落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
「武偵殺し?」
結局俺たち三人は始業式に出れず
「……の模倣犯だよ」
ものすごくげんなりしたキンジは言った。背負っている空気が暗い。
「確かに先日逮捕されたと報道がありましたね」
「そういえば、朝お前と星伽が話してたな」
「ああ……色々ジャックしてドカンしてる爆弾魔。レキが言った通り捕まったから模倣犯だろうけど、それが俺たちの自転車に爆弾しかけてたんだろうさ」
「……模倣犯でプラスチック爆弾くっつけてセグウェイに銃搭載して遠隔操作? 手込み過ぎだなおい」
「まったくだ。でもこんな商売だしどこで恨み買ってるか解らないからな。たまたま俺たちだったのか、俺たちを狙っていたのかも犯人捕まえないことには解りようがない」
「恨まれてなんぼの世界ですしねぇ」
俺もキンジもレキも。それはどうしたって避けられない。色々あるし。武偵なんてことやってれば犯罪組織に関わり持つのは当然だし、少なくない数を豚箱にぶち込んできたのだ。心当たりが在りすぎる。それにしたってあんな手口というのはちょっと謎だけれど。
「終わってみれば俺たちが馬鹿みたいに自転車漕いだのと体育倉庫の備品が穴だらけになったくらいだ。
かなり元気ない。一々気にしてたら身が持たないが、基本的に体質も相まってキンジはなるべく無用な争いを避けたがっているので無理もないか。
しかし考えても暗くなってもどうにもならないのは間違いないのだ。
なので、
「ん?ロ、どうしたんだ? リ、さっきから、コ、元気が、ン無いぜ? が」
「何やら不愉快な副音声が聞こえるんだが……!?」
「ダメですよ、蒼一さん。遠山さんは今大変なんですから――己の隠された性癖に気づいて」
「この外道夫婦が……!」
また、夫婦だなんて。
「照れるなぁ」
「褒めないでください」
「褒めてねぇ……! あといいか? 俺のは体質だし、大体あいつは高二だった!」
「でも見た目小学生相手になったんだろ?ロリコンじゃねぇか」
「それに興奮したことをそんな威張られても。変態ですね」
「この……っ、大体それを言ったらレキだって大概幼児体型だろ!」
「はったおす」
「やってみろ」
廊下で乱闘を開始し互いの顔にクロスカウンター入れ合った瞬間に蘭豹が教室から現れ発砲されたので即座に土下座して謝って腕組んで仲良しアピールしたら舌打ちして教室に戻った。
「な、何の迷いもなく撃ちやがった……いつものことだけど」
「しかも仲裁じゃなくて焚き付けだったぜ……さらに結構危険度低めだし」
「武偵高は今日も地獄です」
まぁこれくらいならばホントによくあることだ。常日頃から銃弾は飛び交っているし、各季節のイベントなんて死人が出ないだけでちょっとした紛争地域と変わらない。引き金が恐ろしく軽いのでちょっとテンションが上がるとすぐ発砲騒ぎだ。
「とりあえずキンジがロリに手を出したら非リア共の引き金が……」
「おい、おい」
「大丈夫だぜ? 皆悪気があるわけじゃないから。たまったまっ、偶然、思いもしなかったけど引き金引かれてただけだから」
「そんなことあって……いや、あるけど。何回かそんなことあったけど、あってたまるか!」
「あーれ引き金がいつの間にー、威嚇だから威嚇だからおっけい! とか言って平気で乱射してきますよね。そういう人に限ってちゃんと防弾制服の上に着弾させるし、先生方もいつの間にかなら仕方ないとか威嚇ならいいんじゃないかとか平気で流しますもんね」
俺も春あたりそんな感じだったなぁ。大体全部物理的な説得したけど。
「……どーせ、もう会うことなんかないだろうからいい加減止めてくれ」
●
「先生、あたしはあいつの隣に座りたい」
「フラグだったー!?」
2ーA教室が一気にざわめいた。一瞬の後に、
「うぉー! またキンジか!」
「さすが特級フラグ建築士!」
「くそ、俺星伽さんに賭けてたのに! 良妻系幼なじみが負けたと!?」
「俺は
「理子は色物過ぎたか!? ゴスロリ巨乳でいいじゃん!」
「俺なんか大穴狙いで
「くそ、ピンクツインテロリの転校生だなんて胴元の一人勝ちじゃねぇか!」
「まてまてまてまて、何の話をしてる! というか胴元って誰だよ!?」
皆が一斉に俺の方を指で指した。その指は俺を貫通し後ろの席にいたレキを指している。
「おいおい、お前ら――人の嫁疑うなよ」
「お前だーー!」
やかましい。
だってマジキンジ色んなとこフラグ立ててるのに回収しないし。あまりにも朴念仁すぎるからどこに行くかも解んなかったし。キンジ自身結構な有名人でもあるので乗り気な生徒は多かったのだ。ちなみに賭けているのは現金以外に食券とか本とか装備とかだったりする。
件の少女――神崎・H・アリアはやかましい連中を無視して、キンジの前まで来て、
「キンジ、これ。さっきのベルト」
一瞬で静かになった。思うことは一つだ。
え、もうそこまでいったの?
……まぁ、実際はそんな話じゃないんだが。面白いので言わない。
「理子分かった! 分かっちゃた! ――これフラグばっきばきにたってるよ!」
叫んだのはキンジの左隣の金髪ゴスロリ女、峰理子だ。キンジ曰わく、
「キーくん、ベルトしてない! そしてそのベルトをツインテールさんが持ってた! これ謎でしょ!? これ謎でしょ!? でも理子には推理できた! できちゃった!」
うるせぇ。謎の踊りを披露し、
「キーくんは彼女の前でベルトを取るような
セクハラで始まった恋愛はありなのだろうか? まぁ、脅迫で始めるのよりはマシなのかもしれない。周囲は理子の推理に聞き入っている。キンジは何言ってんだこいつ、という顔をしていた。やっぱり面白いので放っておく。というか全員テンション任せだけどこれで推理とかひどくね? 世の中の名探偵に謝れよ。
「ソーくんに負けないくらいの!」
「誰に負けないだとぉ、キンジ!?」
「俺か!?」
「いいぜ、見せつけてやろうじゃねぇか! レキ!」
「いいでしょう」
ノリノリだ!?と皆が叫んだ瞬間――二発の銃声がクラスを凍りつかせた。
音の下は、顔を真っ赤にした神崎。
それはもうまっかっか。
林檎みたいに。
「れ、恋愛なんて……くだらない!」
翼のように広げた両腕の先、左右の壁には穴が一つすつ。理子は謎の踊りの姿勢のまま席に着き、レキはヘッドホンの音量を上げて目を閉じて着席。
いや、それは逆に危ない。
「全員覚えてきなさい! そういうバカなこと言う奴には……」
それが神崎・H・アリアの俺たちに発した第一声。
「――風穴開けるわよ!」
……決めゼリフかっこいい。
微加筆済み