ハイスクールD×D ~自堕落主と相談屋~   作:タロー☆マギカ

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 テストやら何やらあって更新が遅れてしまいました。これからもこんな事が続くかもしれませんが、気長に待ってくれるとありがたいです。
感想などもお待ちしています。


あの人が帰ってきます!

 長かった階段を遂に最後まで降り、目の前には大きな扉が立ちふさがっていた。

 

 教会の入口にあった物を彷彿とさせるデザインだが、決定的に違うのは鉄製だという事だ。

 

 手に触れるとひんやりとした感触が手のひらから伝わってくる。この寒冷とした扉の先にアーシアがいると思うといてもたってもいられなくなり、手にあふれん限りの力を込め、押し開ける。

 

 そこにはフリードと同じような服に身を包んだ神父が大勢存在し、祭壇の上には露出の多いボンデージという扇情的な恰好をしているレイナーレ。

 

 そして片方の乳房をさらけ出し、十字架に磔にされたアーシアの姿があった。

 

 「アーシア!!」 

 

 俺の咆哮が響き渡る。

 

 たちまちアーシアはこの場にいるはずのない人間の声を聞いたせいか、沈みきっていた顔を上げ、ハイライトが消えている双眸で俺のいる方を凝視した。

 

 「イッセー……さん?」

 

 「ああ、俺だ。分かるかアーシア!?」

 

 俺は再度叫び声を上げ、アーシアに己の存在を認知させようとした。そして今の状況を察したのか瞳に光が戻り、あふれんばかりの涙を浮かべていた。

 

 「イッセーさん……どうして……?」 

 

 「どうしてって決まってんだろ!」

 

 俺は篭手が装備されている左手をアーシアに向け、

 

 「ーーーー好きになっちまったからだよ!」

 

 アーシアに対する想いを包み隠さず告げた。

 

 「…………え?」

 

 告白された当の本人は信じられない、といったように怪訝そうに俺を眺めるが、ようやく言葉の意味を理解したのか頬を赤く染めていた。

 

 「だからお前は誰にもやらん!お前を欲しいと言った奴は俺が真っ正面から叩き潰す!」

 

 正直自分でも恥じらいを覚える台詞を吐きながら大量の神父がいる祭壇まで突進する。

 

 「アナタ元カノの前でよくそんな言葉言えるわね。いくら私でも少し妬けちゃうわ」

 

 嘘つけそんな事全然思ってないだろ。じゃなきゃそんな風に人を食ったような笑みが浮かべられる訳ないからな。

 

 レイナーレの発言とその態度に若干怒りを憶えながらも、目の前にいる邪魔な神父逹を一掃するべく強化された身体能力を存分に発揮する。

 

 現在俺は上の階で使用したプロモーションの効力が未だ残っており、『女王』の力を身に纏っている。はっきり言って負ける気がしない。

 

 だが、それもいつまで続くか分からない。加えてプロモーションしたのは大分前の話。効力切れがいつ迫ってきても可笑しくない状況下にある。

 

 そうなったら戦闘経験が微塵もない俺は簡単にやられるだろう。それは自分でも自覚している。

だから俺に取れる策はたった一つ。それはーーーー

 

 ーーーー短期決戦だこの野郎!!

 

 そう決心した刹那、俺の行動は速かった。

 

 目の前に現れる神父にとりあえず殴りかかる。『女王』にプロモーションした俺の一撃は『戦車』にも匹敵するので、ついさっきフリードをぶちのめした時と同じ現状が起きる。

 

 そのまま周りにいる神父逹に見境無く攻撃ーーーーというより最早只の暴力ーーーーを繰り返し、片っ端から無双していく。

 

 神父逹は今の俺に到底適わない、と思ったのだろうか、俺を中心に円を描くように包囲した。

 

 そして一定の距離を保ったまま、どこから取り出したのかフリードも持っていた拳銃を俺に突きつけ、掃射した。

 

