた。というかーーーー
「いつの間にそんな物着けてたんですか?」
「ん?まあ……ついさっきだ」
「小猫ちゃんのように構えたりしないんですか?」
「いいんだよ。これが俺のやり方だ」
俺の一つ一つの疑問に摩耶さんが笑いながら答えてくる。ふざけているのか、と思っていたが相手である小猫ちゃんが笑っていないのを見ると、どうやらハッタリではないらしい。グローブの事を詳細に聞きたかったのだがその事には目を瞑る。なんてったって摩耶さんなのだから。
「どっちから仕掛けると思う?」
俺は隣にいる木場に尋ねる。戦闘に関しては未だ素人だからな。自分より精通している者に訊くのが一番手っ取り早い。
「間違いなく小猫ちゃんだろうね。摩耶さんは大抵相手に先行を譲る人だから。」
「先行を譲る?何でそんな事するんだ?先に仕掛けた方が有利になるんじゃ……」
「必ずしも先に仕掛けた方が有利になるなんて事は無いさ。少なくとも、天童先輩はそういう状況下でばかり戦ってきたからね。そっちの方がやりやすいのかもしれない」
木場の発言に少し戸惑いつつ、既に戦闘態勢に入っている二人を見る。
だんだんと空気が張りつめていくのを感じる。
少し離れた所にいる、対峙している小猫ちゃんと摩耶さんの空間だけ別世界であるような錯覚に陥る。
夕摩ちゃんに告白された時とはまた違う独特な緊張感がこの場全体を覆っていく。
両者どちらとも動かず、いつになったら始まるのか分からないが故に目を離せない。何故なら尊敬している人が目の前で闘っているのだ。しっかりと目に焼き付けておかねばならない。なのだが……。
あまりの緊張感に耐えきれず、喉に詰まった空気を無理矢理流し込んだ瞬間ーーーー
木場の予想通りに小猫ちゃんから飛び出した。
「はえぇぇぇぇぇ!」
小猫ちゃんの一瞬とも呼べる華麗な動きに思わずそう叫ぶしかなかった。最初に五メートルはあったであろうその距離を、たった一歩で詰めたのだ。
どんなダッシュ力してんだよあの子は!
「…………ッ!!」
小猫ちゃんがこちらまで伝わって来る声にならない気合いを発しながら、摩耶さんのがら空きの顔面に容赦なく右上段蹴りを繰り出す。
危ねぇ!と思った刹那、案の定摩耶さんから鈍器で叩きつけられたようなドデカい炸裂音が響いた。
おいおい小猫ちゃんえげつな!見た目とは裏腹に可愛くない蹴り放つじゃん!まさかこれでもう終わりーーーー
「結構いい一撃だね……力上げた?」
とはならなかった。よく見てみると小猫ちゃんが本来描いていたであろう蹴りの軌道を遮断する物があった。
摩耶さんが力無くぶら下げていたはずの左腕。
それがいつの間にか小猫ちゃんの足と摩耶さんの顔の間にあり、あの恐ろしい蹴りを涼しい顔をして受け止めていた。
「ええぇぇぇぇぇぇぇえええ!?あれを止めるの!?」
「相変わらず驚かされるわ。『戦車』の蹴りを片手で止めるなんて芸当、出来る人なんてなかなかいないわよ」
リアス先輩は出来る限り冷静を装っているが、顔に僅かに流れている冷や汗が先程の攻防のレベルの高さを物語っている。
摩耶さん部室で小猫ちゃんの手刀くらった時スゲェ痛そうにしてたのに、今じゃそれよりヤバいのが飛んできてるくせに笑って対処してる。あれはあれで恐ろしい。
「……それほどでもありませんッ!」
そう言うと小猫ちゃんは今まで上げていた右足を地面に付け、そのまま右足を軸にしての左後ろ回し蹴りを放つ。
さっきからやること一つ一つがえげつない!完全に命(タマ)穫りにいってるよ!
そのまま小猫ちゃんの攻撃がいとも簡単に摩耶さんの体に突き刺さろうとした次の瞬間、
摩耶さんが後ろに飛んで蹴りを空振りさせる。
す、スゲェ……バックステップ。ゲームでしか見たことのない技をこんな所で見ることが出来るなんて……何気にこの勝負金取れるんじゃないか?
