落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
数時間かけて、武藤が魔改造してくれた潜水艇『オルクス』で俺とキンジに運ばれた。神崎の命のタイムリミットまで一時間ほどしかないらしい。
俺たちが辿り着いた海域には、大量のクジラがいてその中心に、
「……ア……アンベリール号……!」
かすれた声がキンジから漏れる。豪華客船・アンベリール号。
去年の十二月に浦賀沖で沈没した豪華客船。
キンジの兄、遠山金一が失踪した豪華客船。
昔テレビで見たときとはかなり改装されていて、甲板にはバカデカいピラミッド。多分、あれがパトラとかいう奴の魔法陣なのだろう。神崎をさらい、遙歌が倒せと言ったパトラはクレオパトラーー7世。ピラミッドの魔法陣を利用して無限魔力がうんたらこうたら。出発前に白雪や理子がいろいろ教えてくれた。
まあ、それはいいとして。
潜水艇から出る。そして、俺はレキの。キンジは神崎の。それぞれ新品の夏服を持って。俺は羽織を脱ぎ捨て、戦いやすい格好に。キンジは砂時計を確認しながら顔しかめ、
「行くか」
「ああ」
●
「えーと、ここでいいのか?」
「じゃないのか? なんかやたら豪華だし」
「だよなぁ。……あのなんかよくわからない文字わかるか?」
「よくわからない文字だということがよくわかった」
「さよけ」
よし、と俺は一つ頷き、キンジに目配せする。
「わかってるな?」
「ああ」
俺は倒す方。
キンジは助ける方。
キンジは緋色のバタフライナイフとベレッタを構え、そして俺は。
「蒼の一撃、第三番----」
右脚を振り上げ、
「----『勇蒼邁進』」
蒼光を纏った直蹴りを馬鹿デカい門をぶち破った。
●
「な、な、なあああああ!?」
巻き上がった粉塵と砂金から頭の悪そうな叫びが聞こえた。それには構わず、キンジが飛び出る。中は豪華な絨毯やら石柱やらスフィンクス像のどれも黄金でできているが、そんなのはどうでもいい。
スフィンクス像の足元に、
「アリア……!」
キンジが噛みしめるように自分の女の名前をこぼす。そして、走る先。これまて黄金で出来た玉座に腰掛けたパトラがいる。もっとも今は身を乗り出し、アホみたいに口を開けているが。
「な、な、なにしてくれんじゃ貴様らーー! 妾の『王の間』を ----」
「うるせぇ、悪いけどお喋りするつもりはない」
ある意味もっともな文句を叫ぼうとしていたパトラだが、それを遮る。
「な……!」
「とっと来いやアホ女、お前なんて前座なんだよ。お前倒して遙歌のとこ行ってレキ迎えにいかなきゃらならん」
「き、貴様……」
「わかったか? さっさと来いよ噛ませ犬」
「わ、妾を愚弄するなぁーーーー!」
叫び、パトラが見覚えのある刀を握って飛び出してきた。
イロカネアヤメ。
白雪の話では星伽神社から盗まれたらしいが、コイツが盗み出したのか。ジャンヌの骨折やら理子の眼を潰したりと色々やっているな、オイ。
「貴様ぁああああ!」
パトラは叫びながら俺へと向かってくる。さらには、それだけではない。パトラの周囲から大量のナイフやら黄金の鷹。それらが都合二十四。それらは等しく俺へと降り注ぎ、どれもが必殺だろう。だから、再び足を振り上げ、
「蒼の一撃、第五番『支蒼滅裂』」
振り下ろす。
瞬間、絨毯の下の床石が粉砕され、客船が数メートル沈んだ。当たり前だけどそれだけではない。震脚による馬鹿げた衝撃波により、ナイフなら鷹が総て砕ける。
木っ端微塵。総てが砂金に帰っていく。さらには、パトラが反射的に展開した大皿らしき盾が五枚、それでも総て『支蒼滅裂』の衝撃波で砕かれて、
「がはぁ……!」
血を吐きながら、ぶっ倒れる。ビクビクと痙攣していた。
「……まあ、本気でやったからなぁ」
多分全身の殆どの骨が砕けているだろう。
「は、ぐ、が、ぎ……!?」
血を撒き散らしながら、パトラが信じられないというように呻き、
「お前が王だかなんだか知らんけどな」
キンジが神崎の棺に辿り着いたのを確認しつつ、
「俺が仕えるのは、お前じゃない。たった一人しかいないんだよ、俺の主は」
わかるだろ?
「俺は惚れた女以外に仕える気はない」
だからお前はただの噛ませ犬だ。