ハイスクールD×D ~自堕落主と相談屋~   作:タロー☆マギカ

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『サバイヴ』っていい響きだよね



不死鳥、来ます!

 「この方の名はライザー・フェニックス様。フェニックス家の三男にして、リアス・グレモリー様の婚約者でございます」

 

 ……さあて、またまた到底理解出来ない状況に陥ったぞ。落ち着け俺、鎮まれ俺。

 

 たしかコトの切っ掛けは、俺達四人がオカ研の部室に到着した所から始まった。

 

 壁に彫られている読解不能な文字や、片隅に添えてある蝋燭など、相変わらずこの部屋の装飾は俺の理解の範疇に収まらなかったが、目の前にいた人物はそれを凌駕した。

 

 銀細工を溶かしたような銀髪に、陶器を彷彿とさせる艶やかな肌。顔つきは幾多の仕事場を経験したベテランのそれで、多少の出来事じゃああの顔を歪めさせるコトは出来ないと思うほど。プロポーションはリアス先輩を上回るかもしれないナイスバディで、身に着けているメイド服がその魅力をより一層引き立てる。

 

 リアス先輩や朱野先輩ですら手の届かない高嶺の花なのに、この人は手を伸ばすコトすら許されない存在に思えた。

 

 実質、心を読まれたのか摩耶さんに『あの人リアスの兄貴の嫁さんだぞ』と言われた時は、確かに手を伸ばしてはいけないと肝に銘じた。

 

 あと、寝てるはずなのにアーシアに頬を思いっきりつねられた。……見惚れていたなんてコトは断じてない。

 

 目の前の麗人はグレイフィアさんというらしく、リアス先輩の家でメイドをやっているらしい。何故メイド服を着ていたのかにこれで合点がいった。

 

 なんでもリアス先輩のプライバシー関連について家から遣わされたらしく、それが終わるまではリアス先輩に付き添うらしい。当の本人は迷惑だ、と顔で表しているが。

 

 そしてそのプライバシーが原因で摩耶さんに夜這いを仕掛け、既成事実を作ろうとしたらしい。

 

 既成事実を作らなきゃならないほどのコトって、一体何なんだよーーーーなんて思ってた矢先に、部室に朱色の魔法陣が展開した。

 

 そこから、何もかも一瞬で焼却するかのような熱気を帯びた炎をさらけ出しながら、ホストのような格好をした男が出てきた。

 

 それがライザー・フェニックスであり、リアス先輩の婚約者らしい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ソファーに座っているのはライザーとリアス先輩だけで、俺達相談部は部屋の隅に立っている。

 

 木場や小猫ちゃんは、何かあったらすぐに対応するためか、リアス先輩のすぐ後ろに控えている。その斜め後ろには、今回の騒動を管理するグレイフィアさんが。

 

 リアス先輩の懐刀と称される朱野さんは、ライザーとリアス先輩に紅茶を淹れていた。

 

 「粗茶ですが」

 

 「ああ、ありがとう。しかし相変わらず、リアスの『女王』が淹れてくれた紅茶は格別だな」

 

 「……恐縮です」

 

 ライザーに接待をする朱野さんは、どこかいつもと違うような感じがした。

 

 ポットを傾けた時にあの人はいつも楽しそうに笑っているのに、今は仕方なく笑っている感じーーーー簡単にいえば愛想笑いを浮かべているようにしか見えなかった。

 

 朱野さんだけでなく、木場も小猫ちゃんもどこかいつもと違う。ライザーが来てから、オカ研のメンバー全員がライザーを敵視している。

 

 そしてそれは、コトの張本人であるリアス先輩が一番強烈だった。

 

 ライザーの隣に座っている彼女は、豊満な胸を隠すように腕を組み、更にはスカートの中を隠すように足を組む。自分の恥部は決して見せないといった態度で、表情はどこか不機嫌そう。おまけにライザーと一向に目を合わそうとしない。

 

 あまりに不思議だったので、俺は隣にいる摩耶さんに小声で囁いた。

 

 「何で皆こんなに敵意抱いてるんすかね?」

 

