ハイスクールD×D ~自堕落主と相談屋~ 作:タロー☆マギカ
「それにしてもさ、何でこんな物が家のポストに入ってたのかね~」
「まだそれ言いますか?」
何気ない会話を交わしながら、俺とイッセーは
制服姿のままで校外に出ていた。
本来ならば授業も終わり、部室で怠け惚けているはずの時間帯ーーーー要するに放課後ーーーーなのだが、昨日久々に帰った家に届けられていた物のせいで、俺は幸せの一時を手放さなければならないのだった。
俺は再度、手に持っている紙に書かれた文面に目を通す。
『祥吾をそろそろ引き取ろうと思ってるのですが、あの子がわがままを言って出てきません。これ以上他人の家に迷惑を掛けるのはいただけないので、あの子を引き取る手伝いをしてくれないでしょうか?兵藤先輩と一緒に、指定の場所に来ていただけないでしょうか』
そしてもう片方の手に握っている別の紙には、弟君が今居るであろう場所が書かれていた。
『祥吾』という名前が出てきている以上、この手紙を書いたであろう張本人は、この前相談に来た女生徒だろう。
ていうかイッセーのコト先輩って呼んでる辺り、彼女は一年生だったのか。知らなかった。
そしてこの手紙が届いたコトを部室で呟いたら、アーシアちゃんが『絶対に行くべきです!』と涙目で説得してきたので、仕方なく行動に移すコトにした。
だってそうしないとアーシアちゃんいつまでたっても泣き止まなさそうだったし、隣でイッセーが怒気を孕んだ目で見てくるしで息がつまりそうだったからな。……仮にも俺先輩だよ?部長だよ?主だよ?
「それにしても帰りたくないってだだこねるなんて、どうやら弟君は相当病んでるみたいだな」
何となくそう呟いたが、俺の隣で歩いている『兵士』には聞こえていたようで、弟君を擁護するような発言をかます。
「それは……しょうがないんじゃないですか?親が目の前で剣呑な空気漂わせて、あまつさえ離婚しだそうとしてるんですから……」
イッセーはそう言った後、悲哀に満ちた表情をしながら、目の前にある信号を見つめた。
信号のランプは赤くひかっており、俺とイッセーは足を止めるコトを余儀なくされていた。
因みにアーシアちゃんは既に家に帰っている。呼ばれたのはあくまで俺とイッセーだからな。夜遅くまで掛かるかもしれないこの仕事に、女の子を関わらせる訳にはいかない。
まだ夕方とも呼べる時間帯であるせいか、交通量がやたら多い。けたたましいエンジン音があらゆる所から耳に届き、目の前をかなりの数の車が通り過ぎる。
信号待ってる時って、本当に時間経つのが長く感じるよな~。
それから待つコト数分。信号のランプは青に変わり、それにつられて周りの通行人が再び歩を進め始める。
俺とイッセーも目的地に向かうために、今まで停止させていた足を再び動かし、横断歩道を渡る。
それからしばらくは目的地に向かうコトだけに専念していたが、気になるコトがあったため、俺は再び足を止めた。
「どうしたんすか?」
イッセーが俺が足を止めた真意について訊ねてくる。
「おかしい……」
「おかしいって……何がですか?」
手に持っている紙を睨みながら、俺はイッセーの問いに答える。
「この紙に書かれてある通りに道を進めばーーーー駒王町を出る」
「……は?」
イッセーは俺が何を言っているのか理解できて
ないらしく、間の抜けた声を出した。
「ここら一帯は細かく仕分けされていてな。この先が行き止まりであるにも関わらず、別の町に分けられている程にな」
俺とイッセーとの距離は五歩くらい離れているが、イッセーの今居る地域は既に駒王町ではない。
反対に俺がいる場所はまだ駒王町の範囲内であるが、一歩踏み出せば俺も駒王町を出るコトになる。
それから二、三キロくらい歩けば文字通りの行き止まりにぶつかる。たったそれだけの領域に、別の市名が付くほど細かく仕分けされているのだが、
「そんな些細な問題、何てコトないでしょう。一体何にそこまで神経質になるんですか?」
イッセーの言うとおり、そんなにだいそれたコトではないのだ。子どもの頃からずっとーーーー俺より長くこの町に住んでいるイッセーすら気付かない程の些細な問題。
