落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第5拳「どっちにしようか迷ったんだけどさー」

 六月十三日。

 遂に泥棒の仲間入りする時が来た。

 これから二週間は紅鳴館とかいう横浜の館に潜入することになる。学校はすでになんかてきとーな書類を作って提出したから問題なし。潜入チームは俺、レキ、キンジ、神崎の四人。その内、キンジと神崎が実行班で俺とレキは待機班。峰は簡単に言えば俺達のサポート。ミッションは峰の母親の十字架の奪取。

 峰曰わく――『大泥棒大作戦』。

 ネーミングセンスすら最悪だ。

 

 

 

 

 

 

「それで、どうよ。魔女さんから話は聞けたか?」

 

「一応な。ていうか、お前はよかったのかよ。話しに加わらなくて」

 

「別にいいって。難しい話しは聞きたくないないし、聞きたい話しはもう聞いてるからな」

 

 早朝、モノレールの駅で俺達は峰を待っていた。レキと神崎は少し離れたところでガールズトークをしていて、近づきにくいから俺達も男二人でボーイズトーク。話しの中身は、まぁ、そんなに軽い話しじゃないのだが。

 

「……なあ、お前の聞きたかったことって………」

 

「ん」

 

 キンジが恐る恐るというか、聞きにくそうに聞いてくるが、

 

「お互い、家族絡みは大変だよなぁ」

 

「………そうか」

 

 それきり、キンジはなにも聞いてこない。自分も兄のことがあるからではなくて、ただ、それで納得しているだけなのだろう。

 

 まったく。いい親友だよ、ホント。

 

 キンジだってジャンヌからなにかしらは聞いているだろうに。それでも聞いてこない。聞く必要がないというよりも、どうせ俺がその内話すと思ってるんだろう。このお人好しが。

 

 この距離感はかつて親友じゃなかった半年前くらいには考えられなかったなぁ。

 

 思いつつ仲良さげに話す……というよりも一方的に神崎が話しかけ、レキが答えているのを眺めていたら、

 

「きーくん、そーくん、アリア、レキ、ちょりーす!」

 

 峰の声だ。それにキンジと同時に顔を上げ、

 

「――」

 

「…………………おいおい」

 

 キンジは時が止まったように立ちすくみ、俺でさえ絶句する。

 カナ。

 いや、峰が変装しているのだろう。俺が知っている彼女とは声も違うし、背も違う。俺の知るソレよりも数年は前か。

 

「……り……理子……なんで、その顔なんだよ!」 

 

 キンジの悲痛ともいえる叫び。それでも偽物でよかったと俺は思うし、それはキンジも同じだろう。本物なら、時が止まる。そのくらいカナは絶世の美貌を持つ。実際に俺が会ったのは一度きりだが、忘れることなんてできない。その一度きり。キンジもレキも知らないがほんの少しだけ、手合わせをしたのだ。勝てなかった。

 負けたわけではないけれど――負けた気分だった。

 本気でも全力でもなかったが、完全に遊ばれていた。思い出したくもないし、できるなら忘れたい。それでも無理なのが、カナという存在だ。

 

「くふっ、ブラドに顔割れちゃってるからさぁ。防犯カメラに映ってブラドが帰って来ちゃったりしたらヤバいでしょ? だから変装したの」

 

「だったら他の顔になれ! なんで……よりによってカナなんだ!」

 

「いやー、実は遙歌とどっちにしようか迷ったんだけどさー。

あの子は美人っていうより、美少女だからねー。どうキーくん、嬉しい? キーくんの大切な顔だもんね、そーくんは? 残念かな? 7年振りくらいに妹に会えたのにねー?」

 

「…………っ!」

 

 その笑みが、気持ち悪い。

 怖気が走る。

 悪寒が走る。

 背筋が凍る。

 おぞましい。

 こいつ……なんて、

 

「――最低《マイナス》……!」

 

「──────くふっ」

 

 

 

 

 

 

 その後、カナの顔について問いつめようとする神崎を宥めて、紅鳴館へ向かった。道中、なんとも言えない気まずさはあったがなんとか普通に会話するくらいにはなった。そして、紅鳴館──というかホラー映画に出てきそうな屋敷にたどり着いたわけだが、そこに待っていたのは、