 「知るかタコ」

 

 返ってきたのは罵倒だった。これ以上分かりやすいセリフはないと思うほど。

 

 「つかもうこれ俺達いる必要ある?ここから先はリアスの問題なんだから俺達が干渉しちゃったらいかんでしょ。だからとっとと退散しようぜ、まじで」

 

 予想外の客と事態が重なってしまった結果か、摩耶さんが堕落してしまった。

 

 ここに来るまではあんなにテンションが高かったのに、今は意気消沈としてらっしゃる。大好きだったゲームを取り上げられた子供みたいになっていた。

 

 しかも本気で帰ろうとしたのか、摩耶さんは踵を返して、扉に歩を進めた。

 

 流石にそれはまずい、と感じた俺は、すかさず摩耶さんを阻止するために行動に移る。

 

 「ちょ、何やってんすかアンタは!木場があそこまでして頼み込んできたんですよ!ここで帰る訳にはいかんでしょうが!」

 

 「うるせぇ黙れ!俺もう帰ってゲームする!そして寝る!この縛られた学園生活に唯一残されたオアシスを求めるの!」

 

 「子供かアンタは!」

 

 「まだ子供だもん!俺まだ18だもん!未成年だもん!」

 

 遂に『だもん!』なんて子供っぽい語尾を付け出した摩耶さん。俺は摩耶さんを羽交い締めーーーーするためにアーシアには悪いが、壁に背がもたれるようにして、彼女を床に降ろしたーーーーして止めているが、ここまで自分の欲望に忠実なこの人ははっきり言って相手に出来ない。

 

 相手にする意味がない、という意味もあるが、もし相手にしたら単純に力量の差で俺が負ける。実際摩耶さんは俺を引きずりながら、扉との距離を徐々に詰めて行っている。

 

 そんな不毛な争いをしている俺達を、ライザーは憐れみの眼で見ながら、少し不機嫌そうに口を開いた。

 

 「リアス……どうしてこの場に君の関係者以外の者がいるんだ。アイツ等も一応悪魔のようだが、あんな小者を俺達と一緒の空間に居させる理由は無いだろう」 

 

 「黄土色の髪をした彼は私の同級生よ。そしてそれを羽交い締めにしてるのが彼の『兵士』。そのすぐ近くで眠っているのが『僧侶』」

 

 「そんなコトを訊いているんじゃない!俺はあんな屑共をここに置いておく意味が無いはずだと言ってるんだ!」

 

 俺達のコトを屑呼ばわりするライザーに、俺は少し苛立ちを覚えた。確かにここまで口が悪かったら、皆から悪印象を持たれてても仕方がない。

 

 そしてリアス先輩もライザーの発言に苛立ったのか、声を少し荒げて言葉を発する。

 

 「彼らに迷惑を掛けたのは私。その謝罪をするために私は彼らをここに呼んだのよ。そこに偶々アナタが来ただけ。突然来たアナタに彼らのコトをとやかく言うのは止めて頂戴」

 

 「俺達のこれからを話し合おうって時に、あんな奴らがいたら邪魔になるだけだ。君はコトの重大さをちっとも分かっていない」 

 

 そう言ってライザーは、リアス先輩の雪も欺くような白い肌をした太股を、なんの躊躇もなく触った。まるでこれは俺の物だ、とでも言わんばかりに。

 

 そのまま太股を撫で回すライザーに、オカ研メンバーは不快感を覚えたのか、より一層強く睨み付ける。

 

 かく言う俺も、婚約者だからといって好き勝手に体を触る行為に言い難い何かを感じている。ここまでくると、もうライザーに好印象は持てそうにない。

 

 リアス先輩も流石に我慢できなくなったのか、ライザーの手を強引に振り払うと勢いよくソファーから立ち上がった。

 

 これ以上ライザーと肩を並べたくないというように。

 

 「いい加減にして!私はアナタと結婚する気なんてないわ。私は心の底から好きになった人としか結婚なんてしないわ!」

 