だがそれはあくまで、表向きの、だ。
「それだけならいいんだが、この先は建物がめったに存在しない。あるとしたら、小さな廃工場がかなり奥の方にあるだけ……」
「だから一体それの何がーーーー」
「そんな人通りの少ない所でやれるコトなんて、一つぐらいしかないだろう?」
「ーーーーッ!」
イッセーは俺の言いたいコトを察したのか、息をのみながら俺達の行く先を眺めている。
そう、ここでは、
「痴漢が大量発生してるんですか!?」
ーーーーどうやら理解していなかったようだ。
俺は溜め息を吐きながら一歩を踏み出した。この時点で、俺も駒王町から出たコトになっている。
「この地域では特に多い事件があってな……とてつもなく虫酸が走る類の、な」
「事件って……何の?」
イッセーは俺の声のトーンから、痴漢などという破廉恥な問題では到底収まりきれない事態だと践んだのか、さっきまでおちゃらけていた態度を改め、真剣な眼差しで俺のコトを凝視する。
俺はゆっくりと口を開き、この町で頻繁に起きている事件の真相を語った。
「ここではかなりの確率で人だったと思わしき肉片が発見される。その現場には、魔力の痕跡が必ずある状態でな」
イッセーは俺の告げた事態がどれほどの物かうまく飲み込めておらず、しばらく放心状態のまま突っ立っていた。
町が違うだけあって、漂っている空気もだいぶ違っており、物騒な事件が多く起こっているせいか空気が重苦しく感じる。
しばらくするとイッセーは我に返り、レイナーレと戦っていた時を彷彿とさせる勢いで俺に詰め寄る。
「じゃあ、なんで何もしないんですか!魔力の痕跡があったってコトは、悪魔の仕業っていうコトですよね!?分かってて野放しにしてるなんてどうかしてますよ!」
「お前の言っているコトはもっともだが、それをとやかく言ってもどうにもならんぞ」
「だから何でなんすか!」
俺の答えに納得いかないのか、イッセーは尚も詰め寄ってくる。視界にはイケメン、とまでは言えないが、少しは容姿が整っているイッセーの顔しか映っていない。
ちょ、どんだけ近づくんだよ。俺にソッチの気はないんだっての。
両手でイッセーの肩を押し、イッセーとの距離を空ける。
あの状況を見られたりでもすれば、俺の沽券に関わるからな。……あ、ここあんま人居ないんだった。
俺は納得がいっていないせいで荒々しくなったイッセーを黙らせるために、こればっかりはどうにもならないというコトを理解させようとした。
「この場所はさっきも言った通り駒王町じゃない。リアスが占めているのはあくまで駒王町、ここは管轄外だ」
「そんな……たったそれだけの理由で人が殺されるという事態を黙って見過ごすんですか!?」
「そうだ。わざわざ管轄外の場所で起こってる事態に手を出したりしたら、調子に乗っている、とか思われるからな」
『まあリアスの場合は、マジでこの場所で起こってるコトを知らないからだろうな』と付け加え、リアスの評価が底辺に至らないよう措置をとる。
リアスにはぐれ悪魔掃討の依頼を出しているのは、リアスの実家であるグレモリー家。当然向こうはリアスが占めている駒王町の現状しか知らせておらず、この町に関する情報は一切提示しない。
もしこのコトがリアスの耳に入れば、根が優しいアイツはすぐにこの事件を解決しようとするはずだ。だが、悪魔業界の方はリアスが行った行為を良い目で見ない奴も出てくるだろう。さっき言ったように、調子に乗っているとかそんな風にな。
それを避けるために、グレモリー家はリアスにこのコトを隠蔽し、余計なコトをさせないようにしているのだろう。
だがそれはあくまで、リアスのコトを想ってやっているコトなのだ。愛する娘に悪評がいかないように、親が影から守ってやっているのだ。
故にリアスに対する落ち度は一切無い。あるとすれば、
「ならーーーーどうして摩耶さんはそれを知ってながら見てみぬフリをしてるんですか!」
他でもない俺自身だ。
「…………まあ、お前の怒りはもっともだ」
