落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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そろそろ本番はいります。
若干だらだらしすぎたので。
というわけでシリアスからはじめましょう


第13拳「貴方達の愛が真実であるならば!」

 ――時計の針を進めよう。

 

 少しだけ感傷に浸りすぎたのかもしれない。どうでもいいことを、語らなくてもいいことばかり語ってしまった気がする。恥ずかしいだけの話もあったし情けないだけの話ばっかりだった。だから、らしくもなく感傷的になって、一々恥ずかしがったり、懐かしがったり、憐れんだりしていたのだ。

 今更意味が無いのに。

 羞恥も回顧も憐憫も俺には必要ないのに。俺は確かに恥ずかしい奴で情けない奴で憐れまれるべきであろう奴だったけど。

 俺の人生は――悲しくもないし可哀そうでもないのだから。それだけは絶対だ。俺が殺してしまったあの人のためにも、俺と共に生きていこうとしてくれるレキのためにも、それは胸を張らなければならない。

 しかしそんなことにすら気付いていなくて、人生の意味にも碌に考えてなかったから今更になってそんなことを考えてしまうのだろう。何度も繰り返すが、この物語は俺の恥晒しだ。どうしようもない俺とどうにもならなかったレキとどうにかしようとしてくれたあの人とキンジの物語だ。

 イフになんて意味は無いけれどもし誰か一人がかけていたのならどうなっていたのだろうか。

 もし俺があの人に拾われる事が無かったら。

 もしレキが風に囚われたままだったら。

 もしあの人が己が人外であることを是としていたのなら。

 もしキンジが自らの異常を忌み嫌っていたら。

 挙げていけば切りが無い無限の猫箱。考えれば考えるほど役体のない妄想が広がる。

 やはりこれも意味が無いのに。

 かつての事は終わってしまったわけでもなく、未だに終わりを見せることは無いけれど過ぎ去ってしまったことはどうしようもできない。

 あの人は死んで終わって。

 俺たちは生きて始まった。

 死んだらなにも残らない。死人は骸となり、土に帰るだけ。

 でも、それでも。死んだ後の土には彼の遺した想いの芽があるはずだ。遺された想いは小さく芽吹き、それに遺された者たちが――誰よりも俺が、その芽に水をやることで、その芽を成長させ花として咲かせることが出来るはずなのだ。あの人が墓の下で静かに眠ってるとは思えないけれど、彼が見てくれている信じているから。

 

 だから――今こそ物語を遡ろう。

  

 かつてのように、愛も知らず、なにも解らず、生きる理由も、戦う意味も持たない俺はもういないのだ。あの日に死んで、俺はもう変わっている。

 愛を知って、全てとは言わずとも少しは理解できて、生きる理由も、戦う意味を抱いた今ならば。

 ただの屑でしかなかった那須蒼一ではなく、『魔弾姫君(スナイプリンセス)』レキの従僕として、『緋裂緋道(スカーレット・アリア)』遠山キンジの戦友として、そして――あの人の息子として。血の繋がりは無くても、あの人は俺にとっては父親だった。家族だったのだ。

 かつての俺にとっては、死んでしまった遙歌と並んで立った二人だけの家族だった。だから俺はあの人の意思と魂を受け継がなければならない。

 愛が無ければ真実は見えない。

 ならば愛を知って、理解する事ができた今。あの人の想いに辿りつけるはずだ。ただ事実として受け入れるのではなく、それを真実として昇華することができるはずだ。

 そうしなければならないのだ。

 俺があの人から襲名したのは『拳士最強』という称号だけではないのだから。

 他人事ならば否定できる。新世界へその身を捧げることを否定できるし、俺はしてしまう。だって大切な人が死んでしまうのは悲しいから。苦しいから。どうしようもなく泣きたくなるのだから。だから俺はそういうやつは嫌いだ。あの緋色の名探偵も。あの那由多に一つありえないはずの邂逅を果たした真紅の処刑人も。きっとそうやって新世界への礎となって行く人たちはどうしようもなく格好良くて、尊い閃光で、穢される事のない輝きなのだろうけど。

 俺は、そういうのは嫌いなんだ。子供染みた、子供の言う事だとはわかっているけれど叫ばずにはいられない。これから先、きっと俺はそういう人たちを前にしたら絶対に止めるだろう。止めずにはいられない。

 俺が俺で在る為にもその在り方は認めてはならない。

 認めてはならないからこそ、あの人の輝きを受け継がなければならないのだ。

 こればかりは子供のように泣いているわけにはいかない。他の誰もなく、あの人は俺に魂を遺したのだから。言葉は無かった。自殺志願だったあの人は口にしたり、そんな素振りをしたり、伏線張ったりはしなかったけれど。