 乙女の夢丸出しの発言を聞いた俺は、あの人にもあんな可愛いところがあるんだな、と思ってしまった。……なんか足下がすっげー痛いけど気にしない。決してつねられてなんかない。

 

 だが、

 

 「リアスぅ」

 

 そんなコトは許さないと言わんばかりに、ライザーはリアス先輩の頬を思いっきり掴むと、自分の顔に近付けた。

 

 主に無礼を働いた不死鳥に木場達は最大級の警戒をする。周りから痛いほど敵意を向けられているのに、ライザーはお構いなしに口を開く。

 

 「俺だってフェニックス家の看板を背負っている。泥を塗るわけにはいかないんだよ。どうしても籍を入れないと言うならば、俺はこの場にいる全員を殺してでもッ!」

 

 瞬間、魔法陣が展開した時に出てきた炎が、ライザーの周りから迸った。

 

 肌を刺すような鋭い熱気がこの場を包み、咄嗟に俺達は顔を腕で覆った。もし目をやられたりでもしたら、たまったもんじゃーーーー

 

 「……熱っ!」

 

 ……この鈴を鳴らしたような声は、まさか!?

 

 足下から聞こえてきた悲鳴に、俺は神速と呼べるような勢いで反応し、羽交い締めにしていた摩耶さんを突き飛ばした。

 

 『痛ぁ!』なんて声と、人が倒れ込んだ音が聞こえてくるが、あの人にかまっている暇は一秒たりともない。そんなコトより、俺にはやらなくちゃいけないコトがある!

 

 地べたに座り込んでいる恋人ーーーーアーシアのもとに駆け寄り、彼女を業火から護るために、俺自らの体で壁の役割を果たす。

 

 「ぐうっ!」

 

 背中に途轍もない熱を感じ取ったが、目の前にいる彼女の為ならこんな体は安いもんだ。喜んで差し出してやる。

 

 「え……イ、イッセーさん!?」

 

 最愛の彼女の無邪気であんなにかわいらしかった寝顔が、今は悲痛な面もちになっている。……心配掛けちまったかな。

 

 「お止めください、ライザー様」

 

 傍観を貫いていたグレイフィアさんが口を開き、ライザーとリアス先輩の間に割って入った。

 

 ライザー自身も急な出来事で戸惑ったのか、規格外の威力を持つ炎を出すのを止めた。 

 

 「これ以上粗相を起こすようならば、私はルシファー眷属の一員として、この場を収めなければなりません」

 

 グレイフィアさんはその鋭い目つきでライザーを睨み付け、体中からライザーとは比較にならない程大きな魔力を拡散させる。

 

 その圧倒的戦力差に、俺は背筋が凍った。敵意を向けられているのはライザーなのに、まるで俺が狙われているような感覚。この場にいる全員が束で掛かっても倒せないであろう圧倒的な力。

 

 「……いいなぁ、おい。やっぱり(あね)さんとは一度やりあいたいわぁ」

 

 そんな力を前にしても、大胆に、それでいて静かに、戦闘意欲をさらけ出す強者がこの場にいた。そしてその呟きは、俺のすぐ横から聞こえてきた。

 

 摩耶さんのセリフは俺以外の奴には聞かれていなかったらしく、グレイフィアさんは婚約の話を着々と進めて行っている。

 

 ていうか、摩耶さんいつの間に俺の横に突っ立てるんですか。しかもグレイフィアさんのコト姐さんって呼んでるし。

 

 「まあ、一応目上の人だしな。粗相があっちゃいかんでしょ」

 

 ……粗相とかそんなコトをこの人が気にするなんて、意外だ。

 

 「イッセーさん、大丈夫なんですか!?」

 

 アーシアが涙を貯めた目で俺を見つめながら、『聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)』で俺の背中の火傷を治していく。

 

 かつてはこれが原因で『魔女』と呼ばれるようになったのだが、そんな渾名とは正反対の気質が彼女には溢れている。

 

 アーシアを追放した教会の連中は、正に愚者の集まりだと思う。

 

 俺はアーシアをこれ以上泣かせないために、彼女の頭を撫でながら話し掛ける。

 

 「大丈夫だって。こんなのレイナーレの時と比べたらかすり傷程度さ。お前がそんなに心配する必要はないよ」

 

 アーシアはその言葉を聞いた瞬間、『よかった』と囁きながら俺の胸に飛び込んで来た。彼女の白くて細い腕が背中にまとわりついたが、治療のおかげで痛みは微塵も感じなかった。

 

 そんなことより、今は心臓がバクバクいってて破裂しないか心配です!

