ハイスクールD×D ~自堕落主と相談屋~ 作:タロー☆マギカ
代償はry
試験中なのに……
遥か上空から降り注いでくる灼熱の陽光に、辺りから聞こえてくる、身に染み渡るような蝉の声。
たったこれだけの要因が、既に初夏を迎え始めてきているというコトを俺に自覚させる。
こんな日はクーラーをガンガンに利かした家で静かに過ごしたいのだが、ある事情でそれとは縁遠い状況下にいる。
では、俺が今どこで何をしているかというと、
「ぜぇ、もう……無理……しんどい、暑い……疲れた……ッ!」
身が焦げると錯覚してしまうほどの炎天下で、リアス先輩率いるオカルト研究部の合宿先である場所ーーーーちなみに山らしいーーーーへ向かっていた。
……とてつもなく重い荷物を持ちながら。
「な、なんで俺がこんなこと……」
額から噴き出る汗を拭い、俯きながら一歩を踏み出す。足跡の深さがおかしいのを見る度に、重量感のある荷物を持っているコトを自覚する。
そんな地獄を乗り越えようとしていると、隣を歩いている摩耶さんが語り掛けてきた。
「修行にはおあつらえむきのメニューじゃねえか。よかったな、イッセー」
「よかないですよ!」
俺は摩耶さんの背中を睨みながら言い返す。摩耶さんは何も持ってなく、文字通り手ぶらでここに来ている。
アンタは何も背負ってないからそんなコトが言えるんだ!
「あのなイッセー。何も背負ってない奴なんかより、何かを背負った奴の方が何万倍も強いんだぜ?」
「カッコイい台詞で誤魔化そうとするなぁ!」
相変わらずだなこの人は……何かあれば面倒事を回避しようとしたり、俺の心をまた読んだり。
「だいたい今回の合宿はオカ研のメンバーを強化するのが目的でしょ?何で俺までこんなコトを……」
俺に対する措置について愚痴りながら、眼前のリアス先輩の背中を追う。
リアス先輩がライザーと結婚したくないから対決するのは分かる。そのために力をつけようと合宿をするのも頷ける。
しかし、俺達相談部が駆り出される道理が分からない。挙げ句の果てには俺まで修行をつけられる始末。ハッキリ言って踏んだり蹴ったりだ!
「まあ、それについてはお前に同意するわ。何で俺がこんな……ほら見ろイッセー、俺がさっき言ってたことが証明される瞬間が来たぞ」
「は?一体何言ってーーーー」
「遅いです、イッセー先輩」
死角から聞こえる可愛らしい声。
それに誘導されるように視線を向けると、俺より何倍も大きな荷物を持った小猫ちゃんが俺の横を通り過ぎていった。しかも涼しい顔をして。
「うぇ!?な、なんで小猫ちゃんあんな大きな荷物背負って平然といられるの!?」
「それはね、彼女が『戦車』だからだよ。イッセー君」
今度は爽やかな男の声。しかもそれが隣から。
反対の方を向くと、いつものイケメンスマイルを浮かべている木場の姿があった。俺のと同じ大きさの荷物を背負っているというのに、随分余裕があるようだ。
「案外余裕そうだな裕斗。なんならイッセーの荷物少し分けてやろうか?」
「い、いえ。それは流石にキツいので遠慮しておきます……」
摩耶さんが唐突に木場に修行をキツくするよう催促してくる。因みに摩耶さんは木場の隣にいる。
つまり今、俺、木場、摩耶さんの順に横一列に並んで歩いているのだ。
「いや~、イッセーに荷物落とされたりでもしたら困るからさぁ。少しだけでもいいから背負えって、な?」
何が摩耶さんをその気にさせるのか、しつこく木場に俺の荷物を背負うよう言いつめる。
てゆうか今、摩耶さん変なこと言ったような気が……
「皆!もう頂上はすぐそこよ。諦めないで頑張りなさい!」
目的地が近付いて来たからか、目の前にいるリアス先輩がコッチを振り返り、激励を送る。
優雅な紅髪が宙を舞い、自分がここにいるというコトを強く主張しているように見える。あの人の魅力はなんと言ってもあの紅髪だから、視界に入ったら自然に目で追いかけてしまう。