 見ていれば、拳を交わせば解った。それくらいの信頼関係はあった。 

 自分の女を愛せと。

 主を守れと。

 戦友を信じろと。

 言葉にならぬ想いを拳に乗せることで俺に伝えてくれた。それは万の言葉よりも意味があるだろう。その想いは今もこの胸に残っているし、消えることは無い。それこそがなにより大事なモノ。生涯俺が抱き続けねばならぬモノなのだ。

 だから時計の針は巻き戻し、物語を遡る。

 最早だらだらとした日常パートは終わりだ。後に控えるのは理不尽と覚悟のくそったれな物語の最高潮。ガチガチのシリアスな戦闘パートだ。

 始まりから至る終わり。始まりへと至る終わり。そして俺たちの始まりにして終わり。

 その中で今だからこそ理解できる真実を探ろう。伝えられた想いだけではなく、伝えず遺しただけの想いもあったはずだから。

 あの時はただひたすらに悲しかった。でもそれでは駄目なのだ。悲しさの中で掴まなければならない。

 前置きはこれで最後だ。

 もう止まらない。もう止められない。事実は濁流の如く付きつけられ真実はか細く弱い光でしかない。だれもが自分がたった一人であると思い込み、隣にいてくれる人の存在を知りえなかった。

 二〇〇八年十二月二十四日。

 その日――元々噛み合っていなかった歯車は。音を立てて瓦解して行った。崩れ落ちる破片は自身を守るのに必死で互いに傷つけあった。そして得たものがなんであるかも気付かずに。

 さぁ始めよう。

 この言葉を契機に全てを語りだそう。この期に及んで止まるような野暮な事はしないから。この言葉こそこの物語にふさわしいのだから。

 

 愛が無ければ真実は見えない。愛を抱いて――今こそ真実へと至ろう。

 

 

 

 ●

 

 

 

 十二月二十四日だ。

 もう完全に冬となり、空気は冷たくも澄んでいて、吐く息は白い。

 レキに従僕にさせられてから実に二カ月近い。人間とは恐ろしく――いや自分が人間であるなんて胸を張って言う事などできないけれど――あんな無茶苦茶な契約によりレキと共にいることに慣れている自分がいた。自分でもどうかと思うが、あの人形女が隣にいることに違和感が無い。いや、違和感はあるし、不快感は未だにある、あるがしかしスルーしてしまう。

 丸くなった、というのだろうか、コレは。それとも単純に平和ボケか。

 碌に事件もないから仕方ないだろうが。なにもなかったわけではないけど。レキはまさかまさかで本の類にハマり続けているし、服が制服しかなくて二人で冬服を買いに出て途方に暮れて突如として現れたロリ少女こと平賀文に助けられたり、いつかの麻婆豆腐のお詫びにデカ盛りラーメン食う事になったり、遠山が相変わらず星伽にフラグ立てまくったり、なんか忍者ぽい女の子が現れたり、先月軽く殺し合い寸前まで行きかけたカナが実は男で金一とかいって何食わぬ顔で話し掛けてきたり、峰がゲーム屋で中学生と間違えられて補導されかけたのを何故か俺たちが回収したり。話せば切りもないし、一々話していられないようなことばかりあった。

 そんなことばっかいろいろあって。どんな時もレキは一緒にいたから。何時の間にいるのが普通のように感じられていた。まぁ、いてもいなくても似たようなものだ。碌に喋らないし。

 ともあれ何時の間にかクリスマスだ。

 清しこの夜聖なる哉。キリストの誕生日の前日だとか一年で最も男女の間で愛が囁かれる日だとか十字教と関係あったりなかったりの日本ではあるが基本的には祝うべき良き日だろう。俺個人としてはともかくとして。俺はクリスマス関係無く年末は好きじゃない。

 街どころか国、もっと言えば世界各地が浮ついた雰囲気になり、それは勿論この東京武偵高とて変わらない。変わらないどころか、

 

『メリィィィィィィイイイイイイクッリスマァァァァァァスゥゥゥゥゥゥゥゥウウウウウウッッッ!! ついにこの日!聖なる、いやさ、性なる夜がやってきたよおおおおおおおおおお!! フローエン・ヴァイナハテン! ジュワイユー・ノエル! ション・ダン・クアイ・ロー!』

 

「イヤホオオオオオオオオッッーーー!!」

 

「……」

 

