落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第7拳「ちょっくら命賭けに行こう」

 那須遙歌。

 ついに出てきた以上はキチンと俺と遙歌の話をしなければならないのだろう。 今まで散々ひっぱってきた以上は徹頭徹尾、一から十まで語らないといけないし、勿論そのつもりだ。

 だけど。

 けれど、もう少しだけ待ってほしい。もう少しだけ、俺に猶予を与えてほしいのだ。

 そう、猶予。

 情けないことに俺はまだ、あの日のことを引きずっている。

 

 レキと生きると決めて、そうあろうとしているのに。

 師匠を殺してでも、レキと共に生きていきたいのに。

 

 それでも。

 俺はあの日のことを忘れられない。忘れられる訳がない。だって、総ては俺のせいだから。俺のせいでーー那須家は滅び。

 

 ----那須遙歌は死んだのだ。

 

 死んだはずだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なのに生きてて、おまけに女取られるとか。……俺、ダッサイよなぁ」

 

 なんて、ぼやきながら車輌科(ロジ)のエレベーターからドックに、足を踏み入れた。

 そこにはたった一人しかいなかった。

 それは、

 

「おいおい、カッコイい格好してるな。気合い入ってんじゃねぇかキンジよお」

 

「……まあな」

 

 なにやら見慣れない着流しに身を包むキンジだった。緋袴に同色の羽織。羽織には花がない、枝だけの桜の木。

 やたら派手だ。

 

「遠山家戦闘装束『桜傾寄』。……うちに昔からある戦闘服で防弾処理もされてるんだけど、まさか着ることになるなんて思わなかったよ」

 

「ふうん、そうかい。そんなの持ってたなんて知らなかったよ」

 

「本当なら寮じゃなくて、実家にあるんだけどな、多分兄さんが持ち出したんだろう」

 

「ま、いいじゃねぇかカッコイいし」

 

「……つーか、お前こそ。その格好」

 

「ん? どうかしたか?」

 

 今の俺の姿を改めて見直してみる。

 武偵高の制服----ではない。

 

 蒼い着流しに、蒼い袴。 その上に同じく蒼の羽織り。 両肘まで巻かれたバンテージ。さらには長くなった髪を首で括り、その下にはベッドフォン。

 勿論、レキのだ。

 カジノの警備故に付けていかなかったのを今は俺が首にかけている。

 

「ま、お前ほど派手じゃないだろ?」

 

「いや、そういう問題じゃなくてだな……」

 

 キンジが言い淀む。

 

 まあ、わからなくもない。なぜなら、今のこの姿は半年前に握拳裂と殺し合った時と全く同じ姿なのだ。

 

 言うなれば、現『拳士最強』那須蒼一の本気コスチューム。

 

 けど、今はそんなことで話し込んで暇はない。

 

「んで? 準備とやらはできたのか?」

 

「ああ、詳しくは後で説明するけどな」

 

 キンジは一度区切り、

 

「----負けたんだって?」

 

「ああ、負けた」

 

 真っ直ぐに俺に問いを投げかけてきたキンジにあっけからんと答えた。

 

「負けたよ、あっさりな。まあ、次はああは行かんがな」

 

「なにか勝算あるのかよ」

 

「あるぜ? レキが人質取られて、さらに相手は遙歌なら。使える切り札が二つほどある。……お前も、わかるだろ?」

 

 そう、カジノのでは情けなくもあっさりやられて、レキをとられた。突然だったから、なんて言い訳を言うつもりはない。

 それでも、だからこそ。

 今この状況だからこそ使えるとっておきがあるのだ。事実それてキンジも遠山金一を打倒したのだろうし。

 

「ああ、そうだな」

 

 そして、キンジは頷く。

 

「あ、そうだ他の連中はどうした?」

 

「もう、皆ドックにいる。お前待ちだったんたよ」

 

「さよけ、そりゃ悪かったな」

 

 なら、とっとと行かないとな。 足を進めてキンジに並ぶ。

 緋と瑠璃が並ぶ。

 肩を並べて、

 

「ようし、行くか。兄弟」

 

「ああ、行こう。兄弟」

 

「惚れた女取り返しに」

 

「家族の絆に応えるために」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「----ちょっくら命賭けに行こう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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