落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第四章 正義の兄弟と正逆の兄妹
プロローグ「妬いてないわよ!」


「おーい、キンジ? 大丈夫か、お前」

 

「…………」

 

「…………ダメだこりゃ」

 

 今日は衣替えの日。

 いつもとは違うレキの夏服姿を見れるとウハウハしていたけど。どうにも朝からキンジの様子がおかしかった。なんか、朝からぼーっとしているのだ。

 

「一体どうしたんだよ、コイツ」

 

「知らないわよ、昨日はなんでかパソコンのイスで寝てたし」

 

「……察するにエロゲーをやっていて寝落ちしたから続きが気になってしかたないのでは?」

 

「あー、あるある」

 

「え、エロッ!?」

 

 ほうら、神崎が壊れるじゃねぇか。なんていつも通り4人で自転車を置いていたら、教務科からの連絡掲示板の前に生徒が集まっていた。

 

 そこでようやくキンジが再起動して、人ごみの中を見つけた。

 

「ジャンヌ」

 

 松葉杖をついていた銀髪の少女──ジャンヌ・ダルク30世。 キンジの視線を追った神崎が声をかけた。振り返ったジャンヌはキンジへと手招き。

 『こいこい(フォローミー)』。

 

「あんたが武偵高の預かりになってたのは知ってたけど。似合うじゃない、制服」

 

「うんうん。馬子にも衣装……ってのは失礼か。この場合…………鬼に金棒?」

 

「それもそれで失礼ですよ」

 

「……私は遠山を呼んだのだ。お前たちに用はない」

 

「こっちにはあるの。ママの裁判、あんたもちゃんと出るのよ?」

 

「……分かっている。、それも法取引(とりひき)の条件の一つだからな」

 

 神崎は母親への証言の約束を取れたことにニンマリ笑い、

 

「ま、ケガしてるみたいだから、イジメるのはまた今度にしといてあげる」

 

「……私は今すぐにでも構わないんだが?」

 

「何よ、こっちにはアタシと蒼一とレキがいるのよ? 勝負になんないわよ」

 

「え? なんで俺達味方前提?」

 

「は!? それこそなんでよ! 友達じゃない!」

 

「いや、友達だけどさ。………………イジメヨクナイ」

 

「うっ…………!」

 

「まぁ、こればっかりは蒼一さんに分がありますね」

 

 だろう? 

 イジメ、カッコ悪い。 イジメ、ミットモナイ。そんな感じで俺達が神崎をいじっていたら、キンジとジャンヌが二人で話しだした。ソレを見て。

 

「なに話してんのよ……」

 

「そう妬くなよ」

 

「妬いてないわよ!」

 

 神崎が妬いているからしょうがないので、話に加われば顔が引きつっていた。視線を辿れば学年掲示板で、

 

『2年A組 遠山金次 特別単位 1.9単位不足』

 

 ……そういやキンジって金次って書くんだなぁ。

 忘れてた。

 

「なによ、この特別単位って」

 

「あー、それはだな。ホラ、俺達って半年前にいろいろやらかしたからな。本当なら退学になってもおかしくなかったんだよ。だけど、先生たちのお情けってことで普通より多めに単位取るってことでチャラにしてくれたんだよ」

 

「………つまり、バカ用単位」

 

 バカとか言うな。まあ、キンジも一応計算してたみたいだけど、ブラドとの一件でその計算が狂ったらしい。

 

 俺?

 レキが余裕もって計算してくれたから問題ないよ!

 

「ヒモじゃない」

 

「ヒモとかいうな」

 

「いや、ヒモでしょう」

 

「…………………」

 

 ヒモ、かな?

