落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
プロローグ「メイド喫茶なんてどうだ?」
「なんか、帰ってこないなあ。なにしてんだか」
「確かに、ちょっと遅いですね」
時刻は7時半すぎ。魔剣事件も終わって最近はのんびりしていたのだが、キンジたちの帰りが遅い。最近はキンジの帰りが遅めだがそれでも、7時を回ることはあんまりなかったのだけれど。レキと二人でソファに並んでアニメを見ていた。
「まぁ、そうだな。もう少しして帰ってこなかったら、どっか食べにいくか」
「はい」
「メイド喫茶なんてどうだ?」
「メイド喫茶かー、最近行ってないなぁ。でも、夕飯にしてはどうなんだ?」
ああいうところは雰囲気を楽しむ場所だからなあ。飯が美味いところもあるだろうけど。
…………………………………って。
「っ!」
ソファから跳ねるようにして立ち上がり、後ろを向けば、
「よう。蒼一、レキ」
行方不明だったはずの『武偵殺し』峰・理子・リュパン・4世がそこにはいた。まったく気づかなかった。おかしい。いくらなんでも、俺とレキが後ろを取られて全く気づかないわけがない。それなのに、彼女は当たり前のような顔をしてそこにいる。
異常だ。
それつまり、
「
「いいや、私がそんな
「……そっちか……」
俺は呻くように呟いた。なるほど、峰から伝わるこの気持ち悪さは
こいつは、
「――
峰はヘラヘラとした、気持ち悪い笑みを浮かべていた。まさか、こいつが
「それで? なんの用だ? いや、どうしてここにいる」
「別になんでもいいだろう? もう直ぐキンジたちも戻ってくる、その前に話しを終わらせたい」
「なにが、目的ですか?」
レキの呟きは、普段と変わることがない。さすがだ。これを相手にして普段と変わらないのは相当の強度がいる。正直、神崎や普段のキンジでは話しにならない。
「頼みがある。協力してくれ」
「嫌だね」
冗談じゃない。こういう連中に関わるなんて御免被る。味方にしようが敵にしようがどうにもならないのが、こいつらなのだから。かつての峰ならともかく、
「いいや、してくれる。お前は絶対に」
「……なにが言いたいんだよ」
いいや、言いたいことなんて分かる。嫌な汗が出てきた。
「――遙歌のこと、知りたくないのか?」
「……っ」
那須遙歌。俺の――妹。死んでしまった妹。例外の天才であり、極端の化け物。那須家の最高傑作。その名前を出すか。確かに、それでは。
「蒼一さん」
レキが手を握ってくれた。その柔らかさと体温を感じて、心を落ち着かせる。妹のこととなるとどうしても心が乱れる。
「……なにをする気だ」
「ん? 手伝ってくれるのか?」
峰のヘラヘラした笑いはどうしても感に障るが、気にしてる場合ではない。結局、その名前を出されては俺に選択肢はない。
「………ああ」
「そうか、助かる。ああ、キンジたちも手伝ってくれるからな」
「そうかよ、それで? なにするんだ?」
峰はヘラヘラした笑いをさらに歪めて、
「ドロボー、だ」