 個人で適わないと思ったからこそ、集団で攻めてくる事を選んだのだろう。だがそれでも、

 

 「俺は止まらねぇぞ!」

 

 銃弾の雨霰に敢えて突っ込み、強化されている悪魔としての能力が身を護る。

 

 痛恨的なダメージは負わないものの、螺旋回転で生み出された鉛玉の威力は相当な物で、思わず足を止めたくなる程の痛みを催す。

 

 それでも決して足を止めず、目の前にいる標的目掛けて一心不乱に拳を振るう。

 

 何かが潰れるような感触が拳から伝わり、人を殴ったという事実を痛感させる。

 

 だがコイツらはそれ相応の事をした!殴られて当然の事をした!だから俺は手を緩めない!

 

 神父逹に対する憎悪が一層強くなっていくのを感じ、それを拭い落とそうとただただ男逹を殴り倒す。

 

 ーーーーだが。

 

 「がッ……!」

 

 肩に焼かれたような痛みを感じ、思わず行動を中止し、膝をつく。何が起こったのか訳が判らず、痛みが走った肩を触ると、ヌチョっとした液体感のある物があった。

 

 血。肩の丸い傷口からドロドロ流れている俺の血。

 

 この事実から察するに、どうやら俺は撃たれたらしい。だが銃弾は『女王』の力で貫通しないように身体を強化したはずだ。それが発動しないということはつまりーーーー

 

 

 

 ーーーーたった今、プロモーションは効力切れだって事だ。

 

 

 

 「くそったれ……!」

 

 俺はすぐさま立ち上がり、未だ残っている神父逹を睨む。神父逹は俺の気迫に一瞬たじろいだように見えたが、さっきのようなチートじみた力を使えないと悟ったらしく、なぶり殺すようにダメージを少しずつ与えてくる。

 

 「ぐっ……がはっ!」

 

 剣で斬られ、銃で撃たれ、終いには拳で殴られる始末。明らかに弄んでいるという事が窺える。

 

 「イッセーさん!もう……もう止めて下さい!このままじゃイッセーさんが……」

 

 アーシアの悲痛の叫びが聞こえ、思わず寸断しそうになった意識をつなぎ止め、満身創痍になりながらも闘志を萎えさせる事をしなかった。

 

 くそったれが……助けようとした女の子に逆に心配されてるじゃねえか。そんなんでどうするんだ兵藤一誠!やるからには最後までやり遂げるんだろうが。

 

 ーーーー摩耶さんのように!

 

 「あら?もしかしてまだ戦うの?アッハハハ!どうしてそこまで『魔女』と呼ばれ蔑まれているこの子を助けようとするの?頭オカしいんじゃないの!?」

 

 レイナーレがアーシアを侮辱すると共に、ゴミを見るような目で俺とアーシアを見ながら笑う。

 

 アーシアが……魔女だと?蔑まれてきただと?

 

 だったらお前は何なんだレイナーレ。俺を殺して満足するだけでは飽き足らず、アーシアにまで手を出すお前は何なんだ?さっきから品性のない笑い声をあげるお前は何なんだ?

 

 お前は一体何様なんだよレイナーレ!

 

 「……そこを、どけ」

 

 壇上にいるレイナーレを一瞥した後、眼前にいる神父逹に視線を戻す。

 

 コイツら全員何があってもぶちのめす。腕が斬り飛ばされようが、足が蜂の巣にされようが関係ない。どんな事があってもぶったおす!