 

 

 結局、カジノ警護という面倒な任務を皆でやることになった。ついでに白雪とか誘うか。

 

 

 

 

 

 

 

 まあ、こんな感じでいつも通りだったのは午前中まで。いつも通りじゃなくなったのは午後。五時間目は

強襲科(アサルト)での戦闘訓練だった。なんか雰囲気が桃色のキンジと神崎をからかいつつも、授業受けていた。

 

 最初に面倒だったのは。

 

「よーし! じゃあ。模擬戦やっぞー! そーやなぁ。遠山! 那須! 神崎! おどれらで殺りあえ!」

 

 例によって蘭豹がはっちゃけ出したのだ。酒飲み出したし。因みに制服に実弾での模擬戦は武偵法違反だ。けど、ぶっちゃけ俺は逆らえないし、キンジも単位のことあるし、そもそも神崎はやる気満々だ。

 まあ、軽く流すかと思ったら。

 

「先生? 私も参加してもいいかしら?」

 

「ん? ……おうおう! ドンドン殺れや! バトルロワイアルやな!」

 

 そうして、人ごみの中から進み出てきたのは。

 

「なっ……!」

 

「アンタはっ!」

 

「…………おいおい」

 

「はぁい」

 

 ソイツは武偵高の制服を着た、

 

「カナ………!?」

 

「昨日振りね、キンジ」

 

「………お前、おかしかったのはそのせいかよ」

 

「…………っ」

 

 ああ、いかんなコイツ。顔真っ青で震えてらぁ。 まぁ、気持ちもわからなくもないけど。実際俺も驚きだ。

 

「おいで、神崎・H・アリア。あなたを見せてみて」

 

 俺達の驚きもそっちのけでカナは神崎を挑発し、

 

「ッ! 上等よ!」

 

 それにモロに反応して神崎が飛び出したから、

 

「まあ、待て」

 

「みぎゃ!」

 

 足を差し出して転ばせた。ステーンと頭から砂地の地面に激突。

 

「うわ、痛そ」

 

「なにすんのよ!」

 

「だから、待てって………っと、おーい、カナ?」

 

「なにかしら?」

 

 俺は右手の平を下にし、そこに左手を当ててTの字を作り、

 

「ターイム」

 

「いいわよー。なるべく早くねー」

 

「サンキュー」

 

 神崎の首根っこ掴んで後ろに下がる。ギャーギャーうるさいが知らん。ついでにキンジの腕をつかんで闘技場の縁まで行った。コイツは反応なし。ついでに蘭豹が酒瓶片手に騒いでいるがそれも知らん。

 

「おい、キンジ」

 

「…………………」

 

 やっぱり、反応なし。とりあえず、神崎を解放して。

 

「ま、しゃーないな」

 

 ボスッ、とキンジの腹に拳をめり込ませた。

 

「!? ガハッ、ガハッ!」

 

「ちょ、なにしてんのよ!」

 

 膝をついて痛みに悶えるキンジに神崎が駆け寄るが、

 

「今のソイツは邪魔なだけだろ」

 

「そ、それは……」

 

「ねぇ、そろそろいいかしら?」

 

「おーう! 今行くー」

 

 催促してきたカナに適当に答えつつ、

 

「そ、そう、いち……」

 

 『性々働々(ヒステリアス)』を発動していない今ならしばらくは動けないだろう。

 だから、なに迷ってるかは知らないけどよぉ。

 

「キンジ、適当に時間稼ぐからよ。考えまとめろよ」

 

「ッ!」

 

 キンジは一度目を見開き、そして頭を下げて、

 

「………………ありがとう」

 

「気にすんなよ兄弟」

 

 そして、キンジから離れて神崎ともに闘技場の中央に。神崎と並んで、

 

「そういや、神崎とコンビってのは始めてか」

 

「……そうね」

 

 若干ふてくされたような声で。

 

「なんだよ、妬いてんのか?」

 

「だから、妬いてないわよ!」

 

「かはは。まあフォローなんて期待するなよ? 俺が突っ込むから」

 

「アタシが行くわよ」

 

 わーお、平行線。その事思わず苦笑。神崎は背中から二刀小太刀を抜刀し。

 

「さあ、見せてみて。『緋弾(スカーレット)』、落ちこぼれ。あなたたちの可能性を」

 

「かはは、その落ちこぼれに負けてアンタは超落ちこぼれになるんだよ!」

 

「てかなによ! そのスカーレットって!」

 

 そうして、俺と神崎。攻撃力、突破力なら武偵高最高クラスの即席コンビは。

 殺意も殺気も欠片もないカナへと疾走した。

 

 

 


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