 

 「本当に心配しました……気が付いたらイッセーさんが苦しそうな顔をしてて、私を庇ってくれてた。私のせいで誰かが傷付くのを見るのは……ましてやそれがイッセーさんだなんてーーーー」

 

 「アーシア」

 

 俺は腕に力を込め、アーシアを強く抱き締める。女の子特有の柔らかい体が貼りついてきて、俺の心臓の鼓動は更にヒートアップする。

 

 それでも俺は彼女を離さない。

 

 そうしなければ、アーシアがまた自分を責め立てるからだ。 

 

 「そんな顔するなよ。俺が好きでやってるんだからさ。俺はいつだってーーーー」

 

 そう、俺はいつだって、

 

 

 

 「お前の笑った顔が見たいんだから」

 

 

 

 俺がアーシアに惚れた要因を絶やしたくないんだ。

 

 「……イッセーさん」

 

 アーシアは背中に回していた手を、いつの間にか俺の胸部に乗せていた。そしてそのまま、朱の差した美貌を近付けてきた。

 

 こ、これはもしかして……いけるとこまでいけるんじゃないですか!?

 

 俺も磁石のようにアーシアの顔に近寄り、お互いの距離が段々と縮まる。

 

 破裂寸前の心臓は、既に許容限界だというコトを俺に伝えたいのか、これまでにないくらいの速さで血液を循環させている。

 

 やがて、彼女の顔が視界を占領する。

 

 血液が回りすぎてるせいか、体中が痒い。今すぐ体をかきむしりたい衝動にかられるが、それ以上の願望が目の前にあるのだ。そんないつでも出来ることは、後でやればいい。

 

 そして、とうとう俺達の距離は……俺とアーシアの唇が重なろうとして、

 

 

 

 

 「……コイツラは何故俺達が婚約話をしている時にイチャついている?」

 

 

 

 

 焼き鳥野郎から最もな意見が投げかけられた。

 

 俺はその言葉で我に返り、壊れたブリキ人形のように緩慢に首を動かした。

 

 そこには色々な感情が入り混じった光景があった。

 

 ライザーは少し苛立ちが混じったように俺を見つめ、

 

 リアス先輩は呆れたように肩を落とし、

 

 グレイフィアさんに至っては無表情。

 

 木場は苦笑し、朱野さんはいつものほがらかな笑みを浮かべ、小猫ちゃんは侮蔑を込めた目でこちらを睨んでくる。

 

 ……正直耐えられません。

 

 「…………きゅぅ」

 

 アーシアも臨界点を突破してしまったのか、さっきとは比べ物にならないほど顔を赤くし、俺の胸に糸が切れた操り人形のごとく倒れ込む。

 

 「あ、アーシア!?」

 

 先に逝ってしまった彼女の顔に手を添えると、使いすぎた携帯電話のように熱かった。

 

 や、やっぱりめちゃくちゃ恥ずかしかったんだな……俺も今同じ気持ちだからもしかしたら後追うかも!

 

 「まあいい……それよりリアス、俺達もそこのバカ共みたいに愛を育んでいこうじゃないか」

 

 「冗談じゃないわ!アナタは私が必ず消し飛ばしてあげるわ!レーティングゲームで!」

 

 …………え、なに?どうして婚約話からそんな物騒な話題に発展したんですかねぇ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 




イ「なんでこんな展開になったんすか?」

摩「おまえらがイチャついてる時になったんだよ。いいから行くぞ、もう眠い」

イ「うぇ!?ち、ちょっとまーーーー」

リ「合宿をするわよ!あなた達相談部も付いてきなさい!」

イ&摩「…………は?」

 なんだかんだで巻き添えに

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