落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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第2拳「足蹴にしてくれたのは覚えてるー?」

 

 

『生徒呼出 2年B組超能力捜査研究科 星伽 白雪』

 

「ついに殺ったか……。昨日のアドバイスは無駄になってしまったなぁ……」

 

「やはり差し入れカツ丼ですかね」

 

「人の幼なじみを犯罪者扱いするな、この外道夫婦」

 

教務科(マスターズ)に侵入するわよ!」

 

『え……?』

 

 

 

 

 

 

 教務科(マスターズ)

 地下倉庫(ジャンクション)強襲科(アサルト)に並ぶ武偵高三大危険地帯である。教務科(マスターズ)には元殺し屋、元マフィア、元特殊部隊、元傭兵などと聞きたくもないが聞き慣れているといえば聞き慣れている職業ばかりだ。 

 だから。

 教務科(マスターズ)に好んで潜入する生徒など皆無だ。もしいるとしたらソイツはピンク色馬鹿が自殺志願者だろう。

 なにより。

 4ヶ月前の事件においてちょっとした問題を起こした俺からすれば、絶対に行きたく場所である。

 

 

 

 

 

 

 それなのに俺は教務科(マスターズ)のダクトを匍匐前進で進んでいた。

 なぜ。

 いや、理由は分かっている。キンジを挟んだ一つ前に進む、身体的理由でやたら匍匐前進が早いピンク色馬鹿のせいだ。

 

 ごすっ!

 

「なにすんだ!」

 

「なんか変なこと考えたでしょう!」

 

「なんの話だ!」

 

 ……なんの話だろうね。知りません。

 

「お前らいちゃついてないで進めよ」

 

「いや、ここは戻ったほうがいいと思いますが……」

 

 全くもって同感だ。後ろにいるレキに気配だけで同意する。……自分で思っていてよくわからない表現だなぁ。因みに俺たちの並び順は神崎、キンジ、俺、レキだ。

 しばらく進む。戻らずに進んで――見つけた。

 個室に彼女はいた。 だから、狭いダクトで男女に別れて下を覗き込む。

 狭ぇ……。

 暑苦しい……。

 レキと変わってくれ。キンジはキンジで目の前の神崎を意識して赤くなっている。

 くそぅ。

 なら俺もレキを見る。

 

「じー」

 

「…………?」

 

 視線を送ったら、こちらに気づいて首を軽く傾げる。ああ、かわいいなぁ。

 

 

 

 

 

 

 魔剣(デュランダル)

 『ローランの歌』というフランス叙事詩に登場する英雄ローランの剣であり。その金の柄の中には聖ペテロの歯、バシリウスの 血、パリ市の守護聖人であるディオニュシウスの毛髪、聖母マリアの衣服の一部と多くの聖 遺物が納められた剣であり。絶対不落の切れ味と絶対不落の硬度を誇る剣であり。アニメや漫画に引っ張りだこの剣であり。角笛と共にありし聖剣ではない。

 この場合指すのは誘拐魔の事だ。誘拐犯と聖剣、酷い落差だ。聖剣堕ちて魔剣(ゆうかいま)ということだろうか。洒落にもならない。センスを疑うぜ。本物を持っている訳ではあるまい。    もし本物があったらそれこそトリプルアクセル土下座でもしてやろう。

 閑話休題(そんなことはともかく)

 超偵ばかりを狙う誘拐魔らしい。らしい、というのは魔剣(デュランダル)は所詮都市伝説だからだ。

 都市伝説。

 噂話程度であり、結局は存在しないのだ。

 その存在しない魔剣が星伽にちょっかいかける可能性があるか尋問科(ダキュラ)教師の綴が注意を促していた。

 ボディガードをつけろということだ。

 なるほど。超能力捜査研究科(SSR)のエースである星伽に対する過保護だ。もうすぐアドシアードもあるから心配なのだろう。

 そう、俺が納得した所で、

 

 神崎がパンチで通風口のカバーをぶち開けた。

 

「ええー……」

 

「ちょっ……! おまッ……!」

 

「おやおや」

 

 俺たちを置き去りにしてパンチラしながら室内に降り立った。

 

「――そのボディガード、あたしがやるわ!」

 

 誰もが目を丸くし、キンジなんかは驚きの余り身を乗り出してたから少し押してやったらそのまま落ちた。神崎の上に落ちた。さらにいちゃつきだした。なんじゃこりゃ。オマケにその後綴に個人情報漏洩されているし。

 

強襲科(アサルト)の期待の最優(エース)なのにおよ……」

 

「わぁーー!」

 

 神崎泳げないんだ。キンジなんかはほくそ笑んでる。

 

「それで、こっちは強襲科(アサルト)王様(キング)、遠山キンジくん」

 

 矛先がキンジに移り、

 

「一年の時はSランクだったのに4ヶ月前の一連の事件(・・・・・)のせいで年末のランク査定で欠席、予備日も入院してて結局Eランクになった大マヌケ」

 

「うぐ」

 

 キンジが絶句している。

 

「それで、その原因になった2人は」

 

 綴が懐から拳銃を取り出し天井向けて、

 

「ん?」

 

 発砲した。

 

「お、おおっ!?」

 

 上手く俺がいた所だけを狙ってきた。とっさに転がり落ちる。無様に転がり落ちる。いや、でも何発か当たったよ。なんて教師だ。地面に音を立てて落ちて、すぐ後のレキは音もなく降り立つ。

 なんだ、この差。

 

狙撃科(スナイプ)最優(エース)レキちゃんに、あー、強襲科(アサルト)の……うん、切り札(ジョーカー)、『拳士最強』那須蒼一じゃあないかー」

 

「ど、どうも」

 

 軽く手を上げて、挨拶。にっこりスマイル。綴もスマイル。

 

「――4ヶ月前、アタシや蘭豹を足蹴にしてくれたのは覚えてるー?」

 

「うぐ」

 

 思い出したくもない。4ヶ月前――あの理不尽と覚悟のくそったれな2ヶ月間の終幕頃の話だ。今では思い出すたびに悪寒が走る。授業で蘭豹の前にでる時も同じだ。

 

「まあ、いいや。それでーハイジャックカップルにバカップルはどうしてここにいるのー?」

 

「言ったとおりよ。白雪のボディガード、24時間体制、あたしが無償で引き受けるわ」

 

「……星伽。なんか知らないけど、Sランクの武偵が無料(ロハ)で護衛してくれるらしいよ」

 

 綴が振り返って星伽を見れば、

 

「い、いやです!アリアがいつも一緒だなんて、けがらわしい!」

 

 けがらわしいって。ひどいな。どうすんだよ。と、そこで何故か神崎が太もものホルスターに手を伸ばした所で、

 

「ならばいい考えが、あります」

 

 全員の動きが止まる。視線が我が嫁レキに集まる。 彼女は右の人差し指を立てて。

 

「こんなのはどうでしょう? ここにいる皆で白雪さんを護衛しては。白雪さんはアリアさんと24時間一緒ではないですし、アリアさんも白雪さんの護衛ができます」

 

 すらすらとレキは言葉を紡ぐ。おいおい、初期の無口キャラはどうした。影も形もないじゃないか。

 

「というわけで、白雪さんとアリアさんとキンジさんは同棲しましょう」

 

 えーと、その3人が同棲するということはつまり、

 

「私も蒼一さんと同棲するつもりでしたので」

 

 レキ。

 あまり教師の前で同棲同棲連呼するな。

 

 


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