落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

20 / 225
第1拳「――俺のベッドなら2人で寝れるぜ」

「それでキンちゃんにつく悪い虫はどうしたらいいと思う?」

 

「アドバイスの前に言っておくが、殺すな」

 

 昼休み。久しぶりに学校に復帰してとんでもないことをスゴいいい笑顔で聞かれた。相手は星伽白雪。横にはレキが。教室にて3人で星伽が作ってきた重箱弁当を摘んでいる。

 うまい。

 星伽から持ちかけられたら相談は、キンジに付く悪い虫=神崎をどうするかといるモノだった。ちなみに相談料はこの弁当。

 

「い、いやだなぁ、那須くん。言葉の綾だよ、あや。ほら、私って綾取りもできるし」

 

 そんな設定は知らない。

 

「ていうか、綾取りでも人殺せますよね」

 

「レキ、そこに触れたらダメだ」

 

 おほん。

 

「よし、星伽。キンジにつく悪い虫の取り除き方だったな」

 

「うん!」

 

 だから、その怖い笑顔を止めろ。背筋が、凍る。

 

「ふむ」

 

 顎に手を当てて考える。つまり神崎をどうやってキンジから遠ざけるか、ということだ。

 ……ふむ。

 

「無理じゃね?」

 

「……?」

 

「いや、何でもない」

 

 どうしようか。正直言って神崎をキンジから遠ざけるのは無理だ。無理ゲーだ。隣のレキを見る。神崎の唯一の友達といえる彼女ならば、なんとか----

 

「……………♪」

 

「!」

 

 コ、コイツ!

 目を閉じて音楽に集中してやがる!

 いや、よく考えれば友達がいない神崎をレキが売るとも思えないか。星伽とも最近仲がいいようだから不干渉を貫くのか。

 ぬ、ぬぬぬぬぬ。

 どうするべきか。少なくともこの昼飯分は何か案を出さなければ。

 うーん。うーん。うー、あ。

 

「逆に考えて見ようぜ星伽」

 

「逆……?」

 

「そう、逆だ。キンジから悪い虫を取り除くんじゃなくて、お前がキンジを引きつけるんだ」

 

「……!」

 

 バーンと星伽の頭に衝撃が走った……ように見える。

 

「神崎の行動を防ぐのは至難だ、だから! お前が! キンジを引きつけ ――否、惹きつけるんだ!」

 

「な、なるほど!」

 

 そうだな、具体的には……うん。 これだ。兼ねてからの俺自身(・・・)野望(・・)の為にも。

 

 

「星伽、どうにかしてキンジの部屋に転がりこめ。俺は気にしないから」

 

「え、ええぇ!?」

 

 ビーン、と星伽の頭に戦慄が走った……気がする。

 

「キ、キンちゃんとど、どどどど同棲!?」

 

「そうだ、同棲だ」

 

「キンちゃんと24時間一緒!?」

 

「ああ、24時間一緒」

 

「キ、キキキキキ」

 

「キ?」

 

「キャーーーー!」

 

 あ、鼻血吹いてぶっ倒れた。机を回り込んで見てみれば、

 

「えへ、えへ、えへへへへ」

 

「怖っ」

 

 というか、キモい。大和撫子が売りの星伽がするような顔じゃあない。とりあえず。

 

「おーい、だれか保健室に運んでくれ」

 

 クラスの保健係に星伽を任せておく。

 俺は、

 

「さて、飯飯」

 

 星伽のことはともかく、飯に集中しよう。箸を伸ばしてーーカチャリ。

 ……カチャリ?

 

「蒼一さん」

 

 見れば。横を見れば。レキがライフルを俺の頭に突きつけていた。

 ……おいおい。

 

「蒼一さん、今の話はどういうことですか?」

 

「ど、どういうこと、とは……?」

 

 聞きだいのはこっちだ。

 

「星伽さんとキンジさんの同棲をすすめるとはどういうつもりですか?」

 

「い、いや俺はただ親友の恋路を思ってだな」

 

「そんなことはどうでもいいです」

 

 い、言い切った!

 

「半年前はあれだけ同棲はダメとか言っていた人の案とは思えませんね」

 

 い、いつの話を……。でもまぁ、つまり。これは所謂――嫉妬か。やきもち。かわいいなぁ。

 

「まぁ、まて。だからさ――」

 

「――だから? 頭を打ち抜いてください、です……」

 

「お前もウチに来いよ」

 

「!」

 

 レキの琥珀の目が、見開かれる。

 

「あの部屋にお前一人で置いておくのはどうかと思うしなぁ」

  

 レキの部屋。置いてあるのは、栄養食品、漫画、ラノベ、DVD、弾薬、テレビのみだ。不健康すぎる。

 

「……いいんですか?」

 

 レキの瞳が僅かに揺れる。

 

「応」

 

「……………では」

 

 間は短かった。こちらを見つめて、頭を下げて、

 

「不束者ですが、よろしくお願いします」

 

「──応」

 

 言葉と共にライフルが下りる。

 ふう。

 胸をなで下ろす。

 

「着替えとかはともかく、寝床はどうしましょう? 白雪さん来ますよね?」

 

「ああ、それなら問題ない」

 

 なぜなら。

 

「――俺のベッドなら2人で寝れるぜ」

 

 そうじゃねえだろ!、というツッコミが周囲から入った。

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。