落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第11拳「俺なら大丈夫だ」

「なん、だ……!?」

 

「これは……」

 

 パトラが爆弾でも仕込んだらしく、船全体が傾いていた。床をぶち破って下の階へと飛び降りた俺とカナが見たのは、

 

「緋弾………!」

 

「いけない、これは……」

 

 

 全身を緋の色に輝かせた神崎だ。

 パトラはその神崎に怯えるよう後ずさり。ライフルが足元に転がっていた。キンジは神崎の正面で鼻血を流しながら倒れていて、

 

「って、おいキンジ!」

 

 思わず叫んだが、どうやら生きているらしい。キンジも神崎の様子を見て愕然としていた。とうぜん当然だろう。 

 

 アレは神崎ではない。もっとべつナニ力だ。そして、俺はそのナニ力を知っている気がして。なぜか一瞬レキの顔が脳裏によぎり、

 

 

 

 

 

「ーーーー!?」

 

 

 

 

 

 胸を押さえながら、思わず跪いた。

 

「蒼一!?」

 

「だい、じょうぶ、だ……」

 

 絞り出すような声は我ながら掠れてた。

 

 なんだ、アレは。

 心臓がありえないぐらい、鼓動を打った。

 

 瑠璃神モードに思わずなりかけた。まるで、あの緋色に共鳴するかのように。神崎の人差し指が静かに前を出した。その人差し指に緋色の光が集まっていく。

 

 

 

 ----あれは、マズい。

 

 

 

 脳内の警鐘がガンガンと鳴りまくっている。それでも頭自体は冷静に熱が引いていく。それ自体は不思議ではない。瑠璃神モードになると思考がありえないくらいクリアになるから。問題なのは、勝手になりつつあるということ。

 

 最早、間違いなく神崎のナニ力が俺のナニ力と共鳴している。それも神崎に引っ張られるようにだ。

 

 緋色の光が強まっていく。それに対しパトラは砂の盾を作るがーーアレではダメだ。あの光は瑠璃神モードでも消せるかどうか。緋色は直径一メートルを越え、さらに大きくなっていく。

 

 そしてーーーー

 

 

 

「避けなさいパトラッ!!」

 

 

 

 光に呑まれていたパトラはその声に弾かれるように動く。恥も外分も投げ捨てて逃げ出したのだ。それでも、それは功を成しパトラは緋色を避けることができた。

 

 緋色の弾丸はパトラが作った砂の盾を軽々とぶち抜き----

 

 

 

 

 

「ーーーーーーーーーー!!!!」

 

 

 

 

 

 

 超新星爆発かのように弾ける。緋色の光が室内を染め上げ、全てを塗りつぶす。

 

 そして。

 

 

「…………んな、アホな」

 

 光が晴れ、周りを見まわせば、青があった。

 空、だ。

 信じられない。

 信じられないが----あの緋弾はピラミッドの上部をごっそりもぎ取っていったのだ。そんなこと瑠璃神モードの俺でも骨が折れる。瑠璃神モードとは全く違う。静けさと道理を極めた瑠璃神モードとは正反対だ。

 

 この緋色は派手さと不条理を極めている。

 

「う……っ!」

 

 パトラのうめき声が聞こえた。多分ピラミッドが破壊されたせいで魔力を失ったのだろう。被っていた冠も消えて砂となった。もう戦う力はないはずだ。

 

 それでも----

 

「----」

 

「ヒッ……!」

 

 神崎の指が再びパトラへと向き、光がまた集まっていく。先ほどよりも勢いはないとはいえ危険なのには変わりない。

 

 パトラは魔力を失い、恐怖で腰を抜かして動けない。

 

「パトラッ!」

 

 カナが動けなくなったパトラへと駆け出すが、間に合わない。

 

「っ、まだ……!」

 

 俺は未だ原因不明の動悸で動けない。

 

 

 

 

 

 

 そして----

 

 

 

 

 

 

 

 

「もういい、アリア。俺なら大丈夫だ」

 

 

 

 

 

 

 

 その光は止められた。

 

 

 

 

 

 止めたのは、もちろん俺でも、カナでも、パトラでもない。誰かが、神崎の動きを止めるように正面から抱きしめたのだ。誰か、なんてのは分かり切ってる。

 

「キンジ……!」

 

 俺の声には答えず、キンジは神崎の耳に囁く。

 

「大丈夫だ、アリア。心配いらないから。落ち着け」

 

 そんなアイツにしては珍しいぶっきらぼうな、不器用な言葉を受け、

 

「キ……ン、ジ……?」

 

「ああ、俺だ。安心しろ、大丈夫だから、な? ……少し寝てろ」

 

「…………うん」

 

 眠るように神崎が気を失った。同時に緋色も消え、

 

「お? ……治っ、た?」

 

 動悸が消えた。 瑠璃神モードに勝手になる感じもない。その事に安堵の息を吐く。見れば、カナもパトラを棺桶の中に突っ込んでいた。

 

 ふむ、これは。

 

「とりあえず、一件落着……でいいのか?」

 

 そういうことでいいようだ。カナはパトラを捕まえて、キンジは神崎を取り戻した。

 

 なら。 

 だったら。

 このアンベリール号で戦うべき相手は----

 

 

 

 

 

 

「私、ですよね。兄さん」

 

「ああ、そうだな。分かってるよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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