落ちこぼれの拳士最強と魔弾の姫君   作:柳之助@電撃銀賞5月10日発売予定

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超うぜええぇえって叫びたい()


第13曲「――約束とは守られなければならないだろう?」

「いよぅ、どうだった元老院連中はよ。アタシは絶対会いたくないけど」

 

 謎空間から現実空間へと戻り、出迎えたのはカツェの苦笑だった。イヴィリタの姿はない。先ほど行きの時も案内と言いつつ転移術の移動だけだったから案内された記憶はないし、ここのトップというからにはそれなりに多忙なのだろう。正直あの女はちょっとおっかないからいないほうがいいし。

 

「なんかどっと年くった気分だよ。すげー疲れたわ」

 

「けけけ、だろうな。っと、まずは手出せ、手」

 

「あ?」

 

 カツェが指でくるくる回していたのは何やら怪しい刻印の入りチェーンが少し長め手錠だった。

 

「異能封じだよ、お前一応捕虜だってこと忘れんなよ。これからそのスーツ脱いで独房行きだからな」

 

「えっ」

 

「えっ、じゃねぇよ」

 

「だって俺元老院様からのお客様だぞ」

 

「ところがギッチョン、もう会ったからお客様補正は無効だ。総長補正でそこそこ待遇は考えてやるが基本的には普通に捕虜な」

 

 なんでお前がそんな突っ込み知ってるんだ。

 拳銃を突き付けられながらスーツの上着を脱いでから手錠を両手嵌められる。なるほどカチッという音と共に身体が重くなる感覚が襲ってきた。よく見れば刻印も微かに輝いている。流石というべきかこの手のアイテムには事欠かないらしい。日本だと中々手に入らない類のものなのだが。

 緩いチェーンを引かれながら基地の中の廊下を進んでいく。基本的に中世めいた石造りなのだがよく見ればパイプや太いコードが伝っている。さり気なく城全体で空調が効いているし、やはりかなり科学設備も整っている。先端科学兵装ほどではなくても、現行程度は完備されているらしい。

 

「あんな連中が欧州の支配者か?」

 

「正確には影の支配者だな、表向きは何もしてねぇけど所々ターニングポイントで暇つぶしに歴史介入してるぜ」

 

「そりゃ欧州で『師団』が劣勢になるわけだ」

 

「けけけ、そこだけは大いに同意しておく」

 

「ははは、だろ」

 

 二人で数度嗤い、

 

「あたしはな、遠山。ドイツ系フランス人なんだよ」

 

「?」

 

「まぁちょっと聞いとけって。それでな出身はストラスブールだ。知ってるか? 大戦中ドイツとフランスの国境地帯でな。魔女連隊に名を連ねたストラスブールの魔女たちはドイツの為に懸命に戦った。まぁでも結局戦争には負けてストラスブールはフランス領になっちまった。だから色々差別とか虐めにあったりしてたさ。当然だよな、向こうからしたらあたし等は家族や仲間を殺した相手の子孫なわけだから」

 

「お前も、そういう目にあったのか」

 

「あぁ。よくある虐めだよ。教科書とかシューズ隠されたり、水ぶっかけられたり、髪切られたり。ネットじゃご先祖様よく叩かれたし、ナチだから見せ追い出されたこともあったな。あとそれに、家に落書きされたハーケンクロイツかき消すときの気分は最高だったぜ。日本にもあるのか?」

 

「……あったな。一般高に行った時はそういうことやってる連中は初日でのしたわけだが」

 

「けけけ、そういう正義の味方はいなかったなぁ」

 

 自嘲気味に前を歩く隻眼の魔女は笑っていた。背後からは、どんな表情をしているのかは解らない。

 

「正義の味方は来なかったけど、代わりに魔女は来た。いやあたしも魔女だから正義の味方とか来られたら大変だったから良かったし、実際私にとってイヴィリタ長官は救いだった。あの人はあたしみたいな居場所の無くなった魔女を集めて居場所をくれたんだ。……これがアタシの身の上話って奴だ」

 

「なんで、そんな話を」

 

「暇つぶしだよ暇つぶし、あとアタシはお前の話は大体知ってるからなその分教えておいてやろうと思ってよ。これでイーブンだ、別に珍しい話でもいしな」

 

 コイツの気分の問題らしい。

 それは、なんだろう。その理由は少しばかり親近感の湧くモチベーションだ。

 というか、

 

「お前、もしかして結構いい奴か?」

 

「けけけ、気のせいだよバーカ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おら、入れよ」

 

 しばらく歩き続け、たどり着いたのは城の地下の独房だった。

 古城の独房なんていうから不安だったが、行き掛けの通路を見てきて思った通り整備はされている。牢屋が何部屋から並んでいるだけの場所だが、古いだけで掃除はされているし、異臭がしたりもしていない。

