落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君 作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定
日常の終わり、そろそろ加速し始めるかなぁ。
「た、大変ですキンジ様、桃様!」
「なんだ今桃ちゃんがマンチプレイしまくってるからGM権限でリアル制裁を加えてやろうと思ったんだが」
「沸点の低いGMね、向いてないわ」
やばいGMとPCが一対一のTRPGとかGM側にストレスたまりまくりだ。それも桃ちゃんみたいなマンチプレイしかしないような奴だと。
「そ、そんな話をしてる場合ではありません!」
いつになく焦った声色のリサに桃とやっていたTRPG卓から顔を上げる。そこには顔を真っ青にし額に汗を張り付けた彼女の声がある。
「何があった?」
「そ、そのですね! 私がいつものように買い物に出たら近所の子供たちが妖怪胸でか女とか髪が自己主張激しいんだよとかなじられてたんですが」
「なんだそのガキどもぶちのめしてやる」
「いや多分それリサが美人だからちょっかい掛けて仲良くなりたかっただけだと思うけど」
「そ、そうしてたらですね――シスター・メーヤがいたんです! それも、カイザーやシスター・ローレッタも!」
それはつまり――俺たちの居場所が割れたということだ。
「……来たか」
「あら、あまり驚かないのね」
「平穏なんてのは呆けてるだけじゃ続かねぇんだよなぁこれが」
だから続ける努力が必要なわけだが。
「リサ、どこにいたんだ? 気づかれたか?」
「い、いえ……気づかれてはいないと思います。見かけてすぐに戻ってきたのでっ」
「そうか、まぁ落ち着けリサ。最初に街を軽く歩いた時に逃走経路はピックアップしてる。地図持って来て、どのあたりにリサたちがいるか教えてくれ。あと、そうだな教会とかの位置も」
「は、はい」
「意外ね、そういうこともできたとは」
「いや、俺のスキルじゃねーんだけどな」
逃走系のスキルに関しては理子のスキルで、そのあたりは持ち得ていない。基本的にバスカービルの人間は白雪と遙歌を除き一芸特化色が強い。それぞれの方面に特化しているが故に苦手な分野は手も足もでなかったりする危険がある。
なのでそういう場合、
「
スキルそのものを覚えることは無理だとしても、仲間の動きを模倣し、再現することだけならばできるのだ。
こういう時あいつならこうするだろう――そういう感覚だ。
覇道やら異能とは関係ない、ここ数か月共に過ごしていたからこそできる技術である。
「は、はいどうぞキンジ様。えっと、現れたのはここで、教会はここですね。恐らく私たちを探すにしても教会を拠点にするかと」
「んじゃあ……逃走ルートCかEだな。さっさとズラかるぞ。ってか、どうやって俺たちを見つけたんだ? つけられたか?」
「多分、メーヤの幸運強化を最大限に掛けた状態で、リバディー・メイソンの捜索網や教会たちの探索術式をフル活用したのでしょうね」
「あー……なるほどなぁ。余計早く逃げないとな。下手に動いたら見つかるかもしれないけど」
「けど?」
「何もしないのは趣味じゃねぇ」
「あっそ」
「荷物纏めるぞ、武器と最低限の逃亡セット一式だけ持ってな。セットはリサ頼むぞ」
「はい!」
「桃ちゃんは……桃ちゃんは……えっと、あれだよ。バカンス気分忘れろよ?」
「えー」
「えーじゃねぇよ」
自分の部屋に戻って防弾制服に着替える。それに緋刀とナイフ、銃に武偵弾のストックを身体の各所に仕込めば準備完了だ。元よりいつこんなことが起きてもいいように身支度の準備はしていたし、有事の際にすぐに動けるようにする訓練は強襲科で嫌になるほどやっている。リアルで四十秒でしたくしなければ蘭豹に撃たれるのだからたまったものじゃない。
