落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「なん、だ……!?」
「これは……」
パトラが爆弾でも仕込んだらしく、船全体が傾いていた。床をぶち破って下の階へと飛び降りた俺とカナが見たのは、
「緋弾………!」
「いけない、これは……」
全身を緋の色に輝かせた神崎だ。
パトラはその神崎に怯えるよう後ずさり。ライフルが足元に転がっていた。キンジは神崎の正面で鼻血を流しながら倒れていて、
「って、おいキンジ!」
思わず叫んだが、どうやら生きているらしい。キンジも神崎の様子を見て愕然としていた。とうぜん当然だろう。
アレは神崎ではない。もっとべつナニ力だ。そして、俺はそのナニ力を知っている気がして。なぜか一瞬レキの顔が脳裏によぎり、
「ーーーー!?」
胸を押さえながら、思わず跪いた。
「蒼一!?」
「だい、じょうぶ、だ……」
絞り出すような声は我ながら掠れてた。
なんだ、アレは。
心臓がありえないぐらい、鼓動を打った。
瑠璃神モードに思わずなりかけた。まるで、あの緋色に共鳴するかのように。神崎の人差し指が静かに前を出した。その人差し指に緋色の光が集まっていく。
----あれは、マズい。
脳内の警鐘がガンガンと鳴りまくっている。それでも頭自体は冷静に熱が引いていく。それ自体は不思議ではない。瑠璃神モードになると思考がありえないくらいクリアになるから。問題なのは、勝手になりつつあるということ。
最早、間違いなく神崎のナニ力が俺のナニ力と共鳴している。それも神崎に引っ張られるようにだ。
緋色の光が強まっていく。それに対しパトラは砂の盾を作るがーーアレではダメだ。あの光は瑠璃神モードでも消せるかどうか。緋色は直径一メートルを越え、さらに大きくなっていく。
そしてーーーー
「避けなさいパトラッ!!」
光に呑まれていたパトラはその声に弾かれるように動く。恥も外分も投げ捨てて逃げ出したのだ。それでも、それは功を成しパトラは緋色を避けることができた。
緋色の弾丸はパトラが作った砂の盾を軽々とぶち抜き----
「ーーーーーーーーーー!!!!」
超新星爆発かのように弾ける。緋色の光が室内を染め上げ、全てを塗りつぶす。
そして。
「…………んな、アホな」
光が晴れ、周りを見まわせば、青があった。
空、だ。
信じられない。
信じられないが----あの緋弾はピラミッドの上部をごっそりもぎ取っていったのだ。そんなこと瑠璃神モードの俺でも骨が折れる。瑠璃神モードとは全く違う。静けさと道理を極めた瑠璃神モードとは正反対だ。
この緋色は派手さと不条理を極めている。
「う……っ!」
パトラのうめき声が聞こえた。多分ピラミッドが破壊されたせいで魔力を失ったのだろう。被っていた冠も消えて砂となった。もう戦う力はないはずだ。
それでも----
「----」
「ヒッ……!」
神崎の指が再びパトラへと向き、光がまた集まっていく。先ほどよりも勢いはないとはいえ危険なのには変わりない。
パトラは魔力を失い、恐怖で腰を抜かして動けない。
「パトラッ!」
カナが動けなくなったパトラへと駆け出すが、間に合わない。
「っ、まだ……!」
俺は未だ原因不明の動悸で動けない。
そして----
「もういい、アリア。俺なら大丈夫だ」
その光は止められた。
止めたのは、もちろん俺でも、カナでも、パトラでもない。誰かが、神崎の動きを止めるように正面から抱きしめたのだ。誰か、なんてのは分かり切ってる。
「キンジ……!」
俺の声には答えず、キンジは神崎の耳に囁く。
「大丈夫だ、アリア。心配いらないから。落ち着け」
そんなアイツにしては珍しいぶっきらぼうな、不器用な言葉を受け、
「キ……ン、ジ……?」
「ああ、俺だ。安心しろ、大丈夫だから、な? ……少し寝てろ」
「…………うん」
眠るように神崎が気を失った。同時に緋色も消え、
「お? ……治っ、た?」
動悸が消えた。 瑠璃神モードに勝手になる感じもない。その事に安堵の息を吐く。見れば、カナもパトラを棺桶の中に突っ込んでいた。
ふむ、これは。
「とりあえず、一件落着……でいいのか?」
そういうことでいいようだ。カナはパトラを捕まえて、キンジは神崎を取り戻した。
なら。
だったら。
このアンベリール号で戦うべき相手は----
「私、ですよね。兄さん」
「ああ、そうだな。分かってるよ」