「いやいや。バックステップぐらいお前以外の奴全員出来るから」
嘘!?と度肝を抜かれ、すかさず真実を確かめために見物人全員の顔を見る。
ていうか勝負の最中だってのにこの人、何でこっちに気を使ってくるんだ。いつか小猫ちゃんにやられるぞ。
「確かに出来るけど、僕には天童先輩みたいに攻撃が飛んできてから避けるなんて芸当出来ないよ」
「右に同じく」
「私は戦闘は肉弾戦じゃなくて魔力戦だから、そんなスキル磨いてないわ」
順番に木場、朱野さん、リアス先輩がそれそれ自分自身についての事を包み隠さず教えてくれた。
「え?リアス出来ないの?」
「あなたの物差しで他人を計らないで頂戴!」
摩耶さんの『まじかよお前』みたいな態度にリアス先輩が怒気を孕んだ声で対応する。
「でもこの程度の技術、上の階級の奴らは簡単にやるぞーーーー!」
摩耶さんはまだ口を開こうとしていたが小猫ちゃんの繰り出された蹴りによって中断される。因みにこの攻撃はダッキングーーーーしゃがみこんでかわした。
「随分余裕ですね、先輩」
「まあ好きにしていいって言ってたしね。悔しかったら少しでも俺に本気出させてごらん」
「なら……そうさせてもらいます!」
摩耶さんの一言で完璧に火がついた小猫ちゃんは蹴りの回転スピードを上げ、その最中に拳も織り交ぜてきた。しかし摩耶さんは未だ笑みを崩さず、小猫ちゃんからの猛攻を避けるか捌いていっている。
目にも留まらない攻撃、もう何発繰り出されたか分からない神速の弾丸。それら全てが決定打にならず、ただ虚しく空を切るだけ。その状況が五分近く続いた。
「小猫ちゃんもうバテたのかい?まあ前よりかはかなり長く保ったけど」
その言葉通り、あれだけのパフォーマンスを披露した小猫ちゃんは明らかに失速した。息も肩だけでしている状況であり、腕も既に右腕しか上がっていない。しかし小猫ちゃんの眼にはまだ闘志が漲っており、その双眸を見ただけでこの闘いに懸けている想いの強さが分かる。
想いの強さ。俺のような神器使いにはなにより欠かせないもの。摩耶さんの戦い方はまだ俺のような新米には真似できない物だ。でも小猫ちゃんのような想いの懸け方……何に対して頑張るのか、ということに関してはこの闘いを見ておけば何か分かるかもしれない。絶対にここから先は見過ごさない……。
「まだまだ……これからです!」
自分に言い聞かせるように小猫ちゃんが呟くと、最初の盤面と同じように驚異的なダッシュ力で距離を詰め、そのまま右上段蹴りを放つ。だが、
「勢いが全く無いよ!」
摩耶さんの言うとおりその蹴りには最初のような覇気が微塵もなかった。そのまま蹴りは安易に防がれ未だ戦況は変わらなーーーー
「えい」
「うおっ!?」
この闘いで初めて摩耶さんが驚愕の声をあげた。右上段蹴りが防がれた後、小猫ちゃんはそのまま勢いをつけての水面蹴りを摩耶さんの左足にぶつけた。
「小猫ちゃんは今まで天童先輩の腰から下の範囲を一切攻撃してなかった……。そのせいで天童先輩は上半身の攻撃ばかり警戒してて、下半身に全く警戒を持っていなかった!」
隣で木場がボクシング解説者のような分かりやすく、熱くさせる実況をする。
木場……今のお前の立場何か悲しみしか湧いてこないよ……。
すかさず小猫ちゃんは唯一出来た摩耶さんの隙を逃さないように右ボディーブローを叩き込もうとした。
「くっ!」
摩耶さんは苦しそうな声をあげ、小猫ちゃんのボディーブローを再びバックステップでかわす。
「うわ!いまのはおしーーーー」
「まだだ!」
木場が叫び声をあげ、俺に最後まで発言させなかった。そして木場の言ったとおり、小猫ちゃんのターンはまだ続いていた。
「ーーーーッ!」
小猫ちゃんは摩耶さんがバックステップをとったほぼ同じタイミングで前にダッシュをした。まるで摩耶さんの行動が分かっていたかのように……。
「うそん!?」
流石の摩耶さんもこの事は予測してなかったのか、表示に焦りが見え始めた。
「まさか小猫……摩耶を誘導してたっていうの!?」
リアス先輩が信じられない、といったような驚愕の声をあげる。
誘導って……そんな事できんの!?
「小猫ちゃんは天童先輩と長い間訓練を積んできた間柄だ。戦いのクセなどについては僕達より二手三手詳しい。そこを利用したんだ」
木場が相変わらず実況を続ける。俺としてはありがたいがそれでいいのか木場よ……。
「チャンスだ!天童先輩はまだバックステップの途中だから地面に足がついていない……つまり体重移動が出来ない!加えて水面蹴りをくらい、バランスが崩れた所を無理矢理右足のみで後ろへ飛んだうえ虚を突かれた……防御は考えられない!」
長い説明ありがとう木場!すごいわかりやすかった!だからしばらく黙ってろおまえ……序盤とキャラが全く違うぞ!
小猫ちゃんはこれで終わらせる、といわんばかりに最大最高級の覇気が籠もった蹴りを顔面に向かわせる。
その場にいた全員が『入った!』と思わざるをえなかったその蹴りは
摩耶さんの頭上を越えてさっきまでと同じように空気を切り裂いただけだった。
「な…………!!」
俺は思わず絶句した。そうせざるをえなかった。あれを……かわすのかよ!?
摩耶さんが何の抵抗もせず、ただ飛んでいただけだったら恐らく決まっていたかもしれなかった。しかしそれが叶う事はなかった。摩耶さんは小猫ちゃんの蹴りがもう少しで当たる寸前に、
上体を九十度以上折り曲げ、無理矢理小猫ちゃんの蹴りを空振らせた。
「地面に足がついていない状況でとっさにあんなことをやってみせるなんて……天童先輩は相変わらず驚かされる人だ」
木場が俺と同じように信じられない現象を目の当たりにしたせいか、引きつった笑みを浮かべていた。
「あっぶね!あんな恐ろしいモン当たってたら今頃三途の川渡るか渡らないかの瀬戸際に立たされてたわ!」
摩耶さんはそう叫びながら折り曲げていた上半身を元に戻し、顔には冷や汗が大量に噴き出ていた。
一方小猫ちゃんは勝利を確信していた攻撃をかわされ、心身ともにダメージを負い、遂に地面に膝をついた。
勝敗は素人目にも明らかだ。摩耶さんはかなり動揺しているが一時的な物。スタミナにはまだまだ余裕がある。対して小猫ちゃんはこちらまで伝わってくる程の息切れを起こしており、早いスピードで酸素の取り込みを行っていた。
この勝負……言うまでもなく摩耶さんのーーーー
「それにしてもさぁ……」
いつもの調子を取り戻した摩耶さんが不意に口を開く。そのまま押し切れば勝ちは確定してるのに、ここまで来て何故余裕をみせるのだろうか。
全員が一体何を言い出すのか、と疑問に思ったせいか摩耶さんの方を見る。そしてその原因を作り出した張本人は、
「小猫ちゃん結構かわいいパンツ履いてたね。白色の生地に水玉なんて」
『……………………え?』
核に匹敵するであろうとんでもないことを暴露した。
俺以外の全員が間の抜けた声を出し、パンツの柄をばらされた小猫ちゃんは顔を真っ赤にしている。
因みに俺はというと、
「そうか!小猫ちゃんの渾身の蹴りをかわすためにとったあの無理矢理の上体そらしで小猫ちゃんの体より下に入り、そのままの状態なら視線は自然と上になっているがために偶然スカートの中にある男にとっての桃源郷を見れた。という事ですねーーーー!!」
さっきまでの木場に引けを取らないであろう完璧な状況説明を大声でした。
羨ましい!女の子のスカートの中を偶然にとは言え見れた羨ましい!大切な事だから二回言った!
「……摩耶先輩、最悪です」
「いやいやいや。君みたいなかわいい女の子のパンツ見れたりしたら思わず報告しちゃうでしょ」
「分からなくないですーーーー!」
思わず肯定してしまった。周りから冷めた目で見られてる気がするが気にしない。これが俺の生き方なのだから!
「……煩悩、死すべし!」
そう言うと小猫ちゃんは限界のはずの体を動かし、摩耶さんに何度か分からない蹴りを浴びせようとする。
今の小猫ちゃんを動かしているのは羞恥か、それとも摩耶さんに対する怒りか。多分両方だろう……。
さっきまでの小猫ちゃんとは違い、ある意味凄まじい殺気の籠もった蹴りは摩耶さんの体に、
「つっかま~えた♪」
またもや届く事はなかった。しかし俺達は、今目の前で起きている光景を信じ切ることが出来なかった。
何故なら小猫ちゃんの蹴りは摩耶さんの体まで届かなかった所かーーーー
跳び蹴りをくらわせようとかなりの飛距離を飛んだ小猫ちゃんの体が空中で突然停止したのだ。
ありえねーんですけどーーーーーーーーーー!!
イ「摩耶さんポーカー強いんですか?」
摩「ん?まあな……」
イ「どれくらいすか?」
摩「プロの奴破産させるくらい」
イ「……………………」
そんな相談部の何気ない会話