 

「案外綺麗だな」

 

「このご時世だからな、捕虜の扱いにも気を遣うんだよ。一応飯も出るから安心しろ」

 

 牢屋の中には小奇麗なマットレスにトイレの小部屋。小さな机とそこそこ快適さも娯楽がないということさえ目をつむれば問題ないだろう。

 

「手錠は取らねぇけどチューン長いから問題ないだろ。食事は一日三食、トイレは勝手に使え。食事時には点呼と部屋のチェックあるから脱獄しようとか狡い真似考えるなよ。質問はあるか?」

 

「ジャンヌはどうした」

 

「隣の牢屋だ。今は……おねむだな。起きたらこれから先のことでも話し合っとけよ」

 

「……いつまでこのスイートルームにいればいいんだ?」

 

「さぁ? あたしの知ったことじゃないな。お前さんの態度次第だろ」

 

「あー……じゃああれだ。俺のスマホ返してくれないか? 武器とかはいいから。知ってるか? 今時の日本人高校生はアレがないと暇で死ぬんだぜ」

 

「知ってるよ、アタシも暇な時は日本製のゲームやってるさ、それに今時の技術もな。返すわけないだろ。初期化してアタシが使ってやるよ。パスワード教えてくれてもいいぞ?」

 

「教えるか馬鹿。プライバシー保護舐めんな」

 

「けけけ」

 

 笑いながらカツェが去って行った。

 その背を見送ってから壁際に座り込む。

 

「ふぅー……」

 

 疲れが肩にのしかかる。

 拉致されて、その上得体のしれない魔女軍団に尋問されてこんなところに押し込まれている。武偵高で拉致誘拐された場合の訓練は受けているが、それにしたって疲れはある。覇道の担い手だとか持ち上げられても機械じゃないのだ。耳をすませば規則的なジャンヌの吐息が聞こえてくる。彼女もまた疲労しているのだろう。体調が悪かったようだし、今の内に休んでもらいたい所だ。

 

「……」

 

 身体を休ませながら、しかし思考だけは加速させていく。まだ俺が休むのには早い。ここに至るまでの経緯や俺の現状、元老院連中から聞かされた話、考えることは多い。

 

「スマホ返してくれねーかなぁ」

 

 とりあえず思うことはそれだ。あれさえあれば大分違うのだけれど。

 

「風魔だったらどうとでもできるんだろうが……最近アイツ俺に構ってくれない気がするな。うわ、一回実感すると地味にショックだぞこれ」

 

 妹離れができない蒼一の気分が理解できた気がする。一時期ストーカーのように俺の周りにいたのに。俺があまり構ってやらなかったせいか、最近は間宮たちとチームでいることが多い。

 

「なんつったけな、あれ。間宮の百合体質……えっと……あれ……にょ、にょ――」

 

「――女人望、という奴だ勇者殿」

 

 

 

 

 

 

 

 

「間宮本家の女子に稀に発言する同性を引き付けるカリスマ性。性格や容姿、さらには無意識下で発せられるフェロモンにより同性を引き付け、敵味方関係なく自分の周囲に引き付けるの才能。人工的に再現可能であり、しかしそれでも天然のソレとは比べ物にはならない。しかしそれも――貴方には劣るのだろうが」

 

「――」

 

 人の魂の色が見える。

 それは今の俺にとって普通の視覚となっている。特別なことはなにもしていない。ただ細かい文字を見るように、目を凝らすだけでその人の性質を見れるのだ。身体から生じるオーラだったり、人によって色や勢いが変わったり、場合によってはより明確なヴィジョンとなることもある。

 例えばアリアだったら旋律として響くこともあるし、白雪は煌めくような花火、理子は滅茶苦茶に跳ね回っている宝石達。レキは吹き抜ける風、ワトソンならば綺麗だったり禍々しい色合いの水分、ランスロットは煌びやかさと無骨さを伴う剣。

 人それぞれを象徴するようなものが見えたり見えなかったりするし、多分相手との繋がりが深ければ深いほど象徴が見えるのだろう。

 

 ――それは、何も見えなかった。

 

 枯れ木のような影だった。

 気配もなく、見えるイメージもなく、ただ暗いだけの人影。男か女さえも良くわからず、背にまで届く髪を首後ろで括っていた。向かいの牢屋の中ででそれは椅子に腰かけていた。

 

「あん、たは」

 

「なに、しがない詐欺師のようなも。勇者殿ようなお方に比べればただの石ころに過ぎない」

 

 背を曲げ、両手を組み、目も伏せている。此方を見ているのかすらいまいちはっきりとせず、そいつは俺へと語り掛けてきていた。

 多分、声からして女なのだろう。

 若い女のはずだ。

 なのに、枯れているという印象が拭えない。本来若者にあるはずの生命力や躍動感がない。まるで何もかも体験して開き果ててしまったような老人のような声。淡水に適合できない海水魚、いやむしろ何かの間違いで陸に上がってしまった深海魚のよう。