「やっだぁ~もう、浮気ですかイッセー君?そんなにリアスのコトを情熱的な眼で見ちゃって」
どうしよう、俺の主がものすごくうざったらしい。
俺が心に決めた女の子はいつだって一人だけだ。リアス先輩に劣らない優雅な金髪を持った、聖女とも呼べる清らかな心を持った女の子。
「はいはい、アーシアちゃんね。そんなの皆知ってるコトなんだよ。ワロスワロス」
「アンタは一体何がしたいんだぁ!」
この人の破天荒ぶりにはこれ以上ついていけん!間違ってるのはこの世界だといわんばかりの行動の数々には不可解を通り越してもはや呆れる。
それより摩耶さんが言ったように、俺はアーシアにのコトが一番大切だ。だから、
「はぁ……はぁ……ふっ、あ……」
後ろの方で不規則な息づかいをしている彼女を、俺はここに来てからずっと心配していた。
アーシアも俺達と同じ様に、荷物を背負っている。俺や木場のような大きな荷物ではないが、彼女の華奢な体では到底背負いきれないような大きさだ。
俺とアーシアの距離はだいぶ離れているというのに、その疲労が手でとるように分かってしまう。
俺とは比べ物にならないほど大量の汗を流し、その汗が彼女の白い肌を伝って地面に落ちる。赤く染まった端正な美貌と、陽光を照り返す汗が異様にマッチしていて、妖精のような色香と妖艶さを醸し出している。
……正直その姿に興奮してしまったのは秘密です。
「アーシア、本当に大丈夫なのか!?」
とはいえ、何時までもその姿に見とれているわけにはいかない。彼女にとっては、俺のような
「大丈夫ですわ。イッセー君は気にしないで先に行ってください」
喋ることすら出来ないアーシアの代わりに、朱乃さんが答える。
朱乃さんがアーシアについてくれているのは素直に嬉しいが、ここに来た目的はオカ研の強化合宿だ。
そのオカ研の一員である朱乃さんが自分の時間を割けていないというコトに関しては、罪悪感を感じてしまう。
「余計なコトは考えんな。朱乃がいいって言ってるんだからいいんだよ。っと、どうやら着いたようだぜイッセー」
俺の心を読んできた主の言葉を聞いた瞬間、上り坂が平坦な道になり、膝に重りをくくりつけていたように感じていた重量感が、幾ばくかはマシになった。
摩耶さんの言うとおり、ようやくの思いで目的地に着いたらしい。
部屋でジャージに着替えた後、打倒ライザーにむけての特訓が開始された。
何度も言うがこの特訓は俺達相談部ではなく、オカ研のメンバーが強くなるために実施したものだ。特訓には当然、実践を想定したメニューも組まれている。そのため、俺達相談部が相手をするというコトで話がついているらしい。
だがしかし、摩耶さんの腕はまだ完治状態ではないため今回はお預け。アーシアは戦闘タイプではないため論外。
したがって、残された俺が相手をするコトになるのだが、悪魔歴の短い俺がオカ研メンバーの相手を勤めるというコトはーーーー
「いだだだだだ!小猫ちゃんギブギブギブ!」
ーーーーかなりの高確率で死に直結する。いやマジで。
さっきまで木場と対決していたのだが、視界に映らないスピードで動き回る木場に、為すすべもなくタコ殴りにされ終了。
摩耶さんに水をぶっかけられ、落ちてた意識を強制的に帰還させられた。
側には俺のコトを心配していたアーシアと木場がいた。アーシアは目に少し涙を貯めて、俺のコトを本当に心配してくれた。
木場もアーシアまではいかなくとも、俺のコトを多少気にかけてくれていた。
けどアイツの目は、全く物足りない、と語っているように見えた。
次は小猫ちゃんとの対決になったが、小柄な体格をしているわりにはかなりの運動量で攻めてくる彼女に何の抵抗も出来ず、簡単に関節技を決められてしまった。
摩耶さんとの勝負を見ていたから強いのは分かってたけど、正直ここまでとは思ってなかった!