 

 「そこをどけぇぇぇ!!」

 

 アーシアが俺の名前を涙混じりの声で叫ぶのを聞きながら、渾身の力を振り絞って標的に向かって突貫する。

 

 ーーーー直後、背中越しから伝わってくる鉄製の物体が砕ける物音。

 

 この状況下で聞き入れることはないであろう音が響き渡り、入口にあった扉が倒れた事で上がった土煙から一つの人影が姿を現した。

 

 手入れされていないボサボサの黄土色の髪。面構えはどこか消極的ーーーーていうかぶっちゃけやる気がないーーーーだが、それに相反し容姿の方は顔のパーツ一つ一つが整っている。

 

 欠伸をしながら頭髪をかきむしるその姿は、何度も相談部の部室で見た憧れの存在……

 

 

 

 「摩耶……さん……」

 

 

 

 俺の主、天童摩耶がそこにいた。

 

 「んだよイッセー。お前まだ金髪シスターちゃんにコクってないの?そんなんだからこんな薄汚い野郎共に蹂躙パーティーなる物が開催されるんだよ?」

 

 「いや全然話の主旨が理解できませんから!あと今さっきコクりましたよ!」

 

 「え?マジで?」

 

 相変わらず破天荒な人である摩耶さんは『えっ、何?コイツマジで告ったの?いやでもコイツやるときはキッチリやるしなぁ』などと顎に手を当てながら失礼な事を呟いている。

 

 何すか、コクっちゃ駄目ですか?仕方ないじゃないですか!あの場面であの状況下じゃあ言うしかないじゃないですか!

 

 「あ、うん。分かった分かった。分かったからとっととさがれ。後は俺がやっとくから」

 

 心読まれた!?たった一日味わってないだけで凄い久しぶりな感じがする。ーーーーって、

 

 「やっとくからって……神父全員をですか?」

 

 「うん」 

 

 「無茶ですよ!だいたい摩耶さんフリードに殺されたんじゃないんですか!?」

 

 「勝手に殺すな。あと殺されてたらこんな所にいるはずないだろ。あの時フリードとタイマンはってたら堕天使の奴らが来て面倒くさいから纏めて相手してやったら向こう側が逃げたんだよ。おかげで睡眠不足なうえ不完全燃焼だし暴れ足りないしでイライラしてんだよ」

 

 「向こう側が逃げたって……」

 

 俺は驚愕の真実を告げられ、目を丸くして摩耶さんの方を見つめる。

 

 フリードも並大抵な奴じゃないのに、それに加えて堕天使の奴らも相手にして優勢。しかも最終的には退かせたって、いったいどれだけ暴れたのだろうか……。

 

 ん?そういえば……

 

 「上にフリードがいたはずですけど……」

 

 「ああアイツ?小猫ちゃんと裕斗に盗られそうだったから俺が真っ先に狩ってやった。と言っても、派手にぶっ飛ばしただけだから多分まだどっかいると思う。次会ったときはキッチリたこ殴りにしてやるけどな」

 

 「そ、そうすか」

 

 怖ぇぇぇぇえええええ!!この人何で戦闘の事になるとこんなに表情が活き活きしてるの!?顔笑ってるけど目がまったく笑ってねぇ!完全に据わってらっしゃる!

 

 「ねぇアナタ逹。いつまでそんなに余裕ぶってるの?今どうゆう状況か察してる?」

 

 「金髪シスターちゃんから神器盗ろうとしてるんだろ?可愛い顔してえげつない事考えやがって。でも生憎そんな事させるつもりはないけど」

 

 そう言って摩耶さんは唐突に右腕を振り上げ、それと同時にアーシアを束縛していた鎖は砕け散り、摩耶さんが左腕を引くと同時にアーシアの身体は宙を舞い、そのまま俺の腕にすっぽり収まるように着地した。

 

 「なっ!?」

 

 レイナーレが信じられない、と言ったような声を出しながら怪訝そうにこちらを見る。

 

 俺も現在何が起こっているのかまったく理解できず、アーシアの重みが腕から伝わって来た事でようやく今の事態を認知する事が出来た。

 

 「イッセーさん……」

 

 アーシアが今、手の届く所にいるという事を。

 

 「アーシア!!」

 

 たまらず俺はありったけの力でアーシアの華奢な身体を抱きしめ、彼女の存在をよりいっそう実感しようとする。

 

 「はわわわ!い、イッセーさん!?」

 

 アーシアが頬を紅潮させ、わたわたと震えながら俺の方を凝視してくるが、抵抗はしてこなかった。

 