目の前で怒り狂っている後輩の意見は、実に的を射抜いている。そう、全ては俺がーーーー
「おやおや、まさかこんなに早くバレるとは思ってませんでしたよ」
ーーーー不意に、唐突に、真上から紳士のような風格を持つ台詞が投げかけられた。
俺とイッセーはまるで磁石に引きつけられるように、瞬時にその声がする方向に視線を向けた。
「な、なんだ……空耳ーーーー」
「お前の後ろだバカ!」
いつまでも突っ立っているイッセーを引き寄せ、両腕で抱え込みながらバッスステップをとる。
……何が悲しくて男なんぞを抱きかかえなきゃならんのだ。
「ほう?手の届かない距離であったにも関わらず、瞬時に下僕悪魔との距離を詰める……しかも微動だにしないで、とは。どういう手品を使ったのですか?」
「言うと思うか?」
「まあ、それはそうですね」
イッセーの後ろをとったはずだった男は、驚いたような表情をしたが、俺の返答に薄ら笑いを返し、被っていたシルクハットをさらに深く被った。
「んで?お前は一体俺らに何のよう?」
腕の中にいたイッセーを放り、紳士のような立ち振る舞いをする男に目的を訊く。
後ろの方で『摩耶さんヒドい!』なんて声が聞こえてくるが気にしない。気にしないね、うん。
「別に構いませんよ。聞かせてあげても。何故ならーーーー」
道路一面に魔法陣が浮かび上がり、俺とイッセーの周りを邪悪な雰囲気を持つ光が包む。
「アナタ達はここで息絶えるのですから」
男はシルクハットをとり、自分の胸に持っていくと、腰を九十度に折り曲げ見事なお辞儀を披露する。
さっきまで黒い光を放っていた魔法陣から何人もの男が召喚され、俺らの退路を塞いだ。
それと同時に、俺達の命を刈り取るために殺意の籠もった魔力弾が向かってくる。
「ギャーーーー!これもうどうしようも無くないですか!?俺の人生早くもバッドエンドーーーー」
「喚くなバカが」
「……え?」
みっともない叫び声をあげる我が『兵士』を落ち着かせるために暴言を吐く。
落ち着かせるためにバカにするなんて、我ながらどうかしてると思うけど……。
「バカな……一体どういう能力を使えばそういうコトになるのだ!?」
魔力弾を放った男の一人が大声をたてる。
「だ~か~ら~。それを言うと思ってんのか?お前は」
コキコキ、と首を鳴らしながら男を睨み、尻餅を着いているイッセーを無理矢理立たせる。
「摩耶さん……何ですかこれ?」
「俺の能力」
イッセーからの問いに端的に答えると、俺は周りを囲んでいる男達を一瞥した。
誰もが皆揃いも揃って驚いており、口を開けたまま静止してる奴や、冷や汗を大量に流している奴もいた。
理由は単純明快だ。アイツらが俺達に向けて放った渾身の攻撃は、
全て俺達に着弾するコト無く、弾の原形を留めたまま静止していたからだ。
簡単に言えば魔力弾を停止させたのだ。模擬戦の時に小猫ちゃんに使ったのと同じようにな。
「ほい、返す」
俺は黄土色のグローブに包まれた手を高くかざし、指をスナップさせて、パチン、と音を鳴らす。
直後、今まで活動を停止していた魔力弾は再び動き出し、目的の命を刈り取ろうと滑空した。
向かった先はこの殺人兵器の使用者ーーーー魔法陣から出てきた男共の方だ。
「な……ああああぁぁぁあああ!?」
耳をつんざく爆音と断末魔が響き、男達が次々とご退場なさっていく。かろうじて逃げ延びたのは、見るからに実力がありそうな二人の男だった。
「……イッセー、ソイツら二人はお前に任せる。俺はさっきからあそこで調子乗ってるエセ紳士ぶっ飛ばすから」
俺は首を上に傾け、電柱に立っているリーダー格の男を睨みつける。目が眩む程の光量を放っている夕日と、深く被ったシルクハットのせいでどんな顔なのか見当がつかない。
「お、俺がすか!?戦闘慣れしてる奴を二人同時に相手するなんて俺には……」
「もし勝てたらアーシアちゃんと簡単に一線越えられる方法を教えてやる」
「セイクリッド・ギアァァァアアアア!」
『Boost!』
「やっぱチョロいなお前」
俄然やる気になってくれた『兵士』に他の二人は任せ、俺は大将同士の話し合いをすべく別の電柱の頂上まで跳ぶ。