「よし、準備完了――」
「んじゃ俺の話に付き合ってくれよ勇者様」
●
「神様って、アンタはどう思う?」
「――」
そいつは、いた。
閉じきっていたはずの窓が開き、風に吹かれ、そこにその男は腰かけていた。
派手に染めた金髪、カソックも適当に着崩し、さらには至る所に十字架のシルバーアクセサリー。痩身だが、筋肉が絞り込まれた肉体。
――『聖銃』船坂慧。
「教会の連中はさ、神様神様イエスジーザスっていつも祈ってるわけだけどさぁ、俺はまぁそういう普通の信仰心みたいのって薄くてさぁ、こんな風にちょいイカした恰好しているのもそれが理由だったりするわけよ。破壊僧的な? いや別に坊さんじゃねぇけどよ」
「――俺は、個人的な都合で神様仏様は信じない派でな」
「そうかい、そりゃ残念だ」
言いながら舩坂は煙草を咥えて火を付ける。
紫煙の匂いを感じながら、俺は息を長く吐いた。
メーヤたちにこの場所を突き止められていた――ならば師団に相対する眷属だって俺たちを見つけられても不思議ではない。寧ろどっちかが現れたらもう片方の勢力が現れて挟み撃ちにあうことくらい計算に入れていたし、この家を突き止められて強襲されることだって視野には入れていたのだ。
だから、慌てない。
『逃走する時に一番大事なのは落ち着くことだ』
理子は教えてくれた。
『逃走している時点で原則的に劣勢だ。戦略的撤退という次の為に引くことはあるかもしれないが基本的に逃走とは敗北の結果だ。だから、焦るな。必要なのは、逃げる時こそ余裕だ
『いつだって次の手で追手に捕まることを想像しろ、次の手で己は詰むかもしれないということを自覚しろ、此方は敗者であり、此方が窮地であることを自覚して逃げていけ
『あとはほら
『へらへら笑いながら逃げればいいんだぜダーリン』
「……へっ」
「ん、どうしたよ勇者様」
「いいや、別に。お前こそどうしたんだよ舩坂。俺に何か用か?」
「そりゃあそうだよ、俺はアンタをふん縛るかぶっ殺して金貰わねぇと行けないんだよ。知ってるか、アンタの首、今欧州じゃ三億だぜ三億。最低金額なこれで」
「まじかよ。ハッ、カツェはそれが目当てで……?」
「クククッ」
舩坂は三度笑って、
「神様の定義ってなんだと思うよ」
「知るかよ、俺が聞きたいわ。神咒神威か? 猴みたいなふざけたやつのことじゃねぇの?」
「キリスト教の有名な話知らねぇのか? イエスはユダに殺されたが、三日後に息を吹き返して人々の前に降り立った――不死であることそれが神である絶対条件だよなぁ」
そう言われればそうだが、だからなんだという感でもある。
当然現れた舩坂、現れたこと自体は不思議ではない。だが、目的が意味不明だ。そも、何故こんな風に話しかけてきたのか。師団より先に俺たちのことを見つけたというのは解る。問題はこいつが単身で訳の解らん雑談を仕掛けていることだ。畢竟、見つけた時点で以前のリサよろしく爆弾でもぶち込めばよかっただろうに。
――何かが、ある。
「ユダはイエスを殺したが上に裏切り者扱いされてるわけだけどよぉ、大昔実家の本屋で埋もれてた聖書読んだときに思ったわけよ。不死性を証明したが故に神様って崇められるわけだけどさぁ?」
一度区切って、
「イエスが神様になったのてユダのおかげだよなぁ」
「……ん、ん?」
なんか凄い暴言だった気がした。
「だってよぉ、イエスがユダに殺されなかったら復活しなかったわけだし、そりゃもうユダの裏切りはウルトラCだったことね? 俺はずぅーっとユダの頑張りに花丸を上げたかったんだよなぁ。だから思うに、神様に対する最大の信仰は――ぶっ殺すことでその絶対性を証明させることじゃねぇかなぁって」
「…………」
「とかノックスとかロマーノに語ると激おこで突っかかってくるんだよなぁ。他の連中も大体そうだし」