 ただひたすらな場違いな存在。

 

「プロパガンダというのをご存知かな? 政府が数多の手段、メディアや噂を用いて人民をある思考に誘導していくという昔からある手法だ。つまり、私はその噂などの元であり、役人や富豪に対して予言と称して国に都合のいい方針を植え付けさせるのが私の仕事であった。だから、詐欺師のようなものなの。それも少し失敗をして、こうして牢に入れられ刑を待つ身というわけだ」

 

「……」

 

「ふふふ、そう警戒されずともよろしい。遠山キンジ殿、貴方に比べれば私のような存在は吹けば飛ぶようなもの」

 

「俺のことを」

 

「『絆の勇者』遠山金二、十七歳。東京武偵高二年にして『師団』総長。ブラド・ツェペシュ、シャーロック・ホームズ、ジーサード、曹操孟徳等数多くの強者を下し仲間としてきた新たな世界の王。アジア超人ランクでは現在七位であり、今もなお計測途中、さらには武偵ランクRへの昇格も見込まれている――貴方は自分が如何に知られているかを知ったほうがいい」

 

「お前『極東戦役』の関係者か」

 

「言った通り、ただの詐欺師でしかない私には関係のない話ですよ」

 

 それでも『師団』関係の話をただの詐欺師とやらが知っているのはおかしい。

 いや、そもそもコイツは何時からいたのだ。別に神経を巡らせていたつもりはないが、それなりに警戒はしていたはずだ。それなのに声を掛けられるまで気づかないなんて。

 

「お前、何者だ」

 

 二度目になる問いかけ。 

 詐欺師など名乗られても納得できない。

 いや、そもそも。

 コイツが誰であるかより、

 

「何が目的だ」

 

「――ははは」

 

 答えは無く、乾いた笑い声だけが伽藍堂の牢に空しく響く。

 

「なぁ勇者殿」

 

 顔が上がり、目が合う。

 どろどろに煮詰めた水銀のように濁った――暗い瞳。

 

「――約束とは守られなければならないだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいトオヤマ。起きなさい、おい。起きなさいったら」

 

「ん、ん……」

 

「何を呆け顔しているのかしらぁ? しゃんとしなさい」

 

「……あれ。今何時だ、ていうかどこだここ」

 

「知らないわよ。 自分の置かれている状況さえも解らないのなら相当な阿呆ね貴方は」

 

「あぁ? あー……」

 

 聞こえてきた声と共に意識が浮上する。

 やたら頭が重い。何十時間も寝過ぎてから起きたみたいに、思考が回らないのだ。起床を促す声が頭を殴りつけてくる。 だが自分の状況を思い出すのと同時に意識は一瞬で覚醒しきった。

 

「なっ……なんで、俺……何をして……」

 

「座り込んだと思ったらいきなり死んだみたいに眠り始めたのよ。それで流石に慌てて出てきたわけ」

 

「眠り……? いや、でも……」

 

 眠った記憶は、ない。ないはずだ。眠ることなく、考えごとをしていて、それで――、

 

「俺は、何を……」

 

 額を押さえ記憶を掘り起こすが、何も思い出せない。頭の中に霧が掛かったようにハッキリとしなかった。

 

「……くそ、なんだこれ」

 

 気持ち悪い。

 まるで何かに頭の中身を犯されたみたいだ。

 

「ねぇトオヤマ。いい加減私に向くべきではないかしら? 色々、言うべきことがあると思うのだけれど?」

 

「ん、あぁそうだな」

 

 確かに。

 こんな状況で前後不覚に陥ってしまった俺を起こしてくれたのはありがたいことだ。

 礼を言おうと思って周りと自分の状況を考え、

 

「というか誰だお前」

 

 誰もいないことに気付く。先ほどから聞こえてきた声の主がいない。牢には勿論、牢屋や別の牢、見渡す限り俺以外の人間はいない。気配があるのは隣のジャンヌくらい。

 

「やっとそれかしら」

 

 影から人が(・・・・・)生えてきた(・・・・・)

 照明に照らされて生じていた俺の影が水面のように波打ち、人影が現れる。 

 白と黒のモノトーン調のゴシックロリータ姿の十三、四歳程度の美しい少女。同じ色合いの日傘を広げ、縦ロールの艶やかな金髪。目を引くのは――真紅の瞳と鋭い犬歯。

 そして何より濃い血の匂い。

 かつて理子を縛り付け、共に砕き、封じたはずの鎖。

 『紫電の吸血姫』。

 ――ヒルダ・ツェペシュ。

 

「ご機嫌よう、トオヤマキンジ。久しいわね」

 

  

 




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