 それどころか俺の腰に手を廻してくる始末だ。思わず空いている方の手でアーシアの頭をこれでもかという程撫でる。

 

 指を入れると何の抵抗も無く沈んでいき、一本一本が視認出来るほど流麗な絹糸のような髪。触り心地もよく、人形を撫でているのではないかとまで錯覚させられる絶大な魅力に、ますます俺は虜になった。

 

 「うふふ。イッセーさん……」

 

 「アーシア……」

 

 「おーい。イチャつくならせめて二人きりの時にしてくれないか~?段々腹立ってきたんだけど」

 

 摩耶さんに指摘され、意識してしまうと思わず俺も顔が熱くなり、アーシアから少し距離を取る。アーシアも言われてから気づいたのか、今までとは比べ物にならないくらい顔を真っ赤に染めている。まるでトマトのようだ。

 

 「あ~、クソッ。リア充爆発しろ。今すぐ四肢を爆散させろ」

 

 「さっきから聞こえてますよ!恐ろしい事言わないで下さい!」

 

 摩耶さんの手に掛かれば本当に爆死しかねん。それも拳で。笑えない冗談である。

 

 「そんな……どうして我々の計画に感づいた!?それもアーシアに一切触れずに救出するなど、いったいどんな手段を使った!?」

 

 「さあ?どんな事したと思う?少なくとも、今からゴミくずのようになるお前らに教えても得なんかないしな」

 

 「な!?」

 

 質問を罵倒で返されたせいか、レイナーレはその端正な顔を怒りの形相に歪める。

 

 「でもお前を倒すのは残念ながら俺じゃない。イッセーだ」

 

 「え?」

 

 「え、じゃねえよ。お前あの娘ぶちのめす事でケジメつけるんだろ?何時つけてもいいって言ったが、今が間違いなくその時だと思うぞ」

 

 摩耶さんの鋭い眼光が俺を貫き、その気迫に思わず身体を強ばらせる。

 

 でも確かに、俺は摩耶さんの前で宣言した。ケジメつけるんだって。この人のようになるために、自分が言った事は絶対にやり遂げるって。それになによりーーーー

 

 

 

 ーーーー未練が残らないようにキッチリしなければ、新しい道を歩む事が出来ない。

 

 

 

 俺は少し離れた場所にいるアーシアを一瞥し、微笑みかけてから摩耶さんの方に視線を移した。そして、

 

 「ーーーーやります」

 

 摩耶さんから目を逸らさずに、決意のこもった表情を見せつけた……つもりだ。

 

 すると摩耶さんは不敵な笑みを見せ、『そうかいそうかい』と言いながら指を鳴らし、神父逹の方へ歩き出した。

 

 「なら俺も俺のやるべき事をやろうかな。自分の言ったことはしっかり守らねえとな。それとイッセー、お前金髪シスターちゃんに何か着せてやれよ。女の子がする恰好じゃないよそれ」

 

 「え?…………あ!」

 

 摩耶さんに指摘され、アーシアに俺の着ていた上着を羽織らせる。

 

 だって胸出てんだもん。摩耶さんが言ったように女の子がする恰好じゃないし、第一他の奴に見られるなんて我慢ならん!

 

 「さあて、色々あったが始めようぜ……お前らも退屈してたろ?」 

 

 そう言って摩耶さんはいつの間にか例のグローブを装着した手で髪を巻き上げ、

 

 

 

 「ーーーーテメエらはここで俺が喰い散らかす」

 

 

 

 そう静かに宣言した。

 

 たったそれだけの動作で、この空間がたった一人の男による殺気で支配された。




木「小猫ちゃん……僕達何してたっけ?」

小「兵藤……イッセー先輩を助けました」

木「その後フリードと戦ってたんだよね?」

小「突如乱入して来た摩耶先輩が蹴散らしましたけどね」

木「う、うん。そうだね……そうなんだよね」

 もう少しスポットライトを浴びたかった木場であった。

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