 非常に盛り上がっていた。グラウンドだ。全校生徒が所狭しと冬の寒空に駆り出され、ジャージに体操服だったり制服だったり自由な格好をしている。中央、指令台にてマイク片手にアホみたいに叫んでいるのは峰だった。なにやってんだアイツ。一年のくせに目立ってるなぁ。ドイツ語にフランス語に中国語で叫んでるし。

 奴隷の一年、鬼の二年、閻魔の三年。

 そんな風に揶揄されるほど武偵高の上下関係は厳しい。というよりこの学校に一年でも在籍すれば強度にかなりの差がでる。三年生ともなればプロ級の任務は勿論、各方面の組織からスカウトが来るくらいだ。そういうプロ意識が高いから気軽の模擬戦できないのだが。それでもこのイベントにはほとんどの生徒が出席しているようだったが。

 ともあれそんな峰があれだけメイン張ると言うのどういうことだろうか。見てくれがいいし、明るいからというだけの理由だったらなんとも言えないなぁ。

 

「元気だねどうも」

 

「蒼一さんは混ざらないのですか?」

 

「嫌だよ」

 

 俺とレキは二人グラウンドの端っこに並んで座って喧騒を眺めていた。俺は手持無沙汰で、レキは狙撃銃を抱えながらも本に目を落としながら。言うまでもなく、あんな風に叫ぶのは柄じゃない。というかテンション高すぎて引く。もう昼過ぎだけどよくあんなに叫んだりできるな。朝っぱらから運動会だか体育祭だかよくわからん種目こなしているのに。まぁ、競技制よりもエンターテイメント性重視だし、別に得点つけているわけでも無いのだが。

 

「お前、さっきのリース投げやればよかったじゃねぇか。お前なら百発百中だろ?」

 

「興味無いですから。蒼一さんもツリー倒しに参加すればよかったのではないでしょうか。蒼一さんならば容易いと思われますが」

 

「めんどくさい」

 

 これくらいの軽口は叩けるようになっていた。相も変わらずほとんど無表情だけれど、なんとなくだが思っていることは解るし、会話も増えてきた。まぁ、嫌いだからっていつまでも険悪だと疲れるだけだし。慣れ合いは好きじゃないが普通に会話くらいなら問題のかとか、最近は思うようになった。取りとめも意味無い会話をしている間にもグラウンドでは順調に盛り上がっていた。

 

『えー、ではこれより本日のメインイベントを開始したいと思いますー。先日全校生徒に向けてアンケートを行ったアレ!』

 

「……そんなのあったか?」

 

「……知りませんが」

 

 全く記憶にない。

 これはあれかハブられているという事か。うんまぁ、無理もないだろうけど。愛想が無いのは自覚している。碌に会話もしないし、近寄るなオーラだして教室でも本読んで他人を拒絶しているし。だからまぁ、仕方ないといえば仕方ないが事務連絡まで省かれるというのはさすがにショック。というかレキすらも省かれるとは。俺たち嫌われてるなぁ。

 

『今年のメインは――なんとなんと一年生から二人! いや、別に驚きも疑問も挟む余地と言うか理子もこの二人の名前の名前書いたよ!』

 

「――」

 

 峰の言葉に瞬間に全体が静まり返る。だが、ただ静かになったわけではない。ならばなんだろう、言い難い、言い知れない雰囲気。というか二人って誰だ。なにが始まると言うのだろうか。

 

『では! 発表しまぁーす! その二人とは――』

 

 峰はたっぷりと溜めて、言う。

 

『那須蒼一! エェーンド遠山キンジ! この二人だぁーー!!』

 

 

 

 

 

 

「――は?」

 

 全校生徒の前で名前が呼ばれた。同時にその全校生徒の視線の半分が俺の方へ。半分というのはもう半分が同じく名前を呼ばれた遠山の方を向いているからか。いや、それどころでは無くて、

 

『あぁ! そう、今宵は聖なる夜! 我らが主の生誕祭! 恋人共が愛しあう日ではない! あぁしかしならば愛は必要無きものなのか? 否! 断じ否!』

 

 腕を広げながら峰が舞台役者のように歌いあげる。

 

『愛は寛容にして慈悲あり! 愛は妬まず愛は誇らず! ああ愛の力のなんと偉大な事か! 人は愛の為に生きるのです! ならば! ならば! この最も愛多き日に愛を抱くことのない汝らは人足りうるのか!?』

 

『否! 否! 否!』

 

『ならばなんであるのか!』

 

『Kreig! Kreig! Kreig!』

 

『そう! 貴方達は闘争! 貴方達は修羅!』

 

『Qui! Qui! Qui!』

 

