落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第三章 過負荷の出来損ないと瑠璃色の道理
プロローグ「メイド喫茶なんてどうだ?」


「なんか、帰ってこないなあ。なにしてんだか」

 

「確かに、ちょっと遅いですね」

 

 時刻は7時半すぎ。魔剣事件も終わって最近はのんびりしていたのだが、キンジたちの帰りが遅い。最近はキンジの帰りが遅めだがそれでも、7時を回ることはあんまりなかったのだけれど。レキと二人でソファに並んでアニメを見ていた。

 

「まぁ、そうだな。もう少しして帰ってこなかったら、どっか食べにいくか」

 

「はい」

 

「メイド喫茶なんてどうだ?」

 

「メイド喫茶かー、最近行ってないなぁ。でも、夕飯にしてはどうなんだ?」

 

 ああいうところは雰囲気を楽しむ場所だからなあ。飯が美味いところもあるだろうけど。

 …………………………………って。

 

「っ!」

 

 ソファから跳ねるようにして立ち上がり、後ろを向けば、

 

「よう。蒼一、レキ」

 

 行方不明だったはずの『武偵殺し』峰・理子・リュパン・4世がそこにはいた。まったく気づかなかった。おかしい。いくらなんでも、俺とレキが後ろを取られて全く気づかないわけがない。それなのに、彼女は当たり前のような顔をしてそこにいる。

 異常だ。 

 それつまり、

 

異常(アブノーマル)…………?」

 

「いいや、私がそんな異常(プラス)なわけがない」

 

「……そっちか……」

 

 俺は呻くように呟いた。なるほど、峰から伝わるこの気持ち悪さは異常(アブノーマル)の感じではない。俺自身、久しぶり見るから気づかなかった。

 こいつは、

 

「――過負荷(マイナス)かよ」

 

 峰はヘラヘラとした、気持ち悪い笑みを浮かべていた。まさか、こいつがそう(・・)だとは。それ(・・)に関しては思考するのも嫌だ。

 

「それで? なんの用だ? いや、どうしてここにいる」

 

「別になんでもいいだろう? もう直ぐキンジたちも戻ってくる、その前に話しを終わらせたい」

 

「なにが、目的ですか?」

 

 レキの呟きは、普段と変わることがない。さすがだ。これを相手にして普段と変わらないのは相当の強度がいる。正直、神崎や普段のキンジでは話しにならない。

 

「頼みがある。協力してくれ」

 

「嫌だね」

 

 冗談じゃない。こういう連中に関わるなんて御免被る。味方にしようが敵にしようがどうにもならないのが、こいつらなのだから。かつての峰ならともかく、過負荷(マイナス)であるなら関わるなんて有り得ない。

 

「いいや、してくれる。お前は絶対に」

 

「……なにが言いたいんだよ」

 

 いいや、言いたいことなんて分かる。嫌な汗が出てきた。

 

「――遙歌のこと、知りたくないのか?」

 

「……っ」

 

 那須遙歌。俺の――妹。死んでしまった妹。例外の天才であり、極端の化け物。那須家の最高傑作。その名前を出すか。確かに、それでは。

 

「蒼一さん」

 

 レキが手を握ってくれた。その柔らかさと体温を感じて、心を落ち着かせる。妹のこととなるとどうしても心が乱れる。

 

「……なにをする気だ」

 

「ん? 手伝ってくれるのか?」

 

 峰のヘラヘラした笑いはどうしても感に障るが、気にしてる場合ではない。結局、その名前を出されては俺に選択肢はない。

 

「………ああ」

 

「そうか、助かる。ああ、キンジたちも手伝ってくれるからな」

 

「そうかよ、それで? なにするんだ?」

 

 峰はヘラヘラした笑いをさらに歪めて、

 

 

 

「ドロボー、だ」

 

 


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