「訊かなくてもいいコトだと思うけど……お前らって『はぐれ』だよな?」
「いかにも」
男は手に嵌めてある白手袋を取り外し、俺の方へ投げてきた。
……オイオイオイ。
「随分古風なコトするんだな」
「僭越ながら、私はアナタと純粋な勝負をしたいとおもっておりまして」
そう言った紳士然の男はシルクハットを取り外し、邪魔だと言わんばかりに乱暴な仕草で後方へ投げ捨てた。
シルクハットは風に乗り、優雅に揺れ動きながらこの場を去る。
そして男は再び毅然とした態度を取りながら堂々と自分の名を告げた。
「ここまで来て、名乗らなかったという無礼をお許し下さい。私の名はボルドラン……以後お見知りおきを」
「……天童摩耶」
「存じております」
向こうが名乗ってきたので一応俺も名乗ったらこの仕打ち。……ていうか、
「何で俺のコト知ってんだよ。俺あんまり悪魔業界で有名じゃないはずだけど……」
そう、俺の評価は悪魔界ではさほど高くはない。それどころか、最低辺だと言っても過言ではないのだ。まあ、名前だけなら知られててもおかしくはないけどーーーー
「天童摩耶、駒王学園の生徒で3ーB所属。現在は相談部の部長を勤めており、つい最近そこにいる少年、兵藤一誠を初めての眷属にする。因みに駒は『兵士』。そしてそれから少しして、彼と恋人関係に至った『聖女』、アーシア・アルジェントを『僧侶』として眷属に迎え入れる。更に数日後、とある女生徒に家出した弟について相談を請ける。そして今、アナタはその女生徒から呼び出しを受け、ここから先に進もうとしている……ですよね?」
背中を誰かに撫でられたような悪寒が走り、咄嗟に俺は自分の腕で体を隠した。
「………………何お前、もしかしてストーカー?」
「恐縮です」
誉めてねえよ!つかなんで否定しようとしないんだよ、やめてくれよそういうの!
内心ではビクつきながらーーーーある意味怖いからなーーーー俺は目の前にいる変態に問い掛ける。
「お前さぁ……
「弟を人質に取り、アナタをここへ誘い込むよう命じました」
「…………あ?」
ふつふつと怒りが湧き上がり、手に持っていた白手袋を思わず握り潰す。
コイツがこれほどの情報量を持っているなら、あの子が俺の家の場所を知っていたのも頷ける。
問題はあの子が俺をわざわざ呼び出した訳なのだが、目の前にいるクソヤロウのおかげでハッキリした。
「彼女にはこのコトを誰にも言わないよう命じました。無論、肉親にもね。断れば弟君の命は無い、と脅したら簡単に言いなりになってくれましたよ。最近は夜に出歩いている人間を捕まえては殺すのが趣味になってきてまして先日捕まえたのが偶然にも彼女のおとーーーー」
「うるせえよ」
ボルドランの戯言を寸断し、手に握っていた手袋を丸める。
ボルドランは俺の気迫に一瞬たじろぎ、薄ら笑いを浮かべていた顔が初めて驚愕の表情に切り替わった。
「お前は……あの子がどんな顔してたか知ってんのか?」
「……はい?」
ボルドランの返答に殊更憤怒の感情が高まる。
あの子はもうどうしたらいいか分からずに、ただ言われたことを実行するただの傀儡になってしまった。
その時のあの子の顔は、死人同然の無気力な顔だった。
普通に生きて、普通に生活して、普通に過ごしていくはずだったあの子の運命を変えたボルドランを、
「絶対許しゃしねえぞ、
「……恐縮です」
誉めてねえっての。
俺は手に持っていた白手袋を後方へ放り投げる。
丸めた手袋はシルクハットのように宙を舞うコト無く、物理法則に従ってただ純粋に落ちていく。
パサ、と。
手袋が地面に落ちた時の渇いた音が聞こえたーーーーように感じたーーーーと同時に、俺とボルドランは跳躍し、互いに握り拳を振り抜いた。
リ「私……最近出番が無いような気がするのだけど」
ソ「私なんてまだ一話しか出てませんよ。私よりかはましですよ」
リ「私だってねぇ!スポットライトを浴びたいと思うときがあるのよ!」
ソ「アナタなんて次にかなり派手なスポットライトを浴びるでしょう!」
リ「何を言ってるのアナタは!」
ヒロイン勢の虚しい叫び