落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
7月24日。
七夕から3週間ほどたった日の昼。キンジの単位を取るためのクエスト、合法カジノの警備である。ぶっちゃけ、着慣れない黒のスーツに身を包み俺とキンジはカジノへと足を運んでいた。なにやら、青年IT社長とそのボディーガードということになっている。キンジはやたら趣味の悪いネクタイを弄るのを見て思うが、こんな堅苦しいスーツを四六時中着ていられる奴神経を疑う。俺とキンジはカジノ・ホールへと足を運びチェンジカウンターで
「両替を頼みたい。今日は青いカナリヤが窓から入ってきたんだ。きっと、ツイてる」
「青いカナリヤwww」
「おいコラ、口でダブルダブルダブルとか言ってんな」
なんて合い言葉で漫才しながら、足を進める。そして、表れたのはホールをぐるりと囲むプールだ。海に繋がるプール。もっと、水泳用ではなく水上バイクで素早く行き来するためのようだけど。
バニーガール姿の綺麗どころがたくさんいるが、
「俺はレキ探しにいってバニーガール姿を見にいくから、お前は適当回っとけよ」
「お前は一応俺のボディーガードじゃないのか」
「はあ? 男守って何が楽しいんだ」
「……」
キンジが半目になった気がするが、そんなことはどうでもいい。
どうでもいい。
「さて」
俺は膝に手を当てて屈伸。ついでに伸脚からの伸脚深く。アキレス腱を伸ばす。
「レキー!? どこだーー!?」
人目を気にせずに叫びながら、駆け出した。
だってレキがバニーガールだぜ!?
だってレキがバニーガールだぜ!?
大事なことだから二回言った!
見ないわけないだろがっ!
そのためだけにこのクエストに参加したと思っているんだ!?
「どーこーだー!?」
●
散々走り回って、
「見! つ! け! た……………ぁ?」
見つけた。
一応、レキを見つけた。二階の最低掛け金額が100万円というとんでも特席ルーレット・フロア。そこにレキはいた。相も変わらず無表情でディーラーをしていた。常に無表情で俺以外には表情が読めないレキならば最適だろう。
が、その姿は、
「バニーガール、じゃ、ないのか……!」
馬鹿な。
レキの姿はバニーガールじゃなくて、金ボタンのチョッキにズボンだ。
バニーガールに非ず。あと何故か、キンジか先にいた。結構色々走り回ったから先に見つけられたらしい。
……無駄に走ったからなぁ。
しかしバニーガールじゃないのか……。
ショックだ……。
アイツのキャラからして、絶対バニーガールだと思ったのだが……。
……まあ、いいか。
あれはあれで可愛いし。男装も似合うし。と、ディーラーをやっていたレキの正面の青年が、
「君のケータイ番号だけでも……教えてくれないか?」
「ーーあ?」
ナンカヘンナコトバガキコエタ?
ナンダッテ?
ナンダアノヤロウ。
「お、おいっ蒼一!」
横でキンジがなにか言っているが聞こえない。なにをそんなに慌てている。
落ち着け。
落ち着け、クールにだ。
まばたき信号でキンジにコンタクト。
『殺せばいいんだな』
「ダメだよ!」
キンジが叫んできた。
「じゃあ、メアドだけでも」
「へい、お客さん」
レキに絡んでいる青年の肩に手をかけた。
「なんだ?」
「おや、ダーリン」
「ダーリン!?」
「よう、ハニー」
「ハニー!?」
なんか青年が叫んでいる。
ソイツに笑みを浮かべ、
「いいか? シャチョさんよ。こいつは俺の女だからな? 手を手だすなよ? ……じゃないと」
何か言おうとした青年に手を掲げて、言葉を止めて、自分の手はルーレットの机の縁に手をかける。
そして、
「こうなっても知らんぜ?」
五指の形のみで机を抉った。
「……………!?」
「あちゃあ」
キンジが額に手を当てて嘆息していた――気がするが、気にしない。
「いいか? わかったか?」
「………おまっ、おまっ、おまま……!」
「ああん!? なに言ってるかわかんねぇよ! 人の女に手出したらどうなるか分かってるのか!?」
叫んだ瞬間。
レキの背後からハイマキが飛び出してきた。ハイマキがこっちに走ってきた客の一人に激突した。なんか人間じゃなかった。ハイマキがそれに噛みついたのを見て、
「ほら、こんなことになったじゃねぇか」
「いや、それは違うだろ」
当然キンジのツッコミは無視した。