落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「し、師匠、本気でごさるか?」
「ああ。構わん」
焦ったような声を出すのは
「で、ですが、師匠! 某には……!」
「お前への正当な報酬なんだ。気にするな」
「し、師匠……」
風魔ちゃんは感極まったように笑顔を浮かべ、しかし戒めるように首を振り、
「ですが、この身は未だ修行中の身ゆえやはり受け入れられないでこざる」
「まったく……」
キンジは呆れたように首を振り、
「分かった。お前が受け取らなけば、これは棄てる」
「……師匠……そこまで某の事を……」
そして、風魔ちゃんは意を決し、
「了解にござる。この不肖風魔陽菜、師匠のお気持ち受け取らせて頂くでごさる。そして、そして! 噛み締めさせて頂くにござる、師匠の一番弟子と成れた事と師匠から承るこの――」
風魔ちゃんはもはや涙すら流し、
「この――DXカツ丼定食七八〇円を!」
目の前の丼を食らいに行った。
「ああ、よく味わえ」
キンジはしみじみ言った。
「……」
「……」
なにこの茶番。
●
「神崎・H・アリア、
「Sランク……、レキと一緒か」
「ついでに言えば一年前のお前とも一緒だ」
「私は現在進行系でSランクですが」
昼休み、学食にて。俺、レキ、キンジ、風魔ちゃんはいた。キンジの頼みで神崎について調査をした風魔ちゃんの報告を聞くためだ。俺は中華定食。レキはカレー。キンジは和風定食をそれぞれ注文していた。
風魔忍の末裔である風魔ちゃんはこういう情報収集はかなり得意だ。
一応この武偵高にも忍者の末裔というジャンルは何人かいるが、多分今のところ彼女が一番優秀ではないかと俺は思う。いや、俺が言えた義理ではないのだけど。
「某が知る限りでは使用武器は二刀と二丁拳銃。また、バーリ・トゥードの達人、ロンドンで活躍していたらしいにごさる。ハグハグ」
「ああ、それは実際朝味わった」
「活躍って、どんなもんかわかるか?」
「さすがに時間が無かったので、そこまでは……。噂では失敗したことがないとか……」
「それはそれは……」
失敗したことがない。それは凄い。噂だとしても火のない所には煙は立たないというのだから、それなりに真実が含まれているのだろう。確かにあの身のこなしはちょっと見ただけでも只者ではないのはよく解った。所謂天才という奴なのだろう。
そして、天才といえば――
「蒼一さん」
「ん」
「そういう蒼一さんはカッコよくないですよ」
「……そーだったそーだった。こういう鬱陶しい鬱キャラは卒業したんだった。はい切り替えるよー。今いるのは嫁思いで友達弄るのが趣味な飄々とした好青年だぜ」
「好青年……? ……それで、他に知っていることはあるか?」
「あ、後は……二つ名が『
「『双剣双銃』……」
「二つ名持ちとは――生意気な」
「お前自分だって持ってるだろ二つ名」
「後は春休みの間の自由登校の間に一年の間宮あかり殿と戦妹契約を行ったそうで御座るな」
「あぁ、間宮ちゃんかぁ。そういえば一時期なんかうるさかったな」
「名前は知ってるけど顔を思い出せない……金髪の背が高いのか?」
「それライカちゃんな。そうじゃなくてもっと背の低いちんまーいとした子。ま、俺たちも最近強襲科に顔出さずに任務ばっかりやってたからなぁ」
科に関係なく武偵というは極めて実力主義者だ。武偵高にいる間ではなんとか救ってもらえるが、社会でたら腕がなければすぐに喰うのに困ってしまう。だから長期休みの間にも校舎や教室は解放されている。毎日欠かさずに授業を行っている先生もいる。だが俺もキンジも三学期はほとんど学校に出席しておらず春休み中はひたすら
「私も春休みの間に一年生と関わり持てなくて微妙にはぶられて居場所がなくて気まずいんですよねぇ。ぼっち脱出しようとも思った先にこれで心折れそうです――それはそうと何故そのライカちゃんとやらだけ名前呼びなんですか浮気ですか殺しますよ」
「ちげぇよ怖いよ格闘向けだか少し付き合っただけで何もねぇって」
「殺しますよの代わりに風穴開けますとか言った方がタイムリーですかね?」
「知るかァ!」
「……あー、ありがとな、風魔。また、何かあったら頼む」
「御意。で某はこれで。ごちそうさまにござりました」
いつの間にかカツ丼を平らげていた風魔ちゃんは一度、懐から煙玉らしきものを取り出し、
「……」
周り、即ち昼食中の他の生徒を見て。仕舞って、普通に小走りで帰ってた。
「……さすがにこんなとこで煙玉は使わなかったか」
「お前、自分の
●
昼食を終えて食堂を出て、教室へ行く。かなりキンジが視線を集めているが、既に朝の情報が出回っているのだろう。噂が流れるのは速い。クラスの連中は頑張ってキンジが
「それで実際問題どうすんだ? クラスメイトだし、強襲科だし関わらないわけにはいかないだろ」
「そうなんだよなぁ……あー、関わりたくねー。まじ平穏に過ごしてー。普通に硝煙と銃弾に塗れながら過ごしてー」
「それが平穏な当たりキンジさんもアレですね」
「だって諦めたからなっ」
変にいい笑顔である。
「何はともあれ何とかしないといけない。マジで。というわけで風魔に情報頼んでるわけだけど……向こうがどうしてくるかなんだよな、少なくとも授業中は普通だったし。教室出る時もなんもなかったよな」
「あれは間違いない、俺には解る……ボッチ飯だ!」
「お前が言うと説得力あるなぁ」
やかましいわ。
否定できないが。
「つまり動くとしたら放課後とか明日からか……。授業終わったら窓から飛び降りて即座に寮に帰れば今日は凌げるか……? だとしても明日は……強襲科の授業が普通に始まったら……」
ぶつぶつと呟きながらがっつり考え出してしまう。
肩を竦めレキと視線を合わせた。
「どーなるかね」
「どうでしょうね。それにしても……若干情報が少ないように思えますが」
「ん、あぁ、分かってる。後で理子にも調査を依頼するつもりだ」
「峰か、まぁ悪くない人選だ」
あのおもしろ女はスペックは高いからなぁ。変人だけど。まぁそんなこと言ったらスペック高い奴なんて皆変人というか頭おかしいのだけれど。俺とかレキとかキンジとか星伽もそうだし……知ってるやつ皆そんなのばっかだ。
「きっと向こうも」
レキか、ポツリと言った。
「きっと向こうもキンジさんや蒼一さんのことを調べてるんでしょうね」
「だろうな……」
「まったく酔狂な奴だな、おい」
レキはともかく、
「Eランクの俺たちの事を何を調べるんだか」
●
「……どういうこと?」
神崎・H・アリアは戸惑っていた。朝の三人について軽く聞き込みをした事についてだ。
遠山キンジが一年にしてSランクだったにも関わらず、今年はEランクになっていることにではない。
レキが本名不肖出身地不明にして、自らと同じSランクの武偵であることにではない。
那須蒼一。こいつだ。那須蒼一が拳士最強を名乗っていることだ。何故ならば自分が知る拳士最強は――彼ではない。
「あの噂……ホントだったてこと?」
自分が武偵高に転校する少し前のこと。
アリアの知る『拳士最強』――『拳聖』『零拳』『一騎当仙』『案ずるより穿つが易し』『拳撃昂進曲』『無間掌拳増地獄』の二つ名を持つ
加筆済み