『故に涙してこの怒りの聖夜を迎えましょう! 貴方達の餓えを満たす贄は既に用意されていますから! さぁ戦士たちよ! 破壊の慕情を担う怒りの日の先兵よ! 今こそ! 彼らに真なる愛をお教えください!』

 

『是! 是! 是!』

 

『時間は一刻! 生贄二人をその間に捕え、真なる愛を教えることができたのならば!』

 

「あー進級か卒業に必要な単位あげるよー」

 

 教師陣から綴が煙草をくわえながら間延びした声で言って、

 

『――英雄として祀り上げよう!』

 

 そして峰がマイクを握っているのとは逆の手で懐から拳銃を取り出して天に掲げる。

 

『そして愛の贄たちよ! 一刻の間、彼ら修羅たちから逃げ切るがよい! 我らの魔手より脱したのならば! 私たちは卿らの愛を永遠に! 永遠と認めよう!』

 

 引き金を――

 

『さぁ! 今こそ! 『聖戦祭(ディエス・イレ)』――愛の戦を始めよう!』

 

 ――引いた。

 

 

 

 

 

 

「って、どういうことだこれはーーーー!?」

 

「知るかぁっ! 俺が聞きたいわ!」

 

 叫びながら走る。隣には遠山が。そして後ろには、

 

「おらキンジ死ねぇえええ!」

 

「那須ぅぅっお前もじゃああ!」

 

「キル・ヒー・ウィー・ゼン!」

 

 物凄い形相で銃を連射しナイフを振り回す野郎どもだった。何こいつら怖い。異様な覇気をもたらしているのだが。俺でもビビる。というか最後の奴文法おかしい。

 あの峰の宝塚ばりの演説によって異常なまでに盛り上がった連中は血眼になって俺たちのことを追ってくる。標的となった遠山と二人でおっかけられながらグラウンドを出たが、それでも追手はとぎれない。レキとはがっつりはぐれたそ。

 なんだこいつら正気はどこにいった。

 

「俺たちが何したっていうんだ!」

 

 横で遠山が叫ぶがまったくもって同感だった。

 だが、背後の連中はそうではなく、

 

「ふざけんなてめぇら……!」

 

「俺たちのアイドルを、女神を……! いたるところでフラグ立てまくりやがって……!」

 

「キンジィ……貴様ァ……大和撫子幼馴染の星伽さんにアホの子ロリ巨乳の理子に中等部(インターン)の風魔とか……どうせこの先もフラグ立てまくるんだろうがこんちくしょう!」

 

「なんだそりゃー!」

 

「てか俺は関係ないだろ!」

 

 俺はそんなにあっちこっちでフラグ立てまくってないぞ!

 

「ふざけんな那須! お前なんか結婚とか言ってるじゃねぇか、ある意味そっちの方が滅茶苦茶じゃあ!」

 

「それは俺のセリフだぁー!」

 

 というか実情しってんのか! 屋上から突き飛ばされてライフル付きつけられてパシリ契約だぞ! 

 そう叫ぶが、しかし追手の一角が応えた。

 

「全国のドM戦士を嘗めるなぁ! 我々の業界では御褒美です!」

 

「滅びろォッーー!」

 

 こいつら気持ち悪い! 

 こうしてふざけた会話している間にも後ろの連中は拳銃で連射してくる。

 

「くそがっ、遠山。校舎入って撹乱するぞ!」

 

「お、おう」

 

 近場の昇降口に跳び込む。すぐさま扉を閉めて鍵をかける。ついでに鍵の部分を圧力任せに握りつぶしてピッキングも不可能に。さらに辺りにあった掃除用具入れを持ち上げて即席のバリケードを作った

 だが、

 

「この程度で鍵穴は消えるかぁー! そして全てのカギ穴は俺が開ける!」

 

「抜け穴、即、発見」      

 

「さすが明日宮先輩と南雲先輩手が早い!」

  

 ピッキング道具構えた奴と顔をマフラーだか襤褸切れで顔を隠した奴が現れ、ドアに張りつきドア付近の換気口の蓋を開けて侵入を始めていた。ってこいつら三年だ、まじかよ。て、一番前のは武等だか無動だか、遠山の友達の奴じゃねぇか。

 

「やばい、行くぞ那須、あと武藤! お前後で覚えておけよ!」

 

「うっせぇ! こっちのセリフだ轢いてやる!」

 

 棄て台詞を聞きながら即座に離脱。下駄箱を突っ切り、階段を上がって二階へ。二階へ上がって、上りきった瞬間に

 

「リ・ア・充・撲・滅!」 

 

 十数本ナイフが雨あられと降り注いだ!

