落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「いつもニコニコあなたの隣に這い寄る魔弾、レキラトホテップです」
「お前無表情じゃねぇか」
放課後、校門前でレキを待っていたらなんか背後から這い寄られていた。振り返れば、複雑怪奇な手の動きからポーズを決めたレキ。もちろん無表情。
「タイムリーなネタを狙ったんですが、どうでしょうか」
「ダメだと思うぞ。というか古い」
「つれないですね、蒼一さん。もっとなにかあってもよくないですか?」
「いや、そのネタに反応しようと思うと俺はお前にDVしなきゃならないんだけど……」
「むしろどんと来いです」
「ええー……」
俺の嫁大丈夫か……?少し見なかっただけで変態度が増してるんだが。
「さあ、どうぞ」
「いや、でもなぁ……」
「どうしたんですか、蒼一さん。そんなことだから番外編に人気を取られるですよ」
「言ってはならないことを!」
それすっげぇデリケートな話だぞ!
「いや、でも過負荷な蒼一さんの方がカッコイいという意見が大量でしたよね」
「止めてくれ!」
ちょっと困ってるんだから!あれは、燃えるシーンをやったからああなったんだよ!ていうかメタ発言やめろよ!
「やれやれ。蒼一さんも私の為にカッコ良く戦ってくれたものなんですけどね」
「いや、お前見てなかったろ」
「まあ、それは置いといて。……さあ、どうぞ」
「……ホントにやんのかよ……」
やれやれ。 しょうがないなぁ。ほんとに仕方ないので、ポケットからフォークを取り出す。
「………」
レキが反目になった気がするが気にしない。フォークを構えて、突き出す。と言っても、俺の力で指したらレキに風穴が開くから力の制御に全力を注ぐ。
「おりゃ」
突き刺した。レキの手のひらにフォークを突き立てる。
ぷにって言った。
「………」
柔らけぇ。力なんか欠片も入れていないが、傷でもついていたらどうしよう。なんて心配してたら、刺した所にレキが目をやり、
「なにしてるんですか、自分の主に」
「ええー」
●
「それで? キンジさんが止めに入ってどうなったんですか?」
「ん、すぐに理子が止めに入って解散だよ。その後……なんか、キンジと神崎の空気がすげぇ微妙だったけど」
「そうですか……」
学校を出てからの帰り道。今日のカナ襲来についてレキに話していた。と言っても、レキもある程度は聞いていたらしいが。
「遠山金一、いえカナですか。私はまだ会ったことないんですが……」
「俺も一度会っただけだけどな」
「……ふむ、キンジさんとアリアさんは?」
「先帰ったぞ? なにしてるんだか」
「二人なら、結構仲良くやってるわよ?」
「ーー!?」
突然、俺たちの背後にカナが現れた。レキの腰を抱いて後ろに跳ぶ。
「あらあら、嫌われたものね。キンジも私の顔を見てすぐにアリアを庇うし。なんなのかしらね」
「……男の意地、だろ? それぐらいわかってやれよ」
「わからなくもないけどね。……『第二の可能性』とはいえ面白くないわ」
「……思ったよりもブラコンのようですね」
「かはは、そりゃキンジも変わんないけどな、血筋かよ」
「かもね?」
「それで? なんのようだ?」
「ちょっと、顔を見に来たのよ。レキは初めてだし、蒼一とは一度遊んだだけだしね」
「あれで、遊びね」
やっぱり、今の状態でまともに戦っても勝てそうにない。瑠璃神モードになる必要があるだろう。それにしても、敵意も戦意も殺意もない。
本当に顔を見に来ただけのようだ。
「顔を見に来ただけなら、もういいですか? 私と蒼一さんは溜まったアニメを見に行かなければならないのですが」
レキェ……。
そうじゃないだろう。カナも不思議そうに首を傾げて、
「別にいいけれど……。あなた話に聞いていたのとは随分違うわね。もっと無機質な子だと聞いてたのだけれど」
「その私なら、一度死にましたよ」
レキは胸に手を当てて――それから両腕を使って複雑怪奇なポーズをして、
「今ここにいるのはいつもニコニコあなた隣這い寄る魔弾、レキラトホテップです」
「…………もう一回ぐらい死んだほうがいいんじゃないかしら」
「いや、さすがにそれは困るから。こんなんでも」
「こんなんとはなんですか」
「そんなんだよ」