落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
テンプレート。
テンプレ。
いわゆる、型通りとかありきたりとかマンネリ化したこととか金髪巨乳とか銀髪貧乳とかピンク髪ツンデレとか黒髪ロングとか青髪クールとかトラック事故に転生とか隕石落下に憑依とか神様にミスとかである。辞書で調べれば型版とか定規版とか歯の噛み合わせを矯正する器具とかキーボードのシートとかパソコンソフトのシートとか出てくるのに。まぁ、俺のようにオタク業界に棺桶をおいている存在すれば前記の意味にとれるのだが。
はっきり言って“テンプレ”という単語にいい印象はない。
しかし。しかしだ。
あえて、俺はその風潮に苦言を呈したい。テンプレとは少し前にも記したように“ありきたり”という印象がある。そして、“ありきたり”。
すなわち王道だ。
王道。王の往く道だ。
何を恥じることがある。威張ることしかない。よくあるということは、それだけ需要があるということだ。みんな大好きということだ。いい印象はないけれど、いい意味ではあるのだ。だから、ありきたりのセリフとて、いいモノだ。
「おかえりなさい、蒼一さん。お風呂にします? ご飯にします? それとも、ワ・タ――?」
「最後のでーーーー!」
こんな風に。ワタシの“ワタ”で跳んだ。そう、跳んだのだ。玄関で。レキの前で。
両肘を曲げ、手のひらを合わせ、両膝を曲げて、足の裏を合わせる。俗に言うルパンダイブ!脳内にル○ン三世のテーマが流れる。
ル○ン・ザ・サード!
ちなみにアレはル○―ンルパー○! じゃないんだぜ? ていうかアレが峰の父親なのか?
会ってみてぇ。そんなことはどーでもいい! 今! 大事なことは! 目の前の嫁のことだけだ!
蘭豹から面倒なことを頼まれたと思ったけど思わぬところで棚から牡丹餅!
「レーキー!」
「――ア・メにしますか? そうですか最後ですか」
目測を誤ってレキの目の前に落ちた。
ガバン!
……痛い。ではなくて。ガバッと上体を起こす。
「待て待て! なんだそのワタアメは! どっから出した! ていうかそこは“ワタシ”だろう!?」
「すいません、噛みました」
「違う、わざとだ」
「失礼、かみまみた」
「わざとじゃない!?」
「ワタアメ、見た?」
「今見てるよ!」
え? ちょっと待てよ。このくだりってこんなレベルの低い会話だったっけ?
もっと、こう、簡単でありながらも難しく、複雑でありながら単純な日本語の応酬じゃないのか?
ていうか冒頭のテンプレの下りどうしてくれるんだ!? めっちゃ語っちゃったんじゃん!
438文字をどうしてくれる! 恥ずかしい! 無いよ! 無いからね!
玄関口でワタアメ勧める嫁とかいないよ!
ふう。落ちつけ、俺。クールなのが売りの那須蒼一じゃないか。
クール蒼一。
「……レキ?」
「なんでしょう?」
「一体なぜワタアメ?」
「決まってるでしょう――フィギア化した時のオプションの為です」
「ぎくぅ」
……落ちつけ。落ちつくんだ俺。ここがクールの見せどころだ。
「へぇ。お前、フィギア化するんだ。一体誰が作るんだ?」
「それこそ決まってます。某MでFな企業です」
「商業化すんのお前!?」
ていうか、なんだよ某MでFな企業とか!
「“めっちゃ・ふしぎ”」
「お前の今のキャラが不思議すぎる!」
本当に初対面の時とかとキャラが違いすぎる。いや、ホントに。マジで過去編とかやったらギャップにショックを受けるわ。レキはワタアメで目隠しをして太もも辺りに手を当てて、
「どうです? キュートで可愛らしく見えますよね?」
「いや、シュールでいやらしく見える……」
何故だろう、なぜかレキにワタアメが猛烈に似合わない。ていうか、お前にはカロリーメイトだろう。
「むむっ、そうですか。フィギアに引き続き下敷きも狙うつもりだったんですが」
「やめとけ、もし仮に商業化しても俺が買い占めるからな」
金に糸目なんか付けない。
●
「それで? 今日一日になんかあったか?」
「ええ、ついさっきのことですが――キンジさんが半裸で海にダイブしました」
「なにやってんだアイツ」
五月始めとはいえまだ寒いぜ? 絶対風邪ひくだろ……。
まぁ、どうせ、
「ええ、神崎さんとの痴話げんかですよ」
「まったく、仲いいなぁ」
星伽はどうしてるんだ? あのヤンデレがなにもしてないはずがないんだが……。
「そういえば、白雪さんも半裸でした」
「ホントに何やってんだアイツら……?」
一応とはいえ武偵と依頼人の関係だろうに。
「まぁ、ケンカするほど仲がいいといいますし,大丈夫じゃないでしょうか」
「別に喧嘩しなくても仲がいい関係もあるぜ、ハニー?」
「まさしく私たちですね、ダーリン」