 

「っ、なぁ!?」

 

 手刀で咄嗟に弾くが、唐突過ぎて手の強化も間に合わずに負傷する。そして見たのは、

 

「東京武偵高諜報科三年B組天香真蔵! リア充撲滅、溢れろ怒りの日!」

 

 天井に張りつきながら土下座をしながらカッコいいことを言う男だった。

 ただし身に付けるのは真っ赤なシルクハット、マフラーしたのみだった。

 ほぼ全裸だった。

 

「へ、変態だぁーー!」

 

「否! 土下座騎士だ!」

 

「知るかぁ――っ!?」

 

 自称土下座騎士とやらに叫んだ瞬間だった。遠山が思わず制服から拳銃を抜いて、発砲するのと同時。俺の真上に向いていた視線を縫うように新たな男が現れた、今度は服を着ていたが、

 

「同じく強襲科三年C組安藤潤也」

 

 気配を消して、銃剣を振りおろしてくる。

 

「っ!」

 

 とっさに手刀で受け止める。先ほど変態のナイフを受け損ねたが、今度は気の強化を十全だった。

 にもかかわらず、

 

「へぇ、拳士最強の弟子でも流れている血は赤いんだ」

 

「なっ……!?」

 

 激痛と共に先に受けていた傷がさらに広がり、血が飛び散る。まるで血そのものが俺の傷口を広げるように。まるで鋏で切り開いたように傷口が広がっていた。

 思わず驚愕の声を漏らしたが、それは俺だけの声ではなく遠山も同じだった。今の一瞬で遠山が放った弾丸は俺の耳がおかしくなければ三発は一度の射出したはずだ。なのに着弾音はなく、金属音が三回。潰れた弾丸とひしゃげたナイフ。そして天香先輩は変わらず天井で土下座していた。

 

「――『血染恐挟(ブラッディメアリ)』」

 

「――『土下座領域(ゾーン・オブ・ドゲザ)』」

 

 傷口を鋏のように切り広げるスキルと土下座している間は無敵を誇るスキル。明らかに普通ではない。

 つまりそれは、

 

「コイツらっ――異常(アブノーマル)か!」

 

「そして俺らだけじゃあないんだよ」

 

「相手にしてられるか!」

 

 激痛を感じながら鍔競り合いをしていた安藤先輩の銃剣を無理矢理弾く。

 

「お?」

 

 僅かに間合いが出来るが、しかし流石と言うべきか反応は速い。銃口を向けようとしてくるが、それよりも早く、

 

「阿吽――!!」

 

「!?」

 

 銃口よりも早く向けられ、亜音速の弾丸よりも速い、音速の声帯砲! 物理的な破壊力を持った大気の振動が安藤先輩を打撃し、

 

「遠山!」

 

「ああ!」

 

 再びの遠山の発砲。だがそれは天香先輩を狙ったものではなかった。

 

「ぬっ!?」

 

 狙ったのは天香先輩の周囲の天井。いくら天香先輩が無双状態でも天井部分はそうもいかない。

 崩れ落ちる。

 

「――中空土下座!」

 

 恐るべきはそんな状況でも中空で土下座をし、体勢を立て直していた天香先輩だろう。普段ならば思わず見とれてもおかしくなかったが、今はそれどころではなった。

 

「退くぞ!」

 

「おう!」

 

 即座に離脱して上の階へ駆けあがる。

 そしてそれだけではなく、

 

「おらァッ!」

 

「!?」

 

  階段に拳を振りおろし破壊しておく。やりすぎ――なんてことはない。念願の三年生との交戦権だが、流石に全校生徒と同時というのは面倒すぎる。そして今は逃げるのが先決だ。だから、ここで後顧の憂いは断つべきだ。故の階段破壊。被害は大きいだろうが、あんな連中を相手にするのならばこれ以上の被害は間違いない。

 実際この数日後には階段どころか校舎全体が崩壊するのだから結果的に見ても関係無かったし。

 それでも俺の予測は外れることになる。

 この先、このイベントは一端中止となる。けが人は出て当然だし、死人が出たわけではなかった。この武偵高で大きな事件があったわけではない。武偵高ではこのふざけたイベントが卒が無く進行されていた。

 けが人でも死人でもなく――生じたのは失踪者。

 武偵高ではなく――陸より離れた海上浦賀沖。

 失踪者の名は――遠山金一。

 遠山キンジの実兄であり、これ機にして――始まりに至る終わりが始まった。

 

 

 




シリアスから始めてカオスで区切る。
いやぁ……まぁ繋ぎは大事ですからね。
これからはもうギャグないです。
ドシリアスでいきます。ついにいろいろ本番。
男祭りとかレキマジヒロインとか男祭りとか。

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