 

「い、いやー、意外なことになりましたねぇー……あははー……」

 

 とか笑う、現在俺がとっちめてやりたいリスト上位の小夜鳴だった。なんでも、屋敷の主人に変わって管理人のようなことをしているらしい。ついでに研究やらなんやらも。

 とても、胡散臭い。

 大丈夫か、武偵高。こんな怪しい教師雇って。

 

「いや、ダメだろ」

 

「なにがだよ」

 

 俺とキンジは割り当てられた自室で燕尾服の袖を通していた。こんな格好をしてしばらくは執事の真似事をしなければならないことを思うと嫌になる。

 

「やれやれ、和服なら楽だったんだけどなぁ」

 

「その方が大変だろ」

 

 慣れれば楽なんだよ。

 

 着替えもそこそこにこなし、部屋を出る。それにしても、キンジが異様に執事姿が似合っていて笑える。で、靴までキチンと履き替えレキと神崎の部屋まで行くが、どちらも出てこなかった。

 

「おい、アリア。とりあえず台所いくぞ」

 

 キンジが声をかけるが、返事はない。ドアが厚いから届かないんだろう。この屋敷、ブラインドからカーテンにいたるまで色々厚すぎる。

 気味悪い。

 キンジが仕方なさそうにノブに、手をかけたら……普通に開いた。

 

「おい」

 

「おじゃまー」

 

 その中では、俺達が入ってきたことにも気づいてなくて、

 

「………………うわぁ」

 

「………………うわぁ」

 

 思わず、同じ反応をしてしまった。

 神崎とレキは全身鏡の前で、

 

「う~~~」

 

「……………」

 

 赤面モード全開と無表情でもかなり分かり易く嬉しそうに口元を僅かに歪めていた。

 二人ともメイド服。

 神崎のはフリルが大量にあしらわれていて、丈はミニ。

 レキはそれとは全く対象だった。モノトーンの色合いにフリルとかの装飾は最低限だ。黒のシャツに白いエプロンドレスにヘッドドレス。腰のコルセットはベルトで止められていた。スカートはロングで俺にとってはどストライクのレキの美脚が見えなくなってしまうが、メイド服はロングが好きなので問題なし。

 好きなコスプレは裸ワイシャツと答える俺でもこれはかなり、くる(・・)ものがある。

 

 レキのも神崎もどちらも素材は超高級品で、100万はするだろう。

 

「ま、まあ、たまにはね」

 

「ええ、悪くありません」

 

 鬼武偵の神崎も元ロボットのレキもこのメイド服はかなり気に入ったらしい。

 

「…………………?」

 

「ぁ」

 

 レキがこちらに気づいた。まあ、気づかなかったのが不思議なくらいだけど。それだけ気に入ったらしい。

 貰えないかなぁ、アレ。

 

 神崎がくるりんっと引きつった笑みを浮かべながら回った。それくらいはできるようになったらしい。

 それはともかく、回った。

 回って───キンジと目があった。

 

 やべぇ。

 

 ちゃっちゃとレキの方へ避難する。そして、神崎はもう一回転し、再び回ったときは笑ってなかった。

 怖っ。

 鬼のようだ。近づいたら危なそうなので放っておいて、レキに話しかける。

 

「めちゃくちゃ似合っているなぁ」

 

「ありがとうございます───ご主人様」

 

「…………………っ」

 

 危ない危ない。あまりの可愛さに吐血しそうだった。だって、スカートと少しつまんでさらにはちょこんと首傾げるんだもん。ヤバいって。これから最低でも、二週間はこれを見ていられというのは最高だ、いや、やっぱり二週間じゃ足りない。

 

「レキ、なんとかしてそのメイド服持って帰ろう。大丈夫だ、小夜鳴が文句言ったら言えないようにするから」

 

「なにが大丈夫がわかりません、錯乱してませんか?」

 

「脳天風穴地獄ーーー!」

 

「はがぁ………!」

 

 


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