「は~い、二人ともそこまで~。それ以上やっちゃったらイッセー関節はずれちゃうから、小猫ちゃんもう止めたげて」
すぐ近くで闘いを見ていた摩耶さんが、手を叩きながら静止を掛けてくる。
小猫ちゃんは俺と摩耶さんを一瞥した後、ため息をつきながら技をといた。し、死ぬかと思った。
「イッセー先輩、弱すぎです」
その台詞は俺の心をえぐるには十分すぎる威力をほこっていた。年下の女の子にそんなコト言われるなんて思ってもみなかったからな……ハッ
キリ言って泣きそうです。
地に膝と手をつけ、黄昏ている俺を無視し、摩耶さんは次なるメニューを言い渡してきた。
「よっしゃ、次は関節技無しでやりあおうか。お互い打撃のみの真剣勝負。こうでもしないと技のバリエーションがないイッセーには不利だからな」
どんな条件があったとしても、今の俺が小猫ちゃんの相手をするのは骨が折れます。摩耶さんお願いですから代わって下さい。
「いいか小猫ちゃん。打撃はただ当てるだけじゃなく、急所をえぐるように攻撃するんだ。そうすればどんだけ頑丈な奴でも、多少の隙は生まれるからな」
「分かりました」
「分からないでーーーー!そんなコトされたらもう俺生きていけない!」
摩耶さんの小猫ちゃんに対する指南が気合い入りすぎて怖い。一体何があの人をそこまでやる気にさせるんだ!
「はい、じゃあよーいスタート」
「え、嘘、ちょま、あぁぁぁああああああ!」
主の合図と共に地獄が始まり、俺は喉が枯れるくらい叫び声をあげ続けた。
身を焦がすと錯覚してしまう程の暑さが嘘みたいに消えた時間帯。陽光を放っていた太陽に代わり、月光を放つ月が空を支配している。
なかなか寝付けなかった俺は散歩がてら外を歩いていたら、バルコニーで本を読んでいたリアス先輩を見つけた。
眼鏡を掛けていた先輩はとても知的そうで、トレードマークの紅髪が月の光を照り返してる様は、今までとはまた違う妖艶さを醸し出していた。
おまけに裸体が透けて見えるネグリジェがそれを助長させているーーーー!
「……イッセー、そんな所で一体何をしてるの?」
リアス先輩の扇情的な風貌に見惚れてヘンなテンションになっていたら、向こうから声を掛けてきた。や、やべ!もしかして怒られる!?
「え、えっと……これはその……」
何と言い訳をしたらいいか分からない俺は、つい言いよどんでしまう。そんな俺をどんな風に見たのか、リアス先輩はクスッと笑みを浮かべ、隣の席を指差す。
「こっちに来て座りなさい。少しお話しましょう」
そんな胸躍るお誘い、断る理由があるはず無い。
「はい!失礼します!」
勢いよくリアス先輩のもとへ駆け寄り、隣の席に腰掛ける。
俺の変わりようがおかしかったのか、リアス先輩はまた笑みを浮かべた。
それからは色んなコトを話した。
リアス先輩がこのゲームにかける意気込み、対戦相手であるライザーの殲滅法、拭い落とせぬ不安。
そして、リアス先輩が一番大事にしている夢。
自分をグレモリーとしてではなく、リアスとして見てくれる人と結婚するコト。
自分はグレモリー家の次期当主。
そのコトについて誇りを持っているし、重圧を感じるコトもある。
だけど、やはり自分は女の子。そういった夢を持ってしまうコトもある。
仮に今回の縁談を破談に出来たとしても、また新たな縁談が来るかもしれない。そういったやからはきっと、自分のコトをグレモリーとしか見ていない。
リアス先輩の口から言葉が淡々と出てくる。そのたびに彼女の顔が、どこか悲しそうに見えてしまう。
紅の髪を靡かせ、威風堂々としたリアス先輩が、年頃の少女同然の悩みを抱えていた。
そんなリアス先輩を俺は少しでも慰めたかった。でも、今の俺に出来ることはほとんど何もなくて。
「俺はリアス先輩のコト、リアスとして好きですよ」
この話を聞いた奴なら誰でも言えるような、そんな安っぽい言葉しか告げることが出来なかった。
その台詞を聞いたリアス先輩は、一瞬だけ呆然としていた。だが、その意味が自分の求めていた言葉と合致したと理解したときには、顔を赤く染めていた。
俺もこれ以上その場に居たら恥ずかしくて死んじまいそうだったので、早急に立ち去った。
こんな真夜中にあれだけの美貌を持つ人と二人きりで話していたら、余計眠れなくなる。さっさと戻ってベット入って寝よ!
…………だけど。
「リアス先輩にも……夢があるんだよな」
当たり前の事実に気づかされ、寝室に向かっていたはずの歩みを止める。空から放たれる光は、側にある木が遮ってるため、俺の周り近くだけ一段と暗い。
あの人にも夢があって、その夢を叶えるために今ここで強くなろうとしてる。
それなのに、俺のような出来損ないを修行相手として扱っている。木場や小猫ちゃんに大したアドバンテージがないのにだ。
摩耶さんが闘えないのが理由だが、俺を相手するより、木場と小猫ちゃんがやり合った方が効率がいいと思える。
「これじゃあまるでーーーー」
「俺が修行してるみたいじゃん……か?」
真上から声が聞こえてくる。俺はその方向に、思わず視線を向ける。
首を上に傾け、その声の主を視認する。
「何でこんな夜中に起きてるんですか、摩耶さん」
膝裏で木の枝を挟むようにして、摩耶さんが宙にぶら下がっていた。
「いや~、たまには俺も夜の散歩とかしたくなる時があるのさ」
とても信じられない言葉を吐く我が主。この人がそんなコトを思ったならば、この世界の終わりを意味する、と言っても過言ではない。
「おいおい何だよその目は。お前俺の言ってること信用してないな?」
腹筋の要領で体を起こした摩耶さんは、そのままの勢いで俺と同じ地の上に着地した。
首を何回か鳴らした後、いきなり摩耶さんが俺の意中の核心を突いてくる。
「まあ確かに、裕斗や小猫ちゃんの為にならないのは確実だよな。お前のような奴が相手じゃあよ」
「ッ!」
あざ笑う主から告げられた、非情な現実。
否定しきれないが故に、形容しがたい感情が胸の中で渦巻いていく。
それを消去したいが為に、摩耶さんに思っているコトを全てぶつける。
「だったらどうしたらいいんですか!俺のような奴がここに居たって何の役にたたないのは俺が一番理解してるんです!木場には一度も見たことのない目で見られたし、小猫ちゃんにはため息を吐かれた……それで気付かない訳がないでしょう!」
滞りなく出てくる言葉の数々には、俺の本心が込めてある。それを感じ取ったからか、摩耶さんから嘲笑が消えた。
「あれだけ自分の夢に忠実なリアス先輩の邪魔になってる!俺にはあの人程の信念が無い!そんな俺がリアス先輩達にしてやれるコトなんて何もーーーー」
「だったら強くなればいい」
摩耶さんが俺の吐露を遮り、一歩近付いてくる。
「弱いコトが枷になってるならば、アイツらより強くなってしまえばいい」
また一歩、摩耶さんが近付いてくる。静寂な夜に、足音だけが響く。
「そんなの……この短期間で出来るわけがーーーー」
「出来るさ」
遂に俺と摩耶さんとの距離が無くなった。目の前には、俺を見下ろしている主の姿があった。
「お前にもリアスに劣らない信念を持ってる。人なんざ心変わり一つで簡単に変わるもんだからな」
「俺に……?」
摩耶さんの言ってるコトが到底理解できず、俺は自分の左胸部に手を添えた。
「そうだ。お前自身まだ明確に理解してないが、お前の信念は一定の水準を超えている。それにお前には俺がいる」
親指で自分を指差す摩耶さんに、俺は心底カッコイい、と思ってしまった。
かなりの時間が経ったのか、いつの間にか月は浮かぶ位置を変え、それに倣うよう光の放射角度も変わる。
俺と摩耶さんの場所を月明かりが徐々に照らしていき、摩耶さんの素顔を鮮明に見れるようになったところで、
「今日からお前は俺の弟子だ」
摩耶さんが口を開く。
そして、俺を強くしてくれるコトを主張した。
「……………………え?」
情けない声が出てしまった俺。そんな俺に現実を理解させようと、摩耶さんが乱暴に頭を撫でてくる。
「なんだなんだなんだ?せっかく俺がお前を一人前にしてやろうって言うのによ。もっと嬉しそうにしろバカ!」
いつもの調子に戻った摩耶さんを見て、俺はこの人の言ったコトがようやく理解できた。
この人が、俺を強くしてくれる。
その意味が体の奥底に浸透した瞬間、俺の目から大量の水滴が溢れ出した。そして、
「お願いします!!」
呪詛のように紡いでいた感情の爆発より、ドデカい声量を持つ声が口からこぼれ出た。
摩「やっぱリアスんとこはすげーな。別荘なのに結構いいテレビあんじゃん」
イ「すごいっすね。てかそろそろ荷物降ろしていいすか?」
摩「構わないぞ。デリケートに扱えよ」
イ「は?一体何が入ってーーーーなんじゃこりゃぁぁあ!?」
摩「さ~て、そいじゃあ始めますかな」
入っていたのは全てゲーム機という名の鉄の塊。