「いや……そりゃそうだろ」
欧州圏といえばやはりキリスト教徒が多いだろうし、カトリックとかプロテスタントとかの違いはあっても神様ぶっ殺そうぜ! どうせ生き返ってくれる凄い奴なんだから! とかいったら批難轟轟に決まっている。
つかどう考えても喧嘩売ってるだろ。
「まぁそりゃ自分の考えがアウトローっていうのは解るけどよぉ、アンタだってそう思うだろ」
「ん、まぁ、そりゃあな。けど――」
「あん?」
「俺は宗教なんぞよく解らんし、こだわりもねぇし、神様とか信じる気にもならないから――いいんじゃねの? 別に」
そもそも人の価値観や考えにケチ付ける気はない。
そういうのはきっと俺が一番嫌いなことだ。
誰かの想いを受け止めて、その為の居場所になりたいというがの俺の願いなのだから。
だから別に、舩坂がどういう祈りの持ち主だとしても、個性的だとは思うがそれはそれでいいと思う。いやまぁロンとかメーヤは許せないだろうけど。
誰にも許され、認めらる祈りなんてきっとないし、あってはならない。
「――」
俺の応えに舩坂は呆けたように目を見開いた。数秒それで固まって、頭を掻き、
「……こりゃ参った。噂以上だな」
「あ?」
「こっちの話だぜ」
「クローテルちゃん? なにをだらだらと――」
「キンジ様、準備が――」
「よう、お嬢さん方」
「っ――聖銃!?」
「リサ、桃ちゃん落ちつけよ」
部屋に入ってくるなり舩坂の姿を目撃した二人が身構え、それを手を掲げて抑える。
驚きは解るがしかし舩坂も目的が今一不明だ。下手をしたら次の瞬間に攻撃されてもおかしくないわけで、そういう場合の時にすぐに守れるように近くにいてほしい。
「それでよぉ、舩坂。結局お前何しに来たんだ? もしかして眷属裏切って俺たちを逃がしてくれるとかそういうことか? それなら大歓迎なんだけどよ」
「んなわけねーだろ。俺個人としちゃそれもアリだけど、こっちも色々事情があってよぉ。アンタを捕まえないと困るんだわ」
「――だったら?」
「バトルパートだなぁ。散々遊んでたんだろ? どうだったよバカンスの時間は」
「最高だったぜ、たっぷり休んだから絶好調だしな」
「そいつは重畳」
彼はまた笑って、
「――此処は狙撃手が狙ってる」
告げる。
「!」
意識は即座に切り替えられる。部屋の外に繋がるのは聖銃が腰かけている窓だけ。狙撃手いうにはその延長線上にライフルなりなんなりで狙っているのだろうが、しかし聖銃の言葉が全て真実であるという確証はない。思うにこいつは尋常に決闘をするというキャラではない。多分トリックスター、罠や嘘、奇襲を良しとするのだろう。家の外に普通にカツェやら妖刕魔剱がいても驚かない。
「それもただの狙撃手じゃねぇぜ? 味方贔屓だけどあの電波女王、魔弾の姫君に匹敵するであろう技量の持ち主さ」
「……はぁ?」
そんな、馬鹿な。それはいくら何でも無理があるだろ。あのレキに匹敵する狙撃手なんて聞いたことがないし、いるなんて思えない。投擲射出概念を極めた彼女の異能は遙歌ですら後塵を拝する程と言えばどれだけの領域か伺いしれるだろう。
そんなレベルの――狙撃手。
ハッタリだ、というのは容易い。しかし、一概に否定はできない。この欧州、これまでの俺の経験とは別の法則であるが故に、無碍にすることはできず、その焦り
を嘲笑うように舩坂は言葉を続ける。
「絶対半径つうの? あれなんか図ったことないらしいけど狙い外したことはないらしいし? すげぇよあれ、弓なのに対物狙撃銃の威力とか精度とか連射性もあほいしよぉ。それが全部技術在りきっていうのがな。そんなスーパーガールの彼のロビン・フットの末裔――」
●
「『流言遣い』――セーラ・